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「ほとんど仕事がない」50代部下なし管理職の苦悩 "大企業のぬるま湯"と"前進への葛藤"

東洋経済オンライン / 2023年2月27日 7時0分

高橋さんは今、部下なし管理職として工場での監査業務に就いている。ある一日の様子を教えてもらった。

午前8時に出社してメール確認、午後の監査準備をして昼休み。午後に監査を行い、報告書を作成し午後5時には退社する。「おかしいでしょう。ほとんど仕事がないのに、研究者時代よりも高い給料をもらっているんですよ」(高橋さん)。

妻は「高給取り」と言われる職業で、高橋さんが転職して給料が減っても生活には困らない。ではなぜ会社に踏みとどまっているのか。「わからないけれど、マジックみたいなものだと思う。僕らの世代は、会社は辞めないでずっと働き続けるものだ、転職なんてありえないという暗示にかかっているような気がするんです」。

副業やリスキリング(学び直し)という言葉が定着して久しい。政府は副業を推進し、大手企業が次々と副業を解禁している。だが、会社から「頑張れば部長になれる」と刷り込まれ続けた自分と同世代のうち、いったいどのぐらいの人が副業に挑戦できているんだろう。そう高橋さんは感じている。

高橋さんは最近、会社の外の世界と接点を持った。セカンドキャリアを支援する会社を通じ、地方企業へのインターンシップに参加したのだ。5社を受け3社は書類選考で落ちたが、西日本で自転車のシェアリング事業を手掛けるベンチャーで採用された。現地でモニターとして参加し、どうすれば首都圏からの利用者が増えるのかを提案する仕事だ。

当たり前だと思っていた研究者としてのスキル

現地へ行く前に高橋さんは、同業他社がどんなコース提案を行っているかをつぶさに調べ、プログラム案を複数つくった。「再生可能エネルギーの関連施設を巡るというコースがあったので、首都圏の子どもたちが夏休みの自由研究に使えるように提案しました」。

こうした高橋さんのリサーチ力や企画書づくりのうまさがインターン先から喜ばれた。研究者として当たり前にやってきて特段のスキルではないと思ったことが評価されたことに驚いた。「もう化学の研究はできないですけれど、違う分野でも努力する人たちと新しいものを作りだすことができると感じました」(高橋さん)。

インターンシップに参加後、高橋さんは、社内で新規事業の公募にエントリーしたり、インターンの経験を同世代に発信したりと少しずつ新しいことを始めている。会社以外の世界で思ってもみなかった自分のスキルを評価されたことが自信になった。

「自分が納得するような新しいことまでは、まだできていません。僕は今の時点で転職や起業を考えているわけではなく、(社内で新しいことができるなら)どちらかというと安全に移行したいんです。大企業のぬるま湯につかっていると言われればそうなのかもしれない。でも、それでも外の世界に出たことで、前の自分よりはずっと前進していると感じています」(高橋さん)。

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