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欧州出身の外国人戦闘員(FTF)及びその家族をめぐる現状

2012年以降、シリア又はイラクに渡航した欧州出身の外国人戦闘員(FTF)及びその家族約5,000人のうち、2,000人以上が帰国、約3分の1が死亡、その他が紛争地域で拘束され、又は行方不明とされる。また、「シリア民主軍」(SDF)によって拘束され、シリア北東部の施設(注1)に収容されている欧州出身のFTF及びその家族は、約1,000人(うち600人以上が子供)と推計されている。

主な欧州出身FTFの人数(注2)

主な欧州出身FTFの人数

【欧州に帰国したFTFをめぐる問題】

欧州各国の治安当局は、帰国したFTF特有の脅威として、豊富な戦闘経験、高度な戦闘技術及び国際的な人的ネットワークの存在を指摘(注3)しており、欧州に帰国したFTFによるテロや、収監された刑務所内で他の受刑者を過激化する可能性が懸念されている。欧州の多くの国では、2014年にベルギーで、2015年にフランスで発生したテロ(注4)を契機として、2015年以降、帰国したFTFに対する体系的な捜査が行われている。2020年7月時点で、テロ関連犯罪による受刑者(イスラム過激主義者)は、欧州10か国(注5)で約1,300人とされ、このうちFTFであった者の多くはテロ組織への参加等の軽微な罪で有罪判決を受け、ベルギーやフランスでは平均約6年半、ドイツでは平均約4年半の懲役刑に服しているといわれる。このため、2025年頃までには多数のFTFの釈放が見込まれ、これに伴うテロの脅威の増大が懸念される。また、帰国したFTFは、カリスマ性を有する英雄的存在として他者を感化し、過激化させる可能性が指摘(注6)されており、帰国後、収監されたFTFが他の受刑者に与える影響を注視する必要がある。

【シリア北東部で収容中の欧州出身のFTFに係る脅威】

2019年10月、米軍のシリア北東部からの一部撤収を受け、トルコ軍が同地で軍事作戦を開始した。SDFが同軍への対処を余儀なくされた結果、SDFによる収容施設の監視が緩んだほか、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う収容者と監視員との接触の減少により、同施設内部で過激主義がまん延しやすくなったと言われる。これにより、同施設内部では、元戦闘員が脱走し、イスラム過激組織に復帰したり、当局の監視を逃れて自国へ帰国したりするなどのリスクもあるとされる。

こうした中、多数の欧州人を含む「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)元戦闘員約5,000人を拘束していたとされるハサカ所在の収容所が、2022年1月、ISIL戦闘員200人以上によって襲撃され、拘束されていた元戦闘員約400人が消息不明となったとされる。また、約60か国(うち欧米は約20か国)出身の外国人女性及び子供約1万人を収容しているアル・ホールキャンプでは、ISIL支持者による収容者殺害事案も発生(注7)しているとされる。

【シリア北西部に滞在する欧州出身のFTFに係る脅威】

欧州出身のFTFの一部は、シリア北西部において複数のイスラム過激組織に分散(注8)しており、ISILは、これらのFTFに対し、現在所属する組織からの離脱及びISILへの参加を呼び掛けているとされ、FTFがこうした呼び掛けに応じる可能性が懸念される。

また、現時点で、シリア北西部から第三国へのFTFの移動は限定的とされる(注9)が、今後、例えばアフガニスタンにおいてISIL関連組織や「アルカイダ」の勢力が拡大した場合、紛争地域に滞在する欧州出身のFTFが同国に移動してこれらの組織に参加したり、その高度な戦闘技術と人的ネットワークを生かしたりして、ISIL関連組織「ホラサン州」を始めとするイスラム過激組織の欧米を標的としたテロに関与する可能性も懸念される。

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