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おとしだま

作者:華点

「おばあちゃん家楽しかったね」

「そうね。明日はいろいろ初売り行こうね」

「うん!」

 正月に母親の実家に帰省した家族。昨今の状況もあり、実家で泊まるのは厳しいということでホテルを手配、チェックインの最中だ。

 小学生五年生になる娘、芽衣はもらったお年玉を両手で大事そうに持っている。母がカバンに入れるように諭すが芽衣は受け入れない。年に一度のお年玉。大好きなおばあちゃんとおじいちゃんにもらえたのがよっぽどうれしかったのだろう。母はそれ以上言うことなく、父とチェックインを済ませる。

 ごはんまでまだ少し時間があったため売店コーナーへと向かう。簡単なお土産や小腹がすいた時に食べるようなお菓子、ご当地ならではのアイスなどが売られていた。一つ、何でも買ってもらえることになったため、芽衣は一人で売店の中をぐるぐる回る。

(やっぱりお菓子かな・・・それともアイス?ジュースもいいなあ)

 小五の芽衣にとってすべてが魅力的に見えた。決めきれず、さらに売店を一周する。ふと目に入ったのは車移動などで使う緊急トイレなどと一緒に置かれていたおねしょグッズ。赤ちゃん用のおむつも二枚入りの小さな袋で売られている。ただしサイズはLサイズとBigサイズ。

 前々からおむつに興味はあったが、おむつ離れもかなり前なせいで家におむつはない。一人で薬局に行って大きい袋を買うのは現実的ではなかった。当然親になど言えるはずがなかった。

(さすがに買ってほしいなんか言えないもん・・・)

 一度売り場を離れ、別のものを探す。だが一度入ってしまったスイッチ。どうしてもおむつのことが頭に浮かんでしまう。この機会を逃せば次いつ買えるかはわからない。

 もう一度おむつ売り場の前まで行き、詳細な情報などを確認する。穿けるとしたらこの「グーンプラス」と書かれているBigサイズのおむつだろう。目安体重は十二~二十キロとなっており、自分の体重よりも多少小さい数字になっている。他にはおしっこをしたら色が変わるお知らせサインがついており、十二時間たっぷり吸収となっている。

(・・・これならなら何とか穿けるかも)

「・・・もう決まった?」

 声をかけてきたのは母親だった。幸い少し離れていたため、適当なお菓子を選び、母親に見せる。まさかおむつを見ていたとなんか言えない。

「う、うん。これ」

「そう。じゃあ会計してくるね。外で待ってて」

「うん」

 母にお菓子を渡し、売店を離れ、出たところにいた父親と合流して母を待つ。

 待っている間も頭の中をよぎるのは「あのおむつをどうやって買うか」ということ。幸い今の芽衣にはもらったばかりのお年玉がある。大事に使いたいとは思うがここの二百円は出してもいいと思っている。ただ買う機会がない。さすがによる抜け出すわけにもいかないだろう。

 そうこうしている間に母が会計を済ませて戻ってくる。この後は部屋に行き、少し休んだら晩御飯。そのあとは風呂に入り、就寝という流れになる。チャンスがあるとすれば風呂が上がった後の時間だろう。そのためのプランを今から考えていた。


 ♢


 

 晩御飯も食べ終わり、正月特番を横目に一休み。正直面白くないが他に面白いのもやっていない。一休みしたらきっと風呂だろう。行動用のリュックサックに着替えを入れ、お年玉袋を入れる。中にはおばあちゃんからもらった二千円が入っている。

 Bigサイズが穿けるか不安でしかなく、リュックの中で自分のパンツのサイズを見る。サイズは百三十、クラスの中でも小柄なほうなのできっと大丈夫だろう。

「じゃあそろそろお風呂行こっか」

「うん」

 リュックを背負い、母と大浴場へと向かう。父と大浴場の前で別れ、女湯へと向かう。脱衣所に行くと時間も時間だからかそれなりに混んでいる。大人から子供まで幅広い年齢層の人がいる。当然小さい子は――

(あの子おむつ穿いてる)

 五歳くらいの女の子。まだおねしょをしてしまうのかはわからないが風呂上がりでおむつをしていた。まだ濡れたロングヘアーが風呂上がりだということを教えてくれる。穿いていたのは売店で売っていたおむつとは違い、ピンク色のおむつ。

(いいなあ・・・あんなかわいいおむつもあるんだ・・・)

 その子がパジャマを着てしまったためおむつは見納めになってしまう。自分も服に手をかけ、母親の下のかごの中に脱いだ服とリュックを入れる。プールの着替えも別になる年齢だ。同性とはいえ母親以外の人に裸を見られるのは少し恥ずかしかった。気持ちタオルで隠しながら母と手をつないで大浴場へと向かう。


 暑いという理由で母親よりも先に上がる。母は長旅の疲れもあってか早く上がろうとはせず、脱衣所か大浴場の前できっと早く上がるであろう父と一緒に待つように言われる。当然早く上がったのは暑いからではない。とある目的を達成するため。

 体をふき、キャラクターもののショーツに足を通す。あと少ししたらおむつに足を通すと思うとただのショーツでもドキドキしてくる。上は花柄のキャミソールを着てぱんつと同じキャラクターのパジャマを着る。他の人の視線が少し恥ずかしいが人前に出る服ではないので仕方ないだろう。

 お年玉があることを確認して脱衣所を出て一直線に売店へと向かう。先ほどよりもお客さんの数は少なく、視線も少ないので非常にありがたい。

 迷わずおむつの前まで行き、初めてパッケージに触れる。二枚入りとはいえ、ぱんつとは比べ物にならないくらい分厚い。そのままレジへと向かい、レジのおばちゃんにおむつを出す。その間にリュックに入っているお年玉を出す。

「妹のおつかい?えらいねえ」

「は、はい」

 話しかけられるとは思っておらず、適当な返事になってしまう。まさか自分で使うとは言えない。そのままお金を払い、リュックへと戻し、急いで大浴場の前へと向かう。父か母でも風呂から上がっていたら大問題だ。だが待ってはいなかった。リュックの中には念願のおむつが入っている。それを考えるだけでも胸のどきどきが止まらない。

(・・・トイレなら行ってもいいよね?仕方ないし・・・)

 大浴場の隣にはトイレがある。トイレに行きたくなったということにしてトイレへと向かう。まだ尿意は全くないが。

 トイレに行き、個室に入る。そしてリュックを体の前に回し、おむつを取り出してパッケージを破く。露わになる。おむつの本体。二枚のうち一枚をリュックに戻し、パジャマのズボンとショーツを一度に下ろす。おむつの「まえ」と書かれた面を前にしながらおむつにゆっくりと足を通す。インゴムショーツとは違う柔らかさがある。少し小さい気もするが、難なく穿くことができた。下を見るとぱんつの代わりにおむつが見える。おしっこサインがついていて、おしっこをしたら教えてくれるのだろう。一緒に脱いだショーツはリュックにしまい、パジャマのズボンだけ穿きなおす。すこしおしりが膨らんでいるようにも見えるがパジャマ上の裾で多少隠れるため大丈夫だろう。

 怪しまれないように水を流し、個室を出てゴミ箱におむつのパッケージを捨てる。ここで捨てておくのが一番安全だろう。

 トイレから出ると父が待っていた。そのまま何もなかったように合流し、トイレに行っていたことを伝えると特に怪しまれもしなかった。そのまま母が風呂から上がるのを待つ。


 部屋に戻ってきて一時間。疲れていたのもあるのか眠くなってくる。時間は九時半。もう少し頑張って起きていたいと思っていたが体は限界のようだった。

 おむつを穿いているが、もうそんなことよりも眠い。両親も長距離移動で疲れていたのか一緒に寝ることになった。ベッドは二つしかないため、母と一緒の布団に入る。

「・・・おやすみ・・・・・・」

「おやすみ」

 布団に入った瞬間、急に眠気に襲われ、眠りにつく。


 数時間後、夜中に目が覚める。

(ん・・・おしっこ・・・)

 布団の外は寒く、なかなか起きようとは思えなかった。とりあえず前を押さえようと下半身に手を伸ばす。そして布パンツとは違う触覚に気づく。

(・・・あ。おむつ穿いてたんだった・・・ふとんから出たくないし・・・おむつだから出しても大丈夫だよね・・・?)

 体を小さく震わせ、暴行に溜まった液体をゆっくりと開放していく。おむつはだんだんと温かくなっていく。

(・・・おむつきもちい)

 おしっこをすべて出し終える。だがだんだんと眠気が覚めてきて事の重大さに気づく。今自分はおむつにおしっこをしてしまったのだ。しかもすぐ隣で母が寝ている状態で。朝、一緒に起きるとさすがに膨らんだおむつがばれてしまうかもしれない。それは絶対に嫌だった。母を起こさないように気を付けて布団から出てまず先に風呂場へと向かう。おむつの膨らみ具合を見たかったからだ。鏡の前に立ち、パジャマのズボンを下ろす。

 そこにはたぷたぷに膨らんだおむつを穿いた自分が映っていた。お知らせサインは見える範囲すべてが黄色から青に変わっていた。

(・・・本当におしっこしちゃった・・・赤ちゃんじゃないのに)

 わずかに香るおしっこの香り。においを閉じ込めるためにもパジャマのズボンを穿きなおす。改めて鏡に映った自分の姿を見る。

(・・・パジャマの上からだったらもしかしたらバレないかも?)

 十二時間たっぷり吸収と書かれていたおむつ。さすがに一回では漏れ出したりはしないだろう。それに温かくなって膨らんだこのおむつの感触をすぐに手放したくはなかった。

(・・・朝一でトイレでぱんつに穿き替えたらきっとバレないよね?)

 一旦部屋へと戻り、リュックの中に入っていたショーツを出す。そしてトイレへと向かい、パジャマのズボンをまた下ろしておむつの上から穿いてみる。やはり多少の膨らみはわかるが、ぱんつがおむつを包み込み、さらにおむつの吸収体が体に密着するためさらにたぷたぷのおむつの感触に包まれる。

(・・・これいいかも・・・)

 わずかにぱんつからおむつがはみ出しているが、パジャマを脱がなければ大丈夫だろう。何度目かのパジャマのズボンを穿きなおし、再び布団に戻り、尿意もなく温かいおむつに包まれて再び眠りにつく。


 ♢


 朝、母に起こされて目が覚める。いつもとは違う下半身の感覚に違和感を覚える。いつもよりひんやりしている。

(・・・あ、昨日おむつして寝たんだった)

 何も考えずに眠い目をこすりながらトイレへと向かい、普通にオムツを下ろして朝一のおしっこをトイレで済ませる。おむつが濡れているのは夜に起きた分のおしっこをおむつに出したせいだ。

 おしっこを出し終え、おむつを外すためにいったん持ち上げる。だが昨日の夜とは明らかに重さが違う。

(あれ?おむつにこんなにおしっこしたっけ?)

 比べるためにいったん上からショーツを戻す。だが明らかに昨晩よりも膨らんでいる。密着具合も全然違う。

(え?ばれてないよね???)

 パジャマのズボンも穿きなおす。だが垂れ下がったおむつはパジャマのズボンを貫通し、明らかにおねしょをした膨らみ方になっていた。

(やばいやばいばれてないよね?)

 今からできることは証拠隠滅しかない。おむつを脱ぎ、改めて持つとかなりの重さがあった。確実に寝ている間に一回は出てしまっているだろう。中を見ると真っ黄色に染まっていた。テープを使って丸め、トイレに備え付けられているごみ箱におむつを入れる。あとは多少トイレットペーパーでおむつの濡れた部分に触れていた場所を拭き、何事もなかったようにショーツとパジャマのズボンを穿く。

(・・・普通にするしかないよね。多分こっちから言わなかったら大丈夫だし・・・)

 トイレの戸を開け、何事もなかったように振舞う。

「・・・おはよ」

「おはよ。よく眠れた?今日は初売りだから気合い入れていくよ!」

「うん」

(よかった。バレてないみたい)

 こうして芽衣の小さな冒険は幕を下ろした。未使用のおむつを一枚残して。


 この残ったおむつを緊急事態になってまた使うことになるのはまた別のお話。




 ・・・芽衣が朝市のトイレに行っている間、母が小声で父に言った。

「・・・芽衣のおしり膨らんでなかった?」

「・・・いわれてみれば。もうおむつは外れてるし、昨日も穿かせてないよな?」

「うん。さすがにもうおねしょしないと思ってるし。でもあの膨らみ方変よね?布団もすこしおしっこのにおいするし」

「え?」

 母は無言で立ち上がり、芽衣のリュックを漁る。そこから出てきたのは一枚のおむつ。

「・・・ねえこれ」

「え?買ってないよな?」

「うん。おばあちゃんちにもおむつないはずよね?」

「うん。じゃあこのおむつは一体・・・」

 さらに母はカバンの中を漁る。そして出てきたのはお年玉袋。明らかに機能と感触が違う。中身を確認する。昨日は二千円が入っていたはずのお年玉袋。今は千七百円ちょっとに減っていた。さらに袋を下に向けると一枚の小さな紙が出てくる。

「・・・ねえこれ」

「なるほどね」

 出てきたのは――売店のレシートだった。そこにはしっかりと『おむつ』と書かれている。

「・・・あの子穿いてみたかったのかしら」

「そうかもな。まあ芽衣は秘密にしてるみたいだし、秘密にしてあげるほうがいいんじゃないか?」

「・・・そうね。誰にも迷惑かけてないし。見なかったことにしておきましょ」

「うん。ただ、ゴミだけはしっかり確認してちゃんと捨てさせてね」

「わかってるって。もちろん本人にばれないように」

 この両親の会話を芽衣は知らない――


 Fin

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