5歳児を「いい子」にするのは、犬のしつけと同じ…子育てに熱心な「高学歴親」が根本的に間違っていること
プレジデントオンライン / 2023年3月2日 10時15分
■日本の子供たちがおかしくなっている
――成田さんは、公認心理師や社会福祉士といった専門家によるワークショップや個別相談の場を提供する「子育て科学アクシス」を運営されています。アクシス設立の経緯を教えてください。
【成田奈緒子】「日本の子供がおかしくなっているのではないか?」と思ったことがきっかけですね。
私は小児科医としてキャリアをスタートした後、アメリカで4年間、基礎医学の研究に携(たずさ)わったのですが、1998年に帰国したときに不安障害や摂食障害といった精神疾患で苦しむ子供たちが増えていることに気づきました。
当初は関西から関東に拠点を移したせいかなと思っていたのですが、データを調べてみると、実際に精神疾患や起立性調節障害で学校に行けない子供が増えていました。
そこで公認心理師の田副真美と一緒に、子供たちを診るようになりました。また、症状に悩む子供だけではなく、子供の生活や家庭を支えている親御さんを巻き込むことで、子供たちの状態が早くよくなることも実感しました。
これは医者である私が一人で診るよりも、いろいろな人と連携して患者さんを診ていったほうがいいと考え、田副とともにアクセスを設立しました。
■高学歴親は“先回り”してしまう
――「親御さんを巻き込む」とは、具体的にはどんな治療なのでしょうか。
【成田】まずは親御さんが子供にどういった声かけをしているのか、親子間のコミュニケーションについて丁寧に聞き取ります。たとえば、お子さんが宿題をやらないときに「やりなさい」「どうしてやらないの?」と一方的なコミュニケーションをとってしまう親は要注意です。
大人に見守られつつ、自由にさせてもらうことで、子供は初めて自分で考えて行動できます。その結果、失敗して叱られたり、怖い思いをしたりすることが記憶に残って「以前はこうして失敗したから今回はこうしよう」と修正していく。その積み重ねで主体性や課題解決能力が育っていきます。だから、親が先回りしすぎると、そうした子供の力を奪ってしまうんですね。
――なぜ「先回り」をするのでしょうか?
【成田】親御さん自身の教育水準が高いほど、「いまこれをやらないと子供の将来が危うい」と考えてしまうのでしょう。自分のことを社会での成功者だと思えば思うほど、「自分のような人間になるにはちゃんとしたステップを踏むしかない」と思い込んでしまうのです。
いわゆる「高学歴親」も、若いときに失敗がなかったかと言うとそうでもないのですが、子供がステップを踏み外しそうになると、いてもたってもいらなくなってしまうんですね。子を思う気持ちは理解できますが、「悪気はなくても、子供には悪影響がある」と伝えています。
■「3分でいいので黙っててもらえませんか?」
【成田】私が親御さんを巻き込んで子供を診るようになってから、こうした先回りをはじめとして、過干渉な親をたくさん見てきました。とくに中学生くらいの子供が新患で来たときに、口を開いてしゃべるのがお母さんだけというケースが非常に多かったんです。
私や田副が子供に向かって「学校に行こうとすると、気持ちが悪くなるの?」などと聞いているのに、親御さんが「そうなんですよ、あのね先生……」と食い気味に話し始めるのです。
――そうした親御さんが珍しくないのですね。
【成田】そうなんです。あまりに腹が立ったときは「お母さんに聞いてるんじゃないから、3分でいいから黙っててくれませんか?」と言ったこともありました。
■過干渉は「不自然ないい子」を作り出す
――そうした過干渉な親御さんに共通する特徴はありますか。
【成田】「お子さんが小さいときの様子はどうでした?」と聞くと、親御さんのほぼ全員が「小さいときは本当にいい子でした」と言うんですよ。しかも、「いい子」の内容を聞いてみると、みんなで食事に行っても騒がない、わがままを言わないなど、親の言うことを素直に聞く子が圧倒的に多い。診察し始めた当初から、公認心理師の田副と「これはおかしいのではないか?」といつも話していました。
――小さいうちからお行儀がよすぎる子は、不自然な「いい子」ですよね。
【成田】年齢がまだ4~5歳なのに「いい子」だとすれば、それは「しつけをされた犬」と基本的には同じです。犬たちが「おすわり」と言われて座っているのは「ここは公共の場だから座っていないといけないんだ」と思っているわけではなくて、座ったらエサをもらえるから座っているわけですよね。
「いい子」として振る舞う理由も「この行動をすると親にかわいがられる」という条件反射なんです。裏を返すと「これをしないと親に嫌われる」というメッセージを読み取っていて、これは子供にとってはものすごく恐怖なわけですよね。
「親に嫌われる行動をしたら、私はもう見捨てられる」と思っているので、そうした土台が不安障害をはじめとした様々な症状に表れてきても不思議ではありませんよね。
――表向きはやさしいけれど、実際には脅しているわけですよね。
そうです。やさしい脅迫になっているんです。
■「あなたには可能性がある」は脅しになっている
【成田】頭のいい親御さんたちは「脅し」を見せないようにして、しつけという名のもとにそうした行動をつくっていくわけですが、小さいうちから親の表情を読み取ったり、言語の理解が早かったりする子はそうしたダブルメッセージを受け取ってしまうんですよね。
たとえば、「この子、体験に行ったらやりたいって言ったんです」と言って、子供の意思を尊重しているというスタンスで、次から次へとお稽古ごとをさせる親御さんがいます。私からすると、小さい子供はすぐに「やりたい」「おもしろい」と言うと思うのですが、親御さんは子供にすごく期待をかけてしまう。
それで小学3年生くらいになった子供が習いごとを辞めたいといったときには、「辞めたいの?」と一旦は共感しているようなことを言いつつ、「でもね、ママはあなたがここまで頑張ってきたことを素晴らしいと思うの。だから、いま辞めちゃうともったいないと思うのよ。絶対に○○くんはオリンピックの選手になれると思うから、もうちょっと頑張ってみるのはどうかな?」なんて言うんですね。
――まさに、ダブルメッセージですね。
【成田】子供からすると不安でしょうがない。子供のためを思って「あなたの可能性はあるのよ」と言われてしまうと、子供は反論できないんです。自分でやっと決心したことをお母さんに伝えたのに反論できずに、嫌なことを渋々続けなければいけないのは非常に苦しいですよね。
■子供には「原始人」の時代が必要
――そうした親御さんには、なにを伝えるのですか。
【成田】まずは「原始人を育てなさい」とアドバイスをしています。
5歳までは「原始人の力」が育てられればいいのです。たとえば、五感を使って身を守る能力や、安全を確認したらリラックスできること。1日3回空腹を感じて食事を自発的にとることや、自律神経を働かせて体内環境を維持できること、敵が現れれば感情をむき出しにして怒ったり、逃げたり、戦ったりすること。
子供が原始人だと考えると、興味のある場所に走っていくことも、嫌なものは嫌だと言うことも、怖いと思ったら怖いと言うことも、当然ですよね。こうした行動に眉をひそめる親御さんもいるかもしれませんが、プリミティブな反応が出てくることは、むしろ歓迎すべきことなんです。
■最初に改善するべきなのは睡眠
――原始人を育てるには、なにが重要ですか。
【成田】重要なのは睡眠です。小さいときから寝ないで勉強する、寝ないでお稽古ごとをするといった生活を当たり前にさせていると、「原始人の脳」が育たず、バランスを崩してしまいます。
5歳児の場合は、午後7時に就寝、午前6時起床が望ましいと小児科の教科書に書かれています。ただ、現代日本の状況から言うと、午後7時就寝はほとんどの家庭で不可能なので、私は午後8時就寝、午前6時起床の10時間を目指すようお願いしています。
以前、夜中に急に起きて泣き叫んだり、暴れたりする夜驚(やきょう)の症状が気になって診察に来られた方がいました。その原因を探っていったら、その子は3歳から幼児学習とピアノ、英会話のクラスなど、合わせて週6日の習い事に通わせていたというんですね。
さすがに「その生活はすぐに辞めないとまずいです」と伝えて、眠ることを優先してもらったら、そうした症状が一切なくなりました。睡眠はそのくらい重要なんです。
■「私の息子がその例外なんです」
――「高学歴親」は、そうした成田先生のアドバイスを素直に聞けるのでしょうか。
【成田】聞き入れない人もけっこういますよ。「先生が診てきた患者さんはそのやり方でみんなよくなったんでしょうけど、うちの子だけは例外なんです」と真顔で言われたこともありました。その親御さんは結局、別の病院を受診したうえで、また私のところに戻ってきましたけどね。
――なんと言って戻ってきたんですか?
【成田】そういう場合は「子供がやっぱり成田先生がいいと言うんです」と言っていましたね。
私たちは「ドクターショッピング」と呼んでいるのですが、「あちこちのお医者さんや専門家を渡り歩いて自分が納得できる人にお願いするのがいいよ」とあえて言うと、大抵は戻ってきます。ただ、診察をする中で子供がよくなっていっても「当たり前だ」という顔をされることも多い気がします。
■親が嘘をつくから、子供も嘘をついてしまう
――プライドが高い親御さんは、どこまでいってもプライドが高いんですね。
【成田】自分に落ち度があることを認めたくないんでしょうね。どんな人も一人では生きていけないので、誰かに助けてもらわなければいけないんですけど、社会で成功したという自負のある人ほど、自分以外の人は信じられないところがあります。
そうしたスタンスを子供に押し付けてしまうと、子供が困ったときに「助けて」と言えなくなり、追い詰められてしまいます。それで、嘘をつくんです。自分がつらい立場にあっても、嘘をついて取り繕っているので、最後の最後でひどい症状が出て、診察に来るというような。
子供はもちろん、親御さんの中にも、誰かに弱さを晒して助けてもらおうとする行動パターンがつくられていないので、親も子も折れてしまうケースも多いですね。
――親が嘘をついているから、子供も嘘をつかざるを得ないということでしょうか。
【成田】そうなんですよ。親御さんも若いときにはけっこう失敗しているわけなので、子供には失敗談を積極的に聞かせてあげたほうがいいですよね。そうすると、「そんな失敗をしたのに、お父さんは大人になっても楽しそうに生きている。僕も大丈夫だ」と思ってもらいやすくなります。自慢話の代わりに失敗談を話すことで、子供の肩の荷を少しおろしてあげられるんじゃないかなと思います。
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文教大学教育学部教授、「子育て科学アクシス」代表
1963年、仙台市生まれ。米国セントルイスワシントン大学医学部、獨協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より現職。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(山中伸弥氏と共著)『子供にいいこと大全』『子供が幸せになる「正しい睡眠」』(共著)『高学歴親という病』など。
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(文教大学教育学部教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子 構成=佐々木ののか)
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