混浴風呂が消滅の危機!「なくしてはいけない」希少な混浴施設で老夫婦が語った切実な話
週刊女性PRIME / 2023年2月26日 21時0分
寒さが一段と厳しさを増すなか、恋しくなるのはやはり温泉だ。
青森県・酸ヶ湯温泉の大浴場、ヒバ千人風呂など全国に存在する名湯のなかには、昔ながらの混浴文化を残しているところも少なくない。
環境省の進める『10年後の混浴プロジェクト』
ところが、近年は利用者のマナーの悪化などもあり、混浴施設の利用者は減少の一途をたどっているという。
そんななか、環境省は失われつつある混浴文化を将来にわたって守っていくことを目指し、『10年後の混浴プロジェクト』を推進。
今月4、5日には、岩手県・八幡平市の松川温泉峡雲荘で、「混浴宣言の日」と題したマナーアップキャンペーンを行うなど、さまざまな実験的取り組みで、混浴文化の課題と今後の継承に向けたあり方を検討している。
しかし、混浴文化の意義や必要性を疑う声はいまだに根強い。同プロジェクトのアンケート調査によると、男性は年齢層が上がるとともに混浴への抵抗感が薄れる一方、女性は全世代において6.5割以上が混浴への抵抗を感じていることも明らかになった。
混浴施設に立ちのぼる湯けむりは、このまま消えゆく運命にあるのだろうか……。跡見学園女子大学兼任講師の山崎まゆみさんは次にように語る。
「国内外を問わずさまざまな温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を伝えているなかで、私自身は日本の混浴文化の素晴らしさを身に染みて感じています。
一方、社会通念の変化やいろいろな問題点が取り沙汰されるなかで、昔のようにシンプルに“混浴って素晴らしい文化だよ”と伝えることが難しくなってきている時代だなとも思っています。
ただし、宿泊施設・温泉施設の取り組みや利用者の声を聞くなかで、気持ちの問題だけではなく、混浴文化が必要とされる理由も改めて見えてきました。そういった点を含めて、混浴文化の今後について考えることはとても意義深いことだなと思っています」
現在ではマイノリティーである混浴施設だが、かつて混浴は当たり前の風景だった。まずは、混浴文化の歴史についてひもといていこう。
「そもそも、日本の温泉の原風景は混浴でした。記録として残っているものは多数ありますが、特に1300年ほど前の『出雲国風土記』には、出雲の玉造温泉について、老若男女が一緒になって温泉を楽しんでいる様子が描かれています。
身分の違いで入浴時間を分けることはあったようですが、男女で分ける必要性はあまりなかったのでしょうね。こういった混浴文化は、温泉だけでなく江戸時代の大衆浴場にまで引き継がれていきます」(山崎さん、以下同)
混浴の大きなターニングポイントが訪れるのは江戸時代になってから。時の老中・松平定信が、寛政の改革の一環として、風俗の乱れを正すべく、寛政3(1791)年に「混浴禁止令」を打ち出す。
さらに決定打となったのは、江戸末期の黒船来航だ。西洋人にとって日本の混浴文化はカルチャーショックであり、野蛮なものとして批判的に紹介されることも多かった。
「日本が近代国家の仲間入りを目指した明治時代には、まず国民の生活習慣を変えようとする流れも強固になってきました。
1900年の“12歳以上の男女の混浴を禁止する”という内務省令を皮切りに、東京だけでなく全国の浴場から混浴が消え、男女別の湯船が広まっていくことになりました。
この流れは現在も続き、各都道府県の条例などでは、一般公衆浴場での混浴は原則的に禁止となっています」
温泉を最高の状態で楽しめるのが混浴
風紀の乱れという建前のもと、現在は当然となった男女別浴。ところが、一部の例外として、公衆衛生上および風紀上支障がないと認められる“その他の公衆浴場”のみ混浴が許されている。それが現在も残っている混浴施設だ。
「改装工事が簡単にはできない山の湯治場や古い施設などは、こういった特例が認められますが、新設の温泉などではほとんど不可能。
現在まで残っている混浴風呂も、宿の増改築の際には、保健所から混浴風呂を男女別の風呂にするように指導されます。
そういった意味でも、混浴施設というのはとても貴重。今なお混浴風呂を持つ宿のご主人たちは混浴に対して熱い思いをお持ちの方が多いですね」
貴重な混浴施設。その文化が持つ独自の魅力とはどのようなものだろうか。
「混浴を守ってきた温泉施設のロケーションやこだわりを含めて考えたときに、やはり温泉は生き物なのだと感じることがあります。
もちろん泉質にもよりますが、その時その場所で湧き出しているお湯を、最高のロケーションで味わってほしいと考えた場合に、男女で二分してどちらかが味わえない状況をつくるのではなく、みんながその最高の状態を一緒に享受できるというメリットが混浴という選択肢なのかなと思います」
入浴時間によって男女の浴場を入れ替える施設なども多いが、本来ならば最高のロケーションを常時誰にでも味わってほしいという思いは想像に難くない。また、温泉の開放感で生まれるコミュニケーションも、混浴文化の楽しみのひとつだという。
「同じ湯を共にする方との出会いというのは、やっぱりとても貴重な体験。
私は“一期一湯”という考えを大事にしているのですが、温泉に浸かって大らかな気持ちで居合わせた方とお話をしたり、本当の意味で他者と“裸の付き合い”ができるというのは、男女の垣根を越えた混浴文化の魅力なのだと思います」
また、混浴文化を残すことは、現代の高齢社会や多様性社会のニーズを解消する可能性も秘めているという。
「まず、介護という観点で混浴はとても大事なポイント。私自身、数年前に亡くした父をバリアフリー対応の貸切風呂に連れていった経験があるのですが、そのとき父から“もっと広い大浴場のほうに入りたい”という思いを訴えられたことがあります。
そのときは、両親と私の3人での温泉旅行でしたが、高齢の父をひとりで大浴場に向かわせざるをえず、とても心配な気持ちになりました。
異性の入浴介助が難しい現状で、大きなお風呂に入りたいという気持ちをいかに叶えてあげられるか、混浴文化が解決策になりうると感じています」
実際に、介護を前提とした混浴が可能な銭湯が都内に誕生している。昭和22年創業の東京都・墨田区の御谷湯は2018年に「福祉型家族風呂」を新設して話題になった。
東京都では貸切風呂であっても混浴は厳禁だが、介護証明や医師からの診断書の提示を必須条件に、混浴が可能となった。
老老介護の場合は夫婦でいたわり合いながら入浴ができ、性別の異なる子どもの異性介助も認められる。
「ずいぶん昔ですが、混浴施設でご一緒した高齢のご夫婦に“なんで混浴風呂があるかわかる?”と聞かれたことがありました。
そのご夫婦は“私たちみたいに高齢の夫婦が、助け合いながら入浴できる貴重な場所なんだよ”とおっしゃっていましたが、今となってはその言葉の切実さが痛いほどわかりますね」
混浴の課題として、「裸を見られることに抵抗がある」という声は根強い。その点を解消するのが、湯あみ着だ。昨年11月末には、青森県の酸ヶ湯温泉で湯あみ着を着用して入浴する『湯あみ着の日』を設けたところ、通常日に比べて利用者が急増した。
「バスタオルを湯船に浸けてしまうと、糸くずがお湯を汚してしまうという衛生上の問題もあります。そういった点をクリアした湯あみ着の着用への理解は、混浴だけでなく温泉文化を守るうえでは必要なことかもしれませんね」
湯あみ着の着用は、乳がんなどで身体に手術痕を持つ人や、自らの性自認に悩むLGBTQの方の問題も含め、多様な“個人の在り方”に対応しうる可能性を秘めている。
「もちろん裸で入りたい人も、湯あみ着を着用したい人も、男女の差以外でもさまざまなかたちで入浴を楽しめる“大らかな文化”として、混浴が社会にもたらす影響は大きいのではないかと思います」
失われつつある混浴文化。誰もが気兼ねなく入浴を楽しめる日がくることを願う。
(取材・文/吉信 武)
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