「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。
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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。
私は長い間、絵本に関わる仕事をしてきました。そして、ちょうど、東京の事務所兼自宅を手放し、岩手に引越してきて一年もしないうちにあの地震と津波が起こりました。それで、私はこの土地の友人たちと一緒に、被災地の子どもたちに絵本を贈る運動を始めました。そして、その中でいろいろな人たちに会いました。
ある保育園に絵本を届けに行った時のことです。子どもたちに、好きな絵本をもらって帰っていいよ、と話すと、みんなが、我れ先に自分の好きな絵本を抱えて嬉しそうにしていました。ところが、その中で、一人の男の子が、いつまでも、いつまでも、本の入ったケースの中を探していました。私は、なんだか心配になって、その子に「これはどう?」とか、「あれはどう?」とか言ってすすめてみました。でも、その少年は、「違うの、違うの」と言って、まだ探し続けていました。
そして、最後に、「あった!」と叫んで、一册の絵本を愛しそうに抱きしめて帰って行きました。それは、昔からある赤い表紙の小型の絵本でした。その子は、新しい本ではなく、いつも家か保育園で読んでもらっていた、流されてしまったこの本を探していたのです。私は、その子のことが忘れられず、絵本の好きな年の離れた仲間のような気がしました。それで、その子の記念にそれと同じ本を注文して、手に入れました。その子のことを忘れないようにと思ったからです。
人を愛したり、平和を願うということは、想像力がなければできないことだと思います。その意味で、絵本に親しむということは、実に重要なことだと、いまあらためて思っています。