『みにろま君とサバイバル 世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない』

「出羽守」が言っている“外国事情”は外国のどこを見て言っているのか?

最近、ネットを中心に使われる言葉に「出羽守(でわのかみ)」と「尾張守(おわりのかみ)」という言葉があります。
「出羽守(でわのかみ)」と「尾張守(おわりのかみ)」という言葉があります。
「出羽守」というのは、海外の習慣や事柄を引き合いにして、日本のことを貶すような言動を取りがちな人のことだそうです。
「尾張守」というのは、物事に対して悲観的になり「終わった」「おしまいだ」と嘆いてばかりいる人のことだそうです。
テレビのコメンテーターを見ていると、「出羽守」と「尾張守」の2つの看板を掲げている人を結構見かけます。

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書名:『みにろま君とサバイバル 世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない』
著者:谷本真由美
出版:集英社(2021.07)
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著者は国連専門機関の職員としてのキャリアもつITコンサルタントでイギリス在住の著述家。
本作では、自身が取り組む“育児”を通じ、新たな視点で日本の強いところ弱いところ、海外の強いところ弱いところを明らかにします。


「出羽守」がなぜ登場してきたのか?

<本文引用>------------
また彼らは少なからず現在40代から50代ですが、この人達が小中高生だった頃の日本では海外の例を絶賛し、日本の劣っている部分を批判するというテレビ番組が大変流行っていました。
例えば大橋巨泉さんが司会を務めていた「巨泉のこんなモノいらない!?」はその代表です。
当時、日本のテレビ業界で制作に関わっていた人々というのは、その頃に30代から50代の人々ですが、戦中戦後の混乱期に大変貧しい子供時代を過ごした人が少なくありませんでした。敗戦を体験していますから、潜在的に「日本はダメだ、強い海外(アメリカ)に見習おう」という意識があります。
彼らの子供が、現在の「海外出羽守」です。必然的に、親の影響を受けてそのような考えになっているわけです。(本文より)
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ありましたね、「巨泉のこんなモノいらない!?」。
この番組はは1987年から1989年にかけて放送されていたようです。
私は大学に入ったばかりで、最初の2年間はテレビを持っていなかったので殆ど見ていませんが、海外の情報を引き合いに出して、日本のものを結構こき下ろしていた(=要らない)ような記憶がありますね。

今の「出羽守」はこの頃に種まきがされていたんですね。


コロナ禍。
残念ながら、日本からワクチンが誕生することはありませんでした。

<本文引用>------------
コロナウイルスのワクチンの開発で先頭を切った国々というのは、イギリスを始めロシアや中国などですが、それらはつまり常に臨戦態勢の国々です。イギリスはこういった国々との戦闘を常に想定してきたのでウイルス研究にかなりの資源を割いてきたのです。
日本では大学の研究を軍事的な目的に使うべきではないということを言い張っている人々がいますが、他の国では大学の研究というのは完全に軍事的な目的とリンクしており、ウイルス研究もそのひとつなのであります。
つまりイギリスは教育政策の設計というのを、軍事的な戦略も踏まえた国家の運営の収獲のひとつとして捉えており、戦略的に資源を選択・集中させ、また国家の存続に見合う人物を海外から引っ張ってくるわけです。
このような冷酷な戦略性はイギリスという国の大きな強みであり、防疫や一般の人の教育という部分では弱みが露呈したものの、国家の運営や安全保障という点では、日本よりもはるかに強いということです。このようなことが火を見るよりも明らかになったのが、コロナ禍なのではないでしょうか。(本文より)
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学術界は研究と軍事を明確に分けようとします。
その代表が日本学術会議です。

ウイルス開発や接種で先陣を切った国と言えば。イギリスであり、アメリカデアリ、そしてイスラエル。
分かるような気がします。


著書は日本人、ご主人は英国人、息子さんは日本人と英国人のハーフという事になります。
子どもは生まれてから、親を中心としたコミュニケーションを通じ、言語能力を習得します。
では、著者のような家庭では、子どもとどういうコミュニケーションを取ったらいいのか?

<本文引用>------------
1親1言語の法則

今述べたように、北米や欧州では乳児期から外国語を教えることに全く抵抗がないに等しく、特に議論にもならないわけなのですが、小児科医や言語教育に慣れている人々が、そのような中でさまざまなケースを見て学んだことというのがあります。
それは家庭内では「1人につき1言語」というふうに役割を固定するべきだということです。
例えばお父さんが英語が母語の場合は英語のみでコミュニケーションをとり、お母さんが日本人の場合は日本語のみで子供とコミュニケーションをとる、おばあさんが中国語を話す方の場合は中国語だけで子供に話しかけるということです。役割を固定して言語もそれに付随すると、子供はこの人と話す時はこの言葉というふうに、役割と言語を認識して言葉を使い分けるようになります。これは実は、私がイギリスで出産した際の、小児科医や助産師、そして保健師の方々で、多国籍・多言語環境のケースを数多く見ている方々からのアドバイスです。(本文より)
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私は現在、大学院で心理学を勉強しているのですが、これって、発達心理学では定説になっています。
こういうのって、病院でちゃんと教えてくれるんですね。


<本文引用>------------
日本の親がちゃんと子供に教えないことに、お金の話があります。なぜか日本人はお金の話をあまり好まず、概念的なことや理想論ばかり語りがちです。しかし世の中がこれだけ激変しているわけですから、生き延びるのにやはり重要なのはお金です。
子供がなるべく小さなうちから、利息とは何か、複利とは何か、投機と投資の違い、原資とは何か、家を買ったら修理費や維持費に大変な費用がかかることや、投資材と消費財の違いといった、お金のごく基本的なことを、毎日のように繰り返して教えるべきでしょう。
単にお小遣いのやりくりを教えるだけではダメで、どうやったらお金が増えるのか、労働をしなくてもお金が入ってくる仕組みとは何かといったような、もうちょっと高度なことを教えるのです。(本文より)
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これ、私も同感です。
私が大学卒業後、都市銀行の一つに入行しました。
10年で退職しましたが、その10年間で金融の仕組みはとても勉強できました。

日本の教育では、子どもを「お金」の話題から、遠ざけよう遠ざけようとしている印象があります。
でもそれって、親が子どもに対し、「いつまでも(お金の欲を持たない)子どもでいて欲しい」という、願望、悪く言えば、わがままのように思います。

高校時代、バイトやるやらないで一部の生徒と先生側がもめました。
確か先生は「今は勉強する時期ではなく勉強するべきだ」と主張し、生徒は「お金を稼ぐという事が勉強になる」と主張。
先生が学歴による年収格差を金額を示しながら説明し、「今、働かなければならない環境でなければ、勉強に集中するべきだ」と教えてあげればよいのにって思います。
まあ、もっとの私の学校はFランク大学の予備校みたいな高校でしたので、それがどこまで通じるかはわかりませんが・・・。



著書の谷本真由美氏、書かれている本、ツイッターでの投稿、ラジオでの発言にとても親しみを覚えます。
その理由の一端がわかりました。

<本文引用>------------
小中学生の頃は1日中映画を見ており、地上波で放映された映画は深夜の枠のものも含め可能な限りVHSで録画し、学校から帰ってくるとそれを鑑賞、見た作品はすべてノートに記録して、「SCREEN」や「ロードショー」を参照しながらいちいち批評を書き、たまに読者投稿するという非常に変わった子供でしたので、批評を究めるためにどうしても元の言語で映画を見たいと考えていました。
当時はまだ昭和50、60年代、小学生であった私はカセットテープをテレビの前に置いて、映画「ビパリーヒルズ・コップ」や「フルメタル・ジャケット」の音声を録音し繰り返し繰り返し聞いて何とか聞き取れるように苦心していたのです。それも批評の質を高めるためです。
その結果、大学に入るまでに身に付いた英語というのがアメリカの海兵隊の英語やロザンゼルスの非常に荒い英語だったわけです。
例えば私が映画やハードロック。・ヘビーメタルで覚えた英語というのはこのようなものです。
「お前のお尻に豚をぶち込んでやる!」
「床をなめろこのやろう」
「お前俺の尻はどうやって拭ってくれんだよ」
「くさった死体」
「ご主人様と奴隷」
「18番倉庫に宇宙人が隠されていてこれはアメリカ政府の陰謀」(本文より)
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私も「スクリーン」や「ロードショー」を買ってました。
真ん中あたりに海外ポルノを紹介する見開きページがあって、親に見られないかヒヤヒヤしたものです。

私は著者のように英語を深堀をすることはありませんでしたが、アメリカ映画、特に戦争映画などを見ていると、やたら「ケツ」とか「尻」とかという訳が出てきて、「アメリカ人って、なんか、小学生みたいだなあ」って思いながら見たものでした。


PS

最後は著者から幼い息子みにろま君への手紙で締めくくられています。
母親の子供への愛情がにじみ出てくるような内容です。
わが子を愛さない母親は、一部の骸鬼痴な親を除けば、いないと思います。

それでも、わが子への溢れんばかりの愛情を活字にして全世界に発信するというのは、これはなかなかしてもらえないこと。
学者のイギリス人、コンサルタントであり著述家の日本人。
いずれも、真実に目を向けること、学ぶことに肯定的な価値観を持つ人たちだと思います。

そんな両親の子どもである「みにろま君」。
ピエール・ブルデューの『ディスタンクシオン』が頭をよぎります。


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■読んだきっかけ:『世界のニュースを日本人は何も知らない2 ―未曽有の危機の大狂乱』谷本真由美
■読んで知ったこと:「出羽守」が言っている“外国事情”は外国のどこを見て言っているのか?
■今度読みたくなった作品:『脱!暴走老人 英国に学ぶ「成熟社会」のシニアライフ』谷本真由美
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