人権軽視し人格傷つける 柴山元文科相 「耐えられるDV」って?〈2023年2月26日号〉

 法務省がパブリックコメントを終了した「家族法見直しに関する中間試案」は、離婚後の子の親権を両親がともに持つ共同親権の導入が争点です。衆院議員(自民)の柴山昌彦元文科相は、北日本放送の番組で、この問題に関連して「被害者とされる方々の一方的な意見により、子どもの連れ去りが実行されてしまうことが本当に問題がないのかどうか。公正な中立な観点から、DVの有無とか、本当に耐えられるものか耐えられないものであるかということを判断をする仕組みの一刻も早い確立が必要だ」と語りました。発言の問題点を弁護士と考えます。

岡村晴美弁護士に聞く

岡村晴美弁護士

 いじめや性暴力、DV問題など女性の権利擁護の事件に積極的に取り組みメディアにも多数出演する岡村晴美弁護士は「DV(ドメスティックバイオレンス)は、パートナーや家族による支配的な構造をいいます。刑事罰に処すべき暴力や暴行を示すものでありません。つまり『殴る蹴る』がDVなのではなく、言動までを含む行為によって相手を支配することです」と切り出しました。

 また「連れ去り」を問題視していることについて、「ここで言っているのは子連れ別居です。別居親が学校などから無断で連れ去ってしまうこととは、区別しなくてはいけません。オムツさえ変えられない配偶者が『子どもを置いていけ』と言いますが、全く現実的ではありませんよね」と語りました。さらに「裁判所の発する保護命令で接見を禁止される暴力だけがDVだと思っているのでは被害者を守れません。連れ去りということで子連れ別居を思いとどまらせようとしています」と指摘します。

 SNSなどで「子連れ別居は処罰せよ」などとの意見が散見されることからも、配偶者を支配し続けたいという思考が浮かび上がります。

被害者にダメージ

 「DVの本質は精神的暴力です。繰り返し受ける人格軽視によって簡単に心が壊れるのは、パワハラやいじめと同じです」と岡村弁護士は話します。

 岡村弁護士は「パワハラを受けたら休職できるし、いじめを受けたら登校しなくてもよいのです。DVだけは『がまんせよ』という思考になる。間違いです」と強調。「いじめやパワハラは加害者を物理的に排除するのが第一の対処です。暴力行為がなくても言葉や無視するなどの態度も対象になります。それだけ個人の人権が踏みにじられるからです。病気になってまで頑張れと言いませんよね。しかし、DVとなると家族間という環境だけで『耐えられる』と、その対処から除外されて良いのでしょうか」と問いを投げかけました。

 さらに「いじめの場合、登校をやめるなど安全な措置を行ったとしても、オンラインでも話し合わせませんよね。パワハラも同様です。しかし、共同親権が導入されれば、DVの場合にも『離婚後も共同できる。やりなさい』となるのは平等性を欠いています。DVで人格が傷ついているわけですから、想像しただけで被害者は重大なダメージを受けます」と訴えます。

 その上で、「婚姻は両性の合意ですから『この人といられない』と耐えがたくなったら逃げていいのです。いやなことがあって学校や職場を休むのと同じように距離を取るときに、日常的に子どもに接し育児をしている親が『子どもを置いてはいけない』と判断し連れて行くのが事実です」といいます。

共同親権をめぐり子どもと離婚後の親の安全が問われています(写真と本文は関係ありません)

自民党が恣意的に

 柴山元文科相と行動をともにする共同親権推進派は「ビンタ一発ではDVにならない」「顔を出して発言しない被害者は虚偽」などとの発言をSNS上で繰り返しています。一方で被害者は「配偶者から逃れるために居所を隠しているので顔を出すなどできるわけがない」、「思い出しただけでパニックになる」などと胸中を打ち明けます。

 ある被害女性は「共同親権が実施されれば、元配偶者に居所が知られ急襲の危機がある。子どもの進学先も自由にできなくなる可能性がある。離婚しても支配はずっと続く」と涙を流します。

 パブコメ前(昨年12月)、超党派の議員連盟(議連)で会長を務める柴山元文科相自身がメディアに「中間試案の論点の並び方が論理的ではなかったので、私たちが(参考資料で)並べ替えた」と公言していることからも、「自民党が恣意しい的に関与し法制審議会の議論を軽視していることは明らかだ」と岡村弁護士は指摘します。

東京民報2023年2月26日号より

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