重度の脳性まひで車いす生活を送る権田祐也さん（２０）＝兵庫県淡路市＝が３月１日、夜間定時制の県立湊川高校（神戸市長田区寺池町１）を卒業する。入学までの壁は高かった。「本当に続けられるのか」という声も少なくなかった。それでも、「みんなと一緒に学びたい」という一念は揺るがなかった。それから４年－。晴れて卒業証書を手にする。

　入学するまでの道のりは一筋縄ではいかなかった。中学まで当たり前のように地元の淡路市で友達と学校に通っていた権田さん。「共に学びたい」と高校生になることは自然な思いだったが、受験した第１志望の定時制高校は定員割れの中、２年連続で不合格に。再募集していた湊川高校でようやく春をつかんだ。

■淡路から毎日神戸へ

　２０１６年４月の障害者差別解消法の施行後、医療的ケアの配慮を受けながら県立高校に通う兵庫県内初のケース。学校側は早速、支援体制づくりに奔走した。学習活動を支える自立支援員、移動やトイレの補助をする学校生活支援員、看護師の確保…。当時の校長、水畑哲也さん（６２）は「お母さんが学校にいなくても大丈夫、という『チーム権田』ができるまでが手探りだった」という。

　「毎日顔を見て、声をかけていると表情や身ぶりで人柄も分かってきた。発語がなくても目が合い、気持ちが通じた」と水畑さん。次第に「ほかの生徒たちもコミュニケーションを取るようになり、優しい気持ちが芽生えていった」と振り返る。

　登下校時には必ず、廊下から声をかけてくれる女子生徒も現れ「笑顔、はじけます」と支援者らからツッコミが入った。「ツンツンした茶髪にして眉毛もそろえて」と両親にリクエストするのに時間はかからなかった。

　権田さんは体育祭、球技大会、文化祭などの行事も積極的に参加。クラスの仲間が車いすを押して走ってくれたことも大切な思い出だ。学習面でも、しっかり授業を受け、選択問題の定期考査も休まずに臨んだ。

　学校生活が波に乗ったころ、新型コロナウイルスのため休校に。母親の由記子さんは「学校に行けないことが何よりのストレス。機嫌が悪くて大変だった」と打ち明ける。楽しみにしていた親と離れての修学旅行も中止になり、代わりに城崎への日帰り遠足になった。一つ一つの行事が権田さんにも、学校にもチャレンジとなった。いつも諦めることなく「絶対に仲間と参加する」という権田さんの強い意志が、周囲を突き動かしていった。

■文化祭の表彰状をそっと

　最後の文化祭では各クラスが作品やパフォーマンスで競い、権田さんのクラスが総合優勝を果たした。表彰状を受け取った代表者は自分の席には戻らず、権田さんの腕にそっと挟んで持たせた。

　「この４年間は軽くない。淡路島から毎日、送迎を続けたお母さん、支える人たち、強い思いでつながった。本人の意思を尊重し、子どもを自立させていく姿に学ぶことが多かった」と平通裕美校長は話す。

　支援者の凪裕之さんも「体重が３０キロしかない祐也が４年間ほとんど休まなかったのは、友だちと一緒にいたい、という強い欲求だ」とし「障害のある生徒が支援を受けて普通校に通うのは決して勝手なことではない。それが当たり前の社会になってほしい」と願う。

　最後の試験を受ける１月末。「３修制」制度を使い３年間で卒業した元クラスメートの女性から、由記子さんの携帯電話にメッセージが届いた。「１日には、バイト休んで卒業式行くね。だから、ゆうやも試験がんばりやー」。画面を見て、権田さんはうれしそうにうなずいた。

　【障害者差別解消法】障害のある人もない人も分け隔てなく暮らせる共生社会の実現を目指し、２０１６年４月に施行された。行政機関や民間事業者に障害を理由にした不当な差別を禁止。障害者が助けを求めた場合、意思を伝え合うためにタブレット端末を使ったり、車いすを補助したりする「合理的配慮」が国や地方自治体に義務付けられた。