SFの父、ハーバート・ジョージ・ウェルズが1895年に発表した小説「タイムマシン」がヒットし、時間旅行が可能なタイムマシンという概念が世に広まりました。
このタイムマシンを、たくさんの作家が使ったからこそ、「タイムマシンもの」というジャンルが成立したのです。
かの名作映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や漫画『ドラえもん』もハーバート・ジョージ・ウェルズの恩恵を受けて生まれたと言えるでしょう。
また、記憶喪失という病気は現実社会では非常に珍しいですが、フィクションの世界ではおもしろいドラマを作るのにとても都合が良いことから、記憶喪失の主人公やヒロインがごろごろしています。
異世界に迷い込んだり召還されたりする少年少女も、ポピュラーな失踪事件として定着するんじゃないかと心配になるくらい大量に存在します。
謎の美少女と突然、一つ屋根の下に同居することになった幸せ野郎も一体何人いるのやら……
どうして、俺のところに来ないのでしょうかね!?
これらはすべて『お約束』とされて、設定が被るのが認められたものです。
使ってもパクリとして叩かれることはまずありません。
設定が被るのは一部なら認められるのです。
ただし、あまりに一つの作品との類似点が多いと、盗作と見なされる危険が高くなります。
例えば、間瀬元朗氏の漫画『イキガミ』は、2005年の連載開始時に、星新一氏の『生活維持省』に内容が酷似していることが問題視されました。
『イキガミ』と『生活維持省』は、国家による殺人が制度化されたディストピアを舞台にした作品です。
国家はランダムに選んだ国民に一方的に死を通告し、殺人を実行します。
国家による殺人の目的が、一方が、国民に生命の尊さを教えること、もう一方が、人口抑制という違いがあります。
これだけなら許されたでしょうが、この他、主人公が被害者に死を伝える国家公務員であるなど、キャラクターにも共通点が見られました。
盗作疑惑を持たれる際に重要なのが、この点です。
ストーリーの一部だけ、キャラクターの一部だけ、世界観の一部だけが被っているのなら良いのですが、ストーリー、キャラクター、世界観の三要素の複数に共通点が存在すると、盗作疑惑を持たれやすくなります。
星新一氏の娘、星マリナ氏は、イキガミの出版元である小学館に、これは盗作であると抗議を送ったところ、小学館は以下のように回答しました。
「もし似ているのであれば、それは偶然の一致であり、
『イキガミ』関係者が事前に『生活維持省』を読んだという事実はありません。
よって、盗作にはあたらず、イキガミ関係者に非はありません」
星マリナ氏は、これを不服としてネットで抗議活動を行っています。
ただ、『生活維持省』自体が、アメリカのSF作家ロバート・シルヴァーバーグの作品『生と死の支配者』に酷似していることが後に判明し、問題は訴訟にまでは発展せず、うやむやのままになっています。
ライトノベルでは、吉田直氏の『トリニティ・ブラッド』が、菊地秀行氏の人気作『ヴァンパイアハンターD』と世界観が酷似していたため、連載開始直後からパクリと言われて叩かれました。
両作品は、はるか未来を舞台にした吸血鬼物です。
大きな共通点として、
1・大戦によって失われたオーバーテクノロジーの存在。(世界観の共通性)
2・主人公が吸血鬼の王的存在であり、吸血鬼狩りを生業にしている。(キャラクターの類似性)
3・吸血鬼は貴族と呼ばれる支配階級(世界観の共通性)。
といった要素があります。
世界観と、主人公の設定の二つに大きな類似性があったわけです。
また、類似していたのが、ライトノベル界の吸血鬼物の元祖とも言うべき人気作だったのも叩かれる要因となりました。
私は、実際に両者を読み比べてみましたが、確かにパクリと呼ばれても仕方ないと思われるくらい、世界観が似通っていました。
だた、ストーリーやキャラクターの性格等はは、まったく別物であり、『トリニティ・ブラッド』には、キリスト教的な宗教要素が入っていたので、盗作とは言えないだろうと感じました。
出版社や読者の総意も最終的にはそうであったらしく、この作品は絶版、回収という措置を受けずに済んでいます。
携帯版サイト・QRコード
当サイトはおもしろいライトノベルの書き方をみんなで考え、研究する場です。
相談、質問をされたい方は、創作相談用掲示板よりお願いします。