価値観の相違
続きます。
「え、えぇっ……!? 兄妹でカップルになれるんですか!?」
「なれるんですよ」
「なれねぇよ」
「そこまでは……」
正直なところ、
「…………どう思おうが有希ちゃんの自由だけどさ、
「もちろん、
「霊長類ヒト科の女性に分類される生物も
「は?」
「『は』じゃねぇ」
「むぅ……」
さっき女狐とか言ってたし、さては佐々木と違う生き物を人間として見てねぇな?
佐々木がモテるあまり、有希ちゃんがヤンデレ化してあいつがいきなり学校に来なくなる分にはまだ良い。あいつが意識する人間───
「……ウザいこと訊いていい?」
「それがもうウザいんですけど」
「中学に良いなって思う男子居ないの?」
「女子中ですけど」
「あ」
そうじゃん……
「何ですかその目は……別に共学だったとしても変わりませんよ。男子なんて『うんち』と『おちんちん』の二語でずっと盛り上がってるガキじゃないですか」
「偏見にもほどがある……! 有希ちゃんの中の男子像、小学生で止まってるからっ」
「コ、コウくんだってもっとお上品ですよっ!」
「ぁぅ……」
『うんち』はともかく、いきなり女子の口から『おちんちん』なんて言葉出てきたらビックリするわ。笹木さんの弟の
あとこの中じゃ一ノ瀬さんが一番耐性が無さそうだ───閃いた。
「テレビでイケメンなんて騒がれてる人も髪型だけで、お兄ちゃんの方が格好良いですし」
「うっ……!」
入学当時、ワックスで髪を良い感じに整えただけで「あれ? 結構イケてるんじゃね?」なんて勘違いしてた俺にぶっ刺さる……。女子の生の声───それも年下の子に言われるとかなりの攻撃力がある。
「そもそも! お兄ちゃんより格好良い男の人が居ないんですよ! だから私がお兄ちゃんを好きになるのは当然の事なんです!」
「…………うーん」
…………あれ? これ、聞いてる限りじゃまだ遅くはないんじゃないか?
誰かに恋をしてもおかしくない年頃になってから有希ちゃんはまだ外界の男と接していないわけだ。これから共学の高校に入学して小学生から変貌を遂げた男子に触れるかもしれないわけで。同じ小学校だった男子と三年ぶりに再会して「あ、あの時の……!」なんて運命的な再会が待ってるかもしれない。
こういうブラコンに限って「ち、違う……! 私が好きなのはお兄ちゃんだけなんだから……!」なんて抑え切れない感情が理解できず気付かないまま相手を好きになって行くタイプの甘酸っぱい青春を過ごすんだよ。夏川で脳内再生興奮不可避。
有希ちゃんの青春がこれからだと考えると、今すぐ佐々木との距離を考えさせるのは時期尚早かな……。何なら考えさせた結果がアレだからな……下手に刺激せず、有希ちゃんに
「ちなみに佐城さんはありえません」
「ちなまなくて良いんだよ。わざわざ俺の敗北記録更新すんな」
「は、敗北記録……」
全戦全敗。そろそろ生んでくれた親に謝らないといけない。いっその事もうあんパンで良いから定期的に顔交換したい。顔の一部を分けて胃袋つかむ戦法で行くから。お肌のケアも要らないしオススメ。強いて言うなら風呂入るとき外さないといけないくらい。
「……まぁ何にせよ、元気になったみたいで良かったよ」
「そ、そうですね」
「……」
笹木さんがまるで何事もなかったかのように頷く。言葉の裏に「私は何も聞いていない」という気配がした。聞かなかったフリできるなら俺もそうしたい。一ノ瀬さんは茫然自失と言った感じに口をポカンと開けて固まっていた。
有希ちゃんが調子を取り戻しつつある。こんな校舎裏の東屋に居るなんて聞いたときは何事かと思ったけど、実際まだ佐々木に決定的な何かがあったわけじゃないし、思ったより有希ちゃんが平気そうで良かった。結果オーライ、これ以上の闇を知って精神的に疲れる前に引くとしよう。深淵を覗き込んだら深淵が容赦なくぶん殴って来るからな。
「───は? 良くありません。お兄ちゃんに近付く女狐問題がまだ残ってます」
「それをどうにかするのは有希ちゃんじゃなくて佐々木自身なんだよな」
顔を真っ赤にしてた佐々木が
「佐々木だけならともかく、その知り合いにまで干渉してるとあいつに嫌われるぞ」
「ぐぬぬ……」
俺からしてもこの厄介さ。たぶん佐々木なんかはもっと有希ちゃんに
「…………そういう佐城さんの方はどうなんですか」
「は……?」
「前に、お姉さんが居ると言っていました」
もともと佐々木だけを目的にスマホのやり取りで俺と繋がってる有希ちゃん。だけど男の話で盛り上がるなんて俺にとっちゃ苦痛でしかない。
「えっ……!? 佐城先輩、お姉さんが居るんですか!?」
「居るんだよ、それが……」
「……なんで、残念そう………?」
珍しく一ノ瀬さんからツッコミが入った。仕方ないじゃない、優しくされた数より泣かされた数の方が多いんだから。笹木さんとのチェンジを願う。この際もう年下のお姉ちゃんでも構わない。俺は
「例えば、佐城さんのお姉さんにどこの馬の骨とも分からない男の人が近付いてきたとします」
「馬の骨」
現代のJCの口から中々飛び出してこない言葉だな。それだけ日頃から佐々木に近付く女子に対してそう思ってるんだろう。もしかしたら頭の中ではもっとイマドキの言い方をしてるかもしれない。馬ボーンとか。
それにしても姉貴に男……か。生徒会のK4のイメージが強すぎる。でもそれだと馬ボーンの
「どんな人かも分からないのに、あまつさえその人と付き合うとか言うんですよ? 弟としてそんなの心配じゃないですか?」
「いや?」
「…………またまた」
「や、冗談とかじゃなくて」
「自分のお姉さんですよ?」
「おう」
「どうも思わないなんて……そんなわけ」
「あるんだな」
「薄情だとは?」
「別に」
「少しくらいは」
「思ってない」
「……本当は?」
「誰かもらってください」
「嘘です!!」
や、マジでマジで。
嘘じゃないって。