「領土問題に危機感を」ウクライナ人女性、日本の若者に訴え
産経ニュース / 2023年2月21日 10時0分
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく1年。東京都内で避難生活を送るウクライナ人女性通訳、ヤーナ・グサクさん(31)は約半年前から都内の語学学校に通い、日本語を学んでいる。かつて祖国の危機をうすうす感じながらも、「無関心を装っていた」とするヤーナさん。日本も領土問題を抱えるが、日本の若者が当時の自身の姿と重なるといい、「もっと危機感を持って」と訴える。
信じたくなかった危機
「2・24」のロシアによる侵攻開始の数カ月前。ヤーナさんは、緊急事態が発生した場合、国外退避の手段となる車両をどう手配すべきかなどに関する翻訳業務を、サイバーセキュリティー関連の関係者から依頼されていた。
有事が迫っている。「思えばこの仕事をきっかけに、ロシアがウクライナへ侵攻する日が近づいているのを肌で感じていた」と振り返る。「でも、信じたくなかった。平和で何事もない日常がいつまでも続いてほしかったから…」。危機を直感し、何か行動を起こそうとも思わなかった。
だが、嫌な予感は的中した。ロシアによる侵攻初日、暮らしていた首都キーウの自宅から大きな爆撃音が何度も聞こえた。
「何が起きているの。敵はどこまで迫っているのか」。恐怖に震えるしかなかった。
翌日、両親のいる実家に退避した。ウクライナの戦況を海外に報道するため、通訳のボランティアを名乗り出た。「通訳としてスキルアップを図ることで、母国を支えることができる」。こうした思いもあり、単身でスペインに避難。その後、昨年7月、幼少時代にアニメで親しみ、侵攻前に交換留学した経験もあった日本にたどり着いた。
ウクライナ語をはじめ、ロシア語や英語、スペイン語を操るヤーナさんは現在、遠隔で通訳業務を続けながら毎日、都内の語学学校に通う。「英語由来のカタカナ言葉があるけれど、発音が全く違うから難しいと感じることもある。でも、楽しんで学んでいる」と話す。
政治に無関心ではいけない
一方、日本国内の旅行先で、ロシア人の家族が楽しそうに過ごす様子を見ると、胸が痛む。
「ロシア国民全員が悪いんじゃない」。こうした理屈を素直に受け入れられないという。「ウクライナ人を苦しめるプーチン政権を誕生させたのは紛れもなく、ロシア国民なんだから」との思いがあるからだ。
ロシアとの間で領土問題を抱える日本人の危機意識の薄さにも歯がゆさを抱く。「私自身、2014年のクリミア併合をひとごとだと思っていたから、日本人の感覚がわからないわけではない」。ヤーナさんは自戒を込めつつ、「でも、対話による平和交渉で問題が解決できる国ばかりじゃない。実際、ロシアがそうだった」と指摘する。
その上でヤーナさんは訴える。「想像してほしい。ある日突然、どこかの国が日本へ侵攻し、日本の国旗も言葉も、そして日本人として生きた自分の名前も、別の国のものに変わってしまう事態を…。ウクライナ人はその現実が差し迫る中で苦しんでいる」
迫る危機を予感しながらも平和を享受し、行動を起こさなかった自身への反省があるからこそ、訴える言葉は強い。
「プーチン大統領を誕生させたのはロシア国民。一国の平和はその国のトップが左右するのだから、日本の若者も将来を担う責任者として、政治に無関心ではいけない。積極的に関与すべきだ」。ヤーナさんは日本の若年層にメッセージを送る。(植木裕香子)
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