最新更新日2021/06/03☆☆☆
数ある漫画の中でも、格闘技漫画は男性読者が最も胸躍らせるジャンルの一つです。しかも、ボクシングや柔道といった競技スポーツではなく、なんでもありのファイトの場合はさまざまな闘い方が考えられ、どこまでも想像力がふくらんでいきます。そこで、今回は格闘技漫画の中から、ストリートファイト・異種格闘技戦・総合格闘技などといった、なるべくなんでもありに近いスタイルの作品をピックアップして紹介していきます。ただし、主人公が武器を持って闘ったり、超能力の類を使ったりするものは対象外です。あらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします
※西暦表記は連載を開始した(描き下ろしの場合は単行本の初巻を発売した)年です。
1971年
空手バカ一代(原作:梶原一騎/作画:つのだじろう、影丸譲也)
1945年。特攻隊の生き残りである大山倍達はヤクザの用心棒をしながら生計を立てていたが、吉川英治の『宮本武蔵』に感銘を受けて一念奮起。空手の道を究めようと山籠りを行う。厳しい修行を経て山を下りた大山は、その成果を確かめるべく戦後初めて行われた日本空手選手権に出場する。ところが、予想以上にあっさりと優勝してしまい、拍子抜けしてしまうのだった。現代の空手は負傷を恐れるあまり寸止めルールを徹底した結果、武道としての本質をすっかり失っていたのだ。大山はそんな現状を空手ダンスと揶揄し、空手界を敵に回してしまう。空手界から追放された大山は本当の空手の強さを証明するべく牛や熊と戦い、さらには、渡米してプロレスラーやボクサーと死闘を繰り広げていくが......。
◆◆◆◆◆◆
1972年
ボディガード牙(原作:梶原一騎/作画:中城健)
◆◆◆◆◆◆
空手バカ一代と同じく、大山倍達や極真空手をモデルにした格闘技漫画です。ただし、空手バカ一代が実録漫画の体裁を取っていたのに対して、本作はあくまでもフィクションとして描かれている点に大きな違いがあります。しかも、対象読者が少年から大人へと変わったため、過激な描写が大幅に増えているのが特徴です。ちなみに、この『ボディガード牙』には続編として『カラテ地獄変・牙』『新カラテ地獄変』があり、全3部作になっているのですが、新しくなるほど作中では時代をさかのぼっていくという変則的な構成をとっています。そのため、復刻版では時系列順に並べ直し、牙直人の師匠である大東徹源の若き日を描いた『新カラテ地獄変』が『正編カラテ地獄変』、牙直人が空手の修行をしてボディガードになるまでを描いた『カラテ地獄変・牙』が『カラテ地獄変』、そして、『ボディガード牙』が『続・カラテ地獄変』となっている場合もあるので注意が必要です。なお、肝心の内容のほうですが、最初の『ボディガード牙』は正直それほど面白くありません。絵柄が不安定であり、アピールポイントであるはずのバイオレンスシーンも今ひとつ地味でどうにも中途半端なのです。それが、牙直人の過酷な過去を描いた『カラテ地獄変・牙』からぐっと面白くなります。過激なバイオレンスシーンに加えて、牙直人が最初に空手を教わる女空手家の火野原奈美が作品に鮮烈な印象を与えてくれます。そして、『新カラテ地獄変』は主人公のモデルが大山倍達であるため、空手バカ一代と重複するところが多いのですが、それはあくまでも表面的なものにすぎません。梶原一騎が荒れていた時期に描かれた作品だけあって、その大仰な台詞回しや大げさなストーリー展開はあまりにも突き抜けており、カルト漫画の域に達しています。格闘技漫画というよりは残酷ショーの見世物といった感じで、レイプや拷問シーンなどは当たり前にあるうえに人が死にまくります。正直、ここまでくると格闘技漫画としてはどうかという感じですが、インパクトだけは十分なので刺激的な漫画が読みたいという人は挑戦してみてはいかがでしょうか。
1977年
空手三国志(原作:古山寛/作画:峰岸とおる)
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梶原一騎が極真空手をモデルにした団体を主人公サイドに配置していたのと異なり、主人公のライバル的存在として配置したのが当時としては新鮮でした。ただ、徹心館の空手家と主人公が激闘を繰り広げるのかと思えばそれは最初のうちだけで、中国武術の達人やコンピューター空手の異名を取る男などが登場して『空手三国志』というタイトルからはどんどん話がそれていきます。それでも、敵のキャラがいちいち立ちまくっているので格闘技漫画としてはかなりの面白さです。ちなみに、本作は一度連載を終了したのちに再評価の波を受け、1991年に第2部が『新空手三国志』のタイトルで始まりますが、インチキ気功師と戦ったりして、ますます『空手三国志』のイメージからは遠ざかってしまうことになります。作品自体も第1部のような勢いに欠け、何より空白の10年間で格闘技界の状況が大きく変化したため、漫画の内容が古くさく感じられてしまうのが痛いところです。結局、第2部は元傭兵の格闘家と戦っている最中に雑誌が廃刊となってしまったため、打ち切りの憂き目を見ることになります。
1978年
四角いジャングル(原作:梶原一騎/作画:中城健)
若き空手家、赤星潮は行方不明の兄を追ってアメリカに渡り、そこでマーシャルアーツの強さを目の当たりにする。やがて彼は天才格闘家、ベニー・ユキーデが兄を倒したことを知り、打倒ユキーデに燃えるが......。
連載当初は架空の人物である潮を実在の人物と絡ませるという『巨人の星』や『タイガーマスク』に似た方式をとっていたのですが、途中から話の焦点がアントニオ猪木の異種格闘技戦に移り、主人公のはずの潮は完全に傍観者となってしまうという異色の展開を見せます。そういう意味では完全な迷走状態にある作品だといえるのですが、ユニークなのは現実世界での異種格闘技戦に原作者である梶原一騎自身が関わっていたという点です。そのため、本作は異種格闘技戦を盛り上げるためのプロモーションの役割も果たしており、リアルタイムで現実と漫画がリンクしていくという独特の面白さがありました。とはいっても、漫画で描かれていることは決して現実そのものというわけではなく、嘘や誇張がかなり混じっています。たとえば、アントニオ猪木の対戦相手として漫画では散々強キャラ感を煽っていた謎の覆面空手家・ミスターXが現実世界では単なる木偶の坊だったなどというのがその代表例です。作中ではニセモノ説などを出してフォローしていましたが、さすがに苦しいものがあります。しかし、そんな漫画と現実との齟齬を確認しながら読んでいくのも本作の楽しみの一つだったりします。虚実が入り混じった、ある意味、梶原イズムの真骨頂とでもいうべき作品です。
1979年
人間兇器(原作:梶原一騎/作画:中野善雄)
美影義人は子どもの頃から喧嘩に明け暮れ、ついには少年院送りになる。そこでボスとして君臨していた剣持浩介にシメられるも、卑怯な手を使って復讐を果たし、出所後はゴッドハンドこと大元烈山率いる実戦空手・空心館に入門する。力で他者を屈服させる人間兇器となるためだ。メキメキと腕を上げて黒帯を得た美影は空心館と対立する空手団体旭掌拳への鉄砲玉として鹿児島に派遣され、そこで盲目の天才空手家で旭掌拳の女当主である朝比奈薫子と運命の出会いを果たす。聖女のような薫子に心奪われた美影は、自分をかばって失神した彼女を強姦して我がものとする。しかし、薫子の妊娠や彼女の幼なじみで拳鬼と呼ばれる桔梗十八郎から命を狙われていることを知ると逃げるように空心館アメリカ支部へ指導員として赴任するのだった。そして、自らの野望の足がかりとしてアメリカ支部長の座を目指すも、慢心から大元烈山の怒りを買い、逆恨みをした美影は空心館に反旗を翻すが.......。
◆◆◆◆◆◆美影義人は子どもの頃から喧嘩に明け暮れ、ついには少年院送りになる。そこでボスとして君臨していた剣持浩介にシメられるも、卑怯な手を使って復讐を果たし、出所後はゴッドハンドこと大元烈山率いる実戦空手・空心館に入門する。力で他者を屈服させる人間兇器となるためだ。メキメキと腕を上げて黒帯を得た美影は空心館と対立する空手団体旭掌拳への鉄砲玉として鹿児島に派遣され、そこで盲目の天才空手家で旭掌拳の女当主である朝比奈薫子と運命の出会いを果たす。聖女のような薫子に心奪われた美影は、自分をかばって失神した彼女を強姦して我がものとする。しかし、薫子の妊娠や彼女の幼なじみで拳鬼と呼ばれる桔梗十八郎から命を狙われていることを知ると逃げるように空心館アメリカ支部へ指導員として赴任するのだった。そして、自らの野望の足がかりとしてアメリカ支部長の座を目指すも、慢心から大元烈山の怒りを買い、逆恨みをした美影は空心館に反旗を翻すが.......。
これもまた大山倍達と極真空手をモデルとした格闘技漫画ですが、本作が異彩を放っているのは主人公の美影義人が悪人であるという点です。しかも、ダークヒーローやアンチヒーローなどといったカッコイイ立ち位置ではなく、徹頭徹尾人間のクズとして描かれているのです。自分より強い相手には土下座して命乞いをする一方で、弱い相手は徹底的にいたぶります。特に、気の強い美女が大好物で、何かというと浣腸レイプで屈服させて自分の性奴隷にしようとするとんでもなさです。そのうえ、格闘技漫画の主人公としても微妙で、強い相手をなぎ倒すカッコイイシーンなどほとんどありません。ゴットハンドこと大元烈山に後継者と目されるほど空手の才能に恵まれてはいるのですが、強敵が出てくるといつもあっさりとやられてしまいます。彼の空手が役に立つのは雑魚キャラに対してと女を屈服させるときぐらいです。タイマン勝負でまともな見せ場といえば、旭掌拳一門で大元烈山の高弟でもある桔梗十八郎と対峙する序盤のシーンぐらいではないでしょうか。その代わり、格闘技漫画としての体裁を整えてくれるのが、大元烈山です。ルー・テーズ、アンドレ・ザ・ジャイアント、カール・ゴッチといったレジェンド級のプロレスラーをモデルとした強敵たちと死闘を繰り広げ、それが大きな見せ場となっています。一方、その死闘の傍らでレイプにいそしむ主人公。一読して、忘れ難い印象を残す異形としかいいようのない怪作です。
1982年
コータローまかりとおる!(蛭田達也)
新堂空手道場の跡取り息子で高校2年生の新堂功太郎はのぞきが趣味のトラブルメーカー。しかも、校則違反の長髪であることから、いつも風紀委員特別機動隊隊長の天光寺と幼なじみで風紀委員第七班長の渡瀬真由美に追いかけられていた。そんなある日、功太郎は学園を裏で操る蛇骨会の後継者争いに巻き込まれることになり........。
◆◆◆◆◆◆
70年代に全盛を誇った劇画調の格闘技漫画ではなく、ギャグやラブコメ要素を交えた軽いタッチなのがいかにも80年代であり、時代の変化を感じさせてくれます。そのため、本作は必ずしも格闘技オンリーの作品とはいえず、バンドをしたりと結構横道にそれることも多いのですが、それでも格闘シーンはなかなかの迫力です。最初は荒かった絵も巻を追うごとにどんどん上手くなっていきました。特に、後百太郎や犬島鉄平といった強敵との激戦が繰り広げられる第4部及び第5部の格闘大会編はこれぞ王道格闘技漫画というべき面白さに満ちています。なお、『コータローまかりとおる!』自体は全7部59巻で完結しますが、続いて『新コータローまかりとおる!柔道編』が連載され、こちらは全27巻が発売されています。タイトル通り柔道漫画であり、これはこれでまた違った面白さがあります。ただ、やっぱり殴り合いや派手な蹴りを決めてこそのコータローということでどこか物足りないものがあったのも確かです。そのため、シリーズ完結編と銘打たれた『コータローまかりとおる!L』に期待が集まったのですが、長期に及ぶ病気療養のため、わずか8巻で打ち切りとなってしまいました。話が核心に近づき、盛り上がってきたところだっただけに非常に残念です。
新堂空手道場の跡取り息子で高校2年生の新堂功太郎はのぞきが趣味のトラブルメーカー。しかも、校則違反の長髪であることから、いつも風紀委員特別機動隊隊長の天光寺と幼なじみで風紀委員第七班長の渡瀬真由美に追いかけられていた。そんなある日、功太郎は学園を裏で操る蛇骨会の後継者争いに巻き込まれることになり........。
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70年代に全盛を誇った劇画調の格闘技漫画ではなく、ギャグやラブコメ要素を交えた軽いタッチなのがいかにも80年代であり、時代の変化を感じさせてくれます。そのため、本作は必ずしも格闘技オンリーの作品とはいえず、バンドをしたりと結構横道にそれることも多いのですが、それでも格闘シーンはなかなかの迫力です。最初は荒かった絵も巻を追うごとにどんどん上手くなっていきました。特に、後百太郎や犬島鉄平といった強敵との激戦が繰り広げられる第4部及び第5部の格闘大会編はこれぞ王道格闘技漫画というべき面白さに満ちています。なお、『コータローまかりとおる!』自体は全7部59巻で完結しますが、続いて『新コータローまかりとおる!柔道編』が連載され、こちらは全27巻が発売されています。タイトル通り柔道漫画であり、これはこれでまた違った面白さがあります。ただ、やっぱり殴り合いや派手な蹴りを決めてこそのコータローということでどこか物足りないものがあったのも確かです。そのため、シリーズ完結編と銘打たれた『コータローまかりとおる!L』に期待が集まったのですが、長期に及ぶ病気療養のため、わずか8巻で打ち切りとなってしまいました。話が核心に近づき、盛り上がってきたところだっただけに非常に残念です。
1983年
鉄拳チンミ(前川たけし)
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意外と珍しい中国武術をテーマにした格闘技漫画です。おそらく当時人気の高かったジャッキー・チェン映画の影響だと思われますが、序盤はコメディ要素が全面に押し出されていました。しかし、次第に自分のスタイルを築きあげ、唯一無二の作風を確立していきます。本作の読みどころといえば、なんといっても次々と登場する手強い拳法家に対し、チンミがいかにして勝利していくかです。敵の用いる拳法はどれもインパクトがあるため、ワクワクしながら読むことができます。絵柄は劇画調のギラついた感じではなくすっきりとしており、話のテンポもよくて読みやすいという点も美点だといえるでしょう。なお、『鉄拳チンミ』は中国全土の拳法家が集まって武芸を競う、天覧武道会編を最後に終了しましたが、シリーズ自体は『新鉄拳チンミ』『鉄拳チンミ Legends』とタイトルを変えながら描き続けられています。40年近いシリーズ連載を誇る格闘技漫画随一の長寿作品です。
1985年
押忍!!空手部(高橋幸二)
中学生のときは美術部で腕っ節もからっきしだった松下正は、大阪でも指折りの不良校である関西第五工業高等学校(通称・関五工)に入学したために粗暴なクラスメイトたちからイジメを受けることになる。彼はイジメに負けない強さを身に付けたくて、悪名高い空手部に入部する。そこで理不尽なシゴキに耐えながらも、正義感の強い主将の高木義志のもとで少しずつたくましくなっていくのだった。一方、高木はその強さ故に近隣校の不良たちから首を狙われていた。自慢の空手で立ちふさがる不良たちを返り討ちにしてきた高木だったが、次第に大きな抗争に巻き込まれることになる。その端緒となったのが神戸との抗争だった。神戸の三本柱と呼ばれる末永禅、龍隆・虎隆兄弟、リック・パワードは神戸軍団を結成し、大阪を支配下に置くべく、総攻撃を仕掛けてくるが...。
◆◆◆◆◆◆
本作は連載当初、松下正を主人公にした部活ものでした。同じ年に連載が始まった『柔道部物語』に不良漫画の要素を加えて、ギャグをどぎつくしたような感じです。しかし、早々に路線変更が行われ、主人公を高木にしたうえで不良抗争漫画へとジョブチェンジしています。しかし、他の不良ものと大きく異なるのは主要キャラの多くが格闘技経験者であるために、図らずも異種格闘技漫画の色が濃くなっているという点です。まず、空手家同士の闘いからはじまり、太極拳・柔道・刀術・蟷螂拳・少林寺拳法といった具合に、さまざまな格闘技の使い手と死闘を繰り広げることになります。なお、タイトルは『押忍!!空手部』ですが、高木がさまざまな拳法を習得していき、部活の描写も序盤を除いてほとんどないため、途中から空手も空手部も全く関係のない話になっていきます。格闘技の描写に関しても派手さ重視で、間違ってもリアルなどとはいえません。その代わり、次々と強敵が現れる展開は、ハッタリの効いたバトル漫画として抜群の面白さです。ただ、強さのインフレが尋常ではなく、不良格闘マンガのはずが暴力団や政治家が介入してくる終盤には、ファンタジーバトルの域にまで達したのは賛否が分かれるところです。後半を楽しむには頭の切り替えが必要かもしれません。
押忍!!空手部(高橋幸二)
中学生のときは美術部で腕っ節もからっきしだった松下正は、大阪でも指折りの不良校である関西第五工業高等学校(通称・関五工)に入学したために粗暴なクラスメイトたちからイジメを受けることになる。彼はイジメに負けない強さを身に付けたくて、悪名高い空手部に入部する。そこで理不尽なシゴキに耐えながらも、正義感の強い主将の高木義志のもとで少しずつたくましくなっていくのだった。一方、高木はその強さ故に近隣校の不良たちから首を狙われていた。自慢の空手で立ちふさがる不良たちを返り討ちにしてきた高木だったが、次第に大きな抗争に巻き込まれることになる。その端緒となったのが神戸との抗争だった。神戸の三本柱と呼ばれる末永禅、龍隆・虎隆兄弟、リック・パワードは神戸軍団を結成し、大阪を支配下に置くべく、総攻撃を仕掛けてくるが...。
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本作は連載当初、松下正を主人公にした部活ものでした。同じ年に連載が始まった『柔道部物語』に不良漫画の要素を加えて、ギャグをどぎつくしたような感じです。しかし、早々に路線変更が行われ、主人公を高木にしたうえで不良抗争漫画へとジョブチェンジしています。しかし、他の不良ものと大きく異なるのは主要キャラの多くが格闘技経験者であるために、図らずも異種格闘技漫画の色が濃くなっているという点です。まず、空手家同士の闘いからはじまり、太極拳・柔道・刀術・蟷螂拳・少林寺拳法といった具合に、さまざまな格闘技の使い手と死闘を繰り広げることになります。なお、タイトルは『押忍!!空手部』ですが、高木がさまざまな拳法を習得していき、部活の描写も序盤を除いてほとんどないため、途中から空手も空手部も全く関係のない話になっていきます。格闘技の描写に関しても派手さ重視で、間違ってもリアルなどとはいえません。その代わり、次々と強敵が現れる展開は、ハッタリの効いたバトル漫画として抜群の面白さです。ただ、強さのインフレが尋常ではなく、不良格闘マンガのはずが暴力団や政治家が介入してくる終盤には、ファンタジーバトルの域にまで達したのは賛否が分かれるところです。後半を楽しむには頭の切り替えが必要かもしれません。
1986年
闘翔ボーイ(竜崎遼児)
篁大介は甲子園を沸かせた剛腕投手。その進路が注目される中、彼が逆指名したのはなんと”新東京プロレス”だった。野球からプロレスへの転向に周囲が唖然とする中、大介は新東京プロレスの社長であり、最強の格闘家との呼び声高い海王完二の打倒を宣言するのだった。その態度のでかさによって多くの人間を敵に回すことになり、大介は新東京プロレスの先輩から手荒い歓迎を受ける。だが、一度受けた技は即座にコピーしてしまうという”形状記憶”を武器に次々と現れる難敵に立ち向かっていくのだった。◆◆◆◆◆◆
80年代の半ばになると、70年代の格闘技ブームを牽引していた極真空手やアントニオ猪木の異種格闘技戦とは異なる、新しい格闘技の波が訪れます。その波をいち早く漫画に取り入れたのが本作です。元高校球児という異色のプロレスラーを主人公に据え、UWF、骨法、シュートボクシングといった格闘技界の最先端のトピックスを盛り込んでいくことで、既存の格闘技漫画とは異なるカラーを出すことに成功しています。また、現代の読者にとっても、ライバルキャラの一人一人が80年代を代表する格闘スタイルで闘うため、当時の格闘技事情を知るには格好の教科書だといえます。全9巻と手ごろな長さなので、暇つぶしに読むにはもってこいです。
1987年
修羅の門(川原正敏)
実戦空手の総本山である神武館。その館長の孫娘、龍造寺舞子は通りすがりの少年に神武館道場の場所を尋ねられる。入門者だと思って案内をしたところ、毅波秀明と名乗る道場破りが指導員を倒し、看板を持って帰ろうとしている現場に出くわす。館長の孫娘という立場から黙って見過ごすわけにはいかないと、舞子が毅波に対戦を申し込むが、実力差は明らかだった。そのとき、少年が自分が闘うと言い出し、見た事もない格闘術で毅波を打ち破る。少年の名は陸奥九十九といい、千年不敗を誇る陸奥圓明流の伝承者だったのだ。そして、彼もまた神武館に道場破りをしにきたという。その話を聞いた神武館の四強、四鬼龍が神武館本部に集い、九十九と戦うことになるが......。
◆◆◆◆◆◆実戦空手の総本山である神武館。その館長の孫娘、龍造寺舞子は通りすがりの少年に神武館道場の場所を尋ねられる。入門者だと思って案内をしたところ、毅波秀明と名乗る道場破りが指導員を倒し、看板を持って帰ろうとしている現場に出くわす。館長の孫娘という立場から黙って見過ごすわけにはいかないと、舞子が毅波に対戦を申し込むが、実力差は明らかだった。そのとき、少年が自分が闘うと言い出し、見た事もない格闘術で毅波を打ち破る。少年の名は陸奥九十九といい、千年不敗を誇る陸奥圓明流の伝承者だったのだ。そして、彼もまた神武館に道場破りをしにきたという。その話を聞いた神武館の四強、四鬼龍が神武館本部に集い、九十九と戦うことになるが......。
異種格闘技戦を扱った漫画としては最高峰の一つに挙げられている作品です。もっとも、淡泊な絵柄にシンプルすぎるコマ割りと、格闘技漫画に必要不可欠なダイナニズムにはおそろしく欠ける作風であり、特に、初期の絵柄はラブコメ風ですらあります。しかし、それにも関わらず、この作品は格闘技漫画としての面白さに満ちていました。本作のバトルは基本的にトーナメント方式です。勝ち進むたびにより強い敵が現れ、闘いもより激しさを増していく。そのシンプルな構造が読む者をワクワクさせたのです。ちなみに、登場する対戦相手は『闘翔ボーイ』と同じく、UWF、シュートボクシング、ブラジリアン柔術といった具合に現実での格闘技事情を反映しています。こうした実在する格闘技と架空の武術である陸奥圓明流がいかなる闘いを繰り広げるのかというのが本作の大きな見どころです。中でも、ブラジリアン柔術を初めて本格的に漫画で扱い、死闘を演じさせたのは特筆に値します。こうして高い人気を得ることになった『修羅の門』ですが、多くの伏線を残したまま、1996年に一旦終了してしまいます。主人公が対戦相手を試合中に殺すというストーリーを一部の読者に非難されたことに対し、作者がショックを受けたのが原因です。物語はこれからというところで打ち切られ、結局、『修羅の門 第弐門』として再開するまでには14年の歳月を待たなくてはなりませんでした。しかも、ブランクが長すぎたせいか、その内容は読者が待ち望んでいたものとは微妙にずれていたのです。それでも、かつての異種格闘技戦とは異なる総合格闘技という競技の中での圓明流の闘いや『修羅の門』の世界には無縁だと思われていた中国拳法の参戦などといった展開はなかなか興味深いものがありました。ただ、多くのファンが切望していた『陸奥九十九VSケンシン・マエダ(回想シーンで処理)』『海堂晃VS 片山右京(台詞で結果が説明されるのみ)』『陸奥九十九VS 海堂晃(海堂が強くなるプロセスや戦いに賭ける想いなどが全く描かれていないので最終決戦にしてはひどく淡泊)』の描写はいずれも不満の残る出来だといわざるをえませんでした。それだけに、もし『修羅の門』が中断されずにそのまま続いていたらどういった展開になっていたかが気になるところです。
1988年
拳児(原作:松田隆智/作画:藤原芳秀)
正義感の強い小学生、剛拳児は八極拳の達人である祖父に憧れ、弟子入りをする。厳しくも優しい祖父の元、拳児はメキメキと腕を上げていった。しかし、ある日、祖父は知人を訪ねて中国に渡り、そのまま消息を絶ってしまう。月日が過ぎ、高校生になった拳児は不良グループの抗争に巻き込まれ、学校から無期停学処分を言い渡される。拳児はこの機会に行方不明になった祖父を探そうと決意し、単身中国に渡るが......。
『鉄拳チンミ』と同じく中国武術を主題にした作品ですが、娯楽活劇に徹しているチンミとは異なり、主人公である拳児の成長を通して中国武術の思想や技術論を描いた作品となっています。バトルシーンは決して少なくないものの、それらはあくまでも副次的な描写にすぎないのです。そのため、本作は読者の生き方にさまざまな示唆を与えてくれる良書である反面、派手な格闘技漫画を期待して読むと戸惑ってしまう可能性があります。とはいうものの、主人公が繰り出す八極拳の技はかなりダイナミックに描かれており、絵の巧さも相まってなかなかの迫力です。通常の格闘技漫画とは少々毛色が違いますが、やはり実戦系の格闘技漫画を語るうえでは外せない作品だといえます。ちなみに、本作は連載終了から26年後の2018年に『拳児2』というタイトルでまさかの続編が発表されました。原作者は既に鬼籍に入っていましたが、作画担当だった藤原芳秀の手によって、見事にその後の『拳児』を描いています。
1989年
餓狼伝(原作:夢枕漠/作画:谷口ジロー)
丹波文七は空手の技を身に付けた屈強な男であり、自らの強さを証明するために道場破りを繰り返していた。だが、25歳のときに東洋プロレスの道場で若手レスラーの梶原年雄に叩きのめされてしまう。プロレスラーのタフネスさと関節技の前になすすべがなかったのだ。文七はリベンジを果たすべく血のにじむような修行に明け暮れる。そして、6年後。関節技をマスターし、さらなる強さを得た文七はメインイベンターとなった梶原に再戦を申し込もうとするが........。
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夢枕漠の小説をコミカライズしたコミック版『餓狼伝』といえば板垣恵介の作品が有名ですが、本作はそれより7年も前に発表されています。原作を大胆に改変し、オリジナルの格闘家を大量に登場させることで派手な面白さを演出した板垣版と異なり、本作はラストを除いて原作にほぼ忠実な作りとなっているのが特徴です。絵柄やコマ割りなどを含め、全体的に地味で渋みさえ感じられる作風ですが、これはこれで板垣版にはない面白さがあります。ファンタジー格闘といった趣の板垣版に対して、こちらは格闘シーンが非常にリアルで、痛みすら伝わってくるのです。流血シーンなども過剰な描写を避けていることで、本物らしさを演出しています。派手さはない代わりに、闘う者の息遣いが感じられる作品となっています。わずか1巻のみの作品ですが、ある意味、リアル系格闘技漫画の頂点に立つ作品の一つだといえるのではないでしょうか。
陸奥圓明流外伝 修羅の刻(川原正敏)
茶屋で麦飯を食べている若い男の前に藩主の子である吉祥丸が駆け込んでくる。それを追ってきた刺客は吉祥丸を斬ろうとするが、偶然居合わせた宮本武蔵が刺客を倒したおかげで窮地を救われるのだった。その事実を知った家老は武蔵に吉祥丸の用心棒になってくれるように頼むが、彼はそれを断り、代わりに麦飯を食べていた八雲という名の男を推挙する。八雲は麦飯代を払ってくれることを条件に用心棒を引き受けるが、どう見ても腕が立つようには見えなかった。しかも、八雲は吉祥丸が実は姫であることを見抜き、刺客に狙われないように女に戻ることをすすめる。彼の不遜な態度に憤り、外に飛び出す吉祥丸だったが、叔父が雇った新たな刺客である裏柳生の一団に取り囲まれてしまう。そのとき、八雲が現れ、自らを陸奥圓明流の伝承者・陸奥八雲だと名乗り、刺客たちを無手で倒していくのだった。八雲は吉祥丸に別れを告げて立ち去るが、その先には宮本武蔵との宿命の対決が待ち受けていた。
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陸奥圓明流の歴代伝承者の生きざまを描いた『修羅の門』の外伝ですが、宮本武蔵、柳生十兵衛、土方歳三といった実在の剣豪、あるいは最強力士の呼び声高い雷電、さらには鉄砲の名手雑賀孫一といった具合に、時空を超えてさまざまなレジェンドと対決をしていくという展開にわくわくします。無手対無手が基本の『修羅の門』とは異なり、刀や鉄砲に無手でどう立ち向かっていくのかといった点が大きな見どころです。また、歴史の大きなうねりに陸奥がどのように関わっていくのかという点も読み応えがあります。格闘技漫画としても歴史漫画としても楽しめる逸品です。ただ、大胆な歴史解釈を取り入れるようなことはせず、昔ながらの歴史解釈に沿って展開しているため、エピソードによっては史実に無理矢理陸奥のエピソードを付け足しているだけと感じる場合もあるかもしれません。ちなみに、個人的に気に入っているエピソードは当時の剣豪が一堂に介する『寛永御前試合編』と親・子・孫と三代の陸奥が登場する『雷電為衛門編』です。一方、多くの人が支持し、一番人気との呼び声が高いエピソードとしては、坂本竜馬との友情や新撰組との対決を描いた『幕末編』が挙げられます。
1991年
破壊王ノリタカ(原作:村田ひでお/作画:刃森尊)
高校1年生の沢村典隆は体が貧弱で根性もないダメ人間だった。それでもクラスメイトの美少女、中山美樹とデートの約束をするまでこぎつけるが、自分の弱さが原因で彼女にケガを負わせ、そのままふられてしまう。このままではいけないと一念奮起した典隆は強くなるために格闘技の部活に入部しようとするが、どの部活でも素質がないといわれ、門前払いをくらう。そんなとき、部員が一人しかいない蹴道部を発見。その部のコーチである丸山から渡されたビデオを見て、すっかりキックボクシングの魅力に夢中になる。蹴道部に入部した典隆は丸山の考案した独自の訓練で秘めた才能を開花させていく。ある日、ボクシング部の副部長である中矢健が中山美穂を強引に口説いているのを見て、助けに入ったことから、典隆は中矢と格闘技の勝負をすることになるが......。
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最初は弱かった主人公が特訓を積み重ねることで次々と現れる強敵を倒していくという少年漫画の王道といった感じの作品です。かなりギャグテイストではあるものの、独自の訓練描写や蘊蓄を伴った格闘描写はそれなりに楽しめます。簡単に強くなりすぎて説得力がないのが難点ですが、その辺りはギャグでうまくカバーしています。ただ、癖のある絵柄については好みが分かれるところです。それに、回を積み重ねるごとにマンネリ化が進み、中盤以降は同じ展開の繰り返しになっているのはいただけません。そして、最後はグダグダのまま終わってしまったのがいかにも残念です。この辺りは途中で原作者がいなくなったのが原因ではないかと考えられています。ちなみに、作者はその後も格闘技漫画を描き続けますが、本作で見せた欠点は次回作以降も繰り返されることになり、『人間凶器カツオ』『霊長類最強伝説ゴリ夫』といった作品では一層マンネリ化がひどくなっていきます。
高校1年生の沢村典隆は体が貧弱で根性もないダメ人間だった。それでもクラスメイトの美少女、中山美樹とデートの約束をするまでこぎつけるが、自分の弱さが原因で彼女にケガを負わせ、そのままふられてしまう。このままではいけないと一念奮起した典隆は強くなるために格闘技の部活に入部しようとするが、どの部活でも素質がないといわれ、門前払いをくらう。そんなとき、部員が一人しかいない蹴道部を発見。その部のコーチである丸山から渡されたビデオを見て、すっかりキックボクシングの魅力に夢中になる。蹴道部に入部した典隆は丸山の考案した独自の訓練で秘めた才能を開花させていく。ある日、ボクシング部の副部長である中矢健が中山美穂を強引に口説いているのを見て、助けに入ったことから、典隆は中矢と格闘技の勝負をすることになるが......。
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最初は弱かった主人公が特訓を積み重ねることで次々と現れる強敵を倒していくという少年漫画の王道といった感じの作品です。かなりギャグテイストではあるものの、独自の訓練描写や蘊蓄を伴った格闘描写はそれなりに楽しめます。簡単に強くなりすぎて説得力がないのが難点ですが、その辺りはギャグでうまくカバーしています。ただ、癖のある絵柄については好みが分かれるところです。それに、回を積み重ねるごとにマンネリ化が進み、中盤以降は同じ展開の繰り返しになっているのはいただけません。そして、最後はグダグダのまま終わってしまったのがいかにも残念です。この辺りは途中で原作者がいなくなったのが原因ではないかと考えられています。ちなみに、作者はその後も格闘技漫画を描き続けますが、本作で見せた欠点は次回作以降も繰り返されることになり、『人間凶器カツオ』『霊長類最強伝説ゴリ夫』といった作品では一層マンネリ化がひどくなっていきます。
グラップラー刃牙(板垣恵介)
フルコンタクト空手の世界において最大の勢力を誇る神心館。その中で日本最強を決める”リアルファイトトーナメント空手道選手権大会”が開催されていた。優勝は2メートルを超える身長を誇り、過去に三連覇を達成している末堂厚だと思われていたが、意外な伏兵が現れる。外部から飛び入り参加した白帯選手がオール1本勝ちでトーナメントを勝ち進んできたのだ。彼の名は範馬刃牙といい、若干17歳の小柄な選手だった。やがて、刃牙は決勝で末堂と当たるが、相手の圧倒的なパワーをものともせず、優位に試合を進める。そして、ラフファイトを仕掛ける末堂をあっさり返り討ちにするのだった。実は彼の正体は世界中の格闘家が集まって死闘を繰り広げる地下闘技場のチャンピオンであり、神心館館長である愚地独歩もかつてはその闘技場の選手だったのだ。刃牙は地下闘技場での次の対戦相手が空手家であるため、空手を知る目的でこの大会に参加したという。そこで、独歩は”神心館のデンジャラスライオン”の異名を誇る加藤清澄を引き連れて、東京ドームの地下にある闘技場に刃牙の試合を観に行くが、刃牙の対戦相手は紐切り鎬の異名を持つ恐るべき相手だった.......。
◆◆◆◆◆◆フルコンタクト空手の世界において最大の勢力を誇る神心館。その中で日本最強を決める”リアルファイトトーナメント空手道選手権大会”が開催されていた。優勝は2メートルを超える身長を誇り、過去に三連覇を達成している末堂厚だと思われていたが、意外な伏兵が現れる。外部から飛び入り参加した白帯選手がオール1本勝ちでトーナメントを勝ち進んできたのだ。彼の名は範馬刃牙といい、若干17歳の小柄な選手だった。やがて、刃牙は決勝で末堂と当たるが、相手の圧倒的なパワーをものともせず、優位に試合を進める。そして、ラフファイトを仕掛ける末堂をあっさり返り討ちにするのだった。実は彼の正体は世界中の格闘家が集まって死闘を繰り広げる地下闘技場のチャンピオンであり、神心館館長である愚地独歩もかつてはその闘技場の選手だったのだ。刃牙は地下闘技場での次の対戦相手が空手家であるため、空手を知る目的でこの大会に参加したという。そこで、独歩は”神心館のデンジャラスライオン”の異名を誇る加藤清澄を引き連れて、東京ドームの地下にある闘技場に刃牙の試合を観に行くが、刃牙の対戦相手は紐切り鎬の異名を持つ恐るべき相手だった.......。
格闘技漫画の金字塔というべき作品で、個性豊かなキャラクターたちが次々と登場して迫力満点の闘いを繰り広げるさまは、従来の格闘技漫画にはないインパクトがありました。特に、32人+αの格闘家が集結して優勝を競い合う最強トーナメントは、数ある格闘技漫画の中でも最高の面白さだったといっても過言ではないでしょう。それまでの格闘技漫画の場合、トーナメントをしても主人公の闘いを中心に描き、他の試合は軽く流す場合が多かったのですが、本作では全試合の模様が詳細に描かれています。そのため、空手VSレスリング、日本拳法VSヤクザ、大相撲VS合気道、プロレスラーVS中国拳法といった具合に、意外性に富んだ迫力満点の試合を堪能することができ、ひとつひとつの試合にワクワクできるつくりになっているのです。この辺りの面白さは格闘技漫画の頂点といっても過言ではないほどです。ちなみに、この『グラップラー刃牙』自体は1999年に完結しますが、その後も『バキ』『SUN OF ORGE 範馬刃牙』『刃牙道』『バキ道』と続編が描かれ続けています。ただ、面白さという点では最大トーナメントが頂点であり、その後は下降線をたどっているのが少々残念です。『バキ』の前半辺りまではかなりの面白さをキープしているものの、それ以降はストーリーは行き当たりばったりで、御託ばかりが多くなり、そのうえ、テンポが悪いといった具合でとにかく読んでいて爽快さが感じられないのです。したがって、『バキ』以降はむしろ、ネタ漫画だと割り切って楽しむのが無難だといえます。
1993年
高校鉄拳伝タフ(猿渡哲也)
実戦的古武術である灘神陰流の後継者、宮沢熹一は父親で第14代当主、宮沢静虎から厳しい修行を受け、たくましく育っていた。高校生ながらその強さは凡庸な格闘家では全く歯が立たないほどだ。ところが、ある日、熹一は今までに体験したことのない、恐るべき強さを秘めた男と出会う。彼の名は黒田光秀といい、灘神陰流と対をなす存在の灘心陽流の免許皆伝を受けていたのだ。熹一は彼に勝利すべく、対黒田戦を想定した特訓を始めるが........。
◆◆◆◆◆◆実戦的古武術である灘神陰流の後継者、宮沢熹一は父親で第14代当主、宮沢静虎から厳しい修行を受け、たくましく育っていた。高校生ながらその強さは凡庸な格闘家では全く歯が立たないほどだ。ところが、ある日、熹一は今までに体験したことのない、恐るべき強さを秘めた男と出会う。彼の名は黒田光秀といい、灘神陰流と対をなす存在の灘心陽流の免許皆伝を受けていたのだ。熹一は彼に勝利すべく、対黒田戦を想定した特訓を始めるが........。
『修羅の門』『グラップラー刃牙』に並ぶ、3大異種格闘技漫画の一角をなす作品です。なんといっても肉体描写に迫力があり、主人公が特訓を経て強敵に打ち勝っていくという王道的展開が読みどころだといえるでしょう。絵のリアルさは3大作品の中で本作が一番です。静虎の双子の兄である鬼龍を始めとして敵キャラはみなインパクト十分で、印象深い闘いを堪能することができます。それに、後半になると、『修羅の門』や『グラップラー刃牙』でおなじみの異種格闘技トーナメントも開催され、物語を大いに盛り上げてくれます。ただ、その反面、強さのインフレが激しく、キャラクターの使い捨てが多いのは好みのわかれるところでしょう。ちなみに、強さのインフレは続編の『TOUGH』になると一層顕著化し、最後には気のようなもので敵を倒すようになってきます。ほぼ超能力のようなものであり、格闘技漫画としてはどうしても違和感を覚えてしまいます。現在は『TOUGH 龍を継ぐ男』が連載中ですが、これは宮沢熹一ではなく、鬼龍の息子である長岡龍星が主人公の作品です。
1995年
陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす(にわのまこと)
戦国時代の合戦の中から生まれた実戦総合武術の陣内流柔術。16歳の少年、真島零はその技を用いて世界最強を目指していた。そして、空手や柔道を皮きりに、さまざまな強敵と異種格闘技戦を繰り広げていくが,,,,,,,,。
バトル漫画の宝庫の割りに格闘技系の漫画がほとんどない週刊少年ジャンプにおいてはレアともいえる作品です。しかも、柔術というマイナー格闘技に焦点を当てているのがユニークです。多くの人にとってあまりなじみのない柔術の技を分かりやすく描いており、そのうえで空手やムエタイといったさまざまな格闘技と激闘を繰り広げるので非常に読み応えがあります。また、ジャンプのバトル漫画にありがちな派手な必殺技の応酬ではなく、きちんと段階を踏んだ格闘描写に徹しているのには好感が持てます。ただ、少年ジャンプという媒体ではそういった路線は地味すぎたのか、人気のほうは今ひとつで、結局、1998年に打ち切りになってしまいました。その代わり、2009年からは真島零のその後を描いた『 真島、爆ぜるー陣内流柔術流浪伝ー』がコミックBRAKで連載が始まり、すでに本家よりも息の長い作品となっています。
1996年
エアマスター(柴田ヨクサル)
元体操選手の母親によって英才教育を受けた相川摩季は精密機械のような演技をすることから、若くして体操の女王と呼ばれるようになっていた。しかし、身長が伸びすぎたことと母の死によって体操の道を断念。しばらくは荒んだ生活を続けていたが、ふとしたきっかけでストリートファイトに参戦。その際、彼女は体操に打ち込んでいたころの高揚感を覚えるのだった。そうして、ストリートファイトにのめり込むようになり、体操で培ってきた脅威の身体能力で次々と強敵を打ち破っていくが....。
◆◆◆◆◆◆
主人公が体操をバックボーンにした格闘術を身に付け、空中戦メインで戦うという設定がユニークです。しかも、バトルとギャグを高いレベルで両立させることで他の格闘技漫画にはないオリジナリティを獲得しています。ただ、連載初期の時点では作者のやりたいことに技術が追いついておらず、漫画として少々稚拙に感じられたのも事実です。しかし、連載が進むにつれてキャラの魅せ方やコマ割りの演出がどんどんうまくなり、著者ならではの世界に読者を引き込んでいくようになります。また、坂本ジュリエッタ、崎山香織、皆口由紀、北枝金次郎といったライバルたちのキャラも立ちまくっており、数々の名台詞を残していきます。既存のものとは一味違う新感覚格闘技漫画として非常に魅力的な作品です。強いて難点を挙げるとすれば、終盤インフレが酷くなることでしょうか。最終的に主人公がライバルキャラの手の届かない高みに達し、人智を超えたラスボスと闘うことになるのですが、非常に魅力的なキャラが多いだけに、彼らと主人公との間に決定的なレベルの差をつけてしまったことに対しては賛否が分かれそうです。
餓狼伝(原作:夢枕漠/作画:板垣恵介)
最強を目指して道場破りを繰り返している丹波文七はボクシング、柔道、柔術、大相撲とそれぞれの分野で名の知られている格闘家を次々と倒していく。だが、プロレス団体FAWの道場に殴り込みにいった際、若手レスラーの梶原年男に完敗を喫してしまう。それから3年の月日が過ぎ、鍛練によってさらなる強さを身に付けた文七は雪辱を果たすべく、FAWのリングに乱入するが......。
◆◆◆◆◆◆最強を目指して道場破りを繰り返している丹波文七はボクシング、柔道、柔術、大相撲とそれぞれの分野で名の知られている格闘家を次々と倒していく。だが、プロレス団体FAWの道場に殴り込みにいった際、若手レスラーの梶原年男に完敗を喫してしまう。それから3年の月日が過ぎ、鍛練によってさらなる強さを身に付けた文七は雪辱を果たすべく、FAWのリングに乱入するが......。
谷口ジロー版に続く、『餓狼伝』のコミカライズですが、作品の雰囲気や内容はかなり異なるものになっています。まず、元々ストイックな性格の格闘家として描かれていた丹波文七がヤンキー化しており、原作や谷口版とは全くの別人です。それに、原作では宿命のライバルのような描かれ方をされていた梶原年男にリベンジマッチであっさりと勝ってしまいます。したがって、原作ファンが読めば違和感は避けられないでしょう。その代わり、個性的な格闘家が次々と現れ、激闘を繰り返す展開はさすがに『グラップラー刃牙』の作者だけのことはあります。特に、あらゆる格闘技の選手が一堂に会して行われた北辰館トーナメントの面白さは圧倒的です。一人一人のキャラが立っており、格闘技の流派の特徴を的確に捉えた試合展開は刃牙における最強トーナメントに匹敵する面白さがありました。ただ、トーナメント終盤あたりから首をひねる展開が見られるようになり、トーナメント終了後は完全な迷走状態に陥ってしまいます。強敵とされてきた格闘家を文七が不意打ち同然の勝負であっけなく倒してしまうという爽快感のかけらもない展開が延々と続いていくようになってしまったのです。結局、板垣版『餓狼伝』はグダグダな展開が修正されることなく、連載そのものが自然消滅していきました。途中まではすごく面白かっただけに残念です。なお、本作の外伝として丹波文七の中学時代を描いた『餓狼伝BOY』があります。
1997年
拳闘暗黒伝セスタス(枝来静也)
紀元前54年。ネロがわずか17歳でローマ皇帝になった同じ日に15歳の少年セスタスは拳奴となるため、最終試験の模擬試合を行っていた。対戦相手は親友のロッコ。体格や闘志に勝るロッコが有利かにみえたが、セスタスは師匠のザファルによって叩きこまれた拳闘術のテクニックでロッコを圧倒する。結局、模擬試合はセスタスの完勝に終わり、敗れたロッコはその場で殺されてしまう。それが敗者に科せられた拳奴の運命だったのだ。やがて、正式な拳奴となったセスタスは試合のために帝都に訪れ、そこで終生のライバルとなるルスカに出会うが.......。
◆◆◆◆◆◆紀元前54年。ネロがわずか17歳でローマ皇帝になった同じ日に15歳の少年セスタスは拳奴となるため、最終試験の模擬試合を行っていた。対戦相手は親友のロッコ。体格や闘志に勝るロッコが有利かにみえたが、セスタスは師匠のザファルによって叩きこまれた拳闘術のテクニックでロッコを圧倒する。結局、模擬試合はセスタスの完勝に終わり、敗れたロッコはその場で殺されてしまう。それが敗者に科せられた拳奴の運命だったのだ。やがて、正式な拳奴となったセスタスは試合のために帝都に訪れ、そこで終生のライバルとなるルスカに出会うが.......。
この作品はセスタスの拳奴としての闘いが中心に描かれていますが、その一方で、ネロ皇帝やルスカを中心とした宮廷劇としての側面も併せ持っており、歴史ドラマとしての面白さを堪能することが出来ます。一方、拳闘シーンは現代的な視点から語られる技術解説が興味深く、思わず引き込まれていきます。連載ペースが遅いのが難ですが、その分、綿密な取材に基づく濃密な描写は読み応え満点です。ちなみに、本作に登場する拳闘は古代ボクシングというべき競技ではあるものの、関節技や投げ技なども登場するため、総合格闘技としての側面もあります。なお、本作は2009年で完結となり、その翌年には続編である『拳奴死闘伝セスタス』が始まっています。
1998年
軍鶏(原作:橋本以蔵/作画:たなか亜希夫)
東大合格確実といわれていた優等生の少年、成嶋亮は突如両親を刺殺して少年院送りとなる。亮は気弱な性格で、少年院では酷いイジメにあっていたが、体育の特別教師である黒川から空手を習ったことがきっかけで別人のように凶暴な男へと変貌していった。やがて、自分をいじめていた奴らに復讐を果たし、少年院を出所した亮は空手の腕を生かして裏社会で台頭していく。だが、ショーアップされた格闘技興行の中でヒーローとして祭り上げられていた菅原直人の存在を知り、憎しみをいだくようになる。亮は彼との対戦を実現するために公式試合に出場して実績を重ねていくが......。
◆◆◆◆◆◆
対戦を承諾させるために相手の恋人を犯し、頑強な肉体を得るためにステロイドに手を出すなど、主人公がヒールの立ち位置にいるアウトロー格闘技漫画です。主人公のヒールぶりは徹底しており、その中で人間の闇の部分を浮かび上がらせていく手法が格闘技漫画として異質かつ新鮮でした。戦いの中に美しいものなどなく、勝つためには手段を選ばないといった主人公の行動原理にはいっそすがすがしさすら感じます。ただ、原作者ともめたのが原因なのか、中国編以降は物語の方向性が定まらず、迷走ぶりが顕著化していきます。格闘シーンもどこか安っぽさが感じられるようになりました。そして、極めつけはグダグダな最終章の展開と唐突なラストシーンです。序盤の衝撃的な展開や前半のドラマは素晴らしかっただけにいろいろと残念さが残る作品です。
東大合格確実といわれていた優等生の少年、成嶋亮は突如両親を刺殺して少年院送りとなる。亮は気弱な性格で、少年院では酷いイジメにあっていたが、体育の特別教師である黒川から空手を習ったことがきっかけで別人のように凶暴な男へと変貌していった。やがて、自分をいじめていた奴らに復讐を果たし、少年院を出所した亮は空手の腕を生かして裏社会で台頭していく。だが、ショーアップされた格闘技興行の中でヒーローとして祭り上げられていた菅原直人の存在を知り、憎しみをいだくようになる。亮は彼との対戦を実現するために公式試合に出場して実績を重ねていくが......。
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対戦を承諾させるために相手の恋人を犯し、頑強な肉体を得るためにステロイドに手を出すなど、主人公がヒールの立ち位置にいるアウトロー格闘技漫画です。主人公のヒールぶりは徹底しており、その中で人間の闇の部分を浮かび上がらせていく手法が格闘技漫画として異質かつ新鮮でした。戦いの中に美しいものなどなく、勝つためには手段を選ばないといった主人公の行動原理にはいっそすがすがしさすら感じます。ただ、原作者ともめたのが原因なのか、中国編以降は物語の方向性が定まらず、迷走ぶりが顕著化していきます。格闘シーンもどこか安っぽさが感じられるようになりました。そして、極めつけはグダグダな最終章の展開と唐突なラストシーンです。序盤の衝撃的な展開や前半のドラマは素晴らしかっただけにいろいろと残念さが残る作品です。
2000年
ホーリーランド(森恒二)
イジメが原因で不登校になった神代ユウは本屋で偶然手にしたボクシング教本に興味を惹かれ、自室でワンツーの練習を繰り返し行うようになっていた。それから数カ月後。自分の居場所を求めて夜の町を徘徊していたユウは不良に絡まれるが、ワンツーパンチを放ってあっさりと倒してしまう。同じようなことが何度も繰り返され、次第にユウはヤンキー狩りボクサーという異名を轟かせるようになっていくのだった。腕に覚えのある不良たちは名を挙げるためにユウをターゲットにし始めるが.......。
◆◆◆◆◆◆
気弱な主人公と不良たちのストリートファイトを描いた作品です。しかし、ヤンキー漫画のありがちなタイマンシーンなどなどとは異なり、作者の体験を交えつつ、技術的な視点から解説を盛り込んでいくところに独自の面白さがあります。説得力のある解説には思わず引き込まれますし、柔道、剣道、レスリングといった既存の格闘技をストリートファイトの観点で解説していく手法もユニークです。格闘技の技術解説が作品の面白さの中核をなしているという点は『拳闘暗黒伝セスタス』と相通じるものがあります。ただ、物語的には主人公の葛藤が延々と続くタイプの作品であり、全体的に雰囲気が重苦しい点は好みの分かれるところではないでしょうか。イジメが原因で不登校になった神代ユウは本屋で偶然手にしたボクシング教本に興味を惹かれ、自室でワンツーの練習を繰り返し行うようになっていた。それから数カ月後。自分の居場所を求めて夜の町を徘徊していたユウは不良に絡まれるが、ワンツーパンチを放ってあっさりと倒してしまう。同じようなことが何度も繰り返され、次第にユウはヤンキー狩りボクサーという異名を轟かせるようになっていくのだった。腕に覚えのある不良たちは名を挙げるためにユウをターゲットにし始めるが.......。
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2001年
格闘太陽伝ガチ(青山広美)
プロレスラーのモンスター原田は新格闘技団体ヘラクレスを旗揚げする。記念すべき最初の対戦相手は原田の親友で国内無敗を誇る柔道王、砦一馬。だが、彼はオリンピックで銀メダル止まりの自分の殻を破るために原田を試合中に殺そうとしていた。そして、死闘の末、モンスター原田を死の淵まで追い込み、廃人にしてしまうのだった。3年後。モンスター原田の息子である原田太陽は砦一馬を倒すべくトレーニングを重ねていたものの、新世紀プロレスの黒磯になすすべなく敗れてしまう。そこで、さらなる強さを身につけるために、アメリカに渡るが.......。
◆◆◆◆◆◆
異種格闘技戦ではなく、総合格闘技を闘いの舞台とし、主人公のバックボーンも空手や謎の古武術ではなく、アマレスに据えた辺りに新しい時代の波を感じさせてくれます。『修羅の門』や『グラップラー刃牙』などと比べるとかなりリアル寄りなので全体的に地味な印象がありますが、話のテンポはよく、格闘描写もしっかりしているので堅実に楽しめる出来に仕上がっています。ただ、全12巻と比較的短めの作品となった影響か、伏線が拾いきれずに未消化のまま終わっている部分があるのは残念です。それから、ボブサップをモデルとしたキャラが登場し、その強さと脆さが描かれるなど、後半の展開が単なる現実の後追いになっている点もやや安易なものを感じます。とはいえ、全体の完成度は高く、格闘技好きなら読んで損はない作品です。
プロレスラーのモンスター原田は新格闘技団体ヘラクレスを旗揚げする。記念すべき最初の対戦相手は原田の親友で国内無敗を誇る柔道王、砦一馬。だが、彼はオリンピックで銀メダル止まりの自分の殻を破るために原田を試合中に殺そうとしていた。そして、死闘の末、モンスター原田を死の淵まで追い込み、廃人にしてしまうのだった。3年後。モンスター原田の息子である原田太陽は砦一馬を倒すべくトレーニングを重ねていたものの、新世紀プロレスの黒磯になすすべなく敗れてしまう。そこで、さらなる強さを身につけるために、アメリカに渡るが.......。
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異種格闘技戦ではなく、総合格闘技を闘いの舞台とし、主人公のバックボーンも空手や謎の古武術ではなく、アマレスに据えた辺りに新しい時代の波を感じさせてくれます。『修羅の門』や『グラップラー刃牙』などと比べるとかなりリアル寄りなので全体的に地味な印象がありますが、話のテンポはよく、格闘描写もしっかりしているので堅実に楽しめる出来に仕上がっています。ただ、全12巻と比較的短めの作品となった影響か、伏線が拾いきれずに未消化のまま終わっている部分があるのは残念です。それから、ボブサップをモデルとしたキャラが登場し、その強さと脆さが描かれるなど、後半の展開が単なる現実の後追いになっている点もやや安易なものを感じます。とはいえ、全体の完成度は高く、格闘技好きなら読んで損はない作品です。
2002年
史上最強の弟子ケンイチ(松江名俊)
史上最強の弟子ケンイチ(松江名俊)
自分の弱さを克服するため、白浜謙一は高校入学と同時に空手部に入部するが、あまりの才能のなさに邪魔者扱いされ、雑用係としてこき使われる日々が続いていた。そんなある日、容姿端麗、頭脳明晰のうえに新体操の有名選手である風林寺美羽が転校してくる。彼女は謙一に近づき、友達になってほしいという。周囲から浮いて友人ができないことに悩んでいた彼女が自分と同じぼっちの謙一を見つけて声をかけてきたというわけだ。その帰り道、謙一はヤクザに取り囲まれている美羽を目撃する。勇気を振り絞って彼女を助けようとする謙一だったが、高校生一人でヤクザの集団をどうこうできるはずもなかった。だが、次の瞬間、美羽が電光石火の早業でヤクザたちを全員KOしてしまう。彼女は新体操だけでなく、武術の使い手でもあったのだ。謙一は彼女の強さと美しさに憧れ、また。彼女自身のすすめもあって、空手、柔術、ムエタイ、中国拳法といった格闘技の達人たちが集う梁山泊に弟子入りすることになる。こうして厳しい修行の日々が始まるのだが、やがて、梁山泊と敵対する殺人拳の集団との闘いに巻き込まれていく......。
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ひ弱な主人公が努力で強くなっていき、強敵たちと激闘を繰り広げるという王道的展開が主軸となっており、その中にギャグとお色気要素を盛り込むことで、非常に娯楽性の高い作品に仕上がっています。展開が少年漫画すぎて本格的な格闘技描写を期待すると物足りないかもしれませんが、迫力と柔らかさを兼ね備えた絵柄を含め、子どもから大人まで楽しめる作風には好感が持てます。それに、キャラも立ちまくっており、悪役を含めみな魅力的です。ただ、不満点がないわけではありません。まず、主人公が才能がないという設定にあまり説得力がない点が挙げられます。実際は修行によってメキメキと腕を上げており、どうしても設定との齟齬が気になってしまいます。また、師匠を始めとする達人クラスと主人公らの立ち位置である弟子クラスとの実力差があまりにも大きいので、いくらケンイチが必死に強敵を倒しても達人が出てくると今までの闘いが雑魚同士の小競り合いにしか見えなくなってしまうのです。その点に関してはケンイチがさらなる修行を積んで達人クラスに近づいていく展開を期待していたのですが、数々の伏線を放置したまま、本作は唐突に最終回を迎えることになります。人気がなくて打ち切りになったのであれば仕方がないのですが、そうではありませんでした。「新連載を増やして少年サンデーを盛り上げる」という編集部の方針だったということで、ファンにとっては何とも割り切れないものがあったのではないでしょうか。ちなみに、本作の原型として2000年からサンデー超増刊に連載されていた『戦え!梁山泊史上最強の弟子』があります。全5巻で、本作とは一部設定が異なっているため、読み比べてみるのも一興です。
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ひ弱な主人公が努力で強くなっていき、強敵たちと激闘を繰り広げるという王道的展開が主軸となっており、その中にギャグとお色気要素を盛り込むことで、非常に娯楽性の高い作品に仕上がっています。展開が少年漫画すぎて本格的な格闘技描写を期待すると物足りないかもしれませんが、迫力と柔らかさを兼ね備えた絵柄を含め、子どもから大人まで楽しめる作風には好感が持てます。それに、キャラも立ちまくっており、悪役を含めみな魅力的です。ただ、不満点がないわけではありません。まず、主人公が才能がないという設定にあまり説得力がない点が挙げられます。実際は修行によってメキメキと腕を上げており、どうしても設定との齟齬が気になってしまいます。また、師匠を始めとする達人クラスと主人公らの立ち位置である弟子クラスとの実力差があまりにも大きいので、いくらケンイチが必死に強敵を倒しても達人が出てくると今までの闘いが雑魚同士の小競り合いにしか見えなくなってしまうのです。その点に関してはケンイチがさらなる修行を積んで達人クラスに近づいていく展開を期待していたのですが、数々の伏線を放置したまま、本作は唐突に最終回を迎えることになります。人気がなくて打ち切りになったのであれば仕方がないのですが、そうではありませんでした。「新連載を増やして少年サンデーを盛り上げる」という編集部の方針だったということで、ファンにとっては何とも割り切れないものがあったのではないでしょうか。ちなみに、本作の原型として2000年からサンデー超増刊に連載されていた『戦え!梁山泊史上最強の弟子』があります。全5巻で、本作とは一部設定が異なっているため、読み比べてみるのも一興です。
2005年
喧嘩商売(木多康昭)
東京から栃木に転校してきた高校生、佐藤十兵衛は言動はアホっぽいものの、洞察力や駆け引きに優れ、チンピラやヤクザ程度なら秒殺してしまうほどの喧嘩の達人だった。彼が強くなったのは空手の天才児、高野照久に憧れたことがきっかけだったが、その照久すらも決闘で撃破する。だが、ヤクザが雇った喧嘩屋、工藤優作に対しては得意の駆け引きも通用せず、完膚なきまでに叩きのめされてしまう。十兵衛は工藤優作を倒すため、古武術・富田流継承者の入江文学に弟子入りするが........。
◆◆◆◆◆◆
本作のストーリーは、ボクシング・空手・合気道・古武術といったさまざまな格闘家が最強をかけて死闘を繰り広げる展開が物語の主軸となっています。そういったところは、既存の格闘技漫画のフォーマットを踏襲しているのですが、異質なのは主人公を含めて皆、勝つためには手段を選ばないという点です。それも、試合中に反則をしたり、禁じ手を使ったりするだけにとどまりません。対戦相手をリング外で闇討ちしたり、毒を仕込んだり、トーナメントを有利に進めるために出場選手同士が結託したりと、なんでもありです。その一方で、格闘シーン自体にも迫力があり、まっとうな格闘技漫画としても、知略を尽くしたコンゲームとしても読みごたえのある作品に仕上がっています。ただ、唐突に挿入されるギャグパートは、ネタがドギツイうえに本編とは全く関係がないため、激しく読者を選びます。このギャグパートの存在のために本作が苦手だという人も多いのではないでしょうか。それから、休載が多くて先の展開が気になっても続きがなかなか読めないのも難点です。ちなみに、休載はどんどん増え続け、ついには3年以上の長期休載を経て、2014年から『喧嘩稼業』とタイトルを変えて仕切り直すことになりました。連載再開以降も休載が多いのは相変わらずで、果たして無事最終回までたどり着けるのかが気になるところです。
2006年
ツマヌダ格闘街(上山道郎)
プロのイラストレーターを目指して上京してきた八重樫ミツルは家賃1万円の格安アパートがあると聞いて妻沼田市を訪れる。しかし、妻沼田市はツマヌダ格闘街という変わった町おこしをしており、格安アパートに住めるのはストリートファイターとして選手登録した人だけだというのだ。格闘技の経験などないミツルは格安アパートを諦めようとするが、偶然出会ったメイド姿の若い女性に半ば無理矢理選手登録をさせられ、ストリートファイターとして闘うはめになる。彼女の名はドラエ・タチバナ=ドリャーエフ。ドラエは自分がセコンドとなって勝つ方法を教えるというのだが........。
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2008年
オールラウンダー廻(遠藤浩輝)
高校生の高柳廻は空手の経験があることから、なんとなく総合格闘技の修斗を始めるが、それほど熱心に取り組んでいたわけではなかった。だが、指導員に半ば強制的にアマチュア大会に出場させられたことによって勝つ喜びと負ける悔しさを知るのだった。しかも、大会で幼馴染の山吹木喬と再会し、そのストイックな姿勢に触発される。こうして徐々に修斗に対して真剣に取り組むようになった廻は、持ち前のスタミナと相手の技をコピーできる能力によって頭角を現してくるが.........。
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本作はなんでもありのリアルファイトではなく、あくまでも競技としての総合格闘技に焦点を当てた作品です。また、登場する選手たちも闘いにすべてを賭けるといった従来の格闘技漫画のキャラとは異なり、学校に通ったり、生活のために仕事をしたりといった具合に一般人としての側面が強調されています。したがって、格闘技漫画としては物語的にも格闘描写的にも非常に地味です。その代わり、総合格闘技の技術をリアルかつわかりやすく描いているので、新しいタイプのスポーツ漫画として引き込まれるものがあります。特に、試合での駆け引きやファイトスタイルの違いに関する描写などは秀逸です。一方で、ライバルたちが結構重いバックボーンを抱えているのにも関わらず、全体的に描写がドライなため、ドラマ的に物足りなさを感じるのは否めません。良くも悪くも口当たりが軽く、安定感のある佳品といったところでしょうか。
鉄風(太田モアレ)
女子高生の石堂夏央は抜群の運動神経と180センチを超える恵まれた体格を生かし、どんなスポーツでもそつなくこなしてしまう。しかし、夏央にとってはそのことがたまらなく退屈だった。ところが、ある日、格闘技部を作るという帰国子女の馬渡ゆず子に出会い、努力する喜びを知っている彼女に憎しみの感情を抱くようになる。そして、彼女を許さないという気持ちが原動力となり、夏央は総合格闘技の世界に足を踏み入れることになるのだが........。
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『オールラウンダー廻』と同じく競技としての総合格闘技を描いた作品ですが、あちらがひたすらリアリティ重視の地味な作風だったのに対し、本作はかなりエキセントリックな作りになっています。まず、女子の総合格闘技という題材自体がレアなうえに、主人公の性格がぶっとんでいるのです。努力しなくてもなんでもできるために、努力する人間を見ると苛立つというのは明らかに主人公のキャラクター設定ではありません。どちらかというと、主人公に立ちはだかるライバルキャラの立ち位置です。そして、本来、主人公の位置にいるべき馬渡ゆず子がライバルキャラになっている点がこの作品を歪なものにしています。しかし、その反面、格闘シーンは迫力のある絵と適度な解説を交えたわかりやすいものになっており、オーソドックスな格闘技漫画として楽しむことができます。そして、この王道と異様さのブレンド具合が従来の格闘技漫画だけでは飽き足らないという人にとって程よい刺激となっているのです。ただ、全8巻で完結となってしまったために、全体的に消化不良の感は否めず、最後が詰め込み過ぎの展開になってしまっている点に関しては物足りなさを感じてしまいます。
女子高生の石堂夏央は抜群の運動神経と180センチを超える恵まれた体格を生かし、どんなスポーツでもそつなくこなしてしまう。しかし、夏央にとってはそのことがたまらなく退屈だった。ところが、ある日、格闘技部を作るという帰国子女の馬渡ゆず子に出会い、努力する喜びを知っている彼女に憎しみの感情を抱くようになる。そして、彼女を許さないという気持ちが原動力となり、夏央は総合格闘技の世界に足を踏み入れることになるのだが........。
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『オールラウンダー廻』と同じく競技としての総合格闘技を描いた作品ですが、あちらがひたすらリアリティ重視の地味な作風だったのに対し、本作はかなりエキセントリックな作りになっています。まず、女子の総合格闘技という題材自体がレアなうえに、主人公の性格がぶっとんでいるのです。努力しなくてもなんでもできるために、努力する人間を見ると苛立つというのは明らかに主人公のキャラクター設定ではありません。どちらかというと、主人公に立ちはだかるライバルキャラの立ち位置です。そして、本来、主人公の位置にいるべき馬渡ゆず子がライバルキャラになっている点がこの作品を歪なものにしています。しかし、その反面、格闘シーンは迫力のある絵と適度な解説を交えたわかりやすいものになっており、オーソドックスな格闘技漫画として楽しむことができます。そして、この王道と異様さのブレンド具合が従来の格闘技漫画だけでは飽き足らないという人にとって程よい刺激となっているのです。ただ、全8巻で完結となってしまったために、全体的に消化不良の感は否めず、最後が詰め込み過ぎの展開になってしまっている点に関しては物足りなさを感じてしまいます。
2012年
ケンガンアシュラ(原作:サンドロビッチ・ヤバ子/作画:だろめおん)
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本作は『グラップラー刃牙』の地下闘技場トーナメントに企業の代理戦争の要素を加味したような感じになっており、物語自体に独創性はあまりありません。その代わり、筋肉やパワーファイトの描写が素晴らしく、迫力のバトルを楽しむことができます。また、技や戦略面での駆け引きもよく練り込まれています。そして、バキと同じく、主人公の試合だけでなく、ライバルキャラ同士の試合も手を抜かずに描かれている点が魅力的です。登場人物も非常に濃いキャラばかりで、彼らの繰り出すトンデモ格闘術は読者に忘れ難い印象を与えてくれます(登場人物が人間離れしているのはバキやタフなども同じですが、キャラのぶっとび具合は本作のほうが数段上です)。ただ、主人公が窮地に陥ると、謎の覚醒によって突如パワーアップする点だけはご都合主義に感じられていただけません。なお、拳願絶命トーナメントが中心に描かれた本作は27巻で完結し、2019年からはトーナメント終了の2年後を描いた『ケンガンオメガ』が始まっています。
2014年
はぐれアイドル地獄変(高遠るい)
歌手としての成功を夢見る南風海空(はえばる・みそら)は、その足掛かりとしていやいやながらもグラビアアイドルの仕事を続けていた。しかし、彼女の所属しているのが悪徳芸能事務所だったためにAVに出演させられる羽目になってしまう。AVのタイトルは「はぐれアイドル地獄変」。AV男優100人と闘い、負ければその場でレイプされるというものだった。絶体絶命のピンチだが、海空は亡き父から叩きこまれた琉球空手によって次々とAV男優を撃破。彼女の強さに恐れをなして棄権した45人を除いて全員を倒してしまったのだ。そして、その映像がテレビ局の目にとまり、海空は空手アイドルとして売り出されることになる。さらに、テレビ局から新たな企画が持ち上がる。世界中から一流の女性格闘家を集め、異種格闘技トーナメントを開催しようというのだ。美空はその大会に出場し、強敵たちを相手に勝ち進んでいくが......。
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『グラップラー刃牙』を彷彿とさせる異種格闘技戦にエロ要素をふんだんに盛り込んだB級テイストあふれる怪作です。設定はかなりバカバカしいのですが、格闘シーンは迫力があって読み応えがあります。このおバカなところとガチの格闘シーンのギャップが本作の最大の魅力となっているのです。ただ、巻が進むにつれてエロ、ギャグ、バトルといったごった煮感が薄まり、バトル一辺倒になりつつある点は賛否の分かれるところです。
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