バイデンの「ヤバい破壊工作」が暴露された…ロシアの「パイプライン」を爆破した可能性

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衝撃的な暴露記事

米国の著名な調査報道記者、シーモア・ハーシュ氏が北極海の天然ガス・パイプライン、ノルドストリーム爆破事件について「米国の仕業だった」という暴露記事を発表した。事実なら、米国はウクライナ戦争の舞台裏で大胆な軍事作戦を実行していたことになる。いったい、何があったのか。

ノルドストリームはロシアとドイツを海底で結んだパイプラインだ。延長は約1200キロ。ノルドストリーム1と2が、それぞれ2本ずつあり、1は2011年に開通、2は21年9月に完成した。ただし、ロシアのウクライナ東部2州の独立承認を受けて、ドイツは2の稼働を認めなかった。

1と2を合わせれば、ロシアから欧州に輸出する天然ガス輸出の約半分を供給する予定だった。ドイツにとっても、2だけで年間国内消費の半分以上が賄える量になる。

ロシアのプーチン大統領[Photo by gettyimages]

ノルドストリーム計画をめぐっては、当初から欧米で激しい賛否の議論があった。

ドイツは天然ガスの安定供給に期待する一方、米国のドナルド・トランプ前大統領や中東欧諸国は「欧州のロシア依存を強める」「既存のパイプラインの価値が下がる。安全保障上も戦略的に不安定になる」などと、強く反対していた。

ロシアによるウクライナ侵略戦争が始まった後の2022年9月26日、バルト海に面したデンマーク領のボーンホルム島沖でパイプラインが爆発し、4本のうち3本が損傷した。当時から、何者かによる破壊工作が指摘されていた。

バイデン大統領が爆破を指示した?

そんななか、ハーシュ氏が2月10日、自身のブログに「爆発はドイツのロシア依存を食い止めるために、ジョー・バイデン大統領の指示で実行された」という衝撃的な記事を発表したのである。この記事が無視できないのは、ハーシュ氏が世界的に知られた調査報道記者だからだ。

同氏は1969年、ベトナム戦争で起きた米軍中尉による「ソンミ村虐殺事件」のスクープでピューリッツァー賞を受賞したほか、イラク戦争中の2004年に起きた「アブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件」など、数々の国際的スクープを放ってきた。

衝撃的な記事を発表したジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏[Photo by gettyimages]

記事は長文だが、ごく一部を紹介する。

〈米国の政治的懸念は現実のものだった。プーチンはいまや、必要とされる収入源の大部分を手に入れ、ドイツと西欧はロシアが提供する低コストの天然ガス中毒になって、米国への依存を減らしている。実際、まさしく、それが起きたのだ〉

〈NATO(北大西洋条約機構)とワシントンから見て、ノルドストリーム1は十分、危険だったが、もしもノルドストリーム2がドイツの規制当局に承認されれば、ドイツと西欧が利用できる安い天然ガスの量は2倍になってしまうのだ〉

〈西欧が安い天然ガスのパイプラインに依存する限り、ワシントンは「ドイツのような国が、ロシアを打ち負かすために必要としている武器や資金を、ウクライナに提供するのを嫌がるようになる」という事態を恐れていた〉

こうした事情で、ロシアの侵攻が迫った21年12月ごろから、米政府は「秘密の爆破計画」を練っていった。

〈米国海軍は新たに認可された潜水艦を使って、パイプラインを直接、攻撃するよう提案した。空軍は外部から遅発的に起爆できる爆弾を投下する案を議論した。中央情報局(CIA)は「何をするにせよ、秘密が守られなければならない」と主張した。全員が重大さを理解していた。情報源は「これは子供の遊びじゃないんだ」と言った。もしも攻撃の痕跡が米国に辿りついてしまったら、それは「戦争行為」だった〉

〈ロシアによるウクライナ侵略まで3週間を切った2月7日、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのオラフ・ショルツ大統領と会った。…記者会見で、バイデンは断固として言った。「ロシアが侵攻すれば、ノルドストリーム2はない。我々が、それを終わらせる」〉

この会見の模様は、映像として、YouTubeに残っている。それを見ると、記事はそこまで触れていないが、記者に「どうやって、終わらせるのか」と問い詰められた大統領は「貴方に約束しよう。我々には、それができるのだ(I promise you, we will be able to do it)」とまで、断言していた。

〈この計画に関わっていた何人かの関係者は、発言が「攻撃に対する間接的な言及」のように見えることに困惑した。「それは、まるで東京の地下に原子爆弾を仕掛けて、日本人にオレたちは爆発させるぞ、と言っているようなものだった」と情報源は言った。「計画は侵攻後に実行される選択肢であり、公に宣伝するようなものではない。バイデンは、それが理解できなかったか、無視したのだ〉

大統領は、かねて失言癖が指摘されているが、これもまた明らかな失言である。いまにして思えば、自ら爆破予告したようなものだ。爆破計画には、ノルウェーも加担していた。

〈ノルドストリームの破壊は、もし米国にできるなら「ノルウェーが欧州に自国の天然ガスを大量に販売できるようになる」という話だった。…ノルウェー海軍はデンマークのボーンホルム島沖数マイルの浅い海に、いい場所を見つけた。だが、心配の種もあった。島の沖で変な動きを見せれば、スウェーデンとデンマークの海軍の注意を引いてしまうかもしれなかったのだ〉

〈ノルウェーは「BALTOP22」と呼ばれる、6月のNATO軍事演習が機雷を仕掛ける絶好のカモフラージュになると提案した。…ところが、ワシントンが考え直した。ホワイトハウスは「だれかが後から指令を受けて、パイプラインを吹き飛ばせないか」というのだ〉

〈計画を作っていたチームの中には、大統領の優柔不断に怒り出したり、フラストレーションを感じる人もいた。…(海軍のダイバー学校)であるパナマシティのダイバーは、パイプラインにC4爆弾を取り付けることを繰り返し練習していたが、いまや大統領が望む方法を考え出さなければならない〉

〈ノルウェーで働いていた米国人は、新しい問題、すなわち、バイデンの命令を受けて、どうやってC4爆弾を外部から離れて起動させるか、という問題に取り組んだ。ノルウェーのチームは、いつ大統領がボタンを押すか、知ることはできない。数週間か数カ月、それとも半年後なのか〉

〈パイプラインに取り付けたC4爆弾は、航空機から投下されたソノブイ(注・音波で海中の潜水艦を探知する装置)で起動できるが、それには最新の信号加工技術が必要だった。…別の信号が誤って爆弾を起動したりしないように、信号は十分に明確でなければならない。国防総省の海軍作戦科学顧問のセオドア・ポストル博士は私に言った。「爆弾が水に使っている時間が長くなればなるほど、ランダムな信号が起爆させてしまうリスクが大きくなる」〉

〈2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が、いつものルートを飛ぶようにみせかけて、ソノブイを投下した。信号は水面下に広がって、まずノルドストリーム2に、次にノルドストリーム1に届いた。それから数時間後、高性能のC4爆弾が起動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能になった。数分後、壊れたパイプラインに残っていたメタンガスが水面に広がり、世界は「何か取り返しのつかないことが起きた」と知ったのだ〉

以上である。

破壊された後の海面の様子[Photo by gettyimages]

余波が広がりつつある

ハーシュ氏の記事は情報源について匿名の単数で記しているが、本当に1人なのか複数なのか、は分からない。記事が発表されると、ホワイトハウスの国家安全保障会議の報道官は、ロシアのタス通信に対して「記事は完全な誤りで、まったくの創作」と否定した。

ロシア外務省の報道官はテレグラムに「米国はすべての事実についてコメントしなければならない」と投稿した。一方、中国共産党系の新聞、グローバル・タイムズも2月10日付の社説で「ワシントンはノルドストリームの爆発について、世界に説明する責任がある」と指摘した。中国はスパイ気球問題の仕返しとばかり、ノルドストリーム問題を追及する姿勢である。

米国の主要メディアは2月12日時点で、ほぼ黙殺している。ロイター通信がホワイトハウスの否定談話を中心にして、短く紹介したくらいだ。ロシアはノルドストリーム問題を国連安全保障理事会に持ち出す姿勢だ。いつまでも、沈黙はできないだろう。

私は、先に紹介したバイデン大統領の発言からみて「米国の仕業である可能性が高い」とみる。ポーランドのラドスワフ・シコルスキ元外相は爆発の直後「ありがとう、USA」とツイートしていた。ポーランドはノルドストリーム計画に反対していた。これも傍証の1つである。

ポーランドのラドスワフ・シコルスキ元外相[Photo by gettyimages]

ノルドストリームには、ドイツ企業も出資している。米国による爆破が事実なら、米国はロシアを追い込むためには、同盟国にとっての重要施設爆破も辞さなかったのだ。中国は米国の空にスパイ気球を放っていた。米中ロの対決は一段と、きな臭くなっている。