「中国スパイ気球」なのか…? 3日連続で撃墜 北米で次々に未確認飛行物体が見つかるワケ
乗りものニュース / 2023年2月15日 6時12分
2023年2月に入ってから、アメリカ軍戦闘機による中国スパイ気球と思われる未確認飛行物体の撃墜が立て続けに起こるようになりました。なぜ、ここにきて急に発見されるようになったのか、実は理由がありました。
小型のF-16戦闘機も気球撃墜を記録
アメリカ空軍は2023年2月4日、自国上空に飛来した中国の高高度偵察気球をF-22「ラプター」戦闘機で撃墜しましたが、その後も自国と隣国カナダ上空で同じような飛行物体を戦闘機で撃ち落とす事例が相次ぎました。その数、3日間で3件。なぜ、ここまで急に連日のように発生するようになったのでしょうか。順を追って詳細を見ながら、その理由を推測してみましょう。
まず、2月4日の次に確認されたのが、1週間後の10日(金)のこと。アメリカ国防総省は、ロシアにほど近いアラスカ州北部の領海上で「高高度物体(high-altitude object、米国防総省資料より)」を撃墜したと発表しています。このとき使用された戦闘機と火器は、4日の偵察気球を撃墜したのと同じF-22「ラプター」とAIM-9X「サイドワインダー」でした。
続いて、翌11日(土)にもカナダ北西部ユーコン準州の上空にて、未確認の飛行物体が発見され、こちらも同様にF-22とAIM-9Xの組み合わせによって撃ち落とされています。なお、この飛行物体は撃墜が決まるまで、そのF-22とカナダ空軍のCF-18「ホーネット」戦闘機、そしてCP-140「オーロラ」海洋哨戒機によって監視されていたそうです。
そして、最新の事例が12日(日)14時42分(日本時間13日4時42分)にミシガン州ヒューロン湖上空で発生したものです。これについてはF-16「ファイティングファルコン」戦闘機がAIM-9X「サイドワインダー」ミサイルを使って撃墜したとのこと。こちらの空域はカナダ国境と近かったため、前回の11日と同様にカナダ空軍のCF-18も発進して追跡を行ったそうです。
2月4日の撃墜を始まりとすると、それから1週間ほどの間に4件の撃墜事例が発生したことになります。特に最初の撃墜は、その対象物が中国の高高度偵察気球であるとアメリカ政府が認め発表したこともあり、大々的に報道されて世間の注目を集めました。
中国じゃないかも? アメリカも呼び方を変更
しかし、10日以降に撃墜された3つの飛行物体は、アメリカ国防総省によると最初の偵察気球とは異なる形状をしたそうで、現時点では所有国や用途については言明せず、名称も「object(物体)」と抽象的な呼び方に留めています。
また撃墜理由も、これらに軍事的な脅威はなかったものの、物体の飛行高度が高度4~2万フィート(約1万2000~6000m)で、旅客機などの民間機が飛行する空域に近く、それらに対して危険を及ぼす可能性があったためとしています。
このような戦闘機による撃墜事例が立て続けに起きたことに対して疑問をもつ人も多いでしょう。これだけ頻繁に起こるのはなぜでしょうか。
ひとつは、このような気球がこれまでもアメリカやその近隣国の空域を飛行していたことが挙げられます。2月4日に「中国の偵察気球」と名指しされた飛行物体については、過去にもアメリカ上空を通過したことがあり、アメリカ空軍の発表によればトランプ前政権時代にも少なくとも3回の通過が確認されているそうです。
つまり、これら飛行物体は、突然現れたのではなく、以前から複数が世界中の空を飛んでいたと考えられます。実際、2020年には4日に撃墜された高高度偵察気球と似た飛行物体が日本でも目撃されており、同様の事例は日米以外の国からも報告されています。
そして、もうひとつの理由が、4日の撃墜をきっかけに、アメリカ軍の未確認飛行物体への対応が変化した点にあります。それは実際に出撃する戦闘機だけでなく、アメリカ上空の監視に就いているレーダー警戒システムにも当てはまります。
アメリカ国防省のメリッサ・ダルトン国防次官補は、12日の記者会見において「先週土曜日(2月4日)に撃墜した中国の気球を考慮し、我々はレーダーを強化するなど、この高度の領空をより綿密に調査しています」と説明。これは監視するレーダーサイトを増やすことや、その電波の出力を上げるといったハードウェア的なものではなく、それを管理するシステム側の修正を指します。
システムの自動選別で見つかっていなかった可能性も
レーダーは電波を使って空を監視する装置ですが、その仕組みは放射した電波が飛行物体に当たって生じる反射波を受信することで相手の方位や距離を知るというもの。しかし、レーダーの高性能化によって広大な空域で生じたすべての反射波をオペレーターが人力で確認するのは難しく、近年の監視システムは反射波をコンピューターによって自動選別する形をとっています。ゆえに、監視すべき対象を航空機としていた場合、受信した反射波の中で小さく低速な物体(鳥の群れや雲など)は、逆に不要な情報として自動的に除外されていきます。
これは私たちがインターネットで検索エンジンを利用する時とよく似ているといえるでしょう。たとえば明日の天気を知りたい場合、ただ「天気」と入力して検索してもネット上にある天気という単語が含まれた膨大な情報が洪水のように表示されてしまいます。そこに「場所」や「時刻」といった具体的なフレーズを追加することで、初めて求める天気予報が表示されるようになります。
ダルトン国防次官補は記者会見の中で、こうしたレーダー情報の選別を「フィルタリング」と呼び、ディスプレイに表示されない基準値の事を「ゲート」と説明。そして、現在はその「ゲート」の一部を調整したとも明言しています。これは今回の気球の様な低速でレーダー反射の少ない飛行物体でも、レーダーに表示されるようにしたものと思われます。
現在、北米大陸全体の上空監視を行っているのは、アメリカとカナダが共同で運用する北アメリカ航空宇宙防衛司令部、通称「NORAD(ノーラッド)」です。その監視対象は航空機だけでなく、宇宙空間の衛星や弾道ミサイルまで含まれていますが、今回注目された気球に関してはイレギュラーな存在だったといえるでしょう。
気球は形状や素材が異なるため、レーダーの反射波も航空機と比べて少なくなり、飛行速度も風を利用するので低速です。NORADの監視システムが従来用いていた選別方法では、これら気球が見逃されていた可能性があり、ダルトン国防次官補の「領空をより綿密に調査しています」という発言はその見直しを示唆する発言だと思われます。
今回撃墜された気球と飛行物体は、いずれも地上に落下した残骸を回収し、分析作業が進められています。この作業は飛行物体の所属国を調べるだけでなく、その材質や構造を解析するもので、それにより飛行性能やレーダー反射波の特性などが明らかになる可能性があります。その情報はNORADが警戒監視するうえで役立つことから、今後は似たような飛行物体の発見が続く可能性が高まるといえるでしょう。
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