うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
イベントは
今回の内容はトレセンの宣伝と並行して、前途有望な素質あるウマ娘を見つけ出すためのものでもあったらしい。
まだ地方にも中央にも入学していないトレセン志望の小学生のウマ娘たちを、世間を賑わす大スターウマ娘たちが併走したり一緒にライブ体験をして夢を見せる──という、そんな大切なイベントの最中に一般男子高校生の悩みなんてノイズを持ち出せるはずもなく。
もう何も考えない……そう決めて思考と感情を殺し、俺はイベントのスタッフとして従事していた。
今朝の出来事は別に解決はしていない。
まるで俺がサイレンススズカにいかがわしい行為を行っていたかのように見える光景を目にしたかつての恩人──樫本理子先輩はコホンと咳払い一つで表情を切り替え、持ち場へ向かうようにと一言告げて去っていった。
大人の対応にもほどがある。
ズボンのファスナーを閉めてくれたサイレンスの頭を撫でるとかいう意味不明な場面を先輩に見られたショックでぶっ倒れた俺だったが、肉体が物理的に強くなっているせいで都合よく気絶することも叶わず、結局弁明もできずなあなあで今日一日を過ごしているのが現状だ。
「……はぁ、疲れた」
空が一日の終わりを感じさせるような茜色に染まり始めた頃、仕事がなくなった俺は中庭のベンチに腰を下ろして一息ついた。
イベントは間もなく終了する。
小学生のウマ娘たちは心底楽しそうにしていたし、テレビの中継でお茶の間に姿が流れたことで中央のウマ娘たちの認知度も更に倍増と、イベント自体は大成功だ。
今日は中央トレセンでの開催だったが、残りの二日間で別の地域へ赴く彼女たちは、またその名を世に知らしめることになるだろう。全く自慢の嫁たちだ。
……いや嫁じゃねえわ。
何言ってんだ俺。
──あのとき樫本先輩の顔を見たその瞬間から、心に張り付くような緊張感が続いている。
おかげで他に余計なことを考えずに済みスタッフ作業に集中できたとも言えるが、緊張しすぎて段々と疲れてきた。
とりあえず今の俺は限界に近い。それだけは何となくわかる。
性欲でイライラする。食欲で落ち着かない。睡眠欲で頭が常に茫々とした状態だ。夜中に襲ってきた怪異に対処した影響で増幅した三大欲求がうるさすぎる。
「──葉月、お疲れ様。缶コーヒーで良かったかしら」
「えっ。あっ、……ありがとう、ございます。……先輩」
ベンチで俯きながら思考に耽っていると後ろから声をかけられた。
凛々しい顔つきに艶やかな黒髪、スラッとした体型でスーツを着こなすその女性は──樫本先輩だ。
相も変わらず美人な女。男に告白されることも少なくなかったのに『今はあなたの事で手一杯だから』という理由で全部を断っていた、非常にもったいない先輩。
「……? 私の顔に何かついてる?」
「な、何でもないです」
ついジッと顔を見つめてしまった。不敬。
「あら、もしかしていちごオレが欲しかった?」
「いえ……さすがにもうそんな歳じゃ……」
さりげなく隣に座ってきた樫本先輩にビビって、思わず拳一個分ほど距離を取ってしまった。
いちごオレは今でも飲んでいる。しかしこの人の前だと何故か強がってしまう自分がいた。大人ならここで開き直って笑いの一つでも取っていたのかもしれないが、彼女の前だとこれがどうして子供でしかいられなくなってしまうらしい。
ドーベルとの少女漫画のロールプレイの時や、サイレンスやマンハッタンに対して頑張って見せているあのさりげない余裕が出せそうにない。
もちろん今の俺が状態異常にあるというのもあるがそれ以上に数年ぶりに恩人と再会して──とても
「……ぁ、あの、先輩。今朝のは──」
「サイレンススズカ本人から聞いたわ。身だしなみは家から出る前にちゃんと整えなさい。ネクタイはしっかり結べているのだから、襟もズボンも靴も都度確認、ね」
「……はい。すいません」
ちょっと怒られてしまったが、大変な誤解には至らなくて安心した。そこら辺の事情をしっかり精査してから判断してくれるのはさすが大人といったところだろうか。
「それにしても……意外だったわ。まさかあなたが率先して中央の手伝いをしていたなんて」
校舎見学で歩き回っている小学生のウマ娘たちを眺めながら、先輩は感慨深そうに呟いた。
「あの子たちくらいの歳の頃の葉月と言えば……ほら、なんというか……ね?」
「……いつの話をしてるんですか。さすがにもうあの頃みたいなワガママな言動はしませんよ」
子供じゃあるまいし──という言葉はすんでのところで堪えて、代わりに缶の中の苦い液体を飲み込んだ。缶コーヒーは俺が上手く会話を繋げられない事実をそこはかとなく誤魔化してくれる。今の心細い状態ではこんな缶ひとつがとても頼もしい仲間に見えてしまっていた。
たぶん、彼女からすれば俺はまだ子供のままだ。成長して精神的に熟してるとは自分でも思えない。
こうして現在進行形で感情と欲望に振り回されて、余裕がない状態に陥ってしまっているのがいい証拠だろう。
「もしかして……秋川理事長を助けるため?」
それも勿論ある。中央トレセンの付近に寄っただけで動悸が激しくなっていた昔の俺を知っている彼女からすれば、従妹を守るために無理をしてここにいるのではないかと考えるのも無理はない。
しかしそれだけではないのだ。
きっと今の俺は、自分自身のワガママで行動してしまっている。
「……理事長の助けになりたい気持ちはあります。でも、それよりも今回は先輩が帰ってくるって話を聞いたからここに来たんです」
「私が……?」
ピンと来ていない表情だ。
冷静に思い返して、俺たちがどれほど離れていたのかを思い出してほしい。
小学校を卒業するよりも前に先輩とは離れ離れになった。
まだ学生だった先輩は進路に思い悩み、正直に全てを話してくれたのに──俺は何も言えず、彼女はそのまま去っていった。
人生で最も後悔した瞬間の話だ。
大切な人との縁は多少無理やりにでも掴み続けなければならないという教訓はその時に得た。それを思い出したのはマンハッタンの一言のおかげだったが……とにかく。
もう昔のままの俺ではないのだ。
言いたいことはハッキリ言葉にする。伝えられるときに伝えておく。もうあんな想いをするのは二度とゴメンだ。
「──ずっと会いたかったんです、先輩。あなたと話したいことが山ほどあるんだ」
小さい頃は恥ずかしくて出来なかったが、今度はしっかりと彼女に向き直って正面からそう言った。ここまでくれば羞恥心なんぞ敵ではない。
「……えぇ。私もよ」
そして俺の心からの言葉に、樫本先輩は柔らかい微笑みで答えてくれた。
◆
お゛ぉ~♡ もう我慢ならない……っ!
──先輩のおかげで気を引き締めることができたのは間違いない。
しかし、やるべき事に対して集中するためにシリアスな雰囲気に身を任せて先輩とコミュニケーションを図ったはいいものの、大前提として樫本先輩があり得ないほど美人だということを失念していたのだ。
敬愛する先輩ではあるがそれはそれこれはこれ。もう天衣無縫な無邪気っ子ではない俺は邪念にまみれている。もうこれ以上クールに振る舞うのは不可能だ。
三大欲求が爆発しかけているこの状況いかがしたものか。きみならどうする!?
「葉月。明日も参加するウマ娘たちは旅館の中でスタッフと打ち合わせをしているから、この荷物は私たちが運びましょう」
その日の夕方。
トレセンでのイベントを終えて地方へ移動した後、とある旅館にやってきた俺はスタッフとして荷物運びをすることになっていた。
それにしてもムラムラする。
移動中は樫本先輩が俺の隣をずっと占拠しており、座る場所がないサンデーが俺の膝上に座って何とか乗車していたせいでもう甘い匂いと柔らかい感触で脳がショート寸前にまで追い込まれてしまった。風情があるね。
「うっ、く……!」
「先輩は無理しないでください。重い物は持てないでしょ」
「あっ。……ありがとう葉月、ごめんなさいね」
昔から筋力が非力で貧弱で軟弱な物理的によわい生き物である先輩に運搬は不可能である為、運び役を代わってやった。受け渡すときに手が触れたが気にしない。憧れの樫本先輩のおてて……っ!?
今日の午前中からイベント終了にかけて被っていた優等生の仮面はすっかり吹っ飛び、いつもの欲望を限界ギリギリぶっちぎりで我慢し続ける秋川葉月くんに変身してしまった。もうシリアスに物事考えるとか不可能だから覚悟しとけよ。先っちょが既に侵入開始。
「ハヅキ」
うるせぇ腕に抱きつくな変態幽霊モドキ。交尾したくてたまらない感じが如実にあらわれているよ!
お前も限界なのは知ってるんだ。でも今は荷物を運んで明日の配布物の確認もしないといけないから大人しくしていてくれ。
「んん……やだ」
やだじゃない。事を急くなあわてんぼうさん。犬も歩けば棒に当たる。お預けにしてしまうよ?
「ユナイトしてたほうがマシ。夜になったら起こして」
「あっ、ちょ、待てお前っ──! ……はぁ、ったく」
ユナイトはするだけで疲れるから車の中でもやらなかったのに、ついに思考を放棄したくなったサンデーは自ら俺の中に入って一体化してしまった。サンデーちゃんと俺の相性ヤバいかも……。
「……あっ」
部屋にウマ娘たちのボストンバッグを置いて旅館から出ようとした矢先、別の部屋から件の少女たちが出てきた。
サイレンススズカ。
メジロドーベル。
マンハッタンカフェ。
みんな日中は小学生たちと戯れて、休憩時間は担当トレーナーさんと話してて俺が若干ジェラってた三人だ。
許せない。イク時は報告しろって。俺以外の人間の元へ行くときはな。
「あ、ツッキー!」
「え……ドーベル、あのスタッフの少年と知り合いなのか?」
「──はわっ」
油断し過ぎていたのか、遂に担当トレーナーさんの前で俺のことをあだ名で呼びやがった。というかトレーナーは俺とお前が知り合いだって知ってんか? 見せつけすぎ淫乱ウマ娘恥知らず。
「ど、ドーベル、カフェさん、ちょっとそこのコンビニまで一緒に行きましょう。トレーナーさん、失礼しますね……っ」
なんと驚き。彼女たちは俺に抱きつくことはせず三人揃ってその場を離れてしまった。担当トレーナーの前でイチャつく勇気すらないとはな。軟弱な女たちだ。ひ弱な女たちだ。守ってあげるからね。
そんなわけで嫁たちが消えた旅館に用はあらず。今すぐ出ていって車の中で寝て、高ぶった気を落ち着けよう。
──外に出ると車の傍で、何やら心配そうな面持ちの先輩がいた。どうしたのだろうか。
「あの……葉月? なんだか顔が赤いけれど……大丈夫なの?」
ダメに決まってんだろ雑魚。んなこと気にすんなメス猫。
「……大丈夫っす。少し寝不足なだけなんで。……えと、ちょっと車の中で横になりますね」
「そ、そう……」
そのままワゴン車に乗り込んでシートを倒し、バッグの中から取り出したブランケットを被って横になった。
夢による欲望の解消は夜限定だ。お昼寝で妙な寝言を呟きでもしたらたまったものではない。
今はとにかく軽い休憩くらいの睡眠を取って、一時的に脳を冷却して平静さを取り戻さないと。
……
…………
「──はっ」
意識を取り戻した。いま何時だ。どれくらい寝ていた。二十一時に事前の打ち合わせがある。寝過ごしていたらマズい。
腕時計を確認。
二十時五十分。
やっっば。
「やべっやべ……!」
「落ち着きなさい、葉月」
焦って飛び起きようとした瞬間、頭を誰かに押さえられた。
見上げると、そこには樫本先輩の顔がある。
何が起きている。
……。
……………?
──あぁ、膝枕をされているのか。
……えっ。
「せ、先輩っ、いつの間に……っ!?」
「いいから寝てなさいってば。打ち合わせの内容はあとで駿川理事長秘書から聞くことになってるから、あなたはまず自分の体力回復に努めること。いい?」
「ぁ……は、はい……」
柔らかい膝枕と彼女の服から香るシトラスの匂いで全然集中できない。正直何も聞いていなかった。
まさか人目も憚らず俺を膝枕するとは思わなんだ。やはり俺のことを愛しているのだろう。分かるんだよ頭じゃなく心でな。
「……も、もしもーし。ツッキー、大丈夫……?」
ふと、車内に響く甘トロ声。
浴衣に着替えたドーベルがエントリーだ。おい勝手に旅館から出るんじゃねーよお客様の癖に。なめてんの? なめてんだろ? 可愛すぎますよ。一生愛し抜きますからね。
「スズカとカフェも呼んだから。もしかして怪異とか、何かあったんなら話を──」
「っ!? め、メジロドーベル……っ!?」
「へっ……? だ、誰……っ? ……えっ! な、なんでツッキーを膝枕して──っ!?」
どうやらまだ面識が無かったらしいベルちゃんと理子ちゃんが邂逅。ちなみに膝枕されててどこもかしこも柔らかくて気持ちいい~♡
「ななな何で選手のあなたがここに!」
「えっ!? あ、えーと……い、いやいやいや! そっちこそなんでツッキーを……!」
おい! 二人ともこうるさいぞ。静かにアクメしろな。