「さ、一休みしたら梱包ッス。先に試作品食べながらのんびりお茶しましょ」
「ココア飲みたいプーイ」
「甘いのに甘いのを重ねがけッスか………」

２月１３日。バレンタイン前日
プレハブ小屋の中は、何とも甘い匂いに包まれていた

●

「流石にこの数は骨が折れるッスね。まあもう慣れたッスけど」

コーヒーを淹れて一休み
試作品とはいえ、シフォンケーキも十分いい出来だ。コーヒーの苦みによく合うし、くどい後味も無い
プイ先輩の反応を見て見ても……ニコニコと頬張ってるし、問題は無いようだ

「手伝ってくれて助かったッス。今日はエールちゃん達も遅くなるんで一人でやろうと思ってたんで」
「お菓子作りって本格的にやったことなかったから楽しかったプイ」

そう言いながら食べてるそれはプイ先輩メインで頑張って作った試作品。自分で作った物だ、味も格別だろう

「でもこれ一人でやってたら大変プイ。普段援軍呼ばないプイ？」
「前には姐御が手伝ってくれたんスけどね、今回去年と忙しかったんで」

姉御の手さばきときたら、そりゃすごいもんで。なんせ分量１ｇも差異なくささささっと一連の作業をこなしてデコレーションまでしてしまうのだから
その後のラッピングについても拘りに拘り抜いて、流石はカワイイモンスターだと思わざるを得ない手際だった
実際、味見頼む時緊張するんスよ、と。美味しくできた自信があってもあれだけのガチ勢の前に出すのはちょっと怖い

「こういうのってやっぱり練習したプイ？」
「いやぁ、そこまでは。結構我流も入ってるッスけど、お菓子って要は分量を徹底的に正確にやればいいもんなんで」
「それはわかるプイ。けど手際も相当よかったプイ」
「普段の台所仕事の延長みたいなもんッス。素人仕事ッスよ」

熟練主婦みたいプイ、なんて言いだして。華の女子学生に何を言い出すか
ただまぁ、普段の料理と違って細かい加減や見極めが必要なのは確かにある。最初は慣れなかったものだが、このくらいなら大した苦労も無くできるようにはなった
もともと細かい作業は好きだし、時折そういう本を読んで勉強してたりも

「んー、クリーム付けて食べるとまた格別プイ」

個人的にはもう少しビターな方が好きなんだけど、とは言わないでおく
それを別にしてもなかなかうまくできた。これなら人に配っても問題はないだろう
チョコチップを少し入れたのがよかった。食感もなかなかによくて、ちょっとだけ自信作かも

「ぷっきゅ。それにしてもこれ配りきれるプイ？」
「去年のこと考えると特に問題はないッスよ。例の覇王のところとかにも持っていくつもりなんで」
「あー、お野菜とかたくさんもらっちゃってるプイ。それは必要プイ」

そうなんだよなぁ………あそこ菜園どんどんデカくなってるし
最近育成する種類も増やしてるらしいし、その内水耕にも手を出すんじゃなかろうかあのチーム
トレーナーが重機動かしてるとか言う話もあるし、あのチームも一体何なんだほんとに
と、そうしていると……外から聞こえてくる足音と声

「お、来たッスね」

寒かったろうし、お茶の準備をしておいてあげよう
コタツから立ち上がると、ドアを開けて元気な声

「お疲れ様です！！！！！！！！！！！！！！遅くなりました！！！！！！！！！！！！！！！」
「お疲れ様です。用事が長引いてしまって……」
「お疲れ様ッスよ。今コーヒー淹れますんで、コタツでゆっくり休んでてくださいッス」

寒そうにして入ってくるモコモコの後輩二人
急がなくても大丈夫と言っていたが、やはり気にしていたか。随分急いできてくれたらしい

「試作品があるんで味見お願いするッス」
「とっても美味しいプイよー」
「ありがとうございます。ラッピングはまだ始まってないですか？」
「休憩したら始めるッスよ。さ、まずは一休みッス」

温かいコーヒーを淹れて、コタツに入った二人のところへ
さて、もう一休みだ。二人の前にも試作品のシフォンケーキを差し出して、さあどうぞ

「んー！！！！！！！！！！！美味しいです！！！！！！！！！！！！！！」
「あ、ほんとだ……結構甘めなのに全然くどくない。香りもよく立っててコーヒーによく合いますね」

好評なようでなによりだ。これなら作った甲斐もあったというもの

「ラッピングはとりあえず色々神とかリボンとか用意してきましたけど、好きなように使ってくださいッス」
「ソダシちゃんにも持っていきますね！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
「タイムにも持っていこうかなぁ……きっと喜ぶし」

二人もそれぞれ持っていくあてがあるようだ
女ばかりの学園とはいえ、こういう行事にはみんな敏感になる。そうなれば気持ちが浮つくのも仕方のない事
だとしたら徹底的に楽しむのが一番だろう。別に悪いことしてるわけでも後ろめたいわけでもないし

「そういえば先輩方も毎年結構貰ってますよね」
「ああ、まぁありがたいことにッス」
「ぷきゅう。毎回ＵＲＡが纏めて受け取って後で……だからあんまり実感わかないプイ」
「スケールが違いますね！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

プイ先輩の場合、マジで大手芸能事務所と対応が変わらないからなぁ
毎年代表窓口に集められて、危険物の類をチェックされて……だし、風情も何もあったもんじゃないだろう
だからこそここでの騒ぎに便乗して楽しんでいるのだろうし。いやもう、最近この人マジで移籍してきてるんじゃないだろうかってくらいだから今更だけど

「そういうエールちゃん達も結構貰ってるじゃないッスか」
「そ、そうですね。ありがたい話です」
「去年は人混みに囲まれてパニックでした！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

まぁそうだろう。特にソングラインちゃんはＧ１とってからさらに人気になったし
エールちゃんも去年集団に囲まれて大変だったしなぁ……もともとコミュ力も高い子だし、さもありなん

「さて、そろそろラッピングに入るッスか。忙しくなるッスよ」
「包み方また教えてほしいプイ。去年はそっちほどきれいにできなかったプイ」
「あんなん慣れッスよ。んじゃ、始めるッスか」

ここから忙しくなる。何せこの数を全部包まないといけないのだから
飲み物を片付けて作業に移る。ラッピング用品は山のように用意したから大丈夫だろう
こうして美味しい時間を終えて、明日への準備に取り掛かる事となった

●

「今年も大漁プイね」
「いやぁ、昨年以上ッス。若干焦ったッスもん」

２月１４日。バレンタインデー当日
いざ迎えてみた当日だったが、その盛り上がり方は正直当初の予想を大きく上回っていた

「何個くらい貰ったプイ？」
「もうわからんッス。お返し用もかなりハケちゃったんで」

手に抱えた紙袋を見て、自分もまだまだ捨てたもんじゃない……なんてちょっと自信付けてみたり
朝の内はまだ静かだったのだが、昼頃からたくさんの生徒たちに囲まれてしまった
みんな様々なチョコレートをプレゼントしてくれるもので目を白黒させてしまったのだが、なんとか対応しきってプレハブまで戻ってきたのがついさっきの事
毎年のことではあるが、流石の流石に辺境であるプレハブ小屋にまでやってくる生徒は居ないのでこれでひと段落と言った感じだ

「エールちゃん達も囲まれてたッスからね。様子見に行こうとしたら近づけなかったッスよ」

エールちゃんなんかグルグル目になってパニックになっちゃってたもんなぁ
慌ててソングラインちゃんが整理しようとしても、今度は自分に押し寄せてきた子達にもみくちゃにされて……という去年のまんま再現の流れになってしまってた
二人ともやっぱり人気なんだなぁ……先輩としては誇らしくもあるけど

「姐御なんか昨年よりも列が伸びてたッスからね。それであの一糸乱れぬ統率力は流石と言うしかないッス」
「親衛隊みたいだったプイ。お仕事で見るイベントでもあんなに整然とした隊列はなかなか見ないプイ」

ファン層の違い、とでもいうのか……やはり姐御は流石だ

「まぁその点、姉貴は安定と言うか………」
「みんな恐る恐るだったプイ。ていうか歯をカチカチ鳴らして脅して遊んでたプイ」
「何やってんスかねあの姉は………」

まぁ、あれも一種のファンサービスなのだろう……なのだろう。そう思うことにする
ていうか、チョコを渡す時の緊張感と恐怖刺激は別物だろうと。だから怪獣とか言われるんだろうに
まぁ、本人は今お年寄りの家の見回り行ってて不在だから言える事だけど

「聞いた話、聖剣先輩は今も囲まれてて動けないくらいらしいッス。あと魔女っ娘も」
「二人も相当人気者プイ。多分今日は対応に追われて終わるプイ？」
「そうっぽいッスね。さて、そんじゃこっちは一休みしましょうか」

というわけで。コタツの電源入れて、お茶を淹れての一休みタイム
早速頂いたチョコを食べるとしよう。コーヒーはブラックでいいだろう

「プイ先輩も後で受け取りに行くんスよね？」
「んー、そのつもりプイ。一応仕分け終わったら連絡くれるようには頼んであるプイ。けどそれがいつになるかまだ分からないプイ」
「難儀なもんッスね、人気者は」
「盛大にブーメラン刺さってるプイ。そっちこそ、その量は普通のそれじゃないプイ」

それはまぁ否定できない。ありがたいことだけど

「多分この後エールちゃん達も大量に抱えて戻ってくるでしょうし、少しゆっくり待っておくッスよ」
「あの二人も大変プイ」
「そうッスねぇ………ん？」

ふと、気が付いた。窓の外で何か音がしたことに
鳥にしては大きな音を不審に思って見てみると……何かが窓のところにかけてある

「どうしたプイ？」
「いや………なんか窓のところに………」

窓を開けて見れば、そこにかけられていたのは紙袋。なにかと思って取ってみれば、中にはちょっといい感じのチョコレート菓子の箱が
あ、これ人数分以上入ってる。ていうことは、まさか。窓を開けたまま、じっと外を見て見ると………見つけた
茂みに隠れた鹿毛の耳。いっつも耳隠し忘れるよね、君………

「……なるほどプイ」

プイ先輩もその荷の送り主を察した様で。二人してちょっと笑って、窓を閉めて小屋の外へ
見ればまだ茂みにピクピク震えるカワイイ耳。なんかこう、野ウサギでも見つけた気分だ

「………おいでプーイ」

プイ先輩の声に反応してビクッと震える耳
前回は顔を出すところまでは行けた訳だし、今回もうちょっと踏み込んでみようか

「美味しそうなのありがとうッスー。こっちにも美味しいシフォンケーキがあるッスよー。お返しにどうぞッスー」
「………………………ッ」

相変わらずびくびく震えてしまっているが、今回はどうだろうか
そろそろ対面で話してみたいところなんだけど………と、そこで焦ったのがいけなかった
一歩、脚を前に踏み出した瞬間

「こ、今回はご遠慮させていただきますううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

どうぞお召し上がりくださああああああああああああい………と残響残して走り去るその姿

「やっぱりいい脚してるプイ」
「ほんとそれッスね。素質はバリバリ感じるッス」

レースで安定してあの速度が出せれば相当いいところいけるんじゃないだろうか

「……とりあえず。今頂いたの、ご馳走になりますか」
「そうするプイ」

彼女………ハギノモーリスちゃんの加入は、もう少し先のことになりそうだ

●

「ところで気になってたんスけど」
「ぷっきゅん？」

さっきハギノモーリスちゃんから届いたチョコレート菓子を頂きながらお茶をしつつ、ふと疑問をぶつけてみることにした。あ、これ美味しい
去年から気になっていたのだが、聞きそびれていたし大して大事なことでもなかったので後回しにしてしまっていたのだ

「いや、こういう日ってプイ先輩お仕事大丈夫なんスか？なんか、忙しそうなイメージあるッスけど」

あー、っと。若干疲れたような目をしながら頷くプイ先輩

「前は結構忙しかったプイ。けど、最近はそうでもなくなって助かってるプイ」
「と、いいますと？」
「もっとこういうイベント向きの子達がたくさん出てきてくれたおかげで、そっちに割り振られてるプイ。分かりやすいところで言うと、そっちのカレンチャンみたいな子達プイ」

なるほど。そういえば姐御、バレンタイン前にチョコレートメーカーとのコラボで撮影だなんだって忙しかったなぁなんて思い出す
最近はそういうお菓子メーカーとかとのコラボレーションも多彩に行われていて、例の金船なんかもそれに選ばれたとかなんとか聞いたような

「お堅いイベントにはいまだに呼ばれて面倒プイけど、こういう華やかなイベントにはもっと向いてる子がいるプイ。そういう子達が活躍するようになってからは随分楽させてもらってるプイ」
「だからこうして今日のんびりできてる訳ッスね」
「そういう事プイ」

色々揉めたけど、とボソッと聞こえたのは無視することにしよう。藪を突いて蛇を出すことは無い

「と、いうわけでプイ」

ココア飲みながらのんびり溶けていたプイ先輩が、ふと思い出したかのように鞄を取り出して
ごそごそと漁って、四角いそれを取り出して。ぷっきゅっきゅ、なんて笑って

「はい、どーぞプイ」
「………えと」
「ＵＲＡなんて通してない、正真正銘の一品物プイ。内緒プーイ」

……ああ、もう
昨年は奇襲攻撃のようにしてポケットに捻じ込まれたそれ。青い包み紙に銀のリボンのそれを、今年は正面切って渡してきたと言う訳だ
これでそれの正体を聞くほど、野暮でもなければ鈍感でもない。ちくしょう、また先手打たれた

「……ありがとうございますッス」
「ぷきゅきゅきゅきゅ。しっかり好みのやつを選んだプイ。大事に食べてほしいプイ」

してやったり。そう言わんばかりに、楽しそうに笑うプイ先輩だが……にゃろう、やられてばかりではいられない
昨年も今年も後手に回ってしまったが……仕方ない。ならこっちも、奇襲など考えずに正面切って渡させてもらうとしよう
鞄に手を突っ込み、それを取り出す。赤い包み紙に金のリボンのそれを、プイ先輩へと差し出した

「はい。お返しッス」
「………………ぷきゅ」

自分から先制攻撃しておきながら、照れくさそうにそれを受け取る先輩。………ああもう、こっちもなんか顔が熱くなってくるじゃないか
頬を掻きながら、目線をちょい逸らしつつ。プイ先輩がそれを受け取ってくれたのを確認する

「中身はまぁ、その。しっかり作ったんで。自室ででも、ゆっくり食べてくださいッス」
「………ありがとプイ。大事に食べるプイ」

言葉通り、大事そうにそれを抱えるプイ先輩。だから、こっちまで妙に恥ずかしくなるって
今更ながらに照れくさい空気が流れたが、おほんと咳払いをして仕切り直し。ええい、なんだこの甘ったるい空気は。それだけで虫歯にでもなりそうだ

「さて、お茶に戻るッスよ。お互い、自室でゆっくり頂きましょ」
「そうするプイ。なんか変に照れちゃったプイ」

今のところは、ハギノモーリスちゃんからの頂きものでゆっくりしよう
自室に戻ってから食べるそのチョコの味を楽しみに。あとで聞く感想を楽しみに
ああ、なんだかなぁ。やっぱり自分も……少しばかり、浮ついてしまっているのかもしれない

「つーわけで、今さらながらというか改めてといいますか」
「ぷきゅん」

嬉しそうに尻尾を振る彼女と共に、プレハブの中へと戻る
騒がしい一日はここで終わり。あとはコーヒーとココアを淹れて、温かい部屋の中でのんびりと
年に一度の温かい祭りを楽しむために。穏やかなひと時を楽しむために
こっそり贈り合った『特別』を、大事に抱えて
だから、今はとりあえず

「ハッピーバレンタイン」
「ん。ハッピーバレンタインプイ」

幸せな一日の最後に、祝福の言葉を贈り合った

以上。バレンタインなので酒飲んで舎弟した

もう付き合っちゃえよお前ら…

そろそろ覇王農園に名前が変わるころかな…

濃厚なオルプイ…

ハギモちゃんは少しずつ進歩してるのかな

>そろそろ覇王農園に名前が変わるころかな…
規模的にはすでにそれかもしれない

ふふ…もらうチョコ悉くホワイトチョコだし…

>ふふ…もらうチョコ悉くホワイトチョコだし…
間違えてミルクチョコ持って来てもうた…
すまんけどこれで許してや！

チョコレート系のカクテルでも飲んだのか

>ふふ…もらうチョコ悉くホワイトチョコだし…
多分コラボ商品とかでも作られてそう

カレンチャンのファンたちはそれこそ軍人顔負けの規律正しさで整列してそうだよな…

ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!

>No.1026626307
むぅ……純度の高いオルプイ…

>No.1026626307
カワイイ手描きありがてぇ……

オルフェもプイもそれぞれ特別を用意してるあたりもう

ハギモそういえば次走決まったんだろうか

プラダリアちゃんはどんな子なんだろうな…

まあ今日は色んなところで色んな事が起こる日だし…

>プラダリアちゃんはどんな子なんだろうな…
なんかプレハブの民に似合わないくらい堅実な感じがする
この前の京都もしっかり馬券内入ってくるくらいしっかりしてる

今日やべえのはあそこだよ
しあわせ会

もうこれ付き合ってる距離感だよね…

>今日やべえのはあそこだよ
>しあわせ会
(プレハブが軋む音)

でした会は多分やばくならない
数は多いがオグリとスペがいる