Q:ASA-PS 分類とは?

A:米国麻酔科学会(American Society of Anesthesiologists:ASA)による術前身体状態(Physical Status:PS)の分類のことで、術前に、患者の健康状態を評価するためのシステムである。

1963 年に、米国麻酔科学会(ASA)が、5 分類からなる身体状態分類システムを採用し、その後 1980 年に脳死患者に対する 6 番目の分類(ASA-PS VI)が追加された。術前の  ASA-PS と予後は相関するとされる。緊急手術(Emergency)の場合は、「3E」などと分類の後に「E」を併記する。

ASA 分類が提案された当時、1940 年の緊急手術の元々の定義は、「外科医の意見では、遅滞なく実施されるべき手術」であったが、現在は、「患者の治療の遅れが生命または身体への脅威の著しい増加をもたらす場合」と定義されている。

2014 年にアメリカ麻酔学会の術前身体状態分類に参考となる具体例が追加された。
ASA Physical Status Classification System
ASA-PS 分類(成人例)
分類定義例(これだけとは限らないが)
I(手術となる原因以外は)健常人現在喫煙していない、酒を飲まないか少しだけ飲むなど。
II軽度の全身疾患のある患者現在喫煙している、付き合いで酒をよく飲む、妊娠、肥満(30< BMI <40)、コントロール良好な糖尿病/高血圧、軽度の肺疾患など。
III重度の全身疾患のある患者コントロール不良の糖尿病/高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、高度肥満(BMI≧40)、活動性肝炎、アルコール依存または中毒、ペースメーカー、中程度の駆出率(EF)低下、定期的に透析を受けている末期腎不全、60 週未満の早産児、3 ヵ月以上経過した以下の既往(心筋梗塞、脳血管障害、一過性脳虚血発作(TIA)、冠動脈疾患/ステント留置)など。
IV常に生命を脅かす重度の全身疾患を有する患者最近(3 ヵ月未満)の心筋梗塞、脳血管障害、TIA、冠動脈疾患/ステント留置、進行中の心虚血や重度の弁膜症、高度の EF 低下、敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、定期的に透析されていない急性腎不全や末期腎不全など。
V手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者破裂腹部/胸部動脈瘤、重症外傷、圧排所見のある頭蓋内出血、重大な心臓病変または多臓器不全に陥っている腸管虚血など。
VI脳死状態の臓器移植ドナー 

*「E」の追加は緊急手術を意味する:(緊急事態は患者の治療の遅れが生命または身体への脅威の著しい増加をもたらす場合に存在すると定義される)

ASA-PS 分類(小児例)
分類定義例(これだけとは限らないが)
I(手術となる原因以外は)健常人健康 (急性または慢性疾患なし)、年齢に対する正常なBMIパーセンタイル
II軽度の全身疾患のある患者無症候性先天性心疾患、コントロール良好な不整脈、増悪のない喘息、コントロール良好なてんかん、インスリン非依存性糖尿病、年齢に対する異常なBMIパーセンタイル、軽度/中等度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、寛解中の腫瘍状態、軽度の制限を伴う自閉症。
III重度の全身疾患のある患者未修復の安定した先天性心臓異常、増悪を伴う喘息、コントロール不良のてんかん、インスリン依存性真性糖尿病、病的肥満、栄養失調、重度のOSA、腫瘍状態、腎不全、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、臓器移植歴、脳/脊髄奇形、症候性水頭症、受胎後週齢60週未満の未熟児、高度制限を伴う自閉症、代謝性疾患、気道確保困難、長期の非経口栄養。6週齢未満の満期産児。
IV常に生命を脅かす重度の全身疾患を有する患者症候性先天性心臓異常、うっ血性心不全、未熟児の活動性後遺症、急性低酸素性虚血性脳症、ショック、敗血症、播種性血管内凝固症候群、自動植込み型除細動器、人工呼吸器依存症、内分泌障害、重度の外傷、重度の呼吸困難、進行した腫瘍状態。
V手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者重症外傷、圧排所見のある頭蓋内出血、ECMOを必要とする患者、呼吸不全または呼吸停止、悪性高血圧、非代償性うっ血性心不全、肝性脳症、腸管虚血や多臓器不全に陥っている場合。
VI脳死状態の臓器移植ドナー 


ASA-PS 分類(産科の例)
分類定義例(これだけとは限らないが)
I(手術となる原因以外は)健常人
II軽度の全身疾患のある患者正常な妊娠*、コントロール良好な妊娠高血圧、コントロールされた子癇前症、食事管理された妊娠糖尿病。
III重度の全身疾患のある患者重度の特徴を伴う子癇前症、合併症または高インスリン必要量を伴う妊娠糖尿病、抗凝固療法を必要とする血栓性疾患。
IV常に生命を脅かす重度の全身疾患を有する患者HELLPまたはその他の有害事象を合併した重度の特徴を伴う子癇前症、EF<40の周産期心筋症、後天性または先天性の未治療/非代償性心疾患。
V手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者子宮破裂。
VI脳死状態の臓器移植ドナー 

*妊娠は疾患ではありませんが、妊娠していないときと比べて分娩者の生理的状態は著しく変化するため、合併症のない妊娠女性にASA 2が割り当てられます。

この記事へのコメント

倉橋真理
2021年07月08日 19:10
同業者(麻酔科ではありませんが)です。
ASA-PS分類を検索していて、見つけました。
内視鏡医なので、鎮静について勉強していたのでした。
この具体例が凄いですね。
私はお酒をよく飲むので、分類Ⅱになっちゃいますね。
ホームページはありませんが、Facebookをやっていて、8割がた全公開してますので、アクセスしていただけたら嬉しいです。
コマ
2021年10月16日 19:27
手術室看護師です。
雑誌などよりも詳しく書いてあって、ノートに書き写させていただきました、ありがとうございます。
分類Ⅲの早産児は60週で宜しかったでしょうか?
SRHAD-KNIGHT
2021年10月16日 20:08
コマさん、コメントありがとうございます。

>分類Ⅲの早産児は60週で宜しかったでしょうか?

「受胎後 60 週未満の乳児では、全身麻酔術後の術後無呼吸のリスクが高い。」
Apneas in Infants with Postconceptional Age bellow 60 Weeks Undergoing Herniorrhaphy
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4268838/
というような報告を反映してのことのようです。

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