2019年の夏、話題になったこちらのツイート。
「東京から一泊二日で行ける温泉」をキーワードにチャートを作成され、リツイートは6.7万超えに!
ツイート主は「温泉オタクな会社員」こと、永井千晴さん(以下、ながちさん)。
元旅行情報誌の編集者で、これまでに全国の温泉を400カ所以上めぐられたそう。
うーむ、きっと温泉地の食に関してもひとかたならぬ情報を持ってるに違いない! ということで『メシ通』としても早速インタビューを申し込みましたッ。
※当記事は2020年1月に取材したものです。
関西のカニ天国、城崎温泉(兵庫県)
──早速ですが永井さん、「食が魅力の温泉地」を教えてほしいんです。
ながちさん(以下、敬称略):ちょっとベタかもしれないんですけど、「ごはん目当てで温泉に行く」といったら冬の時期の兵庫県・城崎(きのさき)温泉は外せないですね。カニです、圧倒的に松葉カニ。この時期は関西人がカニ目当てにこぞって行きますよ。
▲昭和の風情を残す城崎温泉 (写真提供:永井千晴)
ながち:温泉地としても「湯のまち」としての風情が素晴らしくて。あの景観を残せているのはすごいですね。いま若い人も多く訪れていて、とても活気があります。
──温泉でカニ、最高ですね。でも、ちょっとお高そうな?
▲カニ味噌とカニのお寿司(写真提供:永井千晴)
ながち:私は平日にひとり旅で1泊で、旅館は1万円以内におさめて、外でカニ含めてお寿司食べて約1万円で、計2万円ぐらいでした。大阪からバスで3時間ほどかかるので、東京から目指すと時間はかかりますけど、でもやっぱり多くの人が訪れたくなる魅力のある温泉地だと思いますね。
最強に極楽な地獄、別府温泉(大分県)
▲九州屈指の湯どころ、別府(写真提供:永井千晴)
ながち:海の幸と山の幸、どちらも楽しめる温泉もいろいろある中、別府は総合的に最強だと思っています。代表的な温泉めしといえば「地獄蒸し」がありますが、これって源泉温度が高くないとできないので、どこの温泉でもできるわけではないんですよ。そこにすごく魅力を感じます。地獄蒸しって、ありがたいなあって。
──ありがたい!?
ながち:温泉のあるがままの状態を活用している、というのがとてもありがたく感じられるんですよ。別府の地獄蒸しではとうもろこしなどの地野菜、えび、たまご、豚肉などを食べました。温泉ならではの独特なにおいが染み込んでいます。
「土地の恵み」を満喫できる松之山温泉(新潟県)
ながち:温泉旅館のごはんって、地元のものを満喫しきれないケースもありますよね。山奥の宿で冷凍のお刺身が出てきたときはちょっとだけ残念な気持ちになります。唯一地元のものがあったとしても、鍋の中にちょっとだけ⼊ってる地元の牛肉だったり……。「この内容でお腹いっぱいにするの、もったいない!」というか、もっと楽しめたんじゃないかな、と思うんですよ。
──よーく分かります!
▲「酒の宿 玉城屋」では、フレンチに地元の日本酒「鶴齢」を合わせて(写真提供:永井千晴)
ながち:新潟県松之山温泉にある「酒の宿 玉城屋」は地元の食材をたっぷり食べられるという点ですごくよかったです。地元の旬の食材がフレンチで食べられて、地酒とのペアリングまでを温泉旅館で楽しめる。「最高……!」って気持ちになりましたね。
──宿の公式HPによると、「ミシュラン東京」二つ星の店で修業された栗山昭さんが料理長をされているんですね。「食材は地元十日町、新潟県内産に限定し、自らも地元スタッフの案内で山へ入り山菜、果実や野草を収穫、この土地に根付いた保存食、発酵の技術を織り交ぜながら」メニューを構成されていると。
ながち:ソースひとつとっても地産物の文脈が感じられて、食べているだけで幸せな気持ちになるコース料理でした。私自身あまりペアリングには詳しくないのですが、一品一品料理とお酒への解説があり、納得感を高めながら楽しめたと記憶しています。後半のメイン料理はボリュームもあり大満足でした。
▲この静謐な雰囲気! 「松之山温泉は、日本三大薬湯に数えられる温泉です。濃厚な塩湯で、芯まで温まります」とながちさん。行ってみたいなあ……(写真提供:永井千晴)
関東の大定番、箱根温泉(神奈川県)
▲数ある箱根の宿からは「養生館はるのひかり」をチョイス(写真提供:永井千晴)
──日本の温泉の代名詞のひとつ、箱根温泉にもおすすめのところがあるそうですね。
ながち:はい、「養生館はるのひかり」というところで。養生っていうぐらいで、地元のお野菜を使った体にやさしい感じの食事が楽しめるんです。量がちょうどいいんですよ。旅館めしって多すぎることありませんか? ホント適量で、「そうそう、このぐらいでいいんだよね」って。あと「自分にいいことしてるなー」って気持ちになれました。
▲宿の朝食、イワシの丸干しに雑穀ごはんなど。湯豆腐も供される(写真提供:永井千晴)
──こちらの宿、おひとりの利用もかなり多いと聞きますね。
ながち:そうなんですよ。食事処がカウンターになっていて、ひとりで食べても落ち着きます。箱根のように有名なところは正直、黙っていてもお客さんが来るという一面があります。そんな中でも、コンセプトとターゲットがしっかり定まっていて、求められている体験が1万円台で提供されている素晴らしい宿だと感じました。
温泉“沼”にハマった経緯は……
──Twitterアカウントのプロフィールには「温泉オタク」と書かれていますが、そうなったきっかけは?
ながち:学⽣時代にライターとして、全国各地の温泉取材をしたんです。バイト先の社長が温泉大好きな人で、温泉メディアを立ち上げて。そこのコンテンツを充実させるための取材でした。基本はすべて⽇帰り⼊浴、⾞中泊で。最初は全然温泉のこと知らなかったんです。取材していくうちにだんだんと温泉を好きになっていった……という感じですね。
──なんと、最初から温泉好きだったわけじゃないんですね!
ながち:その後に旅情報誌『じゃらん』で働いて、ますます温泉の情報も溜まっていって。会社員になってからお金に余裕が出てきたとき、「入浴だけしたあそこの旅館、ごはんもおいしいらしい」とか「宿泊がまたすごくいいらしい」なんて聞いてたところを訪ねていったんです。
──記事トップのチャートを作ろうと思ったのはどうしてだったんですか。
ながち:やっぱり友達から「おすすめの温泉教えて」と言われることが多くて。そのときパッと渡してすむものがあったら便利だなと。そしてみんな、温泉に行きたい理由も様々なんですよね。東京から一泊二日だとしたら、車が使えるかどうかがまず大きくて。
──私もあのチャートを使ってみたら、「自分が温泉旅行に求めるもの」がクリアになって驚きました。車無し、温泉街の飲み屋が好き、魚介好き……ということで熱海。昨年末に行っちゃいましたよ。
ながち:わー、それはよかったです!
──温泉ライターを本業にしようとは思わないのでしょうか。
ながち:ないですねえ、この先もきっとないですね。全然思わない。私は自分で働いたお金を温泉に還元したいんです。他にもいろいろと好きなこともありますし。いまは大河ドラマと朝ドラがめちゃくちゃ好きなんです!
(この後、しばし『スカーレット』話で盛り上がる……)
──ともかくも永井さん、きょうはありがとうございました!
※当記事は2020年1月に取材したものです。