なぜ一人で黙々と…「秘境駅」からの“山道”の掃除続ける27歳会社員の思いは JR飯田線
■現地には片道約4時間かけて通う
鉄道以外のアクセスが困難な秘境駅として有名なJR飯田線の小和田駅(浜松市)から延びる山道2・8キロを、1人で黙々と清掃する青年がいる。愛知県半田市から片道約4時間かけて通う会社員の高橋祐太さん(27)。1年余前には天龍村に拠点を置き、村おこしにも貢献しようと奮闘。高橋さんに密着したドキュメンタリー映画の製作も進んでいる。(岩安良祐)
■「この道をきれいにしたら自転車で通れるのでは」
自転車を携えて全国の鉄道を乗り継ぐ旅が趣味だった高橋さん。2020年6月、小和田駅で初めて下車して山道を歩いた時、足元の落ち葉を払うと見えたアスファルトでひらめいた。「この道をきれいにしたら自転車で通れるのでは」
翌年2月14日、インターネットで買ったほうき1本を持って再び下車。落ち葉や腐葉土が道にこびり付いてなかなか取れない。5メートル進むのに1時間以上かかった。2・8キロを掃除し尽くすには何年かかるのだろう…。ワクワクしてきた。
熊手を手に入れて試すと、一気に落ち葉や腐葉土を取り除ける使い勝手に「革命的だ」と思った。作業の省力化を目指して風で落ち葉を吹き飛ばすブロワーを買い足し、4台になった。息抜きに秘境駅周辺を巡ったり、駅間で荷物を運んだりしようと原動機付き自転車と三輪車も導入。趣味の登山に使うトレッキングポールとブラシを組み合わせた掃除グッズも自作した。
■清掃を終えたのは山道2・8キロのうち約1キロ分
山林に囲まれた小和田駅。雨に打たれてもヒルにかまれても、毎週のように通う。小和田駅や平岡駅(天龍村)への行き来に使った過去の切符を並べるとテーブルが埋まるほど。「この切符の時は飯田線が止まっちゃって大変だった」と、一枚一枚に思い出がある。
さまざまな掃除用具の保管や寝泊まりのため、平岡駅近くに家も借りた。少子高齢化が進む天龍村だが、人の温かさに魅力を感じている高橋さん。地域おこしにつなげようと、辺りに茶畑が広がる同村の中井侍駅を起点としたハイキングの催しを計画しており、友人や知り合った住民からは応援の声が届く。
2・8キロのうち、掃除を終えたのは1キロほど。「自宅の掃除は苦手でどんどん汚れていくけど、駅はきれいになっていく。生きがいです」。先は長いが、表情は明るい。自らの活動記録は写真共有アプリ「インスタグラム」(https://www.instagram.com/yamabukikun/)で発信している。
■ドキュメンタリー映画で密着
千曲市出身の映画監督太田信吾さん(37)は昨年から高橋さんの活動に密着し、ドキュメンタリー映画の製作を進めている。高橋さんが天龍村に借りた家が、太田さんの学生時代のアート活動拠点だったことが縁。家主の伊藤喬次さん(82)の紹介を受け、高橋さんの思いに触れた太田さんがほどなく撮影を始めた。
太田さんは、秘境駅周辺の美しい風景の裏には、民俗芸能「霜月神楽」などの文化要素に加え、平岡ダム建設時の強制労働といった歴史背景もあると捉える。「美しい景観づくりのために頑張る高橋さんがいて、彼を追いかけることで文化や歴史ある村の姿も映し出したい」。ドキュメンタリー映画は年内公開を目指している。