数を減らす劇場単独アニメ…『かがみの孤城』ヒットはその風向きを変えられるか?

テレビアニメの劇場版作品の大ヒットが続く中、元からの知名度が比較的低い劇場単独のアニメーション作品は中々ヒットに恵まれない現状にある。そんな中、昨年12月に公開された『かがみの孤城』が大ヒット中だ。

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『かがみの孤城』
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『劇場版 呪術廻戦 0』『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』『ONE PIECE FILM RED』『すずめの戸締まり』など昨年は数々のアニメーション作品が快進撃を見せてきた。『THE FIRST SLAM DUNK』もつい先日100億円を突破したばかりだ。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的ヒットを皮切りに、100億円を越えるアニメーション作品が続々と生まれてきたわけだが、多くの作品に共通して言えるのはテレビアニメの劇場版作品であると言うこと。つまり、この大ヒット現象は元から知名度の高い作品に見られる傾向がある。『すずめの戸締まり』も “新海誠”監督作品としてのブランドがあり知名度は十分だ。

その一方で、元からの知名度が比較的低い劇場単独のアニメーション作品は中々ヒットに恵まれない現状にある。(ここでは、テレビアニメの劇場版でないオリジナルアニメーション映画や小説・漫画などを原作としたアニメーション映画を“劇場単独のアニメーション作品”と定義する。)2016年の「君の名は。」大ヒット以降、新海誠監督に続くヒットメイカーを誕生させるべく多くの劇場アニメーション作品が企画、公開されてきたが、これまで特大ヒットには至っていない。

そもそもヒットの基準がどこなのか、と言う話だがここで簡単に解説すると、まずアニメーション映画の制作費には約1億~3億円ほどかかると言われている。そこに宣伝費も1億円ほど追加でかかることを加味すれば、予算はざっくり2~4億円ほどになると考えられる。仮に制作費を3億円と仮定した場合、興行収入は映画館と配給会社で50%ずつ折半となるため、後の配信サービスやDVD売上で1億円回収できたとしても、興行収入としては黒字化のために5億円ほどの売上を上げる必要がある。

この5億円という数字はアニメーション映画のヒットを分ける指標とも言えるが、この壁は中々に高いものとなっている。特に、コロナ禍以降5億円を越えた劇場単独のアニメーション作品は、新海誠監督の『すずめの戸締まり』と細田守監督の『竜とそばかすの姫』、そしてキングコング西野亮廣氏が手がけ話題になった『えんとつ町のプペル』のみと一握りの作品しかこの壁を越えるには至っていない。約20作品の中からわずか3本と、かなり厳しい状況が続いている。

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そんな中、昨年12月に公開された『かがみの孤城』はその5億円の壁を難なく乗り越えた。1月22日時点での累計興行収入は8億3,544万4,430円となっている。正式な成績発表こそないものの、1月27日からは第3弾の入場者プレゼントも配布があったことから現時点では10億円に迫る成績になっていると推測できる。さらに、2月23日(木)からは第4弾入場者プレゼントとして「スペシャルイラストカード」の全国配布が決定。同じく23日(木)にはティーチイン付き上映会の開催も決定している。公開からまもなく2ヶ月となる今も上映が続いており、原作小説の売上増加など相乗効果も含め、十分な利益を上げることに成功した。

『かがみの孤城』は、2018年に本屋大賞を受賞した辻村深月の人気ベストセラー小説を映画化した作品。あるトラブルから学校での居場所をなくしてしまった主人公こころは、突如光り始めた鏡に誘い込まれ、不思議な城へと辿り着く。その城に隠されたどんな願いでも叶うという鍵を巡り、そこに集められた6人の中学生たちと関係を深めながらも、探索を進める…というストーリーになっている。

映画ランキングでは初登場6位スタートとなったが、その後は粘り強く6週連続のランクインを記録。なんとコロナ禍以降6位以下発進で6週連続ランクインとなった作品は『かがみの孤城』と『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』のみ。劇場単独のアニメーション作品は初動から先細りして行く作品が多い傾向にあるものの、今作は口コミなどでも絶賛の声が絶えず、年末にかけて堅実に数字を積み上げた

12月23日(金)という冬休みシーズン直前という公開タイミングも口コミが効果的に広がるタイミングとして、かなり適していたとも考えられる。また、見事な伏線の回収や驚きの展開、感情の起伏などがテンポ良く丁寧に描かれているのもヒットのポイントとして挙げられる。そして何より、口コミでも多く見受けられるのは「刺さる」と言うワード。人の孤独にそっと寄り添うこの作品は、深く心に残る人も多いだろう。

つまり、今作は口コミによる粘り強いヒットでここまでのヒットに至ったわけだが、この『かがみの孤城』が達成するであろう“10億円”という数字は、今後の劇場単独アニメに対する期待や可能性を裏付けるものとして大きな功績を上げたと言えるだろう。と言うのも、2023年のアニメーション映画のラインナップを見てみると、全国で公開される予定の劇場単独アニメの数は9本と昨年の15本から約半分にまで減ってしまっているからだ。

やはり、2年以上3億円すら厳しい状況が続いていた事態を鑑みると、本数が少なくなってしまうのも仕方ない状況ではある。その一方で、人気テレビアニメの劇場版作品が100億円級のメガヒットを連発しているなら尚更だ。さらに最近では、テレビアニメの先行上映を行うという新たな上映スタイルも確立されてきている。中でも『鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は公開3日間で11億円以上の驚異的なヒットを記録した。

『かぐや様は告らせたい ファーストキッスは終わらない』も小規模公開ながら2.2億円とヒットを記録。3月には『推しの子』の第1話の全国先行上映も予定されている。アニメの先行公開であれば、話題作りにもなるだけでなく、元々テレビアニメとして制作されているためコストもほとんどかからないというコストパフォーマンスの鬼とも言える公開スタイルだ。このように、テレビアニメの映画化ビジネスは年々映画業界での存在感が増している。

また昨年の劇場単独アニメーション作品は『地球外少年少女』『バブル』『雨を告げる漂流団地』など、Netflixとの同時配信を行うものも多かった。Netflixに配信権を独占的に購入してもらうことで、興行失敗のリスクを減らすと言うアニメーション映画の新たな選択肢だったが、そのリスク回避となる頼みの綱も切れかかってしまっている。Netflixオリジナルアニメのヒット作品が少ないことや、Netflixの会員数が減少傾向にあることから、今後、アニメ作品に対する投資が減ってしまうのではないかと不安の声も広がっているのだ。

長年芳しいヒットが生まれず、テレビアニメの劇場版作品が台頭し、配信サービスとの同時展開も先が見えない中、劇場単独のアニメーション作品は四面楚歌とも言える状況となっている。そんな中、『かがみの孤城』の大ヒットは一筋の光として今後のアニメ業界にとってもかなり意義のあるものになっているのではないだろうか。

劇場単独のアニメーション作品は、元々の知名度も低く敷居が高くなりがちなことから、絶賛の声が上がっても「知る人ぞ知る名作」化してしまうケースも少なくない。最近で言えば『金の国 水の国』も絶賛の声が多い一方、2週目にして映画ランキングは10位と早くもランキング圏外に迫っている。政略結婚に巻き込まれた男女2人の真っ直ぐで誠実な愛の物語と、戦争によって分断した国の政治劇が描かれる見応えのある作品だ。

このような完成度の高い作品が多くの人に届かないまま徐々に数を減らしていく、このような状況はいち映画ファンとしてもいたたまれない気持ちになる。その流れが『かがみの孤城』の大ヒットで大きく変わっていくことを願いたい。

Source:興行通信社

『かがみの孤城』

コピーライト : ©2022「かがみの孤城」製作委員会

公開表記 :大ヒット公開中

配給:松竹

《タロイモ》

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中学生時代『スター・ウォーズ』に惹かれ、映画ファンに。Twitterでは興行収入に関するツイートを毎日更新中。

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