The Wisely Brothersはバンドシーンの新時代を告げるーー渋谷WWWワンマンライブを観た

The Wisely Brothersが告げる新時代

 The Wisely Brothersが11月17日、渋谷WWWでワンマンライブ『The Letter 7inchアナログ発売企画「Letter Of Mountains」』を開催した。

 The Wisely Brothersは、真舘晴子(Vo/Gt)、和久利泉(Ba/Cho)、渡辺朱音(Dr/Cho)からなるスリーピースバンド。「“兄弟”なのに女の子?」というツッコミどころのあるバンド名の通り、その音楽性もどこか捉えどころがない。古今のインディーポップを参照しながらも、ローファイなサウンドによる激しいアプローチや変則的な進行も含まれる楽曲たち、心の底から音楽を楽しんでいることが伝わってくる自由なスタイル……1st EP『HEMMING EP』や最新シングル「The Letter」をプロデュースした片寄明人(GREAT3)が、「『なんだこりゃ?』と気になって、聴いているうちにどんどんクセになっていきました」(参考:Mikiki The Wisely Brothers『HEMMING EP』インタビュー)と彼女たちの魅力を語っていたように、今回のステージからも「枠にはまらず面白いことを追求したい」「好きな音楽を自分たちなりに表現したい」という意思を感じることができた。

 イベントタイトルにちなみ、3人が高尾山を登山するドキュメンタリー映像でイベントはスタートした。続けて映画『かいじゅうたちのいるところ』のエンディングテーマ「All Is Love」が流れ3人が登場し、まだ未発表の新曲「Season」でライブは幕を開けた。

 The Wisely Brothersの特徴のひとつとして、コロコロと表情を変える曲の構成が挙げられる。2曲目に披露された「メイプルカナダ」は、音数の少ないゆったりとした雰囲気から始まるが、徐々に音の厚みを増しながらテンポアップしていき、ラストは歪んだギターサウンドをかき鳴らすまでに至る。続けて演奏された新曲「キキララ」は、メロディをリードする和久利のベースに、真舘の軽快なギターと渡辺のダンスビートが合わさることで、陽気なグルーヴを生み出していた。終盤のサビでは急にマイナーキーのフレーズを加え、それまでとは違った展開を見せてくるあたりも憎らしい。

真舘晴子

 

 作詞作曲を主に手掛ける真舘は、影響を受けたアーティストとしてフランキー・コスモスやThe Pastelsと語る一方で、高校時代はチャットモンチーのコピーバンドを行っていたという。音楽への探究心を感じさせる実験的な仕掛けを散りばめつつ、耳馴染みのある邦ロックのエッセンスも掛け合わせることで、The Wisely Brothersにしか出せないサウンドを作り上げているように思う。また、映画のワンシーンを切り取ったようなMVも、The Wisely Brothersのバンドカラーを象徴しているようだ。たとえば「サウザンド・ビネガー」や「The Letter」などのMVは、色味や小物などの細部に至るまでこだわりが見え、海外の音楽、アート、サブカルチャーに対する憧れやルーツを強く感じることができる。

The Wisely Brothers 「The Letter」MV

 東京カランコロンのいちろーがプロデュースした「八百屋」、新曲「グレン」と続くパートでは、彼女たちのコーラスワークも存分に発揮されていた。メロディに寄り添う真舘のボーカルは、日本詞も英詞のように柔らかく、なめらかに歌う。「waltz」では、真舘の歌声がメロウな曲調と詩的な歌詞を情感豊かに表現し、さらに和久利と渡辺の息のあったコーラスワークが重なることで、綺麗なハーモニーを響かせた。

和久利泉

 そして、<センスなし子>というフレーズが耳に残る「サウザンド・ビネガー」へ。サウンドもさることながら、彼女たちの曲は歌詞も面白い。メロディとの親和性や語感、遊び心を感じる言葉のチョイスにセンスを感じるのだ。「Thursday」の歌詞は、イザベル・ユペール主演のフランス映画『アスファルト』と、黒沢清監督作『アカルイミライ』からインスピレーションを得て書かれた歌詞だという。自分たちが暮らしている場所ではないどこか、小説や映画の中にあるようなファンタジー、聴き手によって思い起こす情景は様々だろう。すべてを語り切らない言葉で受け手に想像の余地を与えてくれるのも、彼女たちならではの魅力なのかもしれない。

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