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サイトの「あなたにおすすめ」には要注意? 依存するとどうなる? 専門家がリスクを解説

オトナンサー / 2023年2月13日 6時10分

ネット上の「おすすめ商品」「おすすめ記事」とどう向き合う?

 多くの通販サイトやニュースサイトでは、「おすすめ商品」「おすすめ記事」といった項目があります。内容を確認すると、過去の閲覧商品や閲覧記事と似たような商品や記事が掲載されていることも多く、商品購入時や情報検索時に活用している人も多いのではないでしょうか。

 サイトの閲覧履歴に応じた情報を提供する機能を「レコメンド」と言いますが、事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部の島崎敢准教授は、サイトのレコメンド機能を通じて配信される情報に依存した場合、視野を狭めるリスクが生じる可能性があると指摘します。

■自分に都合の良い情報しか集まらなくなる

 スマホの普及で、テレビや新聞よりもずっと多くの情報をインターネットから得ている人も多いことでしょう。1日は24時間しかないので、どのメディアもこの限られた時間の中で、ユーザーに自分たちの情報をできるだけ長く見てもらえるよう、努力を続けています。

 たくさん見てもらうためには情報の価値を高める必要があるので、どのメディアもあの手この手でコンテンツの価値を高めようとしていますが、実はインターネットの情報は、他のメディアと少し違った価値の高め方をしているのです。

 テレビや新聞は、不特定多数の人に向けて情報を発信するので、なるべく多くの人が好む情報を発信する必要があります。インターネットもかつてはこうした傾向にありました。しかし、今やインターネット上のウェブサイトの数は軽く10億を超えており、「多くの人が好む」といった、これまでの視点で情報を発信しても通用しません。

 そこでインターネット上では、情報のやりとりが双方向であるという強みを生かして、多様性のある個人に最適化した情報発信が行われています。

 ネット上のサービスを利用する際は、基本的に個人別IDやパスワードを入力して本人確認を行う「ログイン」が求められます。ユーザーは「ログイン」した状態でインターネットを利用しており、情報発信者側は、誰がどのような情報を検索し、好んで見ているのかを知ることができると言えます。

 もちろん、閲覧情報のデータは膨大な量になるので、サービスの運営者が一人一人の情報を見て、「この人はこういうコンテンツが好きなんだ」と分析することはないでしょう。ここでいう情報発信者とは、主にサーバー上のプログラムのことを指します。

 テレビや新聞も、視聴率や発行部数などの情報を得ています。しかし、一人一人のユーザーが、いつどのくらいの時間、どんな内容を検索して見ているのかといった細かい情報を把握しているのが、インターネットの特徴と言えます。

■個別に最適化した情報を提供

 さて、情報発信者(サーバー上のプログラム)が一人一人のユーザーを把握していて、その人の好みを知っている場合、コンテンツの価値を高めるにはどうするのでしょうか。テレビや新聞が行っているように、個々のコンテンツの質を高めるという方法もありますが、その人が好みそうなコンテンツを推測して「これ見ませんか?」とお勧めする方が手っ取り早くはないでしょうか。

 ここで「自分にも覚えがある」と感じた人も多いと思います。通販サイトは、ユーザーのこれまでの購買の傾向から、ユーザーが好みそうな商品をお勧めしてきますし、音楽や映像コンテンツの配信サービスも、ユーザーが好みそうな音楽や映画などをピックアップしてきます。

 そして、これらを実際にクリックしてみると「なかなかいいね」と思えるものだったケースもあります。つまり、情報発信者はユーザーの好みをよく知っていて、ユーザーが喜ぶような提案をしてくれるので、その提案に乗っていると、たいていの人が幸せになれるというわけです。

 同じようなことは、検索サイトやニュースサイト、SNSでも行われています。検索やクリックで記事を読んだり、SNS上で「いいね」(相手の意見に同意を示すボタン)を押したりしているうちに、情報発信者は次第にユーザーが興味を持ちそうな情報や、ユーザーの意見と似通った情報をお勧めしてきます。

 そして、それをクリックして読んでいれば、興味のない情報や自分とは反対の意見などを見ないで済むので、幸せになれるというわけです。

 こういったことを繰り返していくうちに、自分の周りには自分の好きなもの、自分と同じ意見の人だけが自然に集まってきて、他のものが見えなくなっていきます。このような個別最適化は、とてもさり気なく行われているので、自分が見ている情報が自分に最適化されているものだということには、意識しないと気付けません。

 しかも、情報発信者は別に悪意を持ってやっているわけではなく、単にユーザーに対して「なるべく長く情報を見てもらおう」「なるべくたくさんクリックしてもらおう」としているだけなのです。

■「世界中が自分と同意見」と錯覚

 このような現象を、米国のインターネット活動家のイーライ・パリサー氏は「フィルターバブル」と呼びました。私たちの周りには情報の個別最適化が作り出した見えない泡があって、その中には自分に心地よい情報ばかりが集まってきます。しかし、自分が泡の中にいることは意識しづらく、あたかも泡の中が「世界の姿」だと考えてしまうのです。
 
 例えば、「米国のジョー・バイデン大統領と、前大統領のドナルド・トランプ氏のどちらを支持するか」「新型コロナワクチンは打つべきか打たざるべきか」など、実際の世界では複数の対立する考え方がせめぎ合っています。

 トランプさんを支持する人のフィルターバブルの中には、トランプさんの支持者が集まるし、トランプさんの良い情報やバイデンさんの悪い情報が集まり、あたかも世界中が自分と同じ意見であるかのように見えてしまいます。

 フィルターバブルの中は大変心地よいのですが、自分とは異なる意見を知るチャンスや、今まで知らなかったタイプのコンテンツに出会うチャンスが失われます。もちろん、この心地よさの中に漬かっているというのも悪くはない選択肢なのかもしれませんが、少なくともフィルターバブルがある、ということは意識しておかないといけないのかもしれません。

 そして、フィルターバブルの外に出ようと思うなら、個別最適化がされていないテレビや新聞といった従来のメディアに触れてみたり、インターネット上の各種サービスから一度ログアウトしてみたりするなど、お勧め以外の情報を自分から積極的に取りに行く必要があるのです。

近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢

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