震災の痛みに向き合う 「すずめの戸締まり」新海誠監督に聞く
公開中の長編アニメーション映画「すずめの戸締まり」(新海誠監督)。日本各地の廃虚を舞台に、災いのもととなる「扉」を閉めていく少女すずめの解放と成長を描く現代の冒険物語だ。福島県を訪れた新海監督に、作品に込めた思いを聞いた。(佐藤香)
「帰還困難」風景に衝撃
―本県の印象は?
「2年ほど前、今作のロケハンで帰還困難区域を訪れ、今でもこういう風景があって、続いているんだと強い衝撃を受けた。また、20年近く一緒に仕事をしている美術監督の丹治匠さんが福島市の出身なので、福島の人には丹治さんのような実直で、でもユーモアのある職人のようなイメージがある」
―作中、随所で1980年代のJポップが流れているのが印象的だった。
「物語が必要としていたと思う。映画の後半というのは、クライマックスに向かって物語が重くなっていく。この作品も、すずめはどんどんシリアスな気持ちになっていくが、観客までずっと同じ気持ちでは疲れてしまうので、一度リラックスしてほしかった」
―扉というモチーフのアイデアはどんなところから生まれたのか。
「廃虚から不吉な災害が出てきて、それを封印して旅を続ける。そんなファンタジーにしたいと思った時に、扉を災いの出入り口にすると、扉を勢いよく閉めて鍵をかけるというアクションのリズムや迫力で物語を前に進めていけるかなと考えた。また、この数年間、日本は新しい可能性を開いて、開きっぱなしで前に進み続けて来た印象を強く感じる。果たしてそれでいいんだろうかと。だから、新しい扉を開き続けるような話よりは、扉を閉じて、そこにあったものを振り返りながら次の場所に進む物語の方が共感してもらえるんじゃないか? そんなことをオリンピックを眺めながら考えた」
―災害というテーマを扱うことへの覚悟や迷いもあったと思うが。
「現実の災害を扱うことで、そんな映画は見たくないと思う人がいるのは当然だ。しかし、全ての人に同意してもらえる、誰のことも傷つけない映画は、誰かの心を強く動かすこともできない。痛い部分を見ない、触らないようにするのは、心に触れないということだ。だから、必要な部分はきちんと踏み込んで作ろうと。その上でメッセージや言葉の上では、うそのない映画にしたいと思った。ファンタジーの映画だが、すずめというキャラクターの感情や気持ちは、うそのないように描きたいと思った」
県民の感想知りたい
―最後に読者へメッセージを。
「福島の方が『すずめの戸締まり』を見てどのように感じるのかとても知りたい。エンターテインメントにしかできない災害の描き方をしたつもり。震災を知らない子どもたちが見ても楽しめる映画だと思うので、幅広い年代の方で一緒に見に行っていただき、コミュニケーションや意見を交わすきっかけになればとてもうれしい」
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