「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。

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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。

委ねる

古橋 昌尚

今日の心の糧イメージ

 朝起きてから一日を終えるまでに、私たちは数々の「選択」をしているようです。

 その多くはほとんど意識にも上らない、日常のルーティーンワークの部類に属するものでしょう。そのいくつかは、生活や仕事の現場で抜き差しならぬ状況や課題に迫られる「選択」かもしれません。その時どきに集められる情報や知恵を総動員して、喫緊の問題にとり組み、難局を乗り越えていきます。場合によっては人に相談して助けてもらったり、仕事を代ってもらったりしてなんとか難を逃れます。あるいは乗り切れないこともあるでしょう。

 さらには、人生を左右するような重要な問題がもち上がり、それに対処すべく決断に迫られることもあります。そのような時、どのようにその問題と正面からぶつかり解決してゆくのでしょう。

 人によって異なりますが、「聖人」と呼ばれる人たちが実践してきたのは「神に聴く」という方法です。この表現があまりに唐突だとしたら、「心に聴く」と言い直してもいいでしょう。独りになって自分のために静かな時間をゆっくりもって、自己と対話してみるということです。そこで心の底から何らかの応答や印があるはずです。肯定的な促しを感じるならば、よきサインです。心が落ち着かないなと感じたら、もう一度問い直してみます。

 この「神に委ねる」という姿勢は、多くの求道者が実践してきた方法です。私たちの判断材料は多くの場合限られていて、その知性や視野にはいつも限界があります。こうした条件にあって、より大きな意志やヴィジョンに自らを委ねるという態度は、いつの時代にも採られてきた知恵です。

 委ねて戴く実りは、自己に囚われた欲や、社会に反するものではなく、真に豊かなものとなるでしょう。