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日本の資金洗浄対策「不合格」 国際組織が審査結果

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野崎浩成さん他3名の投稿野崎浩成鈴木一人高井宏章

マネーロンダリング(資金洗浄)対策を審査する国際組織「金融活動作業部会」(FATF)は30日、対日審査の結果を発表した。小規模な金融機関などの対応が不十分だとして、実質不合格の判定となった。貴金属・宝石商や弁護士など金融以外の業種でも対策に不備があると指摘した。政府は省庁横断のチームをつくり、法定刑の引き上げを含む対策強化に動く。

FATFは39の国・地域が加盟し、200以上の国・地域にマネロン対策を勧告する。審査で「重点フォローアップ国」に区分けされたのは日本のほか米国や中国など計19カ国。事実上の合格となる「通常フォローアップ国」は英国、ロシアなど8カ国にとどまる。

日本は「観察対象国」は免れたものの、今後5年間で改善状況をFATFに3回報告する必要がある。改善が進まなければFATFから名指しで対応の遅れを批判されるリスクがある。

FATFは日本の「金融機関等によるマネロン・テロ資金対策」の評価を4段階で下から2番目の「M」評価とした。大手金融機関は「(資金洗浄)リスクについて適切な理解を有している」とする一方、規模が小さい一部の金融機関は「理解が限定的だ」と指摘した。

カギを握るのが「継続的顧客管理」だ。口座開設時の本人確認や目的の聞き取りといった対応は進みつつあるが、開設後もその口座を本人が使っているのか、取引に不審な点がないかの継続的なチェックが不十分だとFATFはみている。金融庁には、対策が不十分な事業者への行政処分を有効に活用するよう求めた。

金融以外でも宝石商や弁護士など一部業種を「リスクについて低いレベルの理解しかない」とし、NPOを隠れみのにした資金洗浄リスクへの理解も「十分ではない」とした。

FATFは2008年の前回審査の後の改善の進捗が遅いとして、日本を名指しで批判。日本は「マネロンに甘い国」との烙印(らくいん)を押された。日本政府は今回の結果を踏まえて複数の関係省庁で政策会議を設置したほか、金融庁と日銀が地銀などの対応状況を一斉検査する。

関連法令を改正して、マネロンの法定刑を引き上げたり、捜査・訴追の権限を強化したりすることも検討する。テロのリスクが身近な欧米を中心に、テロ資金源になるマネロン対策への視線は厳しい。対策が甘いと見なされれば、国内金融機関の海外での活動にも響く。形式にとどまらない実効性の高いマネロン対策が求められる。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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  • 野崎浩成のアバター
    野崎浩成東洋大学 国際学部教授
    ひとこと解説

    以下、ポイントのみ取り上げます。 ①審査はメンバー国間による「相互レビュー」が基本。 ②審査は極めて厳しく、合格のハードルは高い。 ③日本は前回審査の反省から法整備に取り組んだ。 ④本報告で印象的だったのは (a) 大手行とその他で明暗を分けた評価、(b) DNFBPs(Designated Non-Financial Businesses and Professions;指定非金融業者及び職業専門家)の言及。 今後もAML/CFT(マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)がキーワードで、KYC(Know Your Customer; 本人確認)態勢強化など地銀のコストが増加しそうです。

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  • 鈴木一人のアバター
    鈴木一人東京大学 公共政策大学院 教授
    ひとこと解説

    FATFはプロによるピアレビューで評価を下している。日本に対する評価は、最悪ではないが、良いとは言えないというレベル。それは日本の伝統的なマネロン対策が金融機関に集中しており、それ以外のマネロンのルートに対するケアが不足していることが原因。これは金融庁が所掌しているのが金融機関だけであり、宝石商や不動産業など、裏口のマネロンに対する対処ができていないため。日本のマネロン対策は金融庁だけでなく、こうした「裏口」に当たる業種を所掌している役所も巻き込んだ対応が必要ということを報告書は示している。

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  • 高井宏章のアバター
    高井宏章日本経済新聞社 編集委員
    別の視点

    英国が「合格」なのは違和感があります。 ロンドンは英領の租税回避地のネットワークのハブであると長年指摘されてきました。ロシア・中東・アフリカのダーティーマネーが流れ込むロンドンを「世界最大のタックスヘイブン」と批判する研究者もいます。 各国が「穴」を埋めるのは必要な努力ですが、「大穴」を放置していては抜本解決は見えないと考えます。

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  • 蛯原健のアバター
    蛯原健リブライトパートナーズ 代表パートナー
    ひとこと解説

    日本の金融業界全体がこれに対して身構えて特に海外事業に対してはやや縮こまってすらいたように見える局面もあったものが終わったのはひとまずひと段落というのが正直なところでしょう。不合格とはいえ米国を含めた主要国の多くと同等レベルに位置しており、また今回の指摘は小規模金融機関と、「貴金属・宝石商や弁護士など金融以外の業種」であり、けして悪い評価とは言い難いだろう。

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