(承前)
「神田日勝と新具象の画家たち」展の出品作家のうち、浜田知明と北岡文雄については説明の必要がないだろう。
浜田知明の「初年兵哀歌」シリーズは、あの悲惨な戦争を記録した日本の戦後美術の中でも代表的なものであり、たぶん、文学の世界における大岡昇平や長谷川四郎と比肩しうる作だと思う。
北岡文雄は戦後を代表する木版画家であり、一時期札幌に住んでいたという縁から、全道展版画部門でも中心的な存在であった。
今回の出品作は、清朝以来の年画に影響を受けたとおぼしきパワフルな画風だ。ソヴィエト的な社会主義リアリズムとは違った意味で、毛沢東時代の雰囲気も感じさせる。
さて、道内の美術ファンにいまひとつなじみがないのが、與志崎朗ではないか。
與志崎は、1920年(大正9年)、深川生まれ。
一線美術、自由美術を経て、主体美術の創立直後に参加し会員だった。
晩年は胆振管内白老町に移住し、97年に交通事故で世を去った。
地元深川のグループ発足には深く関わっていたが、全道規模の団体公募展には出品していないようだし、個展もあまり開催している形跡がない。
筆者の知る限り、歿後の1998年7月15~23日、大規模な個展が深川市生きがい文化センターで開かれている。
7月22日の北海道新聞夕刊の文化面に筆者が書いた展評が掲載されている。それ以外に、彼についてまとまって言及しているテキストを見たことがない。
菅訓章・神田日勝記念美術館長は図録の「特別企画展によせて」で、次のように書いている。
「花嫁の橇」は、98年に筆者も実見している。
冬、馬が引くそりに乗った花嫁と家族を、縦に長い画面に、モノトーンの色調でまとめた作品。
花嫁が控えめで目立たないのが、特徴だ。
考えてみれば、昭和30年代ぐらいまで、こういう光景はふつうにありえたのだなと思う。
色調は、たしかに、初期の神田日勝を思わせる。とくに、馬のこげ茶色は似ている。
もっとも、当時は、絵の図版はモノクロであることがほとんどなので、日勝が「花嫁の橇」の実作に影響を受けたかどうかはわからない。
与志崎朗が、日本アンデパンダン展に出していたというのも、初耳だった。
これは、戦後の前衛美術史に残る、いわゆる「読売アンデパンダン」と同一のものではないかと思われるが、即断はできない。
(※12月20日後記。「ないと思われる」と書くべきところを「ないかと思われる」と書いてしまっていた。菅館長のご教示で、日本美術会主催の日本アンデパンダン展であることが確認できました。ありがとうございます)
ところで、彼の画風は、前半と後半でまったく異なる。
後半は、裸婦が数人、浜で魚をとったり、田園で戯れていたりする様子を、丹念な点描で描くようになるのだ。
これほどまでにユートピア的な光景の絵画を、自分はいままで、彼の絵のほかに見たことがない。
「もっと高い評価を」という、菅さんの意見に賛成する。少なくても、彼の作品をほとんど見ることができない現状を、何とかできればと、思う。
2012年10月23日(火)~12月9日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)、月曜休み(祝日と重なる場合は開館)
神田日勝記念美術館(十勝管内鹿追町東町3)
一般510円、高校生300円、小中学生200円
「神田日勝と新具象の画家たち」展の出品作家のうち、浜田知明と北岡文雄については説明の必要がないだろう。
浜田知明の「初年兵哀歌」シリーズは、あの悲惨な戦争を記録した日本の戦後美術の中でも代表的なものであり、たぶん、文学の世界における大岡昇平や長谷川四郎と比肩しうる作だと思う。
北岡文雄は戦後を代表する木版画家であり、一時期札幌に住んでいたという縁から、全道展版画部門でも中心的な存在であった。
今回の出品作は、清朝以来の年画に影響を受けたとおぼしきパワフルな画風だ。ソヴィエト的な社会主義リアリズムとは違った意味で、毛沢東時代の雰囲気も感じさせる。
さて、道内の美術ファンにいまひとつなじみがないのが、與志崎朗ではないか。
與志崎は、1920年(大正9年)、深川生まれ。
一線美術、自由美術を経て、主体美術の創立直後に参加し会員だった。
晩年は胆振管内白老町に移住し、97年に交通事故で世を去った。
地元深川のグループ発足には深く関わっていたが、全道規模の団体公募展には出品していないようだし、個展もあまり開催している形跡がない。
筆者の知る限り、歿後の1998年7月15~23日、大規模な個展が深川市生きがい文化センターで開かれている。
7月22日の北海道新聞夕刊の文化面に筆者が書いた展評が掲載されている。それ以外に、彼についてまとまって言及しているテキストを見たことがない。
菅訓章・神田日勝記念美術館長は図録の「特別企画展によせて」で、次のように書いている。
また日勝の作品アルバムに添付された第15・16回日本アンデパンダン展の作品写真(新聞切抜き)のなかでかねてから実作の展示を熱望していた與志崎朗氏の「花嫁の橇」が展示できたことは積年の思いの結実であり、渡辺貞之氏(深川アートホール東洲館長)のご教示に負うものである。與志崎氏の画業にはもっと高い評価や深化がなされるべきである。
「花嫁の橇」は、98年に筆者も実見している。
冬、馬が引くそりに乗った花嫁と家族を、縦に長い画面に、モノトーンの色調でまとめた作品。
花嫁が控えめで目立たないのが、特徴だ。
考えてみれば、昭和30年代ぐらいまで、こういう光景はふつうにありえたのだなと思う。
色調は、たしかに、初期の神田日勝を思わせる。とくに、馬のこげ茶色は似ている。
もっとも、当時は、絵の図版はモノクロであることがほとんどなので、日勝が「花嫁の橇」の実作に影響を受けたかどうかはわからない。
与志崎朗が、日本アンデパンダン展に出していたというのも、初耳だった。
これは、戦後の前衛美術史に残る、いわゆる「読売アンデパンダン」と同一のものではないかと思われるが、即断はできない。
(※12月20日後記。「ないと思われる」と書くべきところを「ないかと思われる」と書いてしまっていた。菅館長のご教示で、日本美術会主催の日本アンデパンダン展であることが確認できました。ありがとうございます)
ところで、彼の画風は、前半と後半でまったく異なる。
後半は、裸婦が数人、浜で魚をとったり、田園で戯れていたりする様子を、丹念な点描で描くようになるのだ。
これほどまでにユートピア的な光景の絵画を、自分はいままで、彼の絵のほかに見たことがない。
「もっと高い評価を」という、菅さんの意見に賛成する。少なくても、彼の作品をほとんど見ることができない現状を、何とかできればと、思う。
2012年10月23日(火)~12月9日(日)午前10時~午後5時(入場~午後4時半)、月曜休み(祝日と重なる場合は開館)
神田日勝記念美術館(十勝管内鹿追町東町3)
一般510円、高校生300円、小中学生200円