長野県の公文書管理は進んだか 条例全面施行10カ月余 廃棄に歯止め、仕分けに限界も
県の公文書の適正な管理や保存を目的とした「県公文書管理条例」が昨年4月に全面施行され10カ月余が過ぎた。内規に基づいていた県の文書管理を巡り、作成や整理、保存や廃棄のルールを条例で明確化。保存期間を過ぎた公文書について廃棄の是非を有識者が審議する仕組みも始まった。条例が「県民共有の知的資源」とうたう公文書にアクセスしやすい環境を整えられるかは、条例や仕組みの確かな運用に加え、県民に関心を持ってもらうための工夫も鍵になりそうだ。(井口賢太)
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「多くの人が亡くなった災害の関係文書。(歴史館への)移管が適当」。昨年12月下旬、オンラインで開いた県公文書審議会。委員で国立公文書館の依田健・上席公文書専門官が語気を強めた。県が10年の保存期間を過ぎたため廃棄予定としていた2006年7月の豪雨による岡谷市の土石流災害の災害廃棄物処理事業補助金に関する県の公文書の廃棄に「待った」をかけた形だ。
審議会は県公文書管理条例に基づき、大学教員や弁護士ら5人の委員が保存期間を過ぎた公文書の廃棄が妥当かどうかを話し合う。条例の全面施行で始まった新たな仕組みで、廃棄不適当と判断した公文書は新たに保存期間を設定する。歴史的に重要な「歴史公文書」と判断した場合は、文書館としての機能を持つ県立歴史館(千曲市)への移管を促す。
10月末の初回に続く審議で依田委員は11年3月の県北部地震の際の補助金関連文書、長野冬季五輪後の自然保護対策に関する報告書も移管が適当と主張。他の委員らも、歴代知事や幹部らによる政策の検討過程や決定に関わる重要な文書が含まれるファイルを慎重に検討し、2回の審議で県側が示した本年度廃棄予定の公文書ファイル7万474件中、2347件を廃棄不適当とした。
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審議を通じ課題も浮かんだ。委員は県がまとめた公文書ファイルのリストを基に事前に内容を検討し、必要に応じ現物での確認もした。初回会合で現物確認を進められたのは約70点。審議会内では「審議時間が足りない」と悲鳴が上がった。昨年12月、2回目の審議を前に委員2人が県庁でさらに約200点の確認を進めるなど膨大な審議対象を限られた時間で仕分ける難しさが浮き彫りになった。
委員の伊佐治裕子・松本市教育長は「きちんと現物を見る機会がないといけない。検討期間を長くし、責任を持って作業を行うことが必要だ」と強調。県に適切な公文書管理を働きかけてきた信濃史学会(後藤芳孝会長)も「膨大な量の審議を少数の委員に任せる態勢では十分な確認ができない事態を生じかねない」と懸念する。
審議会事務局の県情報公開・法務課の重野靖課長は「来年度以降、より適切な審査になるよう工夫する」と説明。審議前に委員がリストの内容を確認する期間をより長くできないか検討する他、リストの各ファイルに含まれる公文書の情報を充実させ、内容をつかみやすくする考えだ。
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重要性を認められ、県立歴史館に移管された後の利用の在り方を指摘する声も。条例の全面施行を受け同館には本年度、整理に当たる現代史の担当者が1人配置された。ただ、委員の瀬畑源(はじめ)・龍谷大准教授(日本現代史)は「全国的に移管文書が整理できないままたまり続けてしまう事例が起きている。(歴史館も)いまの態勢では積み残しが続出する危険性があり、どうフォローするかを考えないといけない」と指摘する。
各部局に公文書の移管・廃棄を助言する文書管理の専門職「アーキビスト」の採用も提言。県は検討するとしているものの、同課によると現在、具体的な配置計画は進んでいない。歴史館職員との協力態勢強化の検討を進め、他県の事例を研究しながら委員の要望に添えるよう努めるとしている。
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【県公文書管理条例】 学校法人「森友学園」に関する決裁文書改ざんなど公文書の信頼性が揺らいだ状況などを踏まえ、阿部守一知事が2018年知事選当時に条例制定を公約。公文書を「民主主義の根幹を支える県民共有の知的資源」とし、県職員が作成・取得した公文書の適正な管理や保存を目的とする。職員が業務で作成する文書のうち何が公文書に該当し、保存しなければいけないか、作成や整理、廃棄の基本的なルールを規定した。21年4月に一部施行し、7月に条例に基づく公文書審議会を設置、22年4月に全面施行。内閣府のまとめによると22年4月1日時点で、47都道府県のうち15都県が公文書管理のための条例を制定。県内77市町村では上高井郡小布施町のみ条例を定めている。
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