三日目
翌日。昨日と同じく、目覚ましより少し早く目を覚ました麟。朝の支度をしていると菫子がベッドから這いずり出てきた。律儀に朝の挨拶をする麟。挨拶を返す菫子だが、呂律が回っていない。呪文のような返事に麟は苦笑いを浮かべる。
「今日も購買で済ませますか?」
洗面所にいる菫子に対して尋ねる麟。そうする、と返す菫子。呂律は良くなっていた。
「無視するってのも疲れるわね」
頭が冴えてきたのかいつもの調子で文句を言う菫子。そのまま二人は昨日と同じように朝食を済ませ、教室へ向かう。
「そういえば麟ってサークルとか興味ない?」
そう切り出す菫子。それに対して麟は珍しく言葉を濁す。
「もし、私がサークル作ったら入ってくれる?」
足を止めてそう尋ねる菫子。だが、前からやってくるぬえとその取り巻きたちに気づく。
「麟、私に掴まって」
言われるがまま、菫子に抱き着く麟。菫子は
「あの、ここまで必死に避ける必要はあるんですか?」
「食堂での嫌がらせを忘れたの?」
「それは……」
「いい? あの手の輩は関わるだけ損なの」
そう言って菫子は麟と別れ、自分の教室へ向かう。扉に手をかけた菫子。だが、後ろから聞きたくない声が聞こえてきた。
「菫子じゃん、ここんとこ見ないけど元気にしてる?」
わざとらしいセリフを吐くぬえ。扉から手を離し、ぬえへと向き直る菫子。取り巻きたちがクスクスと笑いながら菫子の方を見ている。
「元気よ、あんたらと会ってないときはね」
「あっそう、そりゃ悪かったわね」
憎まれ口を叩き合うぬえと菫子。ぬえと取り巻きたちから笑みが消える。空気がピリつく。菫子は黙って席へ座る。教室内の生徒が視線を向けてくるが全て無視する。ぬえも黙って席に着く。音を立てることがはばかられるような空気が教室内を支配する。下駄の音が徐々に近づいてくる。足音が止まり、扉を開けてマミゾウが教室へと入ってきた。
「さあ、授業を始めるぞい」
一方、麟は誘いをどう断るか考えていた。ため息をつく麟。授業を受けるも中身は入ってこず、気が付くと授業の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。
荷物をまとめ、教室を出た麟は前と同じように菫子と合流する。麟と合流した菫子は顧問になってくれそうな教員を知らないかと麟に尋ねる。
「サークルの顧問になってくれそうな教員ですか」
「ええ、誰か知らない?」
「そうですね、マミゾウ先生なんてどうでしょう」
「私の担任の?」
「ええ、他のサークルの顧問を請け負っていなかったはずです」
口元に手を当て、考えこむ菫子。しばらくすると考えがまとまったのか口元から手を離す。
「案内してくれない? 職員室まで」
「構いませんよ」
そう言って職員室へ菫子を案内する麟。職員室の前まで来た二人はお互いに視線を交わす。麟は扉を軽くノックし、失礼しますと言いながら入室する。その後ろから菫子が失礼しまーす、と言って続く。
麟がマミゾウ先生はいらっしゃいますか、と尋ねると窓際に座っていたマミゾウが応じる。ここじゃと話しづらかろう、と言ってマミゾウは職員室の外へ出るよう二人に促す。
促されるまま外へと出た二人にマミゾウは改めて用件を尋ねる。
「実はサークルを設立したくて先生には顧問を担当していただきたいのです」
「ふむ、いいじゃろう。承知した」
「ありがとうございます、マミゾウ先生」
「うむ、こちらとしても都合が良いからのう」
そう言ってあっさりと承諾するマミゾウ。礼を言って退室する二人。
「案外すんなり見つかったわね、顧問」
購買へ向かいながらそう話す菫子。
「顧問は見つかったわけだけど部員があと一人見つからないのよね」
麟を見る菫子。麟は意を決して勧誘を断ろうとする。その時だった。
「やっぱり購買に来たわね」
ぬえたちが居た。