臓器あっせん、患者は徹底捜査求める「移植費用の行方解明して」
読売新聞 / 2023年2月9日 15時0分
東京都内のNPOによる臓器移植の無許可あっせん事件。警視庁による理事長の逮捕を受け、患者からは徹底した捜査を望む声が上がる一方、以前からNPOの活動を問題視してきた医療関係者からは「もっと早く事件化すべきだった」との指摘も聞かれた。
「余命宣告を受け、わらにもすがる思いで高額な費用を支払ったのに、結局、移植を受けられなかった。支払ったお金はどこに行ったのか。ぜひ捜査で解明してほしい」
NPO法人「難病患者支援の会」(東京)の仲介で2021年12月、中央アジア・キルギスに渡航した神奈川県藤沢市の小沢克年さん(54)はこう憤る。
重い腎臓病を患う小沢さんは約2100万円をNPOに支払って現地に渡り、手術日も決定したが、先に生体腎移植を受けた関西在住の女性が一時重篤となり、手術は中止された。
理事長の菊池
小沢さんは、臓器売買が疑われるような移植手術に違和感を覚え、翌1月に帰国。現在も週3回の透析治療を続けている。「国は、こうした不透明な団体が出ないような対策や、国内での移植数を増やす努力をしてほしい」と訴える。
神奈川県内の別の男性(58)も、NPOに約1800万円を支払って小沢さんらとキルギスに渡ったが、同様に手術を受けられなかった。現在、移植費用の返還と損害賠償を合わせて約3000万円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こしており、「不誠実な対応が繰り返されており、許せない」と語った。
一連のキルギスでの生体腎移植を巡っては、NPOが1人あたり約1万5000ドル(約200万円)の「ドナー費用」をトルコ人のコーディネーターに支払っていたことが、読売新聞の取材で判明している。
一方、今回の無許可あっせん事件の舞台となったベラルーシでは、脳死を含む死体からの移植が行われていた。現地では外国人への臓器移植も認められているというが、警視庁はNPOの活動が無許可あっせんに当たると判断し、摘発に踏み切った。
海外での臓器移植の仲介を巡っては、菊池容疑者のNPOだけでなく、ほかの民間団体でも問題が指摘されてきた。過去にも患者が死亡したケースなどがあったほか、国際的にも、日本人が途上国などで金銭を支払って移植を受けることへの批判があった。
こうした問題を受け、国内の多くの病院では、違法性が疑われる海外移植を受けた患者が来院しても、緊急性がある場合を除いて診察に応じていない。
腎臓移植医の相川厚・東邦大名誉教授(71)は十数年前、当時勤務していた病院で中国で臓器移植を受けたという患者に対応したという。容体が悪かったため診察を行ったが、患者の容体は重く、結局、感染症で亡くなったという。
相川氏は「海外での移植では十分な医療が受けられない恐れがあるほか、カルテなどが日本の病院に引き継がれず、適切な医療を受けられないケースもある」とする。その上で、「長年指摘されてきた問題で、刑事事件になったのは遅いくらいだ。厚生労働省も警察任せにせず、実態把握に努めるべきだ」と話した。
現地国立病院 大統領も視察
NPOが日本人患者を送り込んでいたベラルーシの病院は、移植医療の分野では現地を代表する国立の病院だった。
病院は首都ミンスクにあり、昨年2月にはルカシェンコ大統領が視察。「イスラエルや日本からも多くの患者がやって来る」と説明する院長に対し、「成功の証しですね」とねぎらう様子が、大統領府のホームページに公開されている。
ベラルーシの2021年の人口100万人あたりの臓器提供者数は23・06人。フランスやイタリアに続き世界10位で、日本の0・62人よりはるかに多い。
外務省によると、医療レベルは「一定の水準」にあるが、医療機関の設備や清潔度などには、ばらつきがあるという。
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