判例タイムズ1429号で紹介されている事例です(東京高裁平成28年1月19日決定)。

 

 

本件は離婚訴訟に際し,子ども2人の養育費として子ども一人当たり月6万円と定めて和解した父親(夫)がその後失職したため,母親(妻)の収入増加も理由として,家庭裁判所に対し養育費減額調停を申し立てたがまとまらず審判に移行したという事案です。

 

 

家庭裁判所では,父親は失職中ではあるものの,同年齢の男性の平均賃金程度の年収は得られる蓋然性があるとして,その収入を基礎としたうえで子ども一人当たり月4万円に減額するという審判をしました。ちなみに,家裁の審判では資料として用いた賃金センサスの年度に誤りがあり,家裁では平成24年の賃金センサスを25年のそれと間違えていたようです(こういう形式上のミスがあると上訴した場合に上訴審の裁判官の目にとまりやすくなります)。

 

 

高裁では,収入の認定はあくまでも現実に得ている収入金額を基礎とすることを原則とすべきで,無職であったり低収入である場合には,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的事情によって本来得られるはずの収入が得られておらず,そのことが養育費の分担において公平性を欠くという場合に初めて潜在的な稼働能力(きちんと働いていれば得られるであろう金額)を基礎とすることができると判断し,本件においては,失職した父親の退職理由,退職直前の収入,就職活動の具体的内容とその結果,求人状況,職歴などの事情についてきちんとした審理が尽くされていないとして,家裁に判断を差し戻しました。

 

 

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