家庭の法と裁判37号で紹介された事例です(東京高裁令和3年4月21日決定)。

 

 

養育費や婚姻費用を算定する場合,まず,当事者双方の総収入を認定することがスタートラインとなるところ,通常は,源泉徴収票や確定申告書の控えといった書類をお互いが出し合うことになります。

 

 

しかし,そういった書類は当事者が出さなければ裁判所を通じてであってもなかなか入手することは困難であり(例えば税務署に問い合わせたとしても守秘義務を理由として回答はされません),そういった場合,収入を認定することができずに不合理な結論となってしまうし,手続き上の不公平となるので,そうした場合には,同じような年齢などの場合の収入の平均値を出している賃金センサス上の金額などによって,その収入を得ているものと「みなしてしまう」(認定する)ということが行われることがあります。

 

 

本件は,婚姻費用の支払いを見求められた夫につき,精神科に通院し自主退職し,適応障害により就労は困難であるという診断を受けていたところ,家裁では,直近の給与収入の半分程度は稼働能力があるとして,月4万円の婚姻費用の支払いを命じました。

 

 

高裁は,婚姻費用の算定にあたっての義務者の収入認定は現に得ている実収入によるのが原則であり、失職した義務者の収入について潜在的稼働能力に基づく収入認定が許されるのは、就労が制限される客観的、合理的な事情がないのにもかかわらず、主観的な事情(働こうと思えば働けるのに働いていないといっこたです)によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の公平な分担における権利者との関係で不公平と評価される特段の事情が必要とした上で、夫が失職するに至った経緯や病状などの事情からして、本件においては特段の事情は認められないとし、夫の収入はないとして婚姻費用の分担を認めた家裁の判断を取り消しています。

 

 

類似の判断をしたものとして下記の裁判例もあります。

 

養育費の算定において失職中の扶養義務者の収入の認定方法 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

 

 

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