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感染対策 理解しつつ… 自宅でみとり 覚悟の選択も

迫る最期の時 会えない苦悩 県内 コロナで面会制限 終末期患者と家族

2020年10月8日(木)(愛媛新聞)

亡くなった実母の写真を手にする女性。「帰宅後、自宅に駆けつけた知人らに母は『ありがとう』と伝えることができた」=松山市

亡くなった実母の写真を手にする女性。「帰宅後、自宅に駆けつけた知人らに母は『ありがとう』と伝えることができた」=松山市

手紙ボックス

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亡くなった実母の写真を手にする女性。「帰宅後、自宅に駆けつけた知人らに母は『ありがとう』と伝えることができた」=松山市

亡くなった実母の写真を手にする女性。「帰宅後、自宅に駆けつけた知人らに母は『ありがとう』と伝えることができた」=松山市

手紙ボックス

手紙ボックス

 新型コロナウイルスの感染防止のため、県内でも病院に入院する患者とその家族らの面会制限や禁止が続いている。コロナ以前のような付き添いや複数人での面会がかなわない状況で、ほかの病気で入院している特に終末期の患者は、最期までの時間を家族らと満足に過ごすことが困難となっている。新型コロナ感染収束の見通しが立たない中、病院側も院内感染防止と患者や家族の精神的なケアの両立に苦慮している。

 

 

 

 「亡くなったことより、近くにいるのに会えない期間が一番つらかった。コロナさえなければ…」。大洲市の病院で実父が5月上旬死去した、東京都に住む女性(54)は静かに振り返る。

 

【面会は10分】

 

 東京など都市部で感染確認が急増し、愛媛でも確認され始めた3月下旬、女性はがんで闘病中の父に最期が迫っていると知らされた。数日後、感染対策を取り実家に帰省したが、父が入院している病院が面会禁止となっていた。「どうしようもないし、誰も責められない。会えない間に病状がさらに悪化したら…と考えてしまう気持ちをかき消したくて」。毎日手紙を書き、病院の外で防護服姿の職員に預けた。

 

 病院にいる父から電話があった。「コロナも続くし、もう家には帰れんかも。葬式は周りの人に迷惑を掛けないようにやれ」。気丈に話す声が今も耳に残る。

 

 父の88歳の誕生日の4日後、母と妹も一緒に父と面会できた。女性が帰省して2週間が経過していた。「うれしさと悲しさ、姿を見ることができてほっとした気持ちで涙が止まらなかった」。車椅子で父も泣いていた。

 

 3月の入院前に孫娘への就職祝いの送金、入院の準備…父は先回りして何でもした。最期まで家族を気遣っていた。「お父さんは割といいお父さんじゃったろが」「『だった』じゃない、これからもだよ」と言葉を交わした。

 

 自宅に帰る提案をしたが、治療を続け回復を目指していた父は「もう少し良くなるまで治療してから帰る」と答えたという。

 

 病院から連絡があり、亡くなる3日前から1日2人10分の面会が許され、意識のない父に懸命に声を掛けた。葬儀は全国に緊急事態宣言が出されていたこともあり、家族3人だけで行った。県内外の親戚や孫娘を呼べなかったのはつらかったが、「6月に入って親戚何人かにお線香を上げてもらえた。少し気持ちが楽になった」。8月、落ち着いた気持ちで初盆を迎え、父への感謝を改めて感じている。

 

 

 

【表情穏やか】

 

 退院させ自宅でみとる選択をした家族もいる。松山市の女性(88)は5月下旬、自宅で親族10人ほどに囲まれ、手を握られたまま穏やかな表情で息を引き取った。入院先の市内の病院から自宅に帰った翌日だった。三女(56)は「最高の見送り方ができた」と語る。

 

 女性は3年前からがんで闘病し、自宅で介護を受けながら入退院を繰り返していた。5月に再入院。面会は三女のみで、みとる際も3人までに制限されていた。母に残された時間、会わせたい人たちのことを考え、三女は「家に帰ろう」と覚悟を決めた。

 

 2人の姉、病院、在宅介護で支えてくれていたケアマネジャーや訪問看護師らに相談し早急に準備。「病院での感染対策は仕方ないこと。ただ、後悔が残る見送りになるのは想像するだけでつらかった。いつまでも引きずると思った」

 

 女性が過ごした日当たりの良い部屋で、三女は入院中に撮った母の最後の写真を手にする。「最期まで気丈に振る舞っていた母が、楽になれてよかった」。親子でほほ笑み合った。

 

 

 

【安全確保・心のケア 病院も両立苦慮】

 

 県内の療養型病院で働く男性医師(52)は「医療機関として院内感染を防ぐ責任と、患者やその家族に配慮したい気持ちとで常に揺れている」と明かす。病院で患者をみとる家族への対応は、少人数のグループに分けたり、他の患者との接触がないよう動線を限ったりしているという。「普段から家族には患者の病状をできる限り丁寧に説明し、気持ちの整理をしてもらうことで心のケアにつなげている」と話す。

 

 松山市南梅本町の四国がんセンターは現在、患者への面会は原則禁止。主治医や担当医が許可した場合のみ、15分程度の必要最小限の時間で家族1人に限り、面会を許可している。終末期の患者が最期の時間を孤独に過ごすことは避けたいと、付き添いを1人に限り許可するケースもあるという。いずれも発熱や風邪の症状、7日以内に感染拡大地域への移動がないかなどが確認される。家族の中には首都圏などに住む人もいる。患者の容体を事前に説明し、タブレットを利用して面会機会を設けるほか、県内に1週間滞在して体調を確認した上で、最期に面会したケースもある。

 

 「お見舞いに来られた方へ」―。同センターの入り口に、銀色の手紙ボックス=写真=が4月末から設置されている。友人などを見舞うために遠方から訪れた人らが、その場で手紙を書けるよう紙とペンを添えた。手紙は患者や付き添いに届けられる。

 

 四国がんセンターの谷水正人院長と感染制御チーム責任者の濱田信医師は「直接会えない、ぬくもりを感じられない。最期が近づく患者さんやその家族のためにそれでいいのかという思いはある」と苦しい胸の内を明かす。一方、ワクチンや有効な治療薬はまだ開発されておらず「配慮は必要だが、病院には患者らの安全を守り、医療の質を落とさないという大きな使命もある」と感染防止徹底の重要性も強調する。

 

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