懐かしのヒーローロボット列伝

第10回 機動戦士ガンダム

1.設定ものアニメーション

 「燃え上がる」設定に「君」も「走」ったのでは? 「巨大な敵」はジオン公国。 ザビ家が独裁している宇宙植民地国家である。 だが、物語の設定はそれほど単純な善悪対決ではない。 人口過剰な地上から軌道上へ移住させられた植民地が 地球の圧制に反発して独立する設定は、 米国の独立という史実のため歴史的必然と考える人が欧米では多いようで、 あちらのSFではよく見られるのだが、 「ガンダム」で独特なのは、主人公が地球連邦側の人間であり、 植民地国家が独裁制だという点だろう。

 近代戦争ものに共通するように敵の設定は ナチスドイツになぞらえられている。 軍服や兵器のデザインだけでなく、 新兵器で量的劣性を補うという方策も、そこから来ているようだ。 その新兵器とはモビルスーツ。 内部に人が乗り込んで操縦する宇宙戦闘用大型ロボットで、 その初期量産型がザクである。

 ザクに対抗すべく地球連邦支配下にある宇宙植民島サイド6で 密かに試作されたのがガンダムRX-78だ。 3タイプが試作され、「ガンダム」「ガンキャノン」「ガンタンク」と 呼ばれていた。

 SFアニメとして見たとき、機動戦士ガンダムが新しかったのは、 詳細な設定ではなかろうか。 舞台となる宇宙植民島は、概念もろとも 米国宇宙工学者オニールが実際に提唱しているデザインを採用し、 天体力学用語であるラグランジュ点に設置している。 冒頭のスペースコロニー落下による地上攻撃は、 隕石による恐竜絶滅説を思い起こさせるし、 格闘戦を正当化するために、 「ミノフスキー粒子」でレーダーが使えないという説明も与えていた。 日本最初のSF制作グループ「スタジオぬえ」が設定に関与したことが、 豊富なアイディアの投入となったのだろうか? 製作が名古屋テレビという非東京キー局だったことも、 こうした革新的な番組がOKとなった理由かも知れない。

2.等身大から巨大ロボットへ

 人間が操縦するロボットを大量に戦場へ投入するというアイディアは ハインラインの古典的SF「宇宙の戦士」で登場する。 動力で動作を補佐する「パワードスーツ」を着た「機動歩兵」である。 これがガンダムの設定に重大な影響を与えたようだ。 制作の日本サンライズも、当初は等身大としたかったのだが スポンサーの意向で変更になったとの話もある。 敵キャラであるザクの頭部デザインに等身大の設定だったときの名残が見られる。

 パワードスーツは内部の人間の動作を、 そのまま動力化して再現するというアイディアなので、「操縦」とはならないが、 ガンダムは巨大ロボットとなったために、 操縦竿やハンドルを操作する必要が出てきた。 ところで主人公アムロ・レイは開発者テム・レイの息子とはいえ 操縦訓練は受けていない。 超感覚の持ち主である「ニュータイプ」だったとの設定が後に明らかになるが、 それだけでは一介の子供がロボットを自在に操縦するという設定には無理がある。 (ニュータイプであることを利用する兵器はサイコアーマーとして 最終回近くになって登場する。) そこで出てくるのが「マニュアル」である。

 パソコンが普及した今日こそ、 機器の使用にはマニュアルが必須というのが人々にも理解されるように なってきたが、 機器操作に取扱説明書が必要という概念を広めたのは ガンダムの隠れた功績だろう。 まぁ、アムロが数分で必要な情報を入手できたということは、 ちょっと現実離れしているが、 マニュアルがそれだけ良くできていたという解釈もできる。 欧米に比べて日本製品は機器のマニュアル作成に特に難があるとの話を よく耳にする。 専門機器の使い方は口伝が絶対と考えずに、 使いやすい・わかりやすいマニュアルは機器の性能の一部と考える人が もっと増えて欲しいと思う。

 一方、巨大化したことでのメリットもあった。 戦闘で頭部や脚部が破壊されても胴体中央部にいる操縦者は 軽い怪我で済むという演出が可能となったのだ。 衝撃的な絵を示すと同時に残虐な状況を回避できる。 また、特殊な超小型化をすることなく動力源に核融合炉を使えることとなった。

3.機能向上する兵器

 ガンダムは試作品であった。 試作品は、量産品に先立って製造法や実際の運用、 保守管理上問題がないかを実地確認する目的で製造される。 明らかになった問題点を改良した上で量産品が製造されるので 量産品の方が若干性能が向上されているのが普通だ。 ガンダムでもキャノンやタンクが戦術上効果的でないこと、 コアファイターがあまり有用でないことが明らかになったとされて、 量産型であるジムに反映されたようだ。

 しかし、ジムは戦闘が激化した時期に大量に登場したため、 破壊されるシーンが多数登場し、 「量産品」=「粗製濫造品」とのイメージを与えてしまったようだ。 実際の工業製品でもコストや保守の便を優先して 量産品の性能が若干劣ることも皆無だとは言わないが、 総合性能で勝っているのが常識であろう。

 一方、ジオン公国側では、初代ザクの改良型としてドムやグフが登場する。 最新兵器が次々と更新されるというのは 従来のヒーローロボットものでは考えられないことだ。 おかげで、ファン達は多数のモビルスーツやモビルアーマーの型名を覚えて 自慢し合うことになる。

 これに対して連邦側はジムの投入がせいぜいだから、 新兵器による戦局の転換というよりは、しょせん、 物量による戦局の帰趨というストーリーになっている感じがする。 一旦、行方不明になっていたテム・レイがアムロに再会したシーンでは 彼はガンダムの反応速度向上回路の取り付けを主張していた。 これに対してアムロに 「父さん、そんな古い回路を」と言われてしまうのだから、 連邦側も部分的な改良は続けていたようである。

 筆者はこのシーンの放映直後に、 秋葉原で購入した80287数値演算コプロを持って、 「これをお前のPC9801RXにつけろ。そうすれば反応速度が数倍に!」 というギャグをやったことがあるが、 浮動小数点演算はもとより、MMXテクノロジーすら内蔵されている PentiumII with MMX technologyがパソコンの普通のCPUとなっている今日では、 このギャグ自体理解されなくなってしまったようだ。 (再録時注:このPentiumII自体が既に過去のものとなってしまった)

 もっとも、最近はアムロといっても、奈美恵だものねぇ。 「宇宙世紀も遠くなりにけり」なのかも。


プラントメンテナンス1998年1月号掲載

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