懐かしのヒーローロボット列伝

第13回 キューティーハニー

1.レンゲと蜂蜜

 「このごろ流行の女の子」とはいうもののキューティーハニーは、 今回はリメーク。初登場は1970年代である。 原作は永井豪。 お色気漫画で教育ママ(笑)と全面対決状態だったから、 親に隠れてこっそり観ていた人も多かったのでは?

 主人公のハニーはロボットである。 如月博士が、自ら発明した「空中元素固定装置」の悪用を防ぐために、 それを内蔵したロボットとして製作したのがハニーなのだ。 装置の秘密を守るために、彼女がロボットであることも秘密とされており、 普段は、博士の娘、如月ハニーと名乗っている。

 空中元素固定装置というのは大気中から指定された元素を 指定された割合で抽出し、必要な物質を化学合成するという装置である。 地球大気中には、およそありとあらゆる物質が僅かずつとはいえ 含まれているのだから、 それを集められれば、およそどのような物でも作ることができる という前提に立っている。 昨今でこそ、目の敵とされつつあるが、 生活のかなりの局面で多用されているプラスチック。 これを構成する元素は炭素、水素、酸素、窒素などであるから、 大気中に大量に含まれている。

 空中元素固定装置という言葉から連想されるのは、 ハーバーの空中窒素固定法だ。 大気中に含まれる窒素から肥料を化学合成する方法で、 人工肥料の起源とされる。 これによって土地がやせていた北ヨーロッパ平原、 特にドイツでの農業生産を飛躍的に高める発明であった。 これが元でドイツでは化学工業が発展し、「化学のドイツ」の基礎を作った。

 窒素肥料と言えば、硫安。 硫酸アンモニウムだが、植物性蛋白質を合成するために必須の肥料らしい。 人工肥料ができる前は、 休耕中の田畑にレンゲを生やすことで経験的に対応していたらしい。 マメ科の植物は根粒にいるバクテリアの働きで大気の窒素を取り込み、 地中に窒素肥料物質として残すことができるからだ。 永年の経験を分析し、その原因を究明したことで 人間生活が豊かになった実例といえよう。

2.近代的錬金術

 話が、教科書的になってしまった。元に戻そう。 ハニーの持つ空中元素固定装置を狙っている敵はパンサークロー。 国際犯罪秘密結社で、装置を悪用して宝石などを大量生産するのが 目的とされていた。 とはいえ、宝石の大部分は酸化珪素と金属。 さすがに、珪素と金属を空中から取り出すのはちょっと無理がありそう。 動作させると辺りの空気を大量に引きつけてしまうので大暴風…ってなりそうだ。 とすると、実際に合成可能な宝石として考えうるのはダイヤモンドだ。

 各種ある宝石の中でもダイヤモンドは炭素の立体結晶。 つまり炭素だけでできている。 ということは、大気中にある二酸化炭素を吸収し、そこから炭素を取り出せば、 原理的にはダイヤモンドを合成することは可能だ。 残りは酸素だから、現在ならば、こちらの利点の方がアピールしたかも知れない。 地球温暖化防止京都会議での話題の新技術となったはずだ。

 ありふれた大気から宝石を製造できるとすれば、 空中元素固定装置は、錬金術を実現する機械といえる。 錬金術といえば、中世ヨーロッパに流行した、占星術と並ぶ疑似科学だ。

 「世の中の物質は全て5大元素から合成されているはずだから、 ありふれた物質を操作すれば、その中に含まれている元素である“金”を 取り出すことができるに違いない。」というのが理論的背景だった。 その意味では決して「不合理」ではなかったのだが、 最初の仮定が誤っていたのだから結局は成功しなかった。

 しかし、その失敗から元素は5つどころか100近くあるということが わかったのだから、錬金術全体の歴史的文化的意義は、 それなりに評価すべきだろう。

 昨今のマスコミによれば、現代日本では錬金術が実現しているらしい。 「なんらかの操作によって、ありふれたモノの中から、それに含まれる ”カネ”を抽出して、私腹を肥やすこと」を言うらしい。 これは、歴史的文化的意義はゼロ以下だ。

 占星術も「万物を支配する神の意図は、 それが住む天の現象に現れるに違いない。」という仮定から出発している。 これが根本から間違っているのだから、 その後の惑星運動をいくら精密に予測計算しても結果は意味がない。 正確さに関してはおみくじと変わらないと言って良いだろう。

3.如月ハニーは爆弾娘  ところで、ハニー自身は、装置を「変身」に利用している。 「変身」といっても、実際に変わるのは髪型と服装だから「変装」に近い。 能力も変わるが、それはロボットとしてのハニーの動作パラメータが 変わるからだと考えればよく、空中元素固定装置とは無縁のようだ。 服も髪も天然繊維だから、元素で言えば、 ほとんど炭素・窒素・酸素といった大気中に多量に存在する。 したがって、装置に過負荷をかけずに動作させることも可能なのだろう。

 もっとも、拡散している大気中から必要量の元素を集めること自体、 大変なことだ。 散らかっているものを集めて片づけるのは部屋や作業上の場合も大変だが、 それと同様、エントロピーの減少を必要とするので、 相応のエネルギーを消費した上で、どこかにエントロピーを捨てなくてはならない。 最も捨てやすい形態は熱とすることだ。 ハニーは変身するときにハニーフラッシュと呼ばれる発光現象を起こす。 大気から元素を取り出す際に放出するエントロピーを熱として捨てる過程で 起こるのだろう。

 とはいえ、莫大なエネルギーが必要とされることは間違いない。 装置にエネルギーを供給するのもハニーの機能だから、彼女自身の動力源は、 これまで取り上げてきた、どのロボットよりも膨大な物とならざるを得ない。 核融合程度では不十分だ。反物質の対消滅を利用しているのだろう。

 ハニーの燃料の反物質が漏れると大爆発が起こることになる。 同一質量の水爆の300倍のエネルギーだからとんでもないことだ。 戦士モードのキューティーハニーになるというだけでなく、 この意味でもお嬢さんモード、如月ハニーは爆弾娘ということになるのだろうか?


プラントメンテナンス1998年4月号掲載

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