「あっ、そうだエベレスト行こっと」
色々な思いつきがあり2023年の1月、松の内も開けないうちに私はネパールに旅立った。それまで連載していた漫画が12月に終了し、まとまった時間ができた+タイミング的にまあまあお金もあるし、まあ海外旅行とか行っても死なないだろ……くらいの気持ちで行ってしまったのだ。
目当てのレジャーはアジアが誇る世界最高峰の霊峰、エベレスト。そのベースキャンプ(エベレスト登山を目的とする際の拠点)に向けてのトレッキングだ。
エベレストと聞くとみんな口をそろえて「大して登山経験もないのにエベレスト行くつもりか!? 死ぬぞ!!!!」って慌てるんだけど、トレッキングとは登山のようにザイルやピッケルを使って崖を垂直方向に登っていくなんてことはしない。言うなれば何日もかけたハイキングのようなものなんだよね。散歩の超レベルアップ版と思ってもらえばいい。
エベレスト・ベースキャンプをゴールとする「エベレスト街道トレッキング」は、むしろネパールの観光コースとしては定番中の定番。『地球の歩き方』にもやり方が載っているし、旅行代理店に行けば必ずあるコース。装備さえしっかり整えればそんなに危険はないんだよね。
むしろ街道というだけあって歩いてると30分毎に売店や喫茶店、簡易宿泊所などが顔を出すという感じで、ある意味下手な日本の登山よりも気軽に登れると言っても決して言い過ぎではないくらいのレジャーとなっているんですわ。
今回、私がエベレストトレッキングをやってみることにした大きな理由の一つに『神々の山嶺』という作品の影響がある。これは夢枕獏による小説で、私は特にコミカライズ版に感銘を受けた。『孤独のグルメ』で有名な谷口ジローによるマンガで、死ぬほど絵がうまい。
山に狂った男がエベレスト登山に人生を捧げ、その狂気、執念に周囲の人間も巻き込まれていくという話なんだが、これがまあ凄まじく面白く、間違いなく人生のマンガオールタイムベスト10に入れたいと思っている作品なんだよな。
なので「行こうと思えば海外旅行に行けるくらいの余暇があるなあ」と思った時、エベレストくらいしか行きたいところが思いつかなかった。
「韓国とか台湾とかもっと安く行けるし楽しいよ」
と言われても
「ん───別に見たいところないしなあ」
としか思えなかった。
でもネパールに行けばエベレストはもちろん、カトマンドゥ(首都。国際便の飛行場もある)見に行くだけでも絶対面白い。行きテェ〜〜〜〜!
というわけで実際行ってみちゃったところやはりスンゲー面白く、感動し、死ぬほど興奮し、作品への理解度もものすごく上がった。
カトマンドゥの雑踏、ナムチェという地が存在すること自体への驚き、ヒマラヤ山脈の美しさ……う───んマジで行ってよかったな。
そうした各種ビューポイントでは『神々の山嶺』のことをしっかり思い出せたのだが……自分でも意外だったんだけどトレッキングの真っ最中で思い出していたのはこれまで遊んでいたビデオゲームのことだった。
世界の最高峰でフスロダと叫ぶ
ネパールではヒンドゥー教と仏教が普及しており、特にエベレスト街道はチベットと隣接しているからか仏教が強い。道中には無数のマニ車や仏塔、祈祷旗、そしてマントラが並んでいる。
特にマントラは圧巻で、無数のマントラが刻まれた巨大な岩が突然道端に出てきたりして、その、正直言って意味はよくわからないがめちゃめちゃかっこいい。
カッコ良すぎて元気が出てくる! すさまじい徳を感じる。
同時に、電ファミを読んでいるようなゲーマーの皆様はこれらのマントラを見て何かを感じないだろうか?
まるで『TESスカイリム』の「力の言葉」みたいじゃね!?
ほらほらこれなんてまさに!
多分今ここでドラウグル・オーバーロードを倒したところだと思う。めちゃめちゃ力の言葉すぎてテンション上がってしまうな。全然そんなつもりなかったんだけど、ネパールでタムリエルを感じて嬉しくなるなんて驚きだわ。
そういえばシャウトを習得するために行く「世界のノド」もエベレストがモチーフな気がするし、案外マジでこういうマントラが「力の言葉」のモチーフなのかもしれないなあ……。なんてあらためて思って感慨深くなったのでした。
伝説にならないポーターたちがすごすぎた
もう一つ、トレッキングをしていて思い出さずにはいられなかった作品がある。あるのだが、その前にあらためてエベレスト街道のルートというのを説明したい。
まずはカトマンドゥから国内便でルクラという村まで移動する。
そこからは基本的には徒歩で移動。ナムチェまでは2日、そこからエベレスト・ベースキャンプ直前の拠点となるロブチェやゴラクシェプにはさらに4日かかる。
ルクラからはヘリコプターで移動することもできるが、これは基本的に観光客が乗ったり、怪我人・病人を運ぶために使われるもの。では食料・飲料などをはじめとする物資はどう運ぶのかというとロバやゾッキョ(ヤクと牛のミックス)、そして人間のポーターが運んでいるんだ。
先ほど「トレッキングは登山より全然ラクだよ!」とは言ったがそれはあくまで技術的難易度の話で……当然キツいっちゃキツい。標高はスタートのルクラの時点で2800m。それがナムチェでは3800mとすでに富士山を越えた高度となり、酸素も薄くなったのを身体で感じ取ることができ、格段に身体は重くなる。ちょっと階段を登っただけで息が上がる。
最終的な宿泊地のゴラクシェプに至っては5000mの世界だ。そんな日常とはかけ離れた環境で、10kgに及ぶバックパックを背負って1日だいたい4時間、多い時で6時間をひたすら歩く。時には2時間に渡ってひたすら階段を登り坂を登り、500m以上高度を上げていくことだってある。間違いなく過酷な道のりだ。そんな中、自分より遥かにデカく、重い荷物を背負ってポーターたちが通り過ぎていくのだ。
は、ヤベッ。ヤバすぎる。
この光景を実際に見て、皆さんは『デス・ストランディング』を思い出さずにいられるだろうか……。私は無理だね。
正直言うと私は同作にいまいちハマれなかった。よくできてるし発想がうまいなとは思ったものの、ゲームとしてやれるけど許されないことが多く感じたり(例えば人を殺すと怒られて最終的にゲームオーバーになるのがイヤだったりした)、ムービーが長くてなかなか操作可能にならなかったりるのが肌に合わなかった。
よく評価されているような「配達してくれる人への感謝の気持ちが湧く」みたいなのも正直そんなにだった。荷物を受け取ってくれる人のホログラムは出るけど、自分が運んできたものを誰かが使ってくれる様子が描かれるわけでもないし……。
「人々が地下都市に住んでいてほとんど姿を見せない」というのはこのゲームを完成させるにあたってはすげえいいアイディアだなあと思ったけどあまり魅力を感じられなかった。
そんなこんなでそこそこプレイはしたもののクリアまでには至らなかったんだよね。
それでも……やはりエベレスト街道を行くポーターを見て、サムのことを思い出さずにはいられなかった。エベレスト街道に限らずネパールは水が悪い。幼少の頃から慣れ続けた現地民でなければ、水道水を飲むのはもちろん、歯ブラシを洗うのに使っても食中毒を起こすと言われている。そんな観光客の我々が安心してミネラルウォーターやコーラで喉を潤すことができるのは間違いなく彼らのおかげなのだ。
しかも彼らはサムと違って超しっかりとした荷台やブーツ、強化外骨格も持たずにその身一つで支えながら長い道のりを行くのだ。畏敬の念を覚えずにいられようか。
ここに至って初めて、「配達人への感謝とはこのことか……」としみじみ思ってしまったのであった。
当時はいまいちピンと来なかった『デス・ストランディング』。今遊んだらまた違った感情が得られるかもしれないな……。
いいとこでした
そんなわけでせっかくネパールくんだりまで遊びに行ったので脈絡ない文章を書いてみました。いや、マジでめちゃめちゃ面白かったよ。エベレストトレッキングは途中でお腹壊して離脱したんだけどな! 上から下から色々出続けました。今も完治してねえ!
でもこんなところまで来ても根っこはテレビゲームなんだな〜と思えたよ。数は少なかったけど現地でテレビゲーム屋さんやゲームセンターを見つけられた時は嬉しかったな。
というわけでネパール旅行、おすすめです。現地の人たちはかなり親日で治安もいいし。カトマンドゥには日本食レストランも豊富にあるよ! しかしこうなってみると伝説の登山ゲーム、『蒼天の白き神の座』も遊んでみたいぜ……プレミアついてるけど! なんとか今からでもアーカイブ化とか移植とか無理ですか? お願いします。それじゃあ今回はこんなもんで。