ギルデロイ・ロックハート。闇の魔術に対する防衛術の新たな教諭。はっきり言って彼は塵であった。屑であった。塵屑ではあった。
彼の授業は聞く必要などない。大抵が彼の自慢話かでしかないからだ。はっきりいって屑以外の何物でもない。なぜそんなものがホグワーツの教員になったのか。
闇の魔術に対する防衛術の教諭はこのところ変わり続けている。何やら不吉な何かがあるのではないか。そう思われる程度には。
昨年度の事件がきっかけとなり、その噂は大いに広まった、確信を持って。ゆえに、誰もホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の授業を行いたいと思う教員がいなくなってしまったということらしい。
だからといってあのような塵屑を採用する糞塵屑も糞塵屑ではあるが、利用価値は意外とあった。
「有名で偉大なロックハート先生ぇ、私ぃ、この本を借りたいんですけどぉ」
猫なで声で彼へと迫る。
「はっはっは、いいとも。リラータ嬢。良いとも、良いとも。しかし、こんな本よりも、もっと私の本をだね――」
「――ありがとうございます。偉大で有名なロックハート先生」
彼はチョロイ。ちょっとだけ褒めてやればいい気になって、借りたい本の内容など見もせずに許可を出す。閲覧禁止の棚。そこの閲覧許可を取りつけたり、下級生では借りられないような本の貸し出し許可もこの塵屑は出してくれる。
それだけにとどまらず、あなたしか手に入れられませんよねとおだてて調達を頼めば下級生では絶対に手に入れることのできない、それこそスネイプの薬品棚でしか手に入らないような魔法薬の材料を手に入れて来てくれたりする。
おだてれば何でもやってくれる便利な塵屑。それがギルデロイ・ロックハートだった。追い出してやろうと思ったが、このままいてくれた方が良いかもしれない。
サルビアは習う必要はないが、他の奴らの戦力を落とすことも出来る。敵対した際の芽を摘むということもできるわけだ。
「実に使えるじゃない。まあ、当然よね。私が使ってやっているんですもの」
ただし、あの糞な授業を卒業まで聞かなければいかないと思うと憂鬱にもなる。便利ではあるが、やはり追い出すべきか。
悩ましいことだ。やはり塵屑は塵屑。
――私の手を煩わせるなんてなってない屑だ。
そう思いながらサルビアは図書館で本を借りる。司書のマダム・ピンスは疑わしげに思いつつもサルビアが望む本を持ってきてくれる。
なぜならばサインは本物で、正規の書式で書かれたものだからだ。借りた本は、『伝説の蛇の飼育と活用法』。閲覧禁止の棚の中にある本であり、そこにはバジリスクの飼育法と活用法が書かれている。
あの
知るかと言いたいところであるが、勝手に食事をさせて秘密の部屋を開いたことが露見するのは不味い。噂だけではあるが、そんなものがホグワーツにあることは伝わっているのだ。
何らかの怪事件があればそこに繋がる可能性もある。生徒にも教員にも見つからずに思う存分闇の魔術が行使できるあの場所を逃す手はない。
元々闇の魔術を教授するために作られたらしき場所だ。そのための設備は整っていた。少し古かったが
だからこそ、餌となるものを探す。その辺で探してもいいが、できるなら手早く済ませる為に本を借りた。無論、本命はそれではなく毒の活用法のことだ。
万物を殺すとも言われるほど強烈な腐食性の毒。バジリスクから定期的に抜いてストックしているそれの取り扱いについて探るのだ。
強力な毒は強力な薬になりうる。病魔を払う鍵になるのではないか。そう考えたのである。
「……外れね」
しかし、本にはそれほど良い活用法が載ってはいなかった。腐食性の毒をそのまま使う事ばかりだ。薬にしようなどとは一切書かれていない。
「まあ、塵屑が書いた本だもの役に立つはずもないか」
それでも調べておいたのは、一応だ。ゆえに、読み終えた本はそのまま即返却して、サルビアは秘密の部屋に向かうことにした。
毒を研究するためだ。こうなればあとは総当たりで試すのが良いだろう。希少物質ではあるが、バジリスクが手元にある以上、いくらでも手に入る。できれば何かの生物に注入して効能を試してみたいところだ。
何によって中和できるのかも調べておきたい。成分を分析するのだ。
「マグルの設備が欲しい」
その点に関してはマグルの設備の方が優秀ともいえる。切って、煎じて、混ぜて、煮て。魔法薬学でやることは基本的にこれだ。
成分の分析ともなれば専用の機械も出てくるが、より簡単に行うならマグルの設備の方が楽である。ない物を言っても仕方ない。
そんなことを考えていたからだろう。目の前からやってくる相手に気が付かなかった。相手も気づいていなかった。そうなれば正面衝突だ。
「きゃっ」
「ぐぁ」
前者が相手。後者がサルビアである。サルビアの方がダメージが大きいのは、まあ、予想のとおりである。
――誰だ、この塵が!
サルビアが相手を見る。そこにあったのは見覚えのある赤毛だ。そう
髪は赤く、たっぷりとしていて長い。瞳は鳶色で、顔にはそばかすがある。サルビアほどではないが、可愛らしい美少女だ。
「ああ、ごめんなさい! 考え事をしていて! あ、サルビア……」
「私も考え事をしていたから、ごめんなさいね。あなたは……ジニーね。ロンの妹の」
ジニーは、なぜかサルビアを見て顔を落とす。あまり会いたくないといった感じだ。何もしていないはずだが、なぜだろう。
少なくともサルビアは彼女に対して何もしていない。教科書を買うために来ていた彼女と少し話をしたくらいだ。ホグワーツでは学年も違うので会っていない。
――ならば、なぜ?
「あー、サルビアじゃない」
そこに更に面倒な相手までやって来た。バタービールのコルクで作ったネックレス、蕪のイヤリングなどを付けた少女。
ルーナ・ラブグッドだ。
「…………」
「ジニー? 大丈夫? またハリーのこと考えていたの?」
そんな彼女はサルビアについて何も言わず、まずはジニーの方に話しかけていた。これは立ち去るべきなのか。それとも、ここにいるべきなのか。
「ち、ちがっ」
「じゃあ、サルビアの事?」
――なぜ、私の名前が出てくる。
ジニーはそれに対してなんでわかったの? という顔をしてしまった。
「憧れのハリー・ポッターの近くにいて、あのハリーが気にしている人だもんね」
つまりは、そういうことか。憧れの人の近くにいる女子でしかも、気を使われたり色々としているサルビアについて色々と思うことがあると。
思春期の女子が考えそうな糞くだらないことこの上ないことだった。
下らないと一蹴するのは簡単だが、容易には信じまい。このまま無視するのが一番楽だが、後を引くのは面倒だ。後顧の憂いを断つということではないが、関わりたくない為ここで縁を切っておくに限る。
「言っておくけど、別に私そういうことないから」
そう、別にそういうことはない。ハリーは使えない屑なのだ。恋愛感情など持つことなどありえない。そういうことを物凄い枚数のオブラートに包んで伝えてやった。
まだ不信がっているようなので、もうひと押し、
「手伝ってあげようか?」
使えない屑なのだ。お前が引き取ってくれるなら是非もない。どうせ、あの馬鹿は誰かの彼氏になったところで一度仲間と認めた者は見捨てはしないだろうから。
むしろ、サルビアとしては引き取ってくれれば楽になる。サルビアのいる位置にジニーが来ればサルビアは自由だ。
ロンに付きまとわれる可能性があるが、あの塵屑の追跡など躱すのは容易い上にハリーやハーマイオニーがいないところに連れ込んで服従の呪文でも使えば体のいい操り人形の完成だ。
スネイプの所で被害を起こさせて、その隙に彼の貯蔵している希少な薬品なんかを盗むなどすれば楽だ。更に、うるさくもなくなる。
――良い案だ。隙があれば実行してみるか。
ともかく、協力すると言って別れる。憧れの人に向ける淡い恋心。利用する価値もない。ルーナが何か言う前にさっさと消えることにする。
窓のある回廊を歩けば、クィディッチ競技場が眼に入った。そこでは、土砂降りの中必死に練習しているグリフィンドールチームの姿が見える。
ウッドのやる気はこの雨の中でも燃え滾っているらしい。雨の中飛ぶハリーたちをいい気味だと思いながら眺めつつ三階の女子トイレからサルビアは
掃除は着々と進んでいるようだ。濡れていた床は綺麗に拭かれて磨かれて輝きを放っている。薄暗い闇の空間は今や、明るさを取り戻していた。
サルビアがやってくるとバジリスクが寄ってくる。
『鬱陶しい寄るな爬虫類!』
そう蛇語で言ってやれば悲しそうに引き下がる。何がしたいのだこの爬虫類は。
『毒を寄越せ』
ともかく今日もまたバジリスクの毒を集める。瓶に入れて、保存する。
「さて、どうするか」
大鍋にかけるのは却下だ。毒性が強すぎて大鍋が腐食して大穴を開けたのだ。そのおかげで毒がリドルの日記にかかって使い物にならなくなった。まあ、別にもういらないのだから良いのだが。
なので、今度は
「毒はいずれ使えるようにするとして――問題はこっち」
水液の中で浮かぶ黄金の眼球。遮光された瓶の中に入っている綺麗に取り出されたそれはバジリスクの瞳だった。バジリスクから研究用に摘出した瞳。
これを直視するだけで人は死ぬ。間接的に見ても石化する。そのことから、この瞳の呪いは光情報であることがわかる。
鏡や水面に反射しても効果があるのだから、そう考えるのが妥当。そして、その効果は何から及んでいるのか。それを研究するために取り出してみたのだ。
光情報であり、相手の目を通してそれが受容されることによって効果を及ぼす。そこまではわかった。問題はこの力がどこから生じているかだ。
バジリスク自身か、あるいはこの瞳自体に力があるのか。後者ならば面白いことになる。取り出したバジリスクの瞳を人の多くの人の目につくところに置くだけで大量殺人兵器の完成だ。
間接的に見ただけでも石化するほど強力な力を持っているのだ。その有用性は計り知れない。寄越せと言って抉りだして、治癒呪文で治してまた抉りだしてやった。
今では十個ほどストックがある。一応、オリジナルと効力が違う可能性があるので、ラベルで何回目に抉りだしたのか、オリジナルなのかどうかラベルを張ってある。
オリジナルの瓶を両手に持つ。かなり大きいそれ。遮光されていなければサルビアですら直視すれば死ぬほどの兵器。
だが、それは綺麗なものだった。この力を取り込めれば切り札になるだろう。オンオフを付けられれば最高だ。
なぜならば瞳を直視すれば死ぬからだ。是非とも切り札としてほしい。生き残る為の方策を探すことも大事だが、力を付けることも肝要だ。
そのためにはなんでもやる。
「おい、屑。持ってきたか」
「は、はい」
ドビーから連れて来させた人間たち。鎖で繋がれた十数名の人間。全員がマグルだ。わざわざドイツ、フランスなどにドビーを派遣して攫わせてきた。
足が付かないようにわざわざマグル界から、それも身寄りのない者たち、消えてもおかしくない者たちばかりを集めた。入念にそいつらの痕跡を消した。
ダンブルドアだろうが、誰であろうが、人が消えたことに気が付かない。それくらいに入念に攫った。
全員が全員、わけがわからないと言った表情で唸ったり、鎖を引きちぎろうとしている。
バジリスクの瞳の効果を探る為には実験材料がいる。また、魔法薬の新薬開発や新呪文の実験をするにも実験体は必要だ。
そのための
「一人、連れて来い」
「は、はぃ」
ドビーが言われた通り、一人を連れてくる。魔法で幕を作り、その中でサルビアは抉りだしたバジリスクの瞳をその人間に見せた。
それを十度続ける。全てにおいて効果を発揮したが、十全に死亡と言う力を発揮したものはなかった。
全て石化にとどまったのだ。これは抉ったからというよりは、バジリスク本体と瞳がセットで十全の効果を発揮するものということだ。
瞳自体にも力があって石化という現象を引き起こせるが、死という現象を引き起こすにバジリスクの身体もいるということだ。
ただ、それでも使える。
そう都合よくはいかないけど、力自体に瞳にあるようだし、これはこれで使える。ただ、死なせるにはバジリスク本体がいた方が良いか。バジリスクを量産するか」
また
「さて、じゃあ、解剖でもしましょうか」
石化とは何か。それについて探求してみよう。上手くいけば病巣を石化させて転移や病状の進行をストップさせることができるかもしれない。
幸いなことに石化した人間の標本がいっぱいだ。これを逃す手はない。
「この私の役に立てるのだから、泣いて喜びなさいよ」
そう言って彼女は転がっている石化した人間の下へと向かう。そして、その腹を裂く。普通にはやはり石になっているため、魔法ですっぱりと裂いてしまう。
心臓は動いていない。全てが止まっている。目から入った力がどうやって全身に作用しているのか。それも中身を見ればわかるだろう。
そう言って切り開いていく。
「神経、かしらね」
その結果、わかったのはおそらく神経に沿って石化しているということだ。目から入った光情報はそのまま神経を通して全身に作用させるのだろう。
中々に興味深い。
「じゃあ、次、部分的に石化を解除したらどうなるのでしょーか」
石化を戻す薬。それを心臓にかけてやる。すると心臓が動き出す。そして、破裂した。
「汚い。まったく」
血を送り出そうとして石化している部位には送り出せず溜まり溜まった血液によって心臓が破裂した。そんなところだろう。
心臓は呪文で再生させて全て元通りにしてから、石化を解いて再びバジリスクの瞳を見せて石化させる。
次は腕だ。足、末端などにかける。すると、するりとちぎれたように抗石化薬をかけた部分から先が落ちた。
興味深い結果ではあるがこれでは役に立ちそうにない。成功していれば石化によって病魔の進行を遅らせられるかもしれなかったが、失敗しては意味がない。
部分石化解除で落ちた箇所を元に戻して、ドビーに別の部屋に仕舞わせる。ドビーはなんて恐ろしいことを、と恐れおののいていた。
サルビアにはその理由がわかるが、それがどうしたとばかりだ。誰も死んでいないのだからいいだろう。
今は、まだ糞塵屑に気が付かれては面倒なことになる。今はまだ、糞塵屑の掌の上から出ることができない。
ここで無辜の人を殺したのであれば、
今世紀、最大にして最強の魔法使い、アルバス・ダンブルドアが。
何度シミュレートしても、負ける。バジリスクを嗾けたとしても撃退される。同時に襲ったとして、あしらわれる。
終息呪文など使わずとも隔絶した魔法技術が、全てを叩き潰すだろう。
「今では、勝てん。ああ、忌々しいぞ、塵の分際で」
去年は負けた。今年もまだ、負ける。だからこそ、今はまだ奴の下に従ってやる。足りないのは経験。それと魔法だ。それがそろうまでは、伏して待つ。
「だから、今は、何もしないでおいてやる」
それに、石化している限り塵屑どもは死ななくて済むのだから、むしろ感謝されるべきだろう。
永遠の命だ。誰もが望むものだろうが。永遠に使い潰されろ。
「さて、新呪文の実験でもしましょうか」
トム・リドルから学んだ、感情の方向性による魔法力、生命力の奪取。それを試してみることにする。
一人の石化を解く。石化から解けたマグルは、
「ひ、ひぃいい!」
恐怖に駆られて逃げ出した。恐怖という感情は真っ直ぐにサルビアに向いている。サルビアは、
「コンキタント・クルーシフィクシオ!」
呪文を唱えた。
「ぎゃあああああ――――!?」
悲鳴が木霊する。うるさいので、石化させて次の新薬の実験まで保存する。
呪文の効果は、
「多少奪えた感じがある。これで間違いない。相手が私に強い感情を向けていれば押し付けて、奪い取ることが出来る」
ここから先に進むには生命力、魂、そういったものに対してもっと理解を深める必要があるだろう。重要なのはイメージと感覚、経験だ。
だが、それでも大きな前進だった。サルビアは恐怖に歪んだ石像に一つを見下ろす。
「私の役に立てるのだから、泣いて喜びなさい」
そして、そう呟いた。その言葉が、秘密の部屋に木霊した――。
サルビアちゃん、堕ちていく。逆十字よろしく、人を逆さ磔の生け贄ににくべながら、歩んでいきます。
本当は、人殺しさせようかと思ったのですが、個人的には殺して終了より永遠に実験し続ける方が鬼畜だと思うので、こうなりました。
死にそうになっても石化すれば死なないよ。やったね、永遠に実験し続けられるね(白目)
現在のサルビアの状態は、盧生の下で盧生の力を奪うために力をつけているセージ状態です。
ダンブルドアの能力は文字通り作中最強。現状ではサルビアが何をやっても勝てません。
だから伏して待つ。力がついたその時が、真の始まりです。だから、四巻とか、五巻あたりが怖いところ。
こんな魔法合戦に今後飛び込むことになりそうなハリー。本当についてこれるのでしょうか。
愛と勇気と友情でなにかが起きてパワーアップできればいいなぁ。
新呪文ももう少しで完成。来年には出来上がるかな。魂とかそういう文献を読み込んでこのレベルなので、ここから先は文献では無理。実体験が必要。
つまり吸魂鬼の力が必要になります。必然的に来年ですね。
果たしてサルビアちゃんに明日はあるのか。
次回、ハリーたちは絶命日パーティーへ。
サルビアは、ユニコーンときゃっきゃうふふしに森へ。
では、また次回。
一応の補足
サルビアがダンブルドアに勝てない理由
逆さ磔の条件には嵌りますが、勝てない理由。
逆さ磔とはいえど魔法バージョンなので防げます。エクスペリアームズで相殺とかできます。許されざる呪文クラスなのでプロテゴとかでは防げませんが、エクスペリアームズとかで力押しすると防げます。
ダンブルドアなら力押しで押し切れます。
また、逆十字の逆さ磔と違うところは広範囲に影響を及ぼせないという点。呪文が当たらないと効果がないという点です。
如何に速く相手に当てられるかが鍵なので、ダンブルドアに当てるには確実に不意打ち。あるいは魔法戦で上回る必要がある。
そのためまだ勝てないということです。