多様な性を前提とした社会へ TGの鈴木げんさんに聞く

阿久沢悦子
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 静岡県男女共同参画課は11月2日、オンラインのシンポジウム「いろいろな性、いろいろな生き方」を開く。パネリストの1人、浜松TG(トランスジェンダー)研究会代表の鈴木げんさん(45)は「性的少数者への配慮を求めるのではなく、多様な性を前提とした社会を作っていきたい」と訴える。

 鈴木さんは竹かばん職人で、性自認が男性のトランスジェンダー当事者。浜松市天竜区の山の中の古民家で、ライターの國井良子さん(48)と暮らしている。2人は浜松市が今年4月に始めた「パートナーシップ宣誓制度」の宣誓第1号になった。

 「パートナーシップ宣誓制度」は、様々な事情で戸籍上の結婚が選択できないカップルを市が公認するもの。浜松市の場合、性的マイノリティーだけでなく、事実婚も対象で、宣誓は半年間で23組にのぼった。

 「名前や顔を出せるゲイやレズビアンの若いカップルは少ない」と鈴木さん。制度を周知するために、初日に顔を出して取材を受けた。

 鈴木さんが自分の性別について「あきらめ」を抱いたのは4歳の時。「お母さんのおなかの中におちんちんを忘れてきたんだね」と言われ、忘れ物をした自分が悪いと思い込んだ。通った公立中学校の制服はセーラー服。毎日、遅刻ギリギリまで着替えられなかった。「当時はなぜこんなにスカートが嫌なのかわからなかった」

 第2次性徴が始まった。声は低く潰した。生理は病気だと思い込もうとした。好きになる相手は性別を問わなかった。

 35歳のころ、静岡市で開かれた当事者の集まりに参加。そこで初めて「同じ悩みを持つ人がいる。自分は一人じゃない」と知った。

 ホルモン注射などの治療を受けるには、専門医から「性同一性障害」との診断を受ける必要がある。東海4県に精神科の専門医がいないため、東京まで通った。2015年に「げん」と改名、男性として生き始めた。その後、手術で胸を摘出した。

 17年、県の男女共同参画情報誌の取材がきっかけで國井さんと出会った。鈴木さんは一目ぼれで押せ押せ。翌年、付き合い始めた。

 國井さんは当初「戸籍が同性の人と付き合っている私はレズビアンになったの?」と混乱した。鈴木さんに「自分で決められることだよ」と言われ、「私は何も変わってない。女性として鈴木げんという男性を好きになったんだ」と納得した。「普通の」男性パートナーとの違いは「生理の大変さが共有できることくらいかな」と笑う。

 いま、鈴木さんが取り組もうとしているのは、戸籍の性別変更に関する法律を変えることだ。現状では生殖腺がないことが要件になっているが、鈴木さん自身は手術を望んでいないという。「必要のない手術を強制されるのは憲法違反で人権侵害ではないか」。昨年、同様の訴訟の最高裁判決では違憲性が認められなかったが、2人の裁判官が「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」などの補足意見を述べた。鈴木さんは「変わる余地がある」と感じている。

 研究会として広く取り組みたいのは公立中学校の制服問題だ。県内の中学校で、柔軟に制服を選べる学校も出てきたが、まだ少数だ。鈴木さんは「着たい服を選べることは、トランスジェンダーだけでなく、みんなにとって必要なこと」と指摘する。性の問題は誰もが当事者。そう気付くところから社会を変えていきたいと願っている。

     ◇

 シンポジウムは2日午後1時半~4時半。ZOOMで配信し、静岡市駿河区馬渕の県男女共同参画センターに聴講用の会場(定員40人)を設ける。基調講演は埼玉大の渡辺大輔准教授。鈴木さんのほか、企業内の多様性確保に取り組むヤマハ人事部の太田綾子さん、静岡大の笹原恵副学長らが参加する。(阿久沢悦子)

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