これでなにやっているかわかりやすいですし読み返しやすくなったかなと思います。
森番のハグリッドの次に一年生たちを迎えたのは、エメラルド色のローブを羽織った黒髪の魔女だった。背が高く、深い皺の刻まれたその顔は厳格さを感じさせる。
彼女はミネルバ・マクゴナガルといい、この学校の教頭を務めている人物であり変身術の使い手だ。生徒達全員を見回しながら、静かに、しかしよく通る声で説明をする
「ようこそ、ホグワーツへ。さて、今からこの扉をくぐり、上級生と合流しますが、その前にまず皆さんがどの寮に入るか組み分けをします。寮は四つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。学校にいる間は寮があなた方の家です。良い行いをすれば寮の得点となり、規則を破ったりすれば、減点されます。学年末には最高得点の寮に優勝カップが渡されます。くれぐれも賢明な行動を心がけるように」
良いですね。そう念を押そうとした瞬間、
「トレバー!!」
小太りした生徒が、マクゴナガルの足元にいたヒキガエルに飛びついた。あれがネビルなのだろう。汽車でヒキガエルが逃げられたとか言っていた生徒なのだろう。
まったく、ペットに逃げられるとはとんだ魔法使いもいたものだ。そうサルビアは思う。最悪だが、ただ飯が食えたので割と評価は高いホグワーツ特急での旅のあと、休む間もなく組み分けだ。
考えてほしいところであるが、こればかりは仕方がない。とりあえず、さっさと進めてくれ、とサルビアは内心で邪魔をしたネビルを罵倒しまくる。
さて、説明を終えたマクゴナガルは広間へと入って行った。組分けの準備をして来るらしい。その後ゴーストが現れて生徒達を驚かせたりした。
その中の血みどろ男爵なるゴーストがサルビアをみておやおや、とか意味深なことを言っていたが無視した。あれはスリザリンのゴーストだ。
そんなのに目をつけられるわけにはいかない。自分はハリーと同じ寮に行くのである。スリザリンなんて糞くらえ。あんな私は悪の魔法使いですよとでも言わんばかりの寮など願い下げだ。
「準備は出来ました。来なさい」
その間に組み分けの準備ができたのだろう。マクゴナガルが戻ってきて、ついてくるようにいう。彼女について広間へ入ると、一年生の全員が驚いていた。
それも当然の光景が広がっていたのだ。何千という蝋燭が広間を照らし、中央には4つの長テーブルが置かれている。そこには金色の皿やゴブレットが置かれ、そして何百人もの上級生達がすでに着席して一年生達を凝視していた。
そんな広大な空間の天井には、空が広がっていたのだ。
「本物じゃないわ。魔法で夜空みたいに見えるだけ。ホグワーツの歴史という本に書いてあったわ」
ハーマイオニーがそう得意げに言っている。はいはい、えらいえらい。よく覚えていましたね。聞いてないから黙っててね、うるさいから。
「はい、ここでお待ちなさい。では、儀式を始める前にダンブルドア校長からお言葉があります」
そう言われると、教員の席、その中央に座っていたダンブルドアが立ち上がる。
「まず始めに、注意事項を言っておこうかの。1年生の諸君、暗黒の森は立ち入り禁止じゃ。生徒は決して入ってはならぬ。それから、管理人のミスター・フィルチからも注意事項がある。右側の3階の廊下には近寄らぬこと。そこには恐ろしい苦しみと死が待っている。以上だ」
そういって彼は座った。皆、それについては何も思わないようだったが、サルビアは笑い出そうとするのをこらえることに必死であった。
(馬鹿が! そんな風に言えば何かがあると言っているようなもの! 賢者の石はそこにある。場所はわかった。そうすれば調べられる。見てなさい、必ず手に入れてやるんだから)
賢者の石の場所がわかったのだ。右側3階の廊下。その先だ。そこに目的のものがある。今にも飛び出して行きたかったがまさか、今すぐ行くわけにもいけない。
準備もできていないのだ。なに、焦る必要はない。場所はわかったのだ。あとはゆっくりと計画を練って手に入れればいいのだ。
そんな風に笑みを深めていると、おもむろにマクゴナガルが4本足の椅子を置き、その上に汚らしい魔法使いの帽子を用意した。本当に汚らしい帽子だが、ここで出されたということはただの汚い帽子などであるはずがない。
これこそが生徒達の入るべき寮を決めてくれる意志ある帽子、組分け帽子だ。帽子はまるで生きているかのように歌い出す。それは寮の紹介も兼ねた歌だ。
ひたすらサルビアは聞き流していたが、まとめるとグリフィンドールは勇気ある者が住まう寮であり、他とは違う勇猛果敢な寮である。ハッフルパフは他と比べて特になにもない普通の寮。レイブンクローは頭のいい天才の集まり。スリザリンは手段を選ばない狡猾な寮ということだ。
違うだろうが、サルビアの理解だとこうだった。
「サルビアはどこの寮がいい?」
ふと、隣にいたハリーが小声で聞いてくる。
「私? ハリーと、同じところがいいな」
とりあえずこう答えておく。男は、こう言われるとくらっとくるんだろ? そう言わんばかりだったが、ハリーは気がつかなかったようだ。糞が。
「ぼ、僕もだよ。でも、スリザリンは嫌だな」
「それなら帽子さんに言ってみたら、聞いてくれるかもしれないわよ。グリフィンドールがいいって」
「わかった言ってみるよ」
問題は、ハリーより先に呼ばれるサルビアだ。リラータ・サルビア。そう呼ばれた場合、ハリーより先だ。これでもしハリーと別の寮になってしまえば目も当てられない。
だからこそ、ここでハリーにグリフィンドールがいいって帽子に言うように仕向けた。本人が行きたい寮を言えば少しば考慮してくれるだろうし、何より、サルビアは考慮させる気だった。
「名前を呼ばれた生徒は前に出てきなさい。この組み分け帽子を頭にのせます。帽子が寮を決めてくれます。まずはアボット・ハンナ!」
金髪おさげの少女が小走りで椅子の前に出てきて帽子を座る。一瞬の沈黙、そのあとに帽子は大声で彼女の進むべき寮を示した。
「ハッフルパフ!」
すると右にあったハッフルパフのテーブルから歓声があがり、拍手が鳴り響く。ハンナと呼ばれた少女は恥ずかしそうにしながらもそのテーブルに着いた。そのあとも続々と名前が呼ばれていく。
「グレンジャー・ハーマイオニー!」
ハーマイオニーは走るように椅子に座り、おずおずと帽子を被った。緊張しているようだ。大方スリザリンに行った時のことでも考えているのだろう。
「グリフィンドール!!!」
そう叫ばれた瞬間、彼女は朗らかな笑顔になった。続々と呼ばれて人が減っていく中、ついにサルビアの番となる。
「リラータ・サルビア!」
名前を呼ばれた彼女はゆっくりと組み分け帽子へと向かって行き、被った。
「ほう、ほうほう! またリラータの子だな。相も変わらず、才能もある、力もある。知識も誰よりもある。だが、その心には誰よりも苛烈な炎が燃えている。君の寮はすでに決まっておるーー」
「余計なことをいうなよ、この汚しい帽子が」
声を下ろして帽子にだけ聞こえるようにいう。
「いいから黙って、私に従え。私はグリフィンドールに入る。ハリー・ポッターもだ。いいからそういうことにしろ」
「それを決めるのは君ではーー」
「あまり聞き分けがないようなら問答無用で消すわよ。舐めないでね、組み分け帽子。もしハリーと別の寮に入れてみなさい。お前がどこにいようとも探し出して消し炭にしてやるんだから」
いいから黙って従えよ。圧倒的な意思の暴風に炎。燃え盛る炎に浮かぶのは逆さの磔だ。そこに組み分け帽子はくべられようとしている。そんな様を幻視した。それだけなくとも彼女は、従わなければ間違いなく帽子を消し炭にするだろう。
恐れているわけではないが、率先して消し炭になる気も帽子にはない。本当ならばスリザリンにいれたいところではある。それが彼女が最も力を発揮する寮だからだ。だが、彼女は望んでグリフィンドールにいくという。ならば、それが彼女の道なのだろう。願わくば、彼女の道を正す誰かがいることを信じて。
「…………グリフィンドール!」
帽子は判断を下した。
それでいいのよとばかりに笑みを浮かべてグリフィンドールの席へと彼女は座る。
「よろしく」
「ええ、よろしくお願いします先輩」
先輩と挨拶をかわしながら組み分けを見守る。
「アマカス・マサ――」
その次も続々と呼ばれていきそして、
「ポッター・ハリー」
メインイベントたるハリーの番。騒がしかった大広間の中も静まり返る。なにせ、生き残った男の子だからだ。
有名人を自分たちの寮にと思うのは自然な事だろう。ハリーもまた緊張しながら帽子の椅子へと歩き、組み分け帽子を被った。
「ふ~む、難しい。才能もある。頭も悪くない。自分の力を発揮したと願っている」
「スリザリンは駄目、スリザリンは駄目」
「スリザリンは嫌か? 君は偉大になれる。スリザリンに行けばその道は必ず開かれるだろう」
「それでも、スリザリンは駄目。グリフィンドールが良い」
そんな帽子とハリーのやり取りをサルビアは見ていた。そうよ。わかっているでしょう。組み分け帽子。
「…………ならば、グリフィンドール!」
大歓声がグリフィンドールのテーブルから上がる。赤毛の双子なんかはポッターを取った!ポッターを取った! と叫んでいた。うるさい、人の耳元で叫ぶな塵が。
しかし、これで第一関門はクリアだ。これで良い。もっとも安全なグリフィンドール。もっとも安牌に滑り込むことができた。
ここからだ。ここから、全てが始まる。いや、終わらせるのだ。この
嗤う。ぎらりと瞳を誰からも隠してぎらつかせて嗤う。嗤う。嗤う。良いから、役に立て。私の役に立て。お前たちの価値なんてそれしかないだろうが。
嗤う。嗤う。嗤う。少女は嗤う。必ず手に入れてやるぞ、そう己の心のうちにある誰もいない逆さの磔を燃やしながら。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
無事に組分けも終了し、校歌の斉唱が終わり、一番最後まで歌っていたウィーズリー兄弟が歌い終わり、いよいよ新入生の歓迎会へと移行した。
数々の料理が空の皿やゴブレットに注がれ、お腹を空かせた生徒たちはそれをおいしそうに食べている。朗らかな空気。しかし――。
「…………」
しかし、ダンブルドアは言い知れようのない不安を感じていた。怪しい空気とも言うべきだろうか。微かに感じる予感。
ダンブルドアは見た目こそ陽気にしているが、その瞳は注意深く生徒たちを見渡していた。特に、新入生たち。ふと目が行くのはハリーの姿だ。
元気そうに育っている。少しばかり痩せてはいるだろうが、ここにいればそれも改善されるだろう。きちんと入学してくれたことに対して嬉しく思う。
今も、隣に座る少女と楽しそうに話をしている。サルビア・リラータ、と。
「…………」
リラータ。その名に聞き覚えがないわけではない。むしろ、ヴォルデモートに続き最悪としてダンブルドアの中に刻まれている。
ホグワーツ在学中から、あれは最悪であったと言える。スリザリンの中でも特に酷い人種であった。酷い選民思想。自己中心的。圧倒的な唯我。
己こそが、最上として全てを道具と言ってはばからず、ダンブルドアとぶつかったことも一度や二度ではない。
それでも才気あふれる男であったことにかわりはない。誰よりも才能にあふれ、もし正しい道を進んでいれば誰よりも素晴らしい魔法使いになっただろう。
しかし、リラータという男は、魔法界を見限り、全てを見限り闇の陣営に付き、人体実験を行った。多くの魔法使い、魔女が犠牲になった。
願わくば、あの少女がそんなことにならないことを祈る。今の彼に出来ることはそれくらいであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
寮に辿り着いた時、大半の新入生は興奮で眠れないか、疲れでさっさと眠るかの二択になる。ホグワーツという驚きな不思議な空間に入れば魔法族であろうともそうなるのは必然だ。マグル生まれなどは特にが顕著だ。
誰も彼もが眠りについた。だからこそ、誰も気が付かない。サルビアがいないことに。先ほどまで談話室までついてきていたのは幻覚であることに誰一人として気が付いていなかった。
「時間もない、今日だけは、行けるはず」
サルビアは一人図書館へと向かっていた。レプリカの透明マント、それに呪文を重ね掛けしたものだ。
既に頭の中に地図は入っている。先ほどの歓迎会で
図書館にこっそり行ける抜け道がないかと聞いたら、快く教えてくれた。綺麗な容姿にしておくものである。褒めながら微笑んでやればころっと教えてくれた。チョロイものだ。
そういうわけで、彼女は今、抜け道を通って図書館に存在する閲覧禁止の棚へと向かっていた。無論、これは目的の為だ。
賢者の石、ハリーの秘密。それがどうしようもなく失敗した場合。あるいは、意味を成さなかった場合。次の手段が必要になる。
失敗してからでは遅い。先に調べておかなければならないのだ。まあ、既に色々と調べている為役に立つと思えないが仮にも閲覧禁止の棚だ。
まさか、リラータの屋敷の闇の魔法図書館ともいえる書斎に劣るはずがないだろう。いつもならば警備も厚かろが、今は新学期初日。
まさか、初日から問題を起こす生徒がいるとは思うまい。それも新入生が。
「ふぅ、遠い」
しかし、少しばかり疲れた。抜け道から出て少し休む為にとある部屋に入る。そこにあったのは、鏡だった。みぞの鏡。そう書かれている。
「…………」
そこに映ったのは――いや、何も映らなかった。みぞの鏡。それは見る者の心の奥底にある望みを映し出す。しかし、ここには何も映らない。
ただ、変身術で作っている美しいと称される姿が映っていた。
「ただの鏡か」
そう断じて、少しばかり休憩したサルビアは再び歩き出す。閲覧禁止の棚に至り、そこにある叡智へを手にする。
朝まで帰って怪しまれないようにするギリギリの時間まで彼女は閲覧禁止の棚にある本を読み続けた。
組み分けでしたが如何でしたでしょう。組み分け帽子を脅してのグリフィンドール入りでした。彼女の逆さ磔には誰もいません。誰からもなにも奪っていない本当に身一つ。
みぞの鏡。彼女の願いは健常な自分なので、健常らしく偽装している姿が映った。ただそれだけです。切実ですね。
次回は授業風景をお送りいたします。
ではでは。