命を捧げて国を護る意義とは?「神風特別攻撃隊」の死は無駄だったのか
“京都人の自衛隊OB”だからこそ達観したこと- 終戦の日を前に考える「命を捧げて国を護る意義」とは?
- 自衛官時代、悩みながらもその意義があると気づいたきっかけ
- 京都人が大切にしている価値観の根源とは?「神風特別攻撃隊」の死の意義は?
今年も暑い夏とともに、各地でご先祖様をお迎えする「お盆」の行事が始まった。
この時期になると、わが国ではテレビなどで決まって、第二次世界大戦における太平洋戦争などに関する番組が放送される。それは、1945(昭和20)年8月15日正午に、昭和天皇による「大東亜戦争終結ノ詔書」の玉音(天皇陛下の肉声)放送がNHKラジオによって流され、日本国民が「敗戦」という国家の運命を悟った日であるからだ。
日本の「お盆」と「終戦」
この大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)で犠牲となった日本人死者は、日本近現代軍事史の専門家である、吉田裕・一橋大学大学院特任教授によると、軍人・軍属が230万人、民間人が80万人の計310万人に及ぶとされている。これだけの犠牲を伴った戦争であっただけに、日本人にとってこの時期の「お盆」で遠くご先祖様を偲ぶにあたり、この戦争の惨禍にあらためて思いを馳せ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りすることは、日本人として自然な気持ちの現れなのだろう。
中でも、爆弾を搭載した戦闘機を敵艦に体当たりさせるという、大日本帝国海軍の「神風特別攻撃隊(神風特攻隊)」については、この戦死者2,531名(公共財団法人:特攻隊戦没者慰霊顕彰会資料より)のうち、約4分の1の648名が大学や高専から選抜された海軍予備学生であったことなどから、うら若き搭乗員がわが身を犠牲にして敵艦に突っ込んでいくという激烈な戦い方が(米軍などが)記録していた映像などによって戦後も広く国民の知るところとなり、これを基にした映画や小説などが今なお作り続けられるなど、時代を超えて人々の心を打つ史実として語り継がれている。
一方で、この神風特攻隊の是非については賛否両論あり、ノンフィクション作家の保阪正康氏のように、「特攻は日本の恥部。美化することは、それを命じた軍当局と変わらない」と指弾する方もおられる。確かに、将来有望な青年らをこのような作戦に駆り出したことは、その任務を付与した上層部に責められる部分は多々あるだろう。
本稿は、この戦術の賛否について論じるものではない。ただ、このようなわが身を犠牲にする究極の利他的な軍務にあえて志願した(多くの)青年らの胸に去来した想いについて、国防に人生を捧げた一員として僭越ながら私見を述べさせていただくものである。
命を捧げて国を護る意義とは
もう20年ほど前になるが、福井晴敏氏原作の「亡国のイージス」という小説が映画化され、これが大ヒット作となって海上自衛隊のイージス艦が一躍脚光を浴びたことがあった。この内容のあらすじは割愛させていただくが、物語の発端は、某国の工作員と共謀してイージス艦を乗っ取り、日本政府に牙を向けた副艦長の子息(防衛大学校の元学生)が不慮の死を遂げたことにあった。
そして、この副艦長は日本政府に対して大量破壊兵器の使用をちらつかせ、息子が書いた防大学生時代の「亡国の盾(イージス)」という論文を大手新聞社の紙上で全文掲載するよう要求するのだ。
この論文の一節が、極めて印象的な言葉であったので以下に記す。
「国としての在りようを失い、語るべき未来の形も見えないこの国を守る盾に、何の意味があるのか」
この文言を聞いた時、私はある文章を思い出した。それは、1970年11月25日に自決した作家の三島由紀夫氏が、その4カ月ほど前にある新聞社に寄せた、「果たし得ていない約束」と題する文章である。その中で三島氏は、次のように述べた。
「このまま行ったら『日本』はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう」
国防の意識に燃えて自衛官という道を選んだ隊員が、この日本という国の在りように幻滅してしまうというのは良くあることだ。正直言って筆者も現役時代は、様々な局面でこのような思いを抱いたことがあった。「果たして、この国に命を懸けて護るべき価値が本当にあるのだろうか…」と。
しかし、最終的に筆者は、「ある」と確信するに至った。そして、その鍵は自分の生まれ育った京都にあった。
京都人の価値観に見出せること
天皇陛下を始めとして、よく戦没者慰霊祭などで「先の大戦で…」という言葉が使用されることがある。この場合、「先の大戦」とは大東亜戦争のことを指しているわけだが、生粋の京都人が「先の大戦」というのは、「応仁の乱」であるというのが京都では常識である。即ち、京都人にとって「大東亜戦争」は「応仁の乱」と比較すると、はるかに歴史的に影響の少ない戦(いくさ)であったのである。
「応仁の乱」は、応仁元(1467)年から文明9(1477)年まで、10年にわたり争われた内乱であり、戦国時代の端緒となった戦であるが、当時の都であった京都をことごとく荒廃させ、朝廷の存在を危うくした。一方、この約470年後に始まった大東亜戦争では、京都は東京や広島・長崎などと違ってその被害はわずかであった。
筆者は、この「先の大戦」にまつわる経緯を初めて聞いた(筆者の父は東京育ちで生粋の京都人ではない)とき、「自分たちの地域への影響のみで戦争の軽重を評価するとは、京都人とはなんと自己中心的で冷たい人たちか」と感じた。確かに、少なからずこの側面はなしとはしないが、実は、「それだけではない大切な理由がやはりあるのだ」と、後年ようやく気付いたのである。
京都人が寄り合ったとき、次のような会話が交わされることがある。
「やっぱり、早よ天皇さんに帰ってきてもらわんとあかしまへん(だめです)なあ…。いつまであない(あのよう)な、あむのうて(危なくて)、ばばちい(汚い)ところにいはりますのんやろ(いらっしゃるんでしょう)…」という内容である。要するに、京都人は「明治政府が陛下や宮様らを東京へ無理やり連れ去った」との被害者意識を共有していて、いつの日か京都御所にお戻りになること、即ち遷都されるのを心待ちにしているのだ。
なぜなら、千年の古都である京都は、帝を中心とした日本文化の中枢として厳然たる存在であり、昨日今日(江戸時代以降)出来(しゅったい)した野暮(やぼ)ったい江戸文化など、京都人は歯牙にもかけていないからである。そして、この延長線上に大東亜戦争があり、東京が焼け野原になったからといって、皇室さえご無事であれば、「お江戸はもともと火事も文化どしたんやさかい(だったのですから)、たとえ火の海になったところで屁でもおへんやろ(大したことないでしょう)」ということになるのである。
つまり、筆者が言いたいのは、京都人が何よりも大切にしているこの価値観にこそ、日本人が護るべき本質が顕れているのではないだろうかということだ。
2680年に及ぶ独自の歴史を有し、少なくとも史実として1,500年以上の系統が確認されている世界唯一の皇室を擁するわが国の歴史と伝統、並びに、これにまつわる文化は、正しく世界遺産そのものである。そしてこれは、われわれ日本人のご先祖様方がひたすらに護ってきたものでもある。客観的に見れば、このように悠久の歴史を経て築き上げられた貴重な遺産は、刹那に存在する個人の命と比較すれば、はるかに重いといわざるを得ない。
勝ち負けだけが戦争の全てではない
戦い方には、「勝つための戦い方」と、「負けない戦い方」がある。現在のウクライナは、正しくこの「負けない戦い方」をしているように見受けられる。これは、戦勝にはつながらなくとも、相手を疲弊させて結局は優位な形で決着がつく可能性がある。
しかし、戦いには敗戦がつきものであり、敗戦が避けられない場合には、もう一つ、「国家を滅ぼさないための戦い方」というのが存在する。
このような意味で、大東亜戦争末期、この特別攻撃隊が編成されて以降わが国は、この「国家を滅ぼさないための戦い方」を実践したのだと考えている。
わが身を呈して次々と機諸共(もろとも)に突っ込んでくるわが国の戦闘様相を目の当たりにして、その標的となった米海軍を始め米国首脳部は大いなる衝撃を受けた。これは、戦後数々の元米軍高級将校や元米国政府関係者から証言が得られている事実である。彼らは、この特攻隊員らが、かくも勇敢にわが身を捧げてまで護ろうとするものの偉大な存在感に気が付いたのだ。
すでに、戦勝後の日本の占領統治をいかようにするべきか検討していたであろう米国が、天皇という存在なくしてこの国を統治することの危険性を悟ったであろうことは疑いようがない。つまり、京都人が大切にしている価値観の根源は、結果的に守られたのである。そして、これは今も脈々とこの国に息づいている。
特攻隊員を始めとする英霊やこの戦争で犠牲になったご先祖様方も、現在のわが国の在りようや子孫を見て、決して悔やんではいないだろう。あれだけの犠牲を伴う敗戦を経験しながらも、アジアで唯一、G7の仲間入りをして世界的な影響力を有している。平成以後、「失われた30年」とは言うものの、国民の生活も世界的な標準から比較して、はるか上位に位置しているのだから。
今の若者や子供たちも、いずれこの京都人の価値観の重要性に気付き、この国を育んでくれるものと信じている。というより、最早日本に訪れる外国人が圧倒的にこの価値観を見出しているような気もするが。
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