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INTERVIEW 2022.08.07

実衣役・宮澤エマさんインタビュー

~愛する人を失った衝撃~

物語が進むにつれて、実衣の変化はどのように感じていますか。

最初のほうは思ったことをすぐ口に出す感じが子どもらしく、のびのびと育った人なんだろうなという感じでしたが、政子さんが頼朝さんと結婚したことによって大きな歴史の流れに巻き込まれてしまい、だんだんと昔ほど思いを口に出さなくなっているので、彼女なりの生き方を見つけないといけなくなったんだろうなと思っています。自分の欲望に忠実に生きたい部分と我慢しないといけない部分がせめぎあっている感じですね。

全成さんと結婚して子どもも生まれて、実衣なりに少し大人になってきているのかなとは思います。とはいえ、実衣はドラマ内でおなかが大きくなることなく子どもができているので、ちょっと不思議な感覚もあるんですけど(笑)、自然と振る舞いや話し方が変わってきている感じはしますね。そしてこれまでの実衣は、告げ口が大きな波紋を呼んでしまったりなどはありましたが、基本的には姉上のことをサポートしてきたんですよ。でも、頼朝さんが亡くなったことで急に自分の生き方について周りから問われ始めてしまって、今までの実衣からは想像できないような発言をしたりした。家族に亀裂が入り始めた瞬間に「これまで十何年かけて、少しずつボタンの掛け違いみたいなものが溜まってしまっていたんだ」と感じたので、それからは、少し大人しくなっていた実衣がガラッと芯の強さを取り戻す部分に気を使って演じています。

実衣から見た夫・全成の魅力を教えてください。

最初2人がかれ合っているのを見て「なんで急に?」と思われた方もたくさんいらっしゃったと思いますが、たぶん実衣には、自分との時間を尊重してくれる存在がとても魅力的だったんだろうと思うんです。そして、彼女みたいにちょっと現実主義な人にとって、理解できないものを操ることも案外すてきに映るのではないかと。当時は親戚でも殺し合いが起こるような時代なので、パートナーほど力強い関係はないだろうし、特に、実衣全成さんはどこか似ていて、お互いにないものを補い合える関係なのかなと感じました。
新納さんはずっと「全成って一体何者なんだろう」とぼやいていたのですが、最期のシーンを撮り終えたあとに「本当に実衣のことを愛していて、愛に生きた人だったんだ」とおっしゃったんですよ。それを聞いて私もに落ちるように感じましたし、その人がいなくなることで実衣がこの先どう変わっていくのか、相当大きな出来事になるだろうなと思いますね。

全成と実衣の夫婦は、権力闘争の激しい鎌倉幕府の中でどのように生きていきたいと考えていたのでしょうか。

第23回で頼朝さんと万寿(頼家)が巻狩りに行って亡くなったかもしれないって聞いたときに、実衣が突然「このままいけばもしかして跡継ぎになるのは自分たちが乳母めのとをつとめた千幡(実朝)なんじゃないか」という話をしだすんですよね。それまでは実衣が権力に対して興味があるような描写はなかったですし、逆に実衣全成さんは権力のそばにいながら権力を持たないことで生きてきた人たちなんですよ。いろんな人が権力を握って亡くなっていく姿を見てきているので、うかつに手を出してはいけないとわかっている。

でも全成さんが時政さんとりくさんに「次の鎌倉殿になりなさい」と言われて夫婦で話し合っているときに全成さんに「命を守るために力を持つんだよ」と言われ、「やっぱり力を持たないことにはこの鎌倉では生き延びていけない。ここで腹をくくらなきゃいけないんだ」と思ったといいますか、彼女も北条家の人間ですから、自分も何か役割を与えられるかもしれないってことに少しはやりがいを感じたんじゃないかなと。御台所である政子さんの姿を隣でずっと見ていたからこそ思ったんだと思います。

そして全成は、「頼家を呪詛じゅそしてくれ」という頼みを、「千幡が鎌倉殿になれば実衣が喜ぶと思った」という理由で引き受けました。その思いをどう受け止めていましたか。

たぶん全成さんは、「自分なりに人の役に立ちたい」と思っている人で、基本的にナイスガイなんだってことが徐々に判明するじゃないですか。だから、「実衣の喜ぶ顔が見たかった」という彼の言葉に偽りはないと思うんですよね。そして実衣はそういう部分もひっくるめて彼のことが好きなんだろうなと。策略家でもなく、鎌倉殿になる器の人じゃないからこそたぶん好きなんだろうし、頼みを受けた理由を聞いてあきれると同時にいとおしいって思ったと思うんです。少し疎遠になっていた時間もあったけど、それは私のためだったんだというのを知れてホッとした感じですかね。

実衣と全成の最後となる対面のやりとりでも、お互いを本当に好きだったんだなと伝わってきました。

最後の対面は全成さんが捕らわれてしまってからようやく会えるというシーンで、最初は会えていないときに起こった情報をお互いに伝えることを優先させるようなお芝居をしていたんです。でも私としては、「もし愛する人にようやく会えたってなったら、生きていることを確かめたくて触れたい」と思って、「抱きしめにいってもいいですか?」と新納さんと演出に相談してお芝居を変更させていただきました。新納さんとは舞台で共演させていただいて信頼関係がとてもあるので、お互いの心地よいものを追求したり、長年連れ添っていた距離感を出すことができたかなと思っています。全成さんが新納さんで本当によかったです。

全成がそばにいなくなることを今はどのように思っていますか。

実衣って、全成さんがいなくなると一人なんですよね。なので、全成さんの死以降の実衣はこれまでとすごく違うものが出てくると思うんです。これまでも多くの人が亡くなっていて、死が常に隣り合わせである場所ではあるけれども、死に対して慣れているわけではもちろんなくて、自分ごととして起こった死に実衣はすごく傷ついたと思うんですよ。守ってきたものを奪われたというのはすごく大きな影響があるなと思うので、シンプルに寂しいです。頼朝さんがいなくなったときも寂しかったですし、どんどん北条家が北条家らしくいた時代を知っている人たちが消えていって、さらに血なまぐさい展開になっていくので、寂しいのひとことですね。

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