INTERVIEW 2022.08.07
阿野全成役・新納慎也さんインタビュー
放送されているドラマをご覧になっていかがですか。
本当に毎回おもしろいですよね。いち視聴者としてはまり込んで見ているので、第15回のあとにはしっかり上総介さんロスになって、現場で大泉さんに会った瞬間に、「今ものすごく嫌いです!」と伝えてしまいました(笑)。そうしたら小栗くんが「ね~!」とか言って入ってきたので、「義時のこともちょっと嫌いになってるからね。頑張れば止める方法もあったはず。保身のためやろ!」と返したり(笑)。役者として台本も読んでいるし、先に完成した映像も見ているのに、オンエアで受ける衝撃はかなり大きいんですよ。自分のシーンもオンエアで初めて笑うし、悲しいシーンがあるとロスになります。今回は、そういうコミカルな部分とえげつない部分が共存しているので、今は笑ったらいいのか泣いたらいいのか、感情が追いつかなくなりながら、毎週楽しみに見ています。
阿野全成役にオファーされたときの感想を教えてください。
最初は、大河ドラマに出演できる喜びと過去の自分からのプレッシャー、両方が大きかったですね。三谷さんが3度目の大河ドラマを描かれると知ってしばらくしてから「新納さんの役、ありますからね」と言っていただいて、うれしかったのですが、やはり「大河ドラマのオファーがきた!」というのはすごい圧でした。ありがたいことに以前「真田丸」(2016年)で演じさせてもらった豊臣秀次がとてもいい評価をいただいたので、今回はそれを上回らないといけないと勝手にプレッシャーを感じてしまっていたんです。でもそれをとある先輩にご相談したら、「自分も昔の作品のことを言ってもらえることはあるけど、気にしなくてもいいんだよ。超えようとせずに、のびのびとやったらいいよ」というようなことを言っていただいたので、そうしようと心がけました。
「鎌倉殿の13人」における阿野全成はどのような人物だと思いましたか。
先ほどもお話しした「真田丸」のときの豊臣秀次は、ひょうひょうと明るく楽しそうに生きている、気弱で頼りない感じの人で、のちに激しい運命に翻弄されてしまうという役でしたが、今回の阿野全成は真逆の“男っぽくて荒くれ者”というイメージをお聞きしていたんですよ。なので、クランクインする前までは男っぽさを意識しようと思っていたのですが、僕、以前に「風雲児たち~蘭学革命篇~」というドラマで坊主姿にしたら、男っぽくなるどころか夏目雅子さんのようなキレイな感じになってしまったんですね(笑)。だから今回は、「付けヒゲとかどうですかね?」と衣装合わせのときにご相談したんですけど、「いや、全成さんはキレイで中性的な感じでいいんですよ」とメイクさんがおっしゃって、結果、アイラインをしっかりひいて、マスカラも塗っていました(笑)。
その時点で、「あれ、なんか聞いていたイメージと違うなぁ」と思いはじめ、本編でもだんだんコメディー要素を任されるようになり、クランクアップでは、りくさんに「この役立たず!」と言われるシーンで終わるという、かつての豊臣秀次役の時っぽいイメージになっていました(笑)。「ちょっと三谷さんどういうことやねん!?(笑)」というのが最終的な感想です(笑)。
でも、そんな今回の“愛に生きた男”全成さん、本当に大好きで愛しています。三谷さんには「新納さんに役をやっていただくと、自分でも想像しなかったところに役を連れていってもらえるので楽しい」と言っていただき、ありがたいお言葉です。…でも、「それってつまり、どんどん頼りない役になっていくのは半分は演じている僕のせいということ?」と思ったりしています(笑)。
妻・実衣を演じる宮澤エマさんとはこれまでも何度か共演されていますが、改めて夫婦としてお芝居をしていかがでしたか。
昨年も舞台で共演させていただいて、一緒にいた時間が長かったので、絶大な信頼があります。だからあまり多くを語らずとも同じ方向に向かっていける感じがするので、エマちゃんが実衣役で本当によかったなと思います。エマちゃんは舞台で兄妹役をしてから、戦友であり同志であり妹みたいな感覚だったので、「鎌倉殿の13人」で夫婦になるというのは最初ちょっと照れくさかったですね。でも照れくさかったのは最初のほうだけで、すぐにすてきなおもしろ夫婦になれましたよ(笑)。とにかくすごくいい空気感をつくれたと思うので、共演最後の日に感謝をお伝えしておきました。
源頼朝が亡くなり、若くして鎌倉殿を継いだ頼家のことはどう思っていましたか。
また豊臣秀次の話になりますが、秀次は秀吉の甥であって、これからは自分も見習わないといけないけど全然その才覚はなく、懸命に頑張っている人だったんですね。今回の頼家も似ている感じがしていて、自分にそんな力はないけど、頼朝の息子というだけでやらないといけないという運命に圧力をかけられている人じゃないですか。そういう意味で、僕個人と役との半々の感情で、秀次を見ているような同情というか、「そんなに頑張らなくていいんだよ。お前はお前らしくやりな」と言いたくなります。甥としての可愛さを感じるとともに、頼朝の息子である運命への同情、みたいな感じですね。
その呪詛の計画を引き受けた結果、全成の命運は尽きてしまいました。彼の最期についてどう感じますか。
「鎌倉殿の13人」は登場人物の入れ替わりが激しいドラマだと思いますが、そのわりに誰かが死んで悲しんでいるシーンが少ない気がするんですよ。その理由を演出に聞いたら、「そういう時代なんです」と。「人が多く死ぬ時代で、もちろん悲しいけど、自分もいつ死ぬかわからないし、いちいち悲しんでもいられないんだ」と聞いて納得していたんですけど、全成の死はすごくしっかり描かれていて驚きました。最期のシーンは台本で読んでいる時点でかなりの大スペクタクルで、絶対ロケだろうと思っていたんですね。実際はスタジオ撮影でしたが、室内とは思えない雨の量と迫力で、映画みたいでした。全スタッフの方が力を結集してつくってくださって、僕としても役者冥利につきるといいますか、すてきなシーンになったと思っています。僕だけではなく全セクションのスタッフさんの力が集結した「これぞ総合芸術!」というシーンだと思います。これまで全成さんが愉快な姿を見せてきたのは、この最期のための壮大な前フリだったんじゃないかってみんなで話していました(笑)。
阿野全成として生きた時間は、どのようなものになりましたか。
最高に幸せな時間でした。大河ドラマへの出演は役者として憧れで、今回も「大河の撮影だ!」と気合いを入れて挑んでいましたが、なんだか撮影にいくたびに現場が「なんだ全成のシ―ンか」みたいな(笑)、ちょっと柔らかな空気感になるんですよね。しかも僕はおもしろいシ―ンも多かったので、これは大河なのか、「LIFE!」なのかわからないような不思議な感じもありました(笑)。僕は全然笑わせるつもりはないのにスタッフさんたちがモニタ―を見て笑っていて、「顔がおもしろかった」と言われたり(笑)。回を重ねるごとにおもしろいイメ―ジがついてしまって、どんなに真剣に芝居をしても笑えてくるという。ありがたかったですね(笑)。1年近く撮影に参加させていただきましたが、長かったようなあっという間だったような、ちょっと放心状態みたいな感じです。今は僕自身が「鎌倉殿の13人ロス」に陥っています。