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INTERVIEW 2022.11.27

源実朝役・柿澤勇人さんインタビュー

~優しくて繊細な青年の悩み多き人生~

「鎌倉殿の13人」で描かれた源実朝はどのような人物だと思いましたか。

まだ10代で鎌倉殿として扱われることになって、当然何をどうしたらいいかもわからないまま御家人たちのパワーゲームの中に押し込まれて、すごく窮屈だっただろうなと思います。しかも兄の頼家と違って、「僕がなんとかしてやる」というタイプではないんですよね。結構感情は揺れ動いているけれども、それを表現することができずにためてしまう。序盤は特に、小さな針で刺されただけでパンっと割れてしまうくらい繊細だった印象です。
三谷(幸喜)さんからは、「こういう役は柿澤さん、初めてでしょ?」と言われたのですが、確かに今まで僕がいただいた役は、ためていたものが何かのタイミングで爆発したときに“復讐”という方向に行ってしまう役が多かったんです。だけど実際の僕も、何か引っかかることがあっても「一度押し殺すかぁ」となるタイプなので、実朝と似ている気がして共感できる部分はたくさんありました。

放送中のドラマをご覧になった感想と、父・頼朝の姿を見て感じたことを教えてください。

悲しいことが毎週のように起こるけれども、ただ暗いだけじゃなくて、三谷さんの作品らしい軽快な笑いもある。そのバランスがすごいなと思いながら見ています。ちょっとおもしろいことを言ったと思ったらその数秒後には誰かが亡くなっていたりする、その落差が激しいからこそより悲しさが引き立つみたいな。救いようのない時代だったのだろうけれど、ドラマとして「来週はどうなるんだろう」とワクワクする感じが絶妙ですよね。
そしてやっぱり実朝にとって頼朝という存在はとてつもなく偉大で、今回のドラマでは全然接してこなかったからこそどんどん自分で父のことを想像したし、周りからも聞かされていただろうし、超えなきゃいけない存在だったように思います。ただ、自分で、性格的に父のようになれないことはわかっていたと思うので、悩みどころだなぁと…。父・頼朝も、兄・頼家も、自分の模範となる人はみんな周りからいなくなってしまうし、常に悩みの連続だったと思います。生まれる時代が違えば、本当に優しくて優秀な人間としていい人生を歩めていたんじゃないかなと思うんですけどね。

大きな重責を負うがゆえに悩みも多かった実朝が、「この人のことは信頼できそう」と思っていたのは誰だったのでしょうか。

まずはやはり和田義盛ですね。あの屈託のない笑顔だったり、ちょっと馬鹿ばかだけど可愛かわいらしくて無邪気なところが実朝の心に響いて、「一緒にいて楽しい」と思える存在だったのだと思います。三谷さんがおっしゃっていたのは、「『ヘンリー四世』のハル王子とフォルスタッフみたいな感じ」と。結末の関係性は違いますが、右も左もわからない青年が、気前のいいおっちゃんに育てられるようなイメージは確かに似ているなと思います。そして僕も、(横田)栄司さんのことを良きお兄ちゃんだと思っているし、芝居の話をすると熱くなってしまうようなところも大好きなので、この関係性はすごくしっくりきました。

あと気になっていたのは、坂口(健太郎)さんが演じる泰時ですかね。まぁ、カッコイイですし(笑)、父親のやり方に反発しつつもわりと純粋な感じを見抜いたうえで、好きだったと思います。

心のよりどころとなっていた義盛を失った和田合戦は、実朝にとってどのような出来事だったと思いますか。

今回描かれた実朝の人生の中で一番大きな出来事だったと思います。10代の多感なときを共に過ごして、すごく慕っていた義盛と戦わなければいけないというショックと苦しみがすごかったです。実朝はピュア過ぎるから、「僕が説得すればなんとかなる」と思っていたんですよね。でも実際に戦場いくさばに出向いたら、説得している途中で目の前で義盛に何十本もの矢が飛び…。実はその説得のシーンのリハーサルで、僕が義盛に「これからも私を支えてくれ」と言って、義盛が泣きながら「もったいのうございます!」みたいなことを言った瞬間に嵐のような雨がブワーっと降ってきたんですよ。それがなんともドラマチックで、みんなで「このまま撮っちゃおうよ!」なんて言いつつも、さすがに映像がつながらなくなるので撮れませんでした。すごかったですね。過酷な現場でしたが、実朝として最期までかっこいい義盛の姿を見届けられたすごくいい時間だったなと思っています。

そして和田合戦を経て実朝は、「戦をなくして自分が世を正していきたい」と思うようになったというか、朝廷側と連携して、頼朝頼家とは違う鎌倉殿という軸になろうと思ったのではないかと。演技としては、少しの変化ではありますが、序盤より若干声を張って、実朝の覚悟を示そうと意識していました。

奥様である千世はどのような存在でしたか。

人としてすごく尊敬していたし、好きだったと思います。あの時代はとにかく男の子を産まないといけないのだけれど、それは千世さんの何が悪いとか嫌いとかではなく、実朝は「僕には無理だ」とわかっていたんですよね。だから最初はちょっと距離を取っていたというか、「1人でいたい…」と思ってしまっていたことがあったけど、千世さんが優しくて、千世さんだけに悩みを打ち明けられるようになる。そして千世さんは、「それでもそばにいます」と言ってくれるんですよ。もしかしたらちょっと違う形の愛情で結ばれた2人だったかもしれないけど、お互いのことは信頼している夫婦だったんじゃないかなと思います。

演じ終えた今、実朝の最期をどのように受け止めていらっしゃいますか。

最初にお話ししたように、父・頼朝は超えなければいけないという存在で、一種のコンプレックスだったと思うんです。何も力を持っていない自分には周りの人たちはついてこない。だから右大臣という高い位に実朝は固執していたんですよね。そして後鳥羽上皇にも取り入って、次の鎌倉殿として親王様を迎える手はずを整えたのに、どうやら公暁鎌倉殿だという声もあると。でも、過去に何があったのか僕は知らなかったので、「知っている人に聞こう。…善信(三善康信)か」となりまして(笑)。案の定、善信は僕が強く迫ったら真実を教えてくれて、その瞬間に、公暁が自分を恨む理由もわかったわけです。

だから、そもそも公暁に謝りに行った時点で、「もう殺されてもいい」と思っていたと思うんですよ。でも会ってみたら公暁はそういう雰囲気ではなかったので、「手を結ぼう」と提案した。だけどやっぱり公暁の心の底は違って、鶴岡八幡宮で襲われてしまうわけですが、僕としては、源仲章が殺されたと知った時点で、「じゃあもう次は自分だ。今日なんだ」というのはわかっていたのかなと思います。

源実朝として生きた時間は、どのようなものになりましたか。

連続ドラマに出演させていただいた経験はこれまでにもありましたが、こんなにずっと長い間役のことを考えていたのは初めてでした。今回実朝を演じているときはほかの仕事を入れずに、実朝に集中させていただいたんです。いつも以上に自分の役を愛したいと思ったし、実朝の人物像をたくさんの方に知ってほしいなという思いでやっていたので、今までとはまた違う感覚で役に向き合っていたと感じています。役のことをこんなに好きになれるってなかなかないんですよ。でも、三谷さんに書いていただく役はいつも本当にいとおしいんですよね。…ニクい!(笑)。実朝も僕の俳優人生にとってとても大切で、大好きな役になりました。

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