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INTERVIEW 2022.12.18

北条泰時役・坂口健太郎さんインタビュー

~物語の光のような存在として~

改めて、「鎌倉殿の13人」で描かれた北条泰時はどのような人物だと思いましたか。

史実の泰時は名君だといわれているんですよね。ただ僕は、今回三谷さんが描かれた泰時像にすごく愛らしさを感じていたんです。なので、いろんな本を読んで、泰時素晴すばらしい執権になるというのは知っていましたが、そうではない部分も大事にしたいなと思っていました。きっと彼が成長するのは最終回以降だと思うんです。

なのでこの物語では、父上が闇に落ちていく中である種の光のような存在でいたいと思っていたし、盛綱とのやりとりではどこか柔らかさを残せるような人物でいたいなと思っていました。そして、そういう多少の隙があるからこそ、誰かと誰かが対立したときに、白と黒だけではないグレーの部分を理解できる男の子でありたいなと。父・義時はおそらく、どこか振り切ってしまった人なんだろうなと思うし、その道が最短なのかもしれないけど、泰時は最短の道も理解しつつ、回り道をしていく人なのかなという感覚が少しあるんです。父上がつくってくれた一本道も知りながら、あえて寄り道をしていくさまというか、だからこそ堅いだけの鎌倉ではなくて、しなることもできる鎌倉をつくっていける人物なのではないかと思っています。苦労もするだろうけど、父上の背中を見て学んだことを思い出しながら、新しいリーダーになっていくのではないでしょうか。

どんどん闇に落ちていく義時を演じる小栗旬さんを見て何を感じましたか。

大変そうだなと思いました。ただでさえ物語的にもたくさんの人を粛清しなければいけなかったのは義時ですし、その都度いろいろなエネルギーを持った人が入れ代わり、それをすべて受け止めなければならないというのは計り知れないなと。でも、現場にいて感じたのは、演じている小栗さんがとても楽しそうだったんですよね。だから現場はとてもいい雰囲気でしたし、小栗さんのすごさを改めて感じました。僕は今回が初共演でしたが、いい環境でご一緒させていただけたなと思います。

とはいえ、やはり大河ドラマの主演というのはさまざまな重圧があると思うので、僕としては小栗さんが少しでも力を抜ける存在でいたいと思っていました。ドラマの中では衝突も多かった親子ですが、その感じが義時泰時の関係性にも近い気がしたというか、どんなときも一番近くで父上を見られる泰時でいられたことはありがたい時間だったなと思います。

泰時は多くの人の心に寄り添おうと努力していた人物ですが、そんな中で、第45回で亡くなってしまった源実朝はどのような存在だったと思いますか。

これは現場ですごく思っていたことなのですが、泰時っていつも間に合わない男なんですよね…。頼家のときも気絶している間に亡くしてしまったし、実朝のときも目の前で公暁に斬られてしまって、「いつも間に合ってないな!」と思いながら演じていました。

でも実朝に関しては、実は結構名君なんだろうなと感じていたし、きっと実朝がつくろうとしていた鎌倉は素晴らしいものだっただろうと思うんですよ。彼はすごく人の気持ちがわかるし、いろいろなものを理解していただろうし、和田義盛が「実朝様は今までの鎌倉殿とは違う」と言ったりもしていましたよね。そんな彼から、後々三代執権になる泰時が吸収したものも多いだろうなとは思っていて、史実はどうであるかはわかりませんが、さまざまな酸いも甘いも経験して泰時は成長していったのだろうなと感じました。

そして最終回で描かれた承久の乱では、総大将として進軍していく立派な姿も見られました。どのような心境でしたか。

今までは、自分は鎌倉に重きを置いているけれども、父上は鎌倉よりも北条に重きを置いているように見えていたんです。でも、政子の大演説を聞いて、周りの御家人たちがグッときているさまを見たら、心の中にあった何かが吹っ切れたような感覚になりました。なので、承久の乱に向かっている段階でも父上とは衝突していましたが、それでも認めあっているという状態だったと思うんですよね。泰時なりの葛藤は今までたくさんしてきたし、ケンカもたくさんしてきたけれども、「父上がやってきたことを肯定してあげよう」という気持ちであのときは臨んでいました。

泰時を演じて、三谷作品のおもしろさはどのようなところに感じましたか。

役者本人をその役として生きさせてくれる台本だとすごく感じますね。キャラクターの説明をたくさんしなくても、演じている方の魅力によって勝手に良さが増していくような。ただ僕、これまで一度も三谷さんにお会いしたことがなかったので、僕の泰時は果たして合っているのかということがすごく気になっていたんですよ。そんなあるとき、三谷さんが現場にいらっしゃったので、「ちょっと聞いてみよう」と思って「僕の泰時は大丈夫ですか?」と伺ったんです。そうしたら、「物語がどうしても深刻になっていく中で、泰時が光のような存在でいてくれているので救われています」と言ってくださって、ちょっと僕も救われたような感覚になりました。義時泰時は最後まで衝突はしていましたが、どこか絶対に切れない絆があるだろうし、父上の苦しみをやっぱり理解しているんですよね。鎌倉という場所を良くするためにこれまで仲間だった人たちを斬らなければいけない父上を見ていると、しんどいだけでは表せない、胸に刺してくるものを感じて、正直、物語の光でいようと思っても難しいなと思うことも多かったですが、演じがいはとてもありました。
現場で小栗さんもおっしゃっていたのですが、台本の段階でこんなにワクワクと役者陣で語れるってなかなかないと思うんですよね。本当に素晴らしい稀有けうな台本だなと感じます。

北条泰時として生きた時間は、どのようなものになりましたか。

僕が撮影に関わったのは8か月ほどでしたが、これまでこんなに長期間同じ役をやることはなかったので、貴重な経験になりました。僕は「大河ドラマの主演」と聞くとものすごく大変なイメージしかなかったのですが、主演の小栗さんが一番楽しそうにしている姿を見て、小栗さんには「健太郎ももしかしたら、何年後か何十年後かにあるかもよ」と言っていただいていたのですが、「いつか自分も!」と改めて思うようになりました。…大変そうだけど(笑)。「鎌倉殿の13人」は、泰時という役も大好きだし、たくさんの役者さんとお芝居ができ、さまざまな出会いにも恵まれた作品になったなと感じています。もちろんほかのドラマや映画をやっている際もいろいろな出会いがありますが、今回のように、「この縁はこれからも途切れず続いていくんだろうな」と、ここまで強く感じたのは初めてかもしれないですね。人との出会いをすごく与えていただきました。

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