「日経が宇宙」と聞くと、意外だと思われるかもしれない。
でも、宇宙はもはや夢ではなく、ビジネスの熱い舞台となった。
日経は情報発信やイベントを通じて宇宙ビジネスの発展を後押しする。
「NIKKEI宇宙プロジェクト」始まっています。
太平洋に着水した「オリオン」
(©NASA/Josh Valcarcel)
米国主導の有人月面探査「アルテミス計画」が順調に滑り出した。1号機となる無人宇宙船は月の周回軌道に到達した後、昨年12月11日(米東部時間)に地球に無事帰還。約半世紀ぶりに人類が月面に立つ日が一歩近づいた。
無人飛行に成功した宇宙船「オリオン」は最大4人乗りで、米ボーイングが開発した新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」を使い、同年11月に米航空宇宙局(NASA)により打ち上げられた。今回の成功により、2024年にはオリオンに宇宙飛行士が乗り込み、月の周回軌道で飛行するミッションを実施。25年以降に打ち上げ予定の3号機で女性を含む飛行士が実際の月着陸を目指す計画だ。
アルテミス計画には日本や欧州、カナダなどが加わっており、月面輸送サービスの委託などを通じて民間企業も参画する。半世紀前のアポロ計画との最大の違いは、アポロ計画では月着陸がゴールだったのに対して、アルテミス計画では月着陸を有人火星探査のスタート地点と位置付けていることだ。「月面で暮らし、人類を火星に送る方法を学ぶために向かう」(NASAのビル・ネルソン長官)。28年には月の周回軌道上に宇宙ステーション「ゲートウエー」を建設する計画で、月面にも基地を設ける。
昨年11月にはゲートウエーに日本人宇宙飛行士が滞在することやゲートウエーの居住棟へのバッテリーや生命維持機器の提供、月面への物資輸送などを日本が担うことが決まった。
スカパーJSATがレーザーを使った宇宙ゴミ(デブリ)の除去技術の開発を加速している。持続可能な宇宙環境を維持するため、理化学研究所などと組み、2026年の実用化を目指す。
「デブリに遠隔で力を与えることができるのが最大のポイント。除去するために近づく際の障害となる回転を止めることができるオンリーワンの技術だ」。19年に社内スタートアップ第1号案件として計画を立ち上げ、プロジェクトリーダーに就任した福島忠徳氏はこう話す。連携する理化学研究所の衛星姿勢軌道制御用レーザー開発チームでもチームリーダーを務める推進役だ。
使用するレーザーは「皮膚の表面の角質だけを取るシミ取りレーザーなどに使う技術を応用したもの」(福島氏)。物質にレーザー光を高エネルギーで照射した際に物質のごく薄い表面をプラズマ化して放出するレーザーアブレーションという現象を利用してデブリに推力を与える仕組みで、当てる場所や時間を調整することで回転を止めたり、狙った方向に動かしたりすることが可能となる。
レーザー利用の優位性はこれだけではない。デブリの外側の物質自体がプラズマ化し推力の燃料となるためコストパフォーマンスが良い。これに加えて、200メートル先から照射することもできるためデブリに近づく必要がなく、安全性も高いという。
「社会全体で宇宙ごみビジネスによるエコサイクルをつくれるかが課題」。宇宙のSDGsに向けて実用化を急ぐ。
かつて、はるかなる宇宙を夢見た少年がいた。その少年はやがて、日本人として2人目の国際宇宙ステーションの船長になる。JAXA宇宙飛行士の星出彰彦氏のことだ。幾多の困難に直面しながらも挑戦心を燃やし続け、夢をかなえた星出氏は、宇宙の大開拓時代を迎えた今に何を思うのか。
9月12日の「宇宙の日」に先駆けて、かつてラガーマンとしてフィールドを駆け抜けた星出氏に、スポーツライターの藤島大氏が聞く。
あきらめる考えがなかった
アニメの『宇宙戦艦ヤマト』が好きな子どもならたくさんいた。でも本当に宇宙飛行士になる者はまれである。
まれな人は、まるで、まれな人でないように気さくだ。いつでも楽しそうに笑う。
星出彰彦。職業は宇宙飛行士。
「子どものころに宇宙に行くという夢を抱いて、紆余曲折はあったものの行かせていただいて、もちろん大変なこともあるのですが、地上のチームと一丸となって乗り越えていく。幸せな仕事です」
2021年の3度目の飛行では滞在が「199日17時間44分」に及んだ。「きぼう」日本実験棟でミッションを行い、日本人としては2人目となる国際宇宙ステーションの船長を務めた。
計4カ国の飛行士が集まる「チーム」をいかにまとめたのか。
「引っ張っていく、細かく指示を出すというよりも、気持ちよく仕事ができる場をつくることを意識しました。宇宙飛行士は、言語や国籍だけでなく、それぞれのバックグラウンドが異なります。パイロット、医師、わたしはエンジニアというように。いろいろな背景を持つ人がいるから局面ごとにリーダーを決めて臨機応変の対応ができる。それを束ねることで強いチームになる。」
若き日、慶應義塾大学の理工学部ラグビー部に所属した。ポジションは素早くパスをさばくスクラムハーフ。前線の仲間が体を張って奪ったボールを後方へつなぐ役だった。
「不器用な選手でした。初めてのトライは卒業後です。宇宙飛行士としても、訓練で失敗しながら学びました」
3度目の挑戦で宇宙飛行士になれた。滑らかに進んだわけではない。「へこたれはします」。ただし立ち止まらない。「あきらめる考えは自分にはなかった」。失敗するたびに工夫するからこそ「引き出し」は増えた。
船外活動時の星出宇宙飛行士と「きぼう」日本実験棟(JEM)
(©JAXA/NASA)
民間宇宙船搭乗 感じた底力
夢をかなえて宇宙に見る地球とは。
「美しさはいつも変わらない。国際宇宙ステーションは90分で地球を1周するのですが、窓から何度見てもあきない。人類は宇宙に進出する。でも地球がないと生きていけない。2度目の飛行の時、頭ではなく感覚としてわかりました」
各国のリーダーよ宇宙へ。そうすれば戦争も環境破壊もなくなるのではないか。
「たとえばサミットを宇宙で開く。各国の利益を求めるとしても、人類としての根底の感覚は変わる気がします」
昨年の飛行では米国のスペースX社の宇宙船に搭乗した。
「民間の底力を感じました。宇宙への進出がビジネス、マーケットとつながる。日本にも技術力はあります。さまざまな分野に進出することが大切です」
地球の外で科学の知見を深め、芸術を創造し、未来の事業を起こす。宇宙飛行から宇宙旅行へ。この瞬間も時代は進む。(藤島大)
1992年9月12日、毛利衛宇宙飛行士が日本人で初めてスペースシャトルで宇宙に飛び立った。
同年、この日は科学技術庁(現・文部科学省)と宇宙科学研究所(現・宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)により「宇宙の日」と制定された。
それから30年の月日が流れた今、宇宙開発はめまぐるしいスピードで進展している。これまでの宇宙開発史を、日本の取り組みを中心に紹介する。
毛利衛宇宙飛行士、日本人初のスペースシャトルでのミッション成功
宇宙の日(9月12日)制定
9月12日、毛利衛宇宙飛行士が日本人として初めてスペースシャトルに搭乗、宇宙に飛び立った。毛利宇宙飛行士が登場したスペースシャトル「エンデバー」号は9月20日に地球に帰還。同年、9月12日は「宇宙の日」と制定された。
©JAXA/NASA
©JAXA/NASA
スペースシャトル「エンデバー」号
(©NASA/Jim Ross)
民間ロケット開発 解禁へ
通商産業省(現・経済産業省)は、日本企業が人工衛星を打ち上げるためのロケット開発を解禁する法整備の検討に入る。純国産ロケットの開発と並行し、日本の民間ロケット開発の歴史は幕を開けることになる。
純国産ロケットH-Ⅱロケットの運用開始
H-Ⅱロケット試験機1号機打ち上げ(種子島宇宙センター)
(©JAXA)
火星探査機「マーズ・パスファインダー」 火星に着陸
7月4日、米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・パスファインダー」が火星地表に着陸。大量のデータがもたらされた。
火星でヨギ岩に接近する火星探査車
(©NASA/JPL)
「マーズ パスファインダー」を搭載した
デルタロケットの打ち上げ(©NASA/JPL)
世界初の民間人による宇宙旅行が実現
4月28日、元NASAジェット推進研究所のエンジニアで実業家のデニス・チトー氏が、民間人初となる自費での宇宙旅行を行い、国際宇宙ステーション(ISS)に8日間ほど滞在した。
ISSで乗組員と写真を撮るチトー氏(写真左)
(©NASA/JSC)
小型探査機「はやぶさ」打ち上げ
宇宙航空研究開発機構(JAXA)発足
世界初の民間企業による宇宙飛行が成功
スケールド・コンポジッツ社は、有人宇宙船「スペースシップ・ワン」により宇宙空間への弾道飛行に成功。世界で初めて民間企業による宇宙飛行が実現した。
国際宇宙ステーション(ISS)完成
ISSとドッキング中の「エンデバー」号(2011年5月24日)
(©JAXA/NASA)
小惑星探査機「はやぶさ2」打ち上げ
イラスト/池下章裕
「アルテミス計画」始動
ロケット「MOMO」が日本初の民間単独での宇宙空間到達
5月4日、インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)が開発したロケット「MOMO3号」が、日本の民間ロケットとしては初めて宇宙空間に到達。同社は現在、超小型衛星用のロケット「ZERO」の開発を進めている。
©インターステラテクノロジズ
米スペースX社が民間初の有人宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功
「クルードラゴン」2号機に日本人宇宙飛行士の星出彰彦氏が搭乗
4月23日に打ち上げ、24日にISSに到着。長期滞在中の野口聡一氏と対面。星出氏はISSに半年間滞在。野口氏は5月2日に、星出氏は11月9日に地球へと帰還した。
JAXA 13年ぶりに宇宙飛行士の募集開始
4127人が応募。2022年9月現在、第0次選抜に合格した205人の候補者が、宇宙飛行士への夢へと歩みを進めている。
黎明(れいめい)期
民間宇宙ビジネスの幕開け
宇宙ビジネスの歴史と、スカパーJSATの起源は、1985年まで遡る。それまで、電気通信事業は国営による独占事業となっていたが、同年に電気通信事業法が施行され、自由化・民営化が行われた。
施行に伴い、伊藤忠商事・三井物産・米ヒューズ・コミュニケーションズが出資する「日本通信衛星企画(JCSAT)※」、三菱グループ主要28社が出資する「宇宙通信(SCC)」、ソニーなどが出資する「サテライトジャパン」の3社が衛星通信ビジネスに参入。JCSATが、89年3月に日本初となる民間通信衛星「JCSAT - 1」を打ち上げ、6月にはSCCが「Superbird -A(旧)」を打ち上げた。民間宇宙ビジネスの幕開けである。
日本で初めての民間通信衛星「JCSAT-1」。
テレビ局の中継などに利用された(1998年運用終了)
現 在
衛星を用いた多数のサービスを展開
いち早く宇宙ビジネスに参入し、BtoB市場で衛星通信事業を展開してきた「JSAT」と「SCC」、そして、日本の有料放送市場を開拓してきた「スカイパーフェクト・コミュニケーションズ」の3社が合併し、2008年に「スカパーJSAT」が誕生した。
スカパーJSATは、約300万件の顧客基盤を持ち、国内有数の有料多チャンネル放送「スカパー!」を運営する一方、自ら保有・運用する衛星を用いて衛星通信サービスを提供し、安心・安全・快適な暮らしと社会を支えている。
宇宙空間に位置する衛星は、地上インフラが不十分な地域はもちろん、航空機・船舶など、陸海空を問わず通信サービスの提供が可能。また、地震など自然災害の影響を受けないため、防災用途や地上通信のバックアップ、携帯基地局のバックホール回線などにも利用されている。11年の東日本大震災では、中央省庁やインフラ企業、被災地に対し、衛星通信サービスを提供、復興支援に貢献した。
現在、スカパーJSATは16機の衛星を保有・運用する、アジア最大規模の通信衛星事業者として存在感を高めている。
そしてこれから
新たな宇宙インフラの構築に挑戦
スカパーJSATは将来を見据え、衛星から取得した様々な地理空間情報を基にソリューションを提供するビジネスインテリジェンス分野にも進出。今年7月には、新たな宇宙インフラの構築を目指し、NTTとともに合弁会社「Space Compass」を設立した。24年度に光データリレーサービス、25年度にHAPS※事業を開始予定だ。
また、レーザーによる宇宙ごみの除去などSDGsの取り組みにも着手。新たな領域への挑戦を通じて、持続可能な社会の実現への貢献を目指している。
通信の自由化から40年弱。民間宇宙ビジネスの歴史に新たな1ページが刻まれようとしている。
スカパーJSATグループのセグメント別営業利益比。宇宙事業に力を入れていることが伺える。
(2021年度通期決算より)
宇宙ビジネスに参入するプレーヤーが増加するなかで、テクノロジーや社会実装のスピードは加速度的に上がっている。キーワードになるのは「連携」。問われるのは産学官、さらには国境を越えた連携の在り方だ。ここでは、衛星開発における産官学の連携、宇宙開発を学生の視点から議論するシンポジウムを紹介する。
産学の夢「イプシロン」に込めて
イプシロンロケット6号機/革新的衛星技術実証3号機「RAISE-3」搭載イメージ
(©JAXA)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月7日、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)で固体燃料ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げに臨む。同機には人工衛星の開発や衛星データ活用サービスなどを手掛ける、QPS研究所(福岡市)が開発した人工衛星「QPS-SAR」の3号機、4号機に加え、JAXAが行う革新的衛星技術実証プログラムによる小型実証衛星3号機「RAISE-3」が搭載される。
革新的衛星技術実証プログラムは、大学や研究機関、民間企業などに、人工衛星の基幹的な部品や新技術を、宇宙空間で実証実験を行う機会を提供。新たな知見の獲得や蓄積、将来的なミッションの創出を目的とした、公募制のプログラムだ。RAISE-3では同プログラムに採択された民間企業7社の部品などの機材のほか、金沢大学の「KOYOH」など3機関の超小型衛星、名古屋大学の「MAGNARO」や米子工業高等専門学校の「KOSEN-2」など5機関のキューブサット※を搭載、宇宙空間での実証実験を行う。ビジネスとしての視点、学際的な視点からも、新たな発見と成果が期待されている。
現在、あらゆる分野で協働の重要性が認識されている。特に急速に進む宇宙開発のなかで、国際的な競争力を高めるためには産官学の垣根を越えたオープンイノベーションが不可欠だ。このような取り組みから生まれた成果が社会実装されれば宇宙はより身近な存在となるだろう。今秋、イプシロンは産学の夢を込めて、宇宙へと飛翔(ひしょう)する。
※重量は数kgほどと超小型衛星の中でも小型・軽量であり、打ち上げ費用などのコストを極力抑えた人工衛星
宇宙開発フォーラム2022
世界は宇宙でつながる
文理越え 宇宙開発を議論
宇宙開発には、ロケットや人工衛星の開発、宇宙法、宇宙ビジネスなど、文理の領域を横断した多様なアプローチが求められる。宇宙開発フォーラム実行委員会は「学生の視点から宇宙開発の今を見つめ、文理の垣根を越えて議論をしたい」という思いから2002年に設立された。
これまで学際的な参加型シンポジウム「宇宙開発フォーラム」の開催や、メンバー個々の興味や問題意識に基づく自主プロジェクトの遂行を通じて、学生の立場から宇宙開発に貢献してきた。宇宙開発フォーラム実行委員会は9月「宇宙開発フォーラム2022」を開催。2日間にわたるパネルディスカッションやワークショップを通じて、宇宙開発の国際協力の在り方を学際的な立場から議論する。
© NASA/MSFC
米航空宇宙局(NASA)が掲げる有人月面探査計画「アルテミス」(アルテミス計画)が、新たな一歩を踏み出す。人類の月面探査は、いよいよ次の段階を迎えようとしている。
1972年のアポロ17号以来、半世紀ぶりに人類を月に送り込む「アルテミス計画」が、着々と進行している。NASAは新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」初号機を、ケネディ宇宙センターより打ち上げる準備を進行中だ。これは同計画最初のミッション「アルテミス1」となる。「アルテミス計画」は、2017年に発表された有人月面探査計画。アポロ計画以来初の有人月面着陸となる本計画には、米国を中心に日本や欧州などが参加している。月を周回する有人拠点「ゲートウェイ」を拠点に月に物資を運び、月面に基地を建設。月における人類の持続的な活動を目指す。さらにこの月面基地を足掛かりに、火星への有人探査も視野に入れているという。
24年には有人飛行ミッション「アルテミス2」が予定されており、25年のミッション「アルテミス3」では、有人月面着陸を目標に掲げる。28年までには有人の月面基地の建設を開始する予定だ。「日進月歩」のスピードで開発を進めるなか、初号機の打ち上げの成否は最初の関門ともいえる。宇宙開拓の新時代が、まもなく開かれようとしている。
スカパーJSATと日本電信電話(以下NTT)が、宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を担う合弁企業Space Compassを7月20日に設立した。
スカパーJSATとNTTが、新たなインフラ構築に挑戦する。Space Compassの松藤浩一郎Co-CEOは、「宇宙データセンタ事業と宇宙RAN ※1 事業の2つの事業を展開していく。これは2021年の業務提携でスカパーJSATとNTTが発表した、持続可能な社会に貢献する『宇宙統合コンピューティング・ネットワーク』構想の一歩だ」と語る。
また、宇宙データセンタ事業について「地球を周回している観測衛星が地上と通信できる時間や容量は限られている。しかし、当社が24年度から提供開始予定の『光データリレーサービス』では、静止軌道衛星を経由し、光無線通信を用いることで、大容量・準リアルタイムでのデータ伝送が可能だ。2025年大阪・関西万博では、 NTTの大容量光通信技術も含めた宇宙実証を披露することを目指す。将来はアルテミス計画のゲートウェイや月面基地との通信を我々で担いたい」と今後のビジョンを語った。宇宙RAN事業では、高高度プラットフォーム(HAPS ※2 )を用いた低遅延の通信サービスを提供。災害時の高信頼性通信のほか、船舶や航空機、離島などでの通信に活用できるという。
※1 Radio Access Network ※2 High Altitude Platform Station
1969年7月20日。この日、米航空宇宙局(NASA)の探査船アポロ11号に搭乗した宇宙飛行士2名が、初めて月面に足を踏み入れた。それは人類が地球外天体に足を踏み入れた、最初の一歩でもあった。月面歩行の映像は世界中で放映され、人々はブラウン管の向こうにある「新世界」に釘付けとなった。人類はいずれ地球を飛び出し、別な天体を開拓していく――。そのような未来に、誰もが思いをはせた。それから50余年の月日が流れ、人類の夢はついに現実になろうとしている。
NASAの月面探査計画「アルテミス」は、2025年以降に有人月面探査を予定。単に地球間を送迎するものではなく、月の周回上に駐留可能な拠点(ゲートウェイ)を構築することによって、継続的な滞在を目指す。有人月面探査の第一段階として、今年夏以降にエンジンなどのコアシステム、ロケットブースター、そして探査船「オリオン」を搭載したスペースローンチシステム(SLS)の初号機「アルテミス1号」が無人打ち上げを行う。
月面探査に向けた技術開発は、民間でも進んでいる。有人月面探査を補助する探査車や植物栽培実験を見越した生体循環維持システム、さらには月面基地構築に向けた研究も進んでいる。
テクノロジーの発達は、宇宙開発をまさに日進月歩で促し、人類は間もなく月面の大開拓時代を迎えようとしている。月面から眺める天体は、どのように見えるのだろうか。そのときが訪れるのは、遠い未来ではないのかもしれない。
月面での食料生産の取り組みが進んでいる。キリンホールディングスと宇宙航空研究開発機構(JAXA)、竹中工務店、千葉大学、東京理科大学は「袋型培養槽生産技術」による月面農場の実現に向けた研究を実施。レタスや種イモ、大豆苗を使用した実験により、月面のような低圧環境で地球と同様の増殖形態を再現した。
月面探査を行う車両開発は、有人/無人の両面から進められている。その一例がJAXA とトヨタが共同開発を進める月面モビリティーである有人与圧ローバー「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」だ。燃料電池車両技術を用い、月面での過酷な環境下での快適な走行を実現する。2020 年代後半の打ち上げを目指し、試作が進められている。
民間主導による宇宙開発が活発化し、今後宇宙ビジネスの拡大が予想される。そこで注目されるのが、宇宙空間におけるリスクマネジメントだ。現在、大手損保を中心に「宇宙保険」の開発が進んでいる。既に月面探査車両を対象とする「月保険」やロケットの「打ち上げ保険」などの商品が提供されている。
© canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Association.
日本各地でスペースポート(宇宙港)の開発が進んでいる。世界中で宇宙産業の動きが加速する中で、日本にスペースポートを開港することの重要性を、スペースポートジャパンの山崎直子氏に語ってもらった。
東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了後、NASDA員を経て、1999年、国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する宇宙飛行士の候補者に選ばれる。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号によるISS組立補給ミッションに参加。現在は、内閣府の宇宙政策委員会委員や大学客員教授などを務める。
スペースポートは世界的に成長している宇宙産業の基盤だと思います。輸送、人工衛星の利活用、探査など宇宙を使って何かしようというとき、すべてスペースポートがないと成り立たちません。宇宙産業に欠かせないものと位置付けています。米国ではすでに13カ所が米連邦宇宙局(FAA)から認可を受けており、英国でもコーンウォールをはじめ、整備が行われています。特記すべきはアジア・太平洋地域の動きの早さで、中国も独自に試験を進めています。これからアジアの中で宇宙輸送のハブ(拠点)ができるはずです。航空路線網のハブ戦略の先には、ゆくゆくはスペースポートが、人の移動する「2地点間輸送」の拠点として、ヒト・モノの流れの中核となるだけに、危機感を持ち、早く動き出すことが重要です。
スペースポートジャパンも日本を宇宙輸送のハブにしたいとの思いを持ち、立ち上がった団体です。スペースポート自体は新しい構想ではなく、北海道大樹町では30年以上取り組んでいますし、沖縄県の下地島空港(宮古島市)でも宇宙スタートアップ企業が活動を続けています。それぞれが単独でやるよりは業界団体のようなプラットフォームがあることで、動きをオールジャパンとして加速し、海外連携も図れると考えました。今は自治体や企業を支援し、官民協議会に参画するなど、新しい市場を立ち上げるための課題解決に取り組んでいるところです。
宇宙は地方との親和性が高く、人工衛星を打ち上げ、そのデータを地方行政に生かすなど相乗効果が見込め、自治体の期待値は高いと実感しています。2020年に「スペースポートシティ構想図」を公表しましたが、スペースポートを基点に、地域の産業をシームレスに結びつけることが構想のカギになります。
米国ではスペースポートが定常運用に入ると年100億円規模の市場経済効果があるとの試算も出ていますが、日本でもそのレベルになれればいい。まずは民間や自治体主導のスペースポートが日本に複数でき、20年代後半にはサブオービタル(準軌道)の宇宙旅行、30年代には高速二地点間輸送ができてくればと考えています。
活動領域が広がる宇宙への玄関口
スペースポートジャパンは、スペースポートを中心に商業宇宙旅行とその関連産業を結び付ける「スペースポートシティ構想図」を提案している。宇宙産業は年々拡大しており、スペースポートシティが実現すれば大きな産業効果が期待できる。
スペースポートは、宇宙を起点とした関連産業におけるヒトやモノの流れの集積するハブとしての役割を担う。ただ単に射場や格納庫があるものではなく、大規模ホールやミュージアム、教育施設、先端医療機関など、宇宙に関連するあらゆる活動を集約する施設として計画されている。高齢化により人口減少の進む地方都市にとって、スペースポートの誘致によって生まれた人流は、経済的に大きなインパクトをもたらすだろう。
宇宙産業を地域の産業と結び付ける拠点として、地域振興に大きな貢献を果たすという意味でも、スペースポートへの期待は高い。スペースポートを中心とした観光産業の活発化が見込めるほか、打ち上げた人工衛星による観測データは、農業や漁業における収穫・漁獲予測、さらには防災などに活用可能なためだ。行政だけでなく、幅広い産業にメリットを生みだすスペースポートは、地方創生の起爆剤となるだろう。
有翼型宇宙機、年内飛行も
国内各港の計画活発
国内の宇宙産業の動きが活発だ。年内では、スペースポート紀伊(和歌山)でスペースワンが垂直型ロケット、大分空港ではVirgin Orbit が人工衛星の打ち上げを予定。下地島空港(沖縄)ではPDエアロスペースが有翼型宇宙機の宇宙空間飛行を目指している。2023年には「北海道スペースポート」にインターステラテクノロジズの新型ロケットや民間の人工衛星用ロケットの射場「Launch Complex-1」が完成する予定。
左上:北海道・大樹町「北海道スペースポート」(©SPACE COTAN株式会社)、右上:和歌山県・串本町「スペースポート紀伊」(提供 スペースワン株式会社)、左下:大分県「大分空港」、右下:沖縄県・宮古島市「下地島空港」(©PDエアロスペース)
スペースポートは、宇宙を起点とした関連産業におけるヒトやモノの流れの集積するハブとしての役割を担う。ただ単に射場や格納庫があるものではなく、大規模ホールやミュージアム、教育施設、先端医療機関など、宇宙に関連するあらゆる活動を集約する施設として計画されている。高齢化により人口減少の進む地方都市にとって、スペースポートの誘致によって生まれた人流は、経済的に大きなインパクトをもたらすだろう。
政府により、有人商業サブオービタル飛行(宇宙船を地上100km程度まで上昇させ、地上に帰還する飛行)に関する環境整備が2024年までに行われる。
北海道スペースポートにLaunch Complex-1よりも大型の射場となる「Launch Complex-2」が完成予定。複数企業のロケットの同時組み立て、打ち上げ準備が可能となる。
2026年以降、Sierra Spaceが大分空港にて有人機のミッションを計画。同社は今年、無人機で ISS(国際宇宙ステーション)への物資輸送を行う予定だ。
NIKKEI宇宙プロジェクトフォーラム
SDGs
×
宇宙
~宇宙が教えてくれる社会課題解決~
宇宙航空研究開発機構(JAXA)による、宇宙事業に取り組むスタートアップ支援の加速が追い風となり、国際競争力を持つ宇宙企業が続々と誕生している。
奇しくも宇宙飛行士の選抜試験期間中に開催された本フォーラムでは、スタートアップ企業の経営者をはじめ官・民から様々な人材が登壇した。
JAXAは国の宇宙基本計画に基づき安全保障、産業振興、災害監視などの事業を展開。複数の地球観測衛星のデータ提供を通じて、気候変動などの課題解決にも引き続き貢献していく。
先日、月・火星の有人探査を目指すアルテミス計画がスタートし、JAXAは探査の実現に必要な研究開発を民間企業や大学、研究機関と一緒に進めている。宇宙活動の領域が拡大するなか将来の宇宙探査の在り方を変えるとともに、地上技術にイノベーションを起こすことを目指している。
今後はピンポイント月面着陸に挑戦するなど未来の月面基地計画の実現に向けて着実に進めていく。
世界の宇宙産業は、2040年までに約3倍(100兆円)の市場規模に成長すると予測されている。主な成長要因は、民間開放、技術革新、積極的な新規参入だ。
一方、現在の日本の市場規模は、ロケットや衛星などの宇宙機器産業が約3500億円、それを使った宇宙利用産業が約7700億円の約1.2兆円。政府は、30年代早期に2.4兆円まで成長させたいと考える。
経済産業省は、小型衛星事業の支援や観測衛星データの利用促進に向けた取り組みを行っている。宇宙事業を総額上限797億円で公募する「経済安全保障重要技術育成プログラム」などを通して、今後も世界で戦う日本企業に重点投資をしていく予定だ。
河井 宇宙ビジネスの現場で活躍する4人に取り組みや考えを聞きたい。
永崎 目標は、宇宙商社として一大産業をつくること。現在は、衛星打ち上げサービスのほか、機材の調達代行や試験などの顧客支援も行う。ライフサイエンスやエンタメなどの領域でも価値創造に取り組んでいる。JAXAから国際宇宙ステーションの一部機能の独占的利用権を得ており、この活動を通じて国内外のプレーヤーと共創する。
畑田 当社はハワイ旅行感覚で宇宙に行ける未来と、安価な宇宙輸送手段の確立を目指している。これらは今後の進歩に欠かせないと考えている。
福代 キューブ型の超小型衛星の開発、活用に取り組んでいる。超小型衛星のメリットは、インフラのない地域に観測データや通信を提供できることだ。初めて開発した衛星はルワンダ共和国向けのもの。隣国が火山噴火の災害地域のため、衛星データを観測・早期警戒に活用する計画を進めている。将来は、海やアマゾンの奥地、砂漠や月にもインフラを提供したい。
櫻庭 当社が力を入れる「天地人」は、農家の方々が感覚に頼る部分をデータ化した。無駄のない社会を実現するために始めたサービスだ。神明との協業では、新開発のお米に適した栽培地を、気象条件などの衛星データから探索し、山形県を選出した。
河井 未来の宇宙ビジネス構想とSDGs(持続可能な開発目標)がフィットしない場面はあるか
畑田 今後の経済はSDGsの課題解決抜きに考えられない。宇宙ビジネスは目先の問題にとらわれすぎず取り組む必要がある。ビジネスと社会課題解決を分けず、ポートフォリオで対応することが重要だ。
永崎 ボーダーレスが当たり前の宇宙は、SDGsと相性がいい。生み出した価値をシェアする好事例が積み上げられれば、大きな社会課題を解決できる。
畑田 宇宙のような難しいテーマにチャレンジする姿を子どもたちに見せることが、未来につながる。
SDGsは企業価値を左右するほど社会に浸透し、多くの企業が取り組みを本格化させる。世界中で宇宙機関が新設され、発展途上国が日本を超えるほどのスピードで成長を遂げる宇宙産業でも同様だ。宇宙デブリの除去、デブリ化しにくい衛星、環境負担の少ないロケット燃料の開発など「守りのSDGs」の取り組みが活発化する。
厳しい宇宙環境を想定して培われた技術は、長時間の使用に耐える質の高い製品を生み出す。また、空気や汚水の再生、長期保存が可能な栄養バランスの取れた食品の開発、人工衛星による二酸化炭素(CO2)排出量の測定など、宇宙開発から生み出された技術の恩恵が、様々な形で地上に還元されている。
多くの種類の衛星が打ち上げられ、衛星データの品質が向上するなか、今後は小売り、自動車、金融、不動産など様々な事業者による宇宙ソリューションの活用が広がる。宇宙事業全体のSDGsへの貢献度もますます高まることだろう。
日本橋は古くから金融街、商業地として発展してきたが、バブル崩壊もあり、1990年代末に街は非常に厳しい状況に陥った。
もう一度、かつてのにぎわいを取り戻そうというスローガンのもと、官民地域一体で日本橋再生計画を始めた。計画では産業創造、界隈(かいわい)創生、地域共生、水都再生の4つの重点テーマを設定。産業創造、特にライフサイエンスのイノベーション推進事業は、街づくりを通じて社会課題の解決、持続可能な社会の構築に貢献している。
JAXAがX―NIHONBASHIに民間との協業拠点を設置。現在、日本橋は30を超える産官学の宇宙プレーヤーが集まり、年間200回以上の宇宙関連イベントが開催される宇宙事業の中心地に生まれ変わった。
当社は、宇宙プレーヤーに場所を提供するだけでなく、機会を創出するプラットフォーマー兼サービス事業者としての立場からも、宇宙産業の拡大を支援していく。
スカパーJSATは1989年に国内初の商用衛星を打ち上げて以来、約30年にわたって宇宙事業を拡大し続けている。航空機や船舶などの移動体向け通信や、携帯基地局のバックホール回線、災害時の重要通信回線など、様々な衛星通信サービスを展開している。
宇宙をビジネスフィールドとする会社として宇宙環境の改善にも取り組んでおり、理化学研究所と共にレーザーにより宇宙デブリを除去する技術の研究開発と事業化を推進している。
宇宙デブリは小さなものでも大きな衝突エネルギーを持つため、衝突により衛星ミッションが終わってしまうこともある。また、コンステレーションによる人工衛星の利用が活発になっていくと、衝突リスクが高まることも想像に難くない。
人工衛星は様々な用途で使用されているため、対策を取らなければ国民の生活に大きな影響を与えかねない。我々はレーザーによる宇宙デブリ除去などのビジネス領域の拡大を通して、身近な暮らしを支え、守り、発展させていきたいと考えている。
宇宙とSDGsの関係は、不可分なものになっている。
代表的な人工衛星の活用例としては、防災・減災のためのデータ取得、海洋、砂漠、森林の観測など。国際宇宙保険市場の動きから見ると、特に人工衛星を用いた温暖化ガスの観測は、今後も間違いなく拡大する。
宇宙保険には、打ち上げフェーズごとに財物の損害を担保するものと、打ち上げ失敗等に起因する第三者への賠償を担保するものの2種類がある。ロケットの打ち上げ失敗リスクは5~10%といわれている。現在、軌道上にある約6500機の人工衛星のうち、保険が手配されている機体は約300機足らず。ただし商用目的の人工衛星のほとんどには、投資家からの要望等により保険がかけられている。
航空宇宙保険の国際機関IUIAでは、現在、人工衛星の打ち上げ数急増に伴う宇宙デブリ増加への対策が論議されている。例えば、デブリ化リスクの高い人工衛星の保険引き受けを制限することは、デブリ増加に歯止めをかけることにつながる。当社でも、複数の宇宙デブリ事業者との協業を進めている。
私たちは宇宙日本食「北海道産牛とミニトマトのハンバーグ」を開発し、現在は「COSMO BURG」として販売している。宇宙食開発に挑戦したきっかけの一つは、新商品としてハンバーグ開発に着手していた時期に、帯広地域雇用創出促進協議会から「『Pre宇宙日本食』という新規格に申請しないか」と打診を受けたこと。宇宙飛行士が滞在する宇宙ステーションには病院がないため、毎日の食事による体調管理が重要だ。商品には添加物を使用せず、原料は北海道産にこだわり、宇宙飛行士の健康への配慮を最優先した。
宇宙食としての認証完了までは、想定以上の労力と時間を要した。品質確認は、製造した商品を宇宙ステーションと同じ温度管理下に置き、1年半という長い期間の経過後に検査する。評価が基準に満たないと作り直しだが、こうしておいしさや安全性を向上させた。
完成した商品は、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士から「家庭のハンバーグのような懐かしい味がする」と非常にうれしい言葉をいただいた。今後、ますます多くの方が宇宙日本食の製造に挑戦されることを願っている。
JAXAの宇宙飛行士選抜試験のさなかに行われたトークセッションは、同試験にエントリーした8歳の宇宙キッズ、大森陽生くんを交えて和やかなムードで始まった。
大森くんは、3歳の時に福井県自然科学館で宇宙関連の展示を見たことがきっかけで宇宙に興味を持った。大森くんの夢は、数学、科学の知識を生かして人類の役に立つこと。「地球外生命体を見つけ、宇宙エレベーターをつくりたい」と意気込みを語った。
アジア初の女性宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗した向井千秋氏は宇宙飛行士に必要な資質として「チームの役に立つ得意分野を持つことと、チームワーク、コミュニケーション能力」との条件を挙げ、「自分なりの考えが求められる。互いを尊重した上での議論が、1+1から3や4を生む」との考えを示した。
JAXAで宇宙飛行士選抜試験を担当する阿部貴宏氏は「活動領域が、国際宇宙ステーションから月にまで広がる可能性があるため、心身ともに健康で強じんな人物像を描いている」と述べ、今回の選抜で応募資格を変更し、間口を広げた理由を説明した。
自然科学系などの経験、知識は試験を通じて資質を見極める方式に切り替えることで「まずは幅広い人材に応募いただき、その中から適した方を選定する方向に転換した」という。
選抜試験に挑戦する受験者に伴走してきた宇宙キャスターの榎本麗美氏は「挑戦を通じて顔つきが変わり、成長していくことに感動した」と評価した。
一方、SDGsと宇宙の関連性については、向井氏が「宇宙での活動は、地球を次の世代に渡すためのモデルケースとしての意味を持つ」と指摘。その理由として「宇宙では食糧や空気の量が限られるため、リサイクルは死活問題。その技術は災害時の隔離所や砂漠など、地球上のあらゆる場面に応用できる」と強調した。
神武 現在、衛星データは、地上のネットワーク、クラウドと組み合わせて、社会課題の解決に活用されている。高機能化とコモディティー化も進み、活用の領域はさらに広がる一方だ。私が直接関わった事例に、宇宙技術をラグビー選手のコンディション管理に生かした取り組みがある。GPSセンサーで取得した選手の動きや運動量のデータを練習計画に反映することで、劇的なけがの低減効果が得られた。この技術は、業種の異なる放牧管理にも応用された。
伊達木 従来、JAXAは主にロケットや衛星の研究・技術開発に取り組んできた。今はそれらを何に使うのか、何のために使うのかが重要だ。私が所属する新事業促進部は、宇宙技術の利用と産業振興の拡大を使命とする。スタートアップ、ベンチャーのほか、参入が増える非宇宙系企業とも組みながら成長をサポートすべく取り組む。JAXAが2018年に開始したパートナーシッププログラム「J-SPARC」では、多様なパートナーとの共創を重視している。宇宙事業と宇宙事業以外の掛け合わせによって化学反応を起こしていきたい。
小玉 官から民への流れが急加速し、多くの民間企業が良質な衛星データを提供している。一方で宇宙を縁遠いものと考えるユーザーもいまだ多い。自前で衛星を打ち上げなくても活用できる多くの衛星データがあり、これらを多くの市場、分野でビジネスに生かせるはずだ。水や空気の再生といった、宇宙の極限状態を生き抜く技術も、地球の社会問題解決に役立つだろう。
伊達木 衛星データの利用価値は、既に1次産業、2次産業にとどまらず、金融、保険などを含めた3次産業、および個人ユーザーにまで開かれている。顕在化しつつある宇宙人材の不足には、JAXAをはじめとする宇宙業界と他の業界の人材の流動性を高めることで対処できるはずだ。
宇宙から見る地球は美しく、守るべき存在と感じられた。国全体の成長戦略・実行計画のなかでは、宇宙を通じた社会課題の解決が求められている。宇宙産業は成長産業であるとともに、安全保障、防災、SDGsの達成にとって不可欠の存在。宇宙ビジネスをより活性化させ、着実に社会実装していく必要がある。
現在、米国を中心とする民間宇宙ステーションの検討や、国際協力のもと月面での活動を行うアルテミス計画、月周回軌道の宇宙ステーション等の様々な宇宙計画が進められている。太陽光発電や水・空気の再生、食物の生育などの分野で高い技術力を持つ日本には、宇宙のサステナビリティー分野での活躍が期待される。
日本経済新聞社は、X-NIHONBASHI Global Hubをはじめ、企業の宇宙ビジネスへの取り組み、ビジネスマッチングを、「NIKKEI 宇宙プロジェクト」として応援、発信していきます。本プロジェクトへの協賛社を募集しています。興味・関心のある企業は下記までご連絡ください。