COLUMN 2022.05.01
教えて! 風俗考証・佐多芳彦さん
源義経と梶原景時とでは、前立の作りが違いましたが、鎧にも違いがあるのでしょうか?
源義経の鎧はめちゃくちゃいい鎧ですけれども、大荒目という古いスタイルの典型的なものです。一方、梶原景時の鎧はこの当時の最新型になります。
どこが違うのでしょうか?
例えば、源義経が身に着けている大荒目では、威であるとか赤い糸が使われている部分は、すべて皮革製なんです。ところが、時代が少しずつ下がり梶原景時が身に着けている最新型になると、あの中の細かくなっているところの何枚かに一枚は、鉄の部品が使用されています。そうすると強度が抜群に高くなるんですね。要するに、合戦の手法が変わってきたことを示しているんですよ。
大荒目が主流のころは、原則、弓矢の戦いなんです。だから革の大荒目というのは、実は一つ一つの部品がものすごく厚くできていて、弓矢には抜群に強いんです。ところが、刀とか薙刀などの打ち物にはちょっと弱いんですね。つまり、接近戦にはあまり向いていないんです。そこで、細かくなっている部品の中に何枚かおきに鉄の同じ形の部品を交ぜて強度を向上させたのが、梶原景時が身に着けている最新型の鎧です。大きく変わるのは南北朝以降なんですけれど、合戦の規模が大きくなり、白兵戦が主流になっていったことに伴い、この時代も細かく細かく変化しているんですよ。
なるほど。上にもう一枚、貼りつけているんですね。
そうなんです、もう一枚貼ってあるんです。ただ、義時が身に着けているのは胴丸という歩兵用の鎧で、ちょっと幅が狭いなどの違いはもちろんあります。梶原景時が身に着けているのは大鎧というもので、鎧の中では騎兵の戦いに特化した、防御力がとても優れた鎧なんです。
それにしても、この義時の写真は実にいいですね。非常に感動しているんですけれど(笑)、義時の鎧は微妙に変化していっているんですよ。実は、伊豆の北条館にいたころは、義時が身に着けている鎧には袖が付いてなかったんです。袖が付いたのは、義時の格が少し上がってきたというのもあるんですけれど、これまでに実戦を重ねてきたということを物語っています。胸のところにも、以前は兄・宗時だけが付けていた杏葉というパーツを付けるようになっています。
闘う男として成長していっているんですね。
そうです。戦いが相当過酷になってきたということと、義時の格が上がってきたということを示しています。今後もこのような細かい変化があると思いますので、こういうところにも注目してドラマを楽しんでいただけるとうれしいです(笑)。