COLUMN 2022.08.12
教えて! 仏事指導・張堂興昭さん
仏事指導のお仕事とは、どのような内容でしょうか?
ドラマにおいて仏教関係のシーンが描かれている際に、経典や真言の読み方をはじめ、仏具などを扱う動きについて、俳優の皆さんに直接指導を行っています。また台本を基に、より具体的な仏事シーンに練り上げていくための助言などを行っています。
人物やシーンによってお経の内容を変えていらっしゃるのでしょうか?
そこはかなりこだわって、シーンに合った内容を『法華経』の各品やさまざまな真言から選定しています。
お経を読む際に大切な点、指導されている点にはどのようなものがありますか?
かなり読み倒しているという雰囲気が出るように、息の継ぎ方、抑揚、力の入れどころなど細部に至るまで細かく指導しています。
「鎌倉殿の13人」で描かれる時代では、法然、親鸞、日蓮といった人物が新たな宗派を開きますが、この点についても指導されていることはあるのでしょうか?
鎌倉時代といえば、にわかに法然、親鸞、日蓮などの新仏教が台頭すると捉えられがちですが、いわゆる鎌倉新仏教については、近年の仏教史研究の著しい成果により、“「鎌倉殿の13人」で描かれる時代にはほとんど影響がみられない”ことが学界の共通認識でありますので、この点を尊重しています。
そうなんですね!
はい。基本的には比叡山、すなわち天台宗を背景とした法華信仰および念仏信仰と、密教については台密(天台宗)と東密(真言宗)がともに鎌倉で隆盛していたという背景に基づき、指導を行っています。
源頼朝がよく祈っていましたが、この当時は、一般的にどのくらい祈っていたのでしょうか?
日課として法華経読誦をしていたと考えてよいのではないでしょうか。
第7回、および、第30回において全成が九字を切っていましたが、あの言葉と動作にはどのような意味があるのでしょうか?
九字はもともと中国の道教が発祥です。これが日本の修験道などに取り入れられ、密教でも用いられています。災害を払い、勝利を得るために用いられる修法です。
全成といえば、第13回の文覚との呪詛バトルも印象的でしたが、このシーンではどのような指導をされたのでしょうか?
台本のト書きには、「全成が祈っている。その横で呪詛を始める文覚。負けてなるかと全成も大声で経を唱える。全成の後ろにいた実衣も夫に加勢」と書かれていました。
ここから全成役の新納慎也さんと実衣役の宮澤エマさんには、江ノ島弁才天での祈祷シーンでしたので、暗記しやすいように諸天総呪の真言「おん ろきゃろきゃ きゃらや そわか」を提案し、全成は唱えながら数珠を擦るよう指導させていただきました。
一方、文覚役の市川猿之助さんはふだんから比叡山によく参拝され、比叡山での修行体験も重ねられてきた方です。猿之助さんのリクエストで天台僧が日常的に誦する随求陀羅尼が選ばれ、文覚が錫杖を振りながらそれを唱えるという演技になりました。
しかしリハーサルを行ってみると、錫杖を振る猿之助さんの迫力がものすごく、数珠を擦る音だけでは両者のバランスが微妙になってしまったんです。
なるほど! それで、どのようにされたのですか?
全成役の新納慎也さんから「何かを鳴らしたい」という提案をいただき、密教法具である金剛鈴を厳密な所作は抜きにして、少々派手に振ってもらいました。その真言「げんだ うん」も本番2分前に急きょ覚えていただきました。
リハーサルから本番までの短い時間で変更をされたんですね!
はい。密教といっても天台宗と真言宗では所作や唱える真言に相違点がある場合も多く、全成は醍醐寺(真言宗)ゆかりの人物として知られているだけに、「げんだ うん」が天台密教の真言であることに迷いもありました。しかし、頼朝は全成に天台密教の寺院(長尾山威光寺)を与えていますし、もとよりこのころの密教修行者は、天台、真言の両宗を行き来し、互いに修法を伝授しあうケースもみられるので、本番ぎりぎりで「げんだ うん」の決断をしました。結果、大河史上に残る名場面が生まれたのではないでしょうか。