最近では、有機合成研究室には1台以上はあるのではないかという自動フラッシュ精製装置ですが、その中でも最新機種の一つであるBiotage SelektにELSD検出器をつけた機種をデモ&実装しましたので、他機種との比較など交えながら特徴を紹介していこうと思います!
仕様
写真(左)がSelekt、写真(右)がELSD
Selekt
流速: 1 mL/min 〜 120 mL/min
耐圧性能: 30 bar(約3 MPa)まで対応
標準検出器: PDA(photodiode array, レンジは200〜400 nmと200〜800 nmを選べる)
チャンネル数: 2(ただし同時利用は不可。使い方は後述。)
溶媒ライン: 4本
ELSD
製造:Agilent(OEM機)
最低流速:約0.2〜0.3 mL/min
推奨流速:約0.5〜1 mL/min
元々AgilentのHPLCシステムに採用されていた機種であり、感度が高く、HPLCにも接続できる。
ELSDの原理
ELSD(蒸散光散乱検出器)とは、クロマト溶出液をネブライザー霧にしてLEDライトを照射することで、化合物がいる場合ライトが散乱するため、この光散乱を見る検出器のことです。
Biotageが採用しているAgilent社製造のELSD(OEM機)ELSD-A120の内部構造は以下のようになっています。GasとLiquid wasteの間に当たるガラスキャピラリー部位が最も細くなっており、ここから霧状に噴射したサンプルにLED光を照射することで、その散乱光を検出して有機化合物を検出します。原理上、溶媒以外のものはほぼ何でも高感度で検出される優れた検出器です。唯一のデメリットは、検出したサンプルを廃液に捨ててしまうこと。最も威力を発揮するのは「分析」ですが、分取においても高感度で検出できるため微量のサンプルまで拾うことができる点はメリットにもなります。
ELSDの内部構造
配管図と検出タイミングの調整
ELSD検出後の溶液は廃液に流れてしまうので、カラムから溶出後の溶液を分岐して本線とELSD用の線に分けます。この時、検出器につなぐチューブを本線よりも細くすることで配管抵抗をかけ、流速を調整します。実際には、φ1.0 mmの本線にφ0.25 mmの分岐ラインを入れ、φ0.25のライン長を調整することでPDA検出とELSD検出のタイミングを合わせています。この調整作業はBiotageの技術者が行ってくれます。
実際に使用した感想と他機種との比較
筆者は、Biotage Selekt、山善 YFLC、Büchi Pure C-815(ELSD付き)、Combi-Flashの使用経験があり、その中で今回Biotage Selekt ELSDを購入しました。
決め手は3つほどあり、
①中間のポンプ性能
②シンプルでコンパクト操作しやすいユーザーインターフェイス
③HPLCにも使えるELSD検出器
これらの点が良いと思いました。
①ポンプのスペック比較
ポンプの最大圧力
山善は耐圧1 MPaまで、Biotageは3 MPaまで、Büchiは30 MPaまでとなっています。Büchiの耐圧性能は素晴らしいですが、PeekチューブなどLC用のチューブの耐圧性能が15 MPaくらいで、カラムも耐圧限界があるので、実質ポンプ以外の所で限界圧力が決まります。HPLCにも使えそうな余裕を持ったスペックということはよいのですが、残念ながら低流速に対応していません。ELSD検出器の都合、流速10 mL/minが最低流速になります。それ以下の場合、ELSDが検出できなくなってしまいます。一方、BiotageのシステムはELSD検出器が本体と別なので、本線/検出器の流量比を調整可能で、φ10の流経5ミクロンのHPLCシリカゲルカラムを3 mL/minで運用できました。φ4.6の分析カラムを1mL/minで使用する場合、ELSD検出器に直つなぎすることで問題なく運用可能です。
②基本的に本体のみで動くコンパクト設計
Selektやバリュープライス版のEnkel(レビュー記事はこちら)は、コンパクトな本体に溶媒ラックと試験管ラック(いずれもオプション)が一体化した構成になっており、極めて省スペースで運用可能です。さらに、そのユーザーインターフェースは他社と比べても表示が綺麗で、タッチ操作の感度も良く、運転中でも直感的に随時グラジエントを再調整可能である点が優れていると思います。設定項目もひと目で分かる位置に配置されており、立ち上げからカラムスタートまでの作業も極めてシンプルです。
一方、長く使用している山善のシステムは、慣れが必要ですが、Biotageにはない地味に便利な機能が多く、システム面では若干軍配が上がる面もあると思います。
BüchiのPure C-815の外観はBiotageと概ね同じで、試験管・溶媒ラックと画面、本体が一体になっています。Selektと少し使い方が違うだけで、ほとんど使い勝手は同じと思って良いと思います。Biotageを選ばせて頂いた最大の要因は、ELSD検出器が外付けになっているかどうか。つまり、流路の変更などがフレキシブルである点です。
③様々な流速でELSDが使用できるようにカスタマイズができる!
Biotageを選んだ最大の理由はここです。ELSD検出器は、メインラインから一部をセパレートラインに分画しELSDに送り込み、検出後は廃液に流れます。このため、通常(20mL/min以上の流速で運用時)は40/1以上のスプリット比にすることで化合物ロスを極力減らすライン構成にします(検出感度が極めて高いので、大量にELSDに流し込む必要がないことも理由の一つ)。
ただし、注意が必要なのは、HPLCカラムを接続した際には圧力上昇を抑えるため、流せる流速に限りがあります。例えば、φ20やφ10の分取・セミ分取HPLCカラムの場合、推奨流速はそれぞれ10 mL/min、3 mL/minですが、ELSDラインへの最低流速が決まっていることに注意が必要です。ELSD側には最低でも約0.3 mL/minの溶液が流れる必要があり、10 mL/minの40分の1ではそれを下回ってしまい検出器が正常に機能しません。
Selekt+ELSDの配管図
流量のコントロールは配管抵抗の調製により実現しています。すなわち、φ1mmのチューブを本線に、スプリットラインをφ0.25mmのpeek tubeで作ることで配管抵抗に差をつけています。
出てくるタイミングのコントロールも同時にする必要があるため、本線とスプリットラインの長さ比を調製することでこれを実現しています。HPLCを接続する際は、本線にφ0.75のpeek tubeを挟むことで配管抵抗を増し、スプリット比をELSD側に増やすことでELSD検出が可能になります。
HPLCカラム使用時の配管イメージ
④さらに上級の配管カスタマイズも!
実は、Biotage Selektに使われているELSD-A120は、LCなどの検出器にも使えるように設計されたAgilent社のOEM機であることをうまく利用し、SelektとHPLC兼用のELSDとして運用しております。セットアップがマニアックですので、詳しく説明するために次回記事に持越しさせて頂きます!
⑤ELSDはメンテナンスが重要
どのメーカーのELSD検出器を入れてもネックになるのがELSDのメンテナンスです。ELSDの内部は非常に細いチューブばかりでできていますので、固体が詰まってしまうトラブルが容易に起きます。防止するためには、カラムとT字のスプリッターとの間にラインフィルターを挟むと良いです。これでメンテナンスにかかる手間は大幅に削減できます。圧力上昇が起きたらフィルター部を取り外して超音波洗浄して乾燥させた後再取り付けするだけの簡単なメンテナンスです。気になる場合はバイオタージさんにお問い合わせしてみるとよいです。
Biotageユーザーインタビュー記事も合わせてどうぞ!
ケムステへの記事寄稿に加え、うちの学生さんにも参加してもらったBiotageさんのユーザーインタビューが掲載されております。
本記事も合わせてご覧ください!
もう1点、ケムステの人気ライターかつ本記事著者の友人であるポンコツ博士さん(ポンコツさん)が必殺技桐山バイオタージ!をユーザーインタビューに寄稿しています。こちらもぜひご覧ください!