優しさの行方
ミキの入院。病院に泊まっている。
エアコンの無い家から来たので、病院なのに凍死しそうだ。
同室のおばあちゃんは、86歳。1人ぼっち。
ミキのことを、いい子だ、いい子だと何度も言う。ミキの不安を和らげてくれる。
ミキは耳の手術前で、あまり聞こえてないはずだが、おばあちゃんの話にうなずいたりしている。
やさしい子だ。
僕も、おばあちゃんの苦労話を、じっくり聞いてみたりする。
夜中、廊下では、医療機器の電子音が大きめの音で鳴り続けている。
電子音は偉そうに鳴る。
自分は誰かを生かしたり殺したりする力を持っている、と聞こえる。
僕は知らんふりして、本を読んだり、寝てみようとするが、なかなかうまくいかない。
いつから効率が人間を閉め出したか。
夜中、ヘッドホンをして街を歩いている夢を見た。
美しいピアノ曲。
輝いて見える街。
電子音はもう聞こえない。
僕は安心して飛ぶように歩く。
雑音は聞こえない。
熱心な選挙演説も聞こえない。
僕以外もみんな、ヘッドホンをして歩いている。
皆、実に 幸せそうに歩いている。
おばあちゃんの声も、もう聞こえない。