今から32年前の深夜2時頃、大手銀行頭取・上杉の自宅に一本の電話が入った。
「大蔵省のヨシダだ。西麻布支店の不正の証拠を握っている。これを買ってほしい」
当時、1980年代後半から90年代前半にかけて続いたバブルが崩壊。
それをきっかけに多くの銀行で、度重なる不正融資事件が発覚していた。
そのため、銀行の首脳部宅には嫌がらせの電話がかかってくることも多かった。
電話の男は、さらにこう言ってきた。
「3億円を明日 用意しておけ。ミヤタシンジが自宅に帰っているか調べてみろ。」
確認をしてみると、宮田真司は…実在していた。
宮田は昨日、午後7時30分頃、職場から退社した後、自宅の家族寮には帰っておらず、今日は職場を無断欠勤しているという。
電話の男に誘拐されたものと思われた。
電話からおよそ8時間後、銀行は丸の内警察署に通報した。
銀行からの通報を受けた警察は、すぐさま丸の内署に指揮本部を設置。
身代金を被害者の家族ではなく、所属する企業に要求するという事件は、国内ではほとんど前例がなかった。
捜査一課は、犯人からの電話に備え、頭取の自宅で捜査員を待機させる一方、前線本部を作るべく、銀行本店にも7名の捜査員を派遣した。
身代金目的の誘拐事件ならば、要求を伝えるため犯人から必ず電話が必ずかかってくるはず。 人質救出のためには、その電話を逆探知し、犯人の居場所を一刻も早く特定しなければならない。 しかし当時、逆探知にはある程度 時間がかかった。 そこで通話を出来る限り引き伸ばすために、捜査員が銀行員になりますまし、交渉役を務める事となった。
そして、捜査員たちが銀行に入っておよそ6時間。
犯人から電話がかかってきた。
交渉役の捜査員が上杉頭取は不在だと伝えると、ヨシダと名乗る犯人はキレて、電話を切ってしまった。
だがこの時、後ろで救急車の音が聞こえたことから、犯人は公衆電話からかけてきていると思われた。
6分後…犯人から再び電話がかかってきた。
交渉役の捜査員は、秘書室の木村と名乗り、自分が窓口になることを犯人に伝えた。
身代金は準備中だと伝えると、犯人はすぐに電話を切ってしまった。
逆探知を警戒して、通話時間を短くカットしているようだった。
犯人はすでに警察が関わっているのではないかと疑っているようだった。
3分後…犯人から再び電話がかかってきた。
この電話も1分にも満たない時間だった為、逆探知はうまくいかなかった。
犯人は身代金を運ばせようと考えているのか、行員の名前を挙げて来た。
しかし…その中には、銀行内の事情を把握している行員でさえわからない役員と思しきものの名前も混じっていた。
そのため、犯人の持っている情報が古い可能性も浮上した。
未だ正確な犯人像は掴めない。
だが、犯人は身代金受け渡しの具体的な方法へと話を進めようとしていると思われた。
前線本部が電話のやりとりによって犯人に迫る一方で、どこにいるかわからない犯人に即対応できるよう、警視庁管内の全警察署に連絡し、捜査への協力を要請。
動員された捜査員の数は、2000人以上。
実は警察には、この事件を何としても解決しなければならない理由があった。
警察が警戒したのは、凶悪犯罪の“輸入”。
身代金を所属する企業に要求するという事件は海外で頻発していた。
今回、銀行は行員の安全を考え、警察に通報した。
だが専門家によれば「事件が表沙汰になるより、金で解決した方がいい」と考える企業も日本には少なくないという。
もし犯人の計画が成功し、それが世間に明らかになれば、今後、同様の犯罪が多発することとなるだろう。
十分な数の捜査員は確保した。
これで逆探知が成功すれば、犯人確保に向け大きく前進することになる。
前線本部がまず行わなくてはならない事は2つ。
1つは、被害者の安否確認。
もう1つは、会話を引き伸ばし、通話時間を稼ぐ事で逆探知を成功させること。
しかし電話は長くても50秒足らず。
犯人がどこの公衆電話を使っているのか、警察はその場所を突き止めることができなかった。
捜査員は必死に人質の宮田さん声を聞かせて欲しいと食い下がった。
それに対して犯人はこう言ってきた。
「安全かどうか確かめたいんだろ。今 生きてるか、死んでるか。本人しか知らないことを聞いてくださいよ。」
そこで、宮田さんの本籍、生年月日、そして子供の名前と生年月日を訪ねた。
すると、犯人は宮田さんの情報を正確に答えて電話を切った。
犯人は質問に対して、そう時間をかけずに返答している。
そのことから、宮田さんは生きていて、犯人の側にいることは間違いないと思われた。
その後も何度か電話でのやり取りが続き、その内容から考えると、翌日の午後3時から身代金受け渡しが行われると考えられた。
37歳の健康な男性を拉致、監禁したという手口から、犯人は複数いる可能性が高かった。
犯人が複数だった場合…犯人Aを捕まえたとしても、Aが監禁場所に戻らなければ、捜査の手が及んでいる事を 犯人Bに知らせることになる。
それはすなわち人質の命を危険に晒すことへと繋がる。
そこで指揮本部は、2000人を超える捜査員たちに、犯人を泳がせて犯人のアジトを突き止めるように指示を出した。
身代金の受け渡しの日…こまめに電話を切っては、かけ直してくる犯人。
この日のやりとりが始まっておよそ20分後、逆探知に成功した!
現場近くにいた捜査員が、直ちに駆けつけた。
だが、尾行に気がつかれてしまった。
警察の関与がバレれば、人質の命が危ない。
尾行に感づかれてしまった以上、取り押さえるしかない。
やもうえず確保した容疑者…「尾行して、アジトを突き止める」という指揮本部の当初の指示とは違う結果となってしまった。
男は警察の取り調べに慣れている様子で、容疑を一切、認めなかった。
だが、夜10時を過ぎたころ…男が突如として供述を始めたのだ。
男の名前は高橋。
高橋には11年前、知人のホステスを殺害するという凶悪事件の前科があった。
高橋は恐ろしい共犯者の存在を明かしたものの、肝心な質問に対しては答えなかった。
捜査員たちは、初めて知った。
自分達が相手にしている誘拐犯たちが極めて凶暴な連中であることを。
共犯者が新たに脅迫電話をかけてくることが予測されたが、日を跨いでも共犯者から電話がかかってくる事はなかった。 連絡が途絶えた理由として 真っ先に考えられるのは、取引すべき人質の命が失われたからということである。 共犯者は自らの安全を考え、人質を殺害し、すでに逃走してしまったのではないか? 最悪の事態が脳裏をよぎった。
電話が鳴ったのは、午前1時過ぎのことだった。
これまでかけてきた人物とは明らかに違う声だった。
犯人は仲間が戻って来ないことに動揺しているようだった。
だが、警察が関わっていることを疑ってはいるものの、確信には至っていないようだった。
捜査員は何も知らないフリをして交渉を続けた。
犯人は電話を切る前に『本当に殺すぞ』と言った。
このことから、宮田さんはまだ生きている可能性が高いと思われた。
そして、犯人からの電話をひたすら待った。
最後の通話からおよそ16時間、電話が鳴った。
再び、身代金の受け渡しのための指示をしてきた。
この電話で再び逆探知に成功!
犯人は2人とは限らないため、指揮本部は「犯人に絶対触らず、追尾してアジトを割り出せ」と厳命を下していた。
だが…指揮本部の意に反し、またしても容疑者を確保してしまった。
一体何が起こったのか?
実は該当の電話ボックスを割り当てられていたのは…普段、人事や会計などを担っている、若く経験の浅い警察官だった。
本来、こうした緊急任務には、刑事課など実際に捜査を担当する者があたる。
だが人手が足りなかったため、違う部署からも駆り出されていたのだ。
その時、2人の目は男が着ていたワイシャツの袖の刺繡にくぎづけになった。
最初に逮捕した高橋の名前があったのだ。
この瞬間、2人の警官の頭から「被疑者に触るな」と言う指示が吹き飛んだ。
そして、確保してしまったのだ。
一人目の男を確保した時でさえ、犯行グループはひどく動転した様子だった。
だが、さらに2人目を確保してしまった。
もしまだ他に共犯者がいた場合、追い詰められ 何をしでかすか分からない。
新たに逮捕したのは、藤本という男だった。
藤本が逮捕されたことを聞いた高橋はこう言った。
「俺が逃したいのは藤本じゃない。逃したいのは 俺がムショで一緒だった男だよ!」
恐れていた事が現実となってしまった。
3人目の共犯者がまだいたのだ。
高橋は「ボスの事を話したら、俺が殺されちまうよ!!」と言って、それ以上は何も言わなかった。
3人目の共犯者からの電話は一向にかかって来ない。
最初に逮捕した高橋は、核心をつく話は一切しない。
つまり…今ある情報だけで藤本を落とし、一刻も早く救助に向かわなければ、人質の命はないに等しい状況だった。
全ては、一課のベテラン刑事に託された。
そして、ベテラン刑事の説得により、藤本は宮田さんの監禁場所を告白。
3人目の犯人は拳銃を所持していることが判明。
およそ30分後には監禁場所のマンションに捜査員70名以上が集結。
銃撃戦になる事を想定し、突入班は拳銃を持ち、防弾チョッキを着用していた。
藤本の供述によると、宮田さんはかなり衰弱しているという。
一刻の猶予も許されない。
藤本が所持していた合鍵で部屋に侵入し、一気に犯人を取り押さえる作戦がとられることになった。
事件発生から77時間、ついに作戦が決行された。
犯人の三船は、全く抵抗せず、おとなしく逮捕された。
銃撃戦をも覚悟した逮捕劇は、異常なまでにあっけない幕切れとなった。
宮田さんは 生きていた。
かなり疲弊していたが、目立った怪我もなく無事だった。
突入時、三船は自殺を覚悟した遺書とも受け取れるものを書いていた。
真意は不明だが、仲間が捕まったことを悟ったからだと考えられた。
宮田さんが監禁されていた部屋からは、拳銃や実弾10発も見つかった。
もし突入がもう少し遅れていれば、三船は宮田さんを道連れにして自殺を図っていたかも知れなかった。
そして、その後の取調べにより、彼らの恐るべき犯罪計画が明らかとなった。
「身代金誘拐ってやつは結構カネになるらしいっすよ。外国ではビジネスとして行われてるとか」
生活費に事欠いていた高橋が、刑務所仲間だった三船にこう持ちかけたのが始まりだった。
そして車の運転要員として仲間に加わったのが、高橋の知り合いの藤本だった。
三船はこう供述した。
「不祥事にまみれていた銀行なら、警察に通報せずにカネを出すだろうと思いました。」
犯行当日の11月26日夜8時頃。
銀行の家族寮の前で、たまたま帰宅途中だった宮田さんを車に押し込み誘拐、マンションに監禁した。
銀行員なら誰でもよかったという。
その後、三船たちは図書館で銀行の職員記録などを調べ、そこで知った役員の名を利用することで、銀行の内部事情に詳しい人物を装ったという。
3人の犯人たちには皆、懲役12年の実刑判決が下された。
男たちの卑劣な犯行を阻んだのは…命の重みを知る人々の熱い思いと行動力、そして最後まで諦めない不屈の精神だった。
次の放送日時は情報が入り次第掲載いたします。
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